ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2015 落語ライブ見聞録@関西』
天満天神繁昌亭
〈桂春蝶独演会 明日ある君へ
~知覧特攻物語~
発売中 Pコード:597-700
▼6月3日(水) 19:00
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]桂春蝶/他
※未就学児童は入場不可。
天満天神繁昌亭[TEL]06-6352-4874
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天満天神繁昌亭〈第93回 創作落語の会〉
▼6月30日(火) 18:30
天満天神繁昌亭
全席指定-3000円
[出演]桂文枝/他
※未就学児童は入場不可。6/29(月)・7/2(木)18:30公演は中学生以下保護者同伴に限る。
天満天神繁昌亭[TEL]06-6352-4874
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『文枝SHOW 2015』
発売中 Pコード:444-112
▼7月16日(木) 19:00
なんばグランド花月
1階指定席-5000円 2階指定席-4500円
[出演]桂文枝
※未就学児童は入場不可。ビデオ・カメラまたは携帯電話での撮影禁止。出演者は変更になる場合がありますので予めご了承下さい。変更・払戻不可。
チケットよしもと予約問合せダイヤル■
0570-550-100
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桂文枝独演会
発売中 Pコード:441-859
▼7月19日(日) 14:00
文化パルク城陽 プラムホール
全席指定-3600円
[出演]桂文枝
※未就学児童は入場不可。車椅子の方はチケット購入前に会場まで要問合せ。
文化パルク城陽■0774-55-1010
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桂雀々「雀々夏まつり」
発売中 Pコード:442-375
▼8月27日(木) 18:30
京都府立文化芸術会館
全席指定-3500円
[出演]桂雀々(「蛇含草」「らくだ」)/笑福亭仁智(「スタディベースボール」)/笑福亭智六(「開口一番」)
※未就学児童は入場不可。
オトノワ■075-252-8255
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『第一回 鶴瓶・鉄瓶 親子会』
6月27日(土)一般発売 Pコード:443-869
▼8月29日(土) 18:00
大丸心斎橋劇場
全席指定席-3500円
[出演]笑福亭鶴瓶/笑福亭鉄瓶/桂治門
※未就学児童は入場不可。出演者は変更になることがあります。
松竹芸能■06-7898-9010
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『第41回東西落語名人選』
発売中 Pコード:444-080
▼9月19日(土) 12:00/16:30
神戸文化ホール 中ホール
1階席-5500円(指定) 2階席-5000円(指定)
[12:00出演]柳家小三治/桂福団治/柳家さん喬/月亭八方/笑福亭仁智/柳家三三
[16:30出演]柳家小三治/桂文枝/柳家さん喬/月亭八方/笑福亭仁智/柳家三三
※未就学児童は入場不可。
神戸文化ホールプレイガイド■078-351-3349
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『たびたびさんざ 柳家三三 独演会』
6月21日(日)一般発売 Pコード:442-648
▼10月17日(土) 14:00
松下IMPホール
全席指定-3500円
[出演]柳家三三
※未就学児童は入場不可。
キョードーインフォメーション■
0570-200-888
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【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
【其の六】米朝一門会
【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
【其の十】ぴあ寄席 ~湯けむり落語編~
【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(大阪)
【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(神戸)
【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
【其の十四】志の輔らくご in 森ノ宮 2014
【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
【其の十六】志の輔らくご in 森ノ宮 2015
【其の十七】桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK
【其の十八】笑福亭鶴笑の夏休みファミリー劇場~笑福亭鶴笑のパペット落語~
【其の十九】夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~
【其の二十】よしもと落語 若手まつり
【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
【8】11月公演見聞録『白井権八』『三軒長屋』
【9】12月公演見聞録『冨久』『六尺棒』
【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』
今年もまたまた“志の輔らくご”に行って来ました。
二日目ということで「昨夜はリハーサルで今日が本番」という定番のボケに、
すでに大喜びのお客さんたち。
ペ・ヨンジュンさんの婚約の話から、
イギリス王室の姫の名前と同じ名前を付けようとした高崎山のサルの話、
さらには、ドローンの話に移って、ちょっと騒がれている世の中のことを、
「どうでもいい」と言ってのけるだけで、1000人を一気に湧かせる技はさすがです。
そうやって掴んだところから、今年の正月に大雪の中、独演会で地元の富山に帰った話へ。
富山空港行きの飛行機が欠航で小松空港に降り立ったところ、
空港に迎えに来てくれた富山のマネジメント会社の女社長が、
スマホを途中に寄ったコンビニのトイレに置き忘れてきた、という話。
単なるマクラ、と言ってしまうには勿体ないほどよく出来たオチで、
ドカーンと笑いを取って入った話が、新作落語の『スマチュウ』。
もったいぶる話でもないので、先に言うと、スマチュウ=スマホ中毒のこと。
彼女との卒業旅行用のお金を叔父さんに借りに来た大学生のケイスケ君。
その叔父さんがお説教をしたり、軽くボケたりしている時、
ケイスケ君は手元のスマホを触りっぱなし。
人と話をするときは目を見て話をするもんだ、と、正論をぶつ叔父さん。
と、ここで、奥さんの登場。手にはその叔父さんのスマホです。
ソファーの間でブルブルと鳴ってて、なんだろうと思って、つい見てしまった、という、
リアリティありすぎの状況。
画面には、誕生日のキャバクラ嬢からLINEでのお誘い。
そのキャバ嬢にヴィトンのバッグを買ったことがバレて、
「お前にはヴィトンじゃなく、フトンを買ってやっただろう。」とは、
待ってましたの志の輔節!
ここから先はケイスケをハブにした、三人の丁々発止のやりとりで、
1000人から発せられるどよめきのような笑いの素を、
綿アメをからめとるようにくるくるくる~っと一つにして、ストンとオチ。痛快!
二席目は、出囃子とともに舞台上手から5名の和服美人の乗った台がスルスルと登場。
三味線二挺に、小鼓と笛。舞台中央で、京都がモチーフの常盤津を一曲披露した後、
次の出囃子を演奏しながら下がっていきました。
続いて、マクラなしで、いきなりの『高瀬舟』。
京都鴨川の西に並行して流れる高瀬川。
関西の人間、特に京都好きには、お馴染みの川ですね。
この高瀬川から、罪人を乗せて淀川へと下って行く高瀬舟というのが、噺の舞台。
ある日、護送の役目を負った羽田庄兵衛は、
一人までなら乗ってもいいという身内を乗せることもなく、
たった一人でお縄にかかった喜助と共に高瀬舟に乗り込んだ。
弟殺しの罪により島流しにされるというのに、どこか晴れ晴れとした様の喜助。
思わず、何故かと聞いたところ、ポツリポツリと発する喜助。
病気で働けない弟と二人きりで暮らす生活の苦しさ、ひもじさ。
ほんのわずかばかり余分にもらった手間賃を弟のために使う優しさ。
兄に負担をかけまいと自ら命を絶つべく剃刀を飲んだ弟。
のどに入った剃刀が、押すも引くもできないという、地獄のような情景。
医者を呼んでくると立ち上がった兄に、死なせてくれと懇願する弟の鬼のような形相。
静かに驚き、きつく胸を締め付けられ、やがて、この船の中だけでもと、
船頭が止めるのも無視し、縄をほどいてやる庄兵衛。一言、「とがめるな。」
一昨年の『柳田格之進』の迫力にどわっと後ずさりし、
昨年の『五貫裁き』で大ネタにちりばめられた小ギャグにキャッキャと喜び、
そして、今年、この『高瀬舟』。
う~む。むむ、う~む。ん?うむむむむ。唸りっぱなしでした。
「森鴎外作『高瀬舟』、読み切りでございます。」
静寂の空間に、そっと記される、句点。
落語とは違うものを見せつけられた驚きに似た、1000人の拍手喝采。
ああ、志の輔さんという噺家さんは、登場人物一人一人を、
すごく丁寧に描いているんだな、というのを実感する一席でした。
笑いもなく、台詞も少なく、場面転換もないこの噺、
登場人物になりきり、観てる側も、その人物だと認めているからこそ許される長い間を、
飽きさせず、むしろ、ぐいぐいと引っ張っていくのが、
つまりは“芸”ということなんでしょうか。
う~む。すごすぎる…。
仲入りをはさんで緞帳が上がると、仲入り前とは違う高座の風景。しゃれてるね~。
故桂米朝師匠のお通夜に出た話から。
口開きこそ『高瀬舟』の余韻でちょっと重さがあるものの、だんだん加速し、
いわゆる、世間話になってからは、いや、もう、マシンガントーク炸裂!
25年前の自身の真打披露に、参加してくれた米朝師匠の口上。
「この人のこと、テレビで2へんか3べん見たことあるやもしれんけど、
落語は聞いたことありません。」で、ドカン。
その米朝師匠のことを想ってか想わずか、ネタは『抜け雀』。
江戸ではちょいちょい演じ手がいるようですが、
最近の上方では米朝師匠のイメージが強いです。
さて、突然ですがここで、ニュースです!
この寄席の直後に発表されたところによると、
六代桂文枝師匠が18年ぶりに古典落語をやる、そのネタが『抜け雀』とのこと。
もともと上方では、代々の桂文枝さんが得意としてきたネタで、
2代ぶり“お家芸”に挑戦、とのことです。これはこれで、大いに楽しみ。
さてさて、志の輔さんの『抜け雀』。
一文無しの男が、夫婦だけでやっている相模屋という旅籠に泊まり、
毎日、朝昼晩に一升ずつ酒を食らっている。
「あれは、絶対に一文無しだ。おまえさんは、一文無しの客を引く才能がある。
もし、あれが、本当に一文無しだったら、おまえさんも出ていっとくれ!」
女将さんにボロクソに言われた主人が部屋に入って尋ねたところ、案の定一文無し。
愚痴り、ぼやき、嘆きたおす主人を尻目に、画家だと名乗るこの男、
近くにあった衝立に、ちゃちゃちゃっと描いたの5羽の雀。
自分が帰ってくるまで絶対に売らないようにと念を押して、ぽいっと出てゆきます。
翌朝、主人がその部屋に入って雨戸を開ける。陽が射す。と、何やら羽音が。
窓を開けると、パタパタパタっと、5羽の雀が家の外に!
向かいの屋根に飛んで行って、なにやら餌のようなものをついばみ、
お腹いっぱいで満足した頃合いに戻ってきて、衝立の中にスーッと納まる。
ビックリしたのなんのって!すぐさま向かいの家に行って、
今見た一部始終を説明するが、もちろん誰一人信じない。
それでも、あまりにもこの主人の様子がおかしいので、
翌朝、こぞって見に来てみると、やはり、パタパタパタっと雀が現れ、
向いの屋根の上で餌を食べて帰ってくる。
ビックリしたのなんのって! 今度は20人ばかりが昨日の主人と同じようになって、
あっちこっちで言いふらす。あっという間に大評判になり、ごった返す相模屋。
奉行所の大久保加賀守までやって来て、1000両の値をつけたが約束を守って売らない。
ある日、噂を聞きつけやって来たひとりの男、齢60過ぎの紳士。
「このままでは、この雀たちは死んでしまう」と言って、籠と止まり木を描き足す。
それを見て、今度は2000両の値をつける大久保加賀守。
冒頭の一文無し、戻ってきて、この老人の話を聞くと慌てて部屋に行き…。
ああ。こんなにあらすじ書くのに苦労した噺は初めてかも。
長いけど、これ以上短くすると、なんのこっちゃになってしまうんです。
しかも、長いくせに、噺の面白さがまったく入っていないし、
ってゆーか、この噺は、噺自体はそんなに面白くないんちゃう?
いや、作者に怒られようがどうしようが、はっきり言う。『抜け雀』はおもろない!
でも、ウケまくっている、志の輔さん。ホワァ~イ?
ひょうひょうとして厚かましい一文無し、
そこに、なんだか頼りない主人とふてぶてしい女将さん。
三人のキャラクターが、そういう人間としてちゃんとそこに存在し、
生き生きと言葉を交わすからこそ産まれる空気が、実にキラキラしているんです。
特に、この主人の、喜であり、怒であり、哀であり、楽であり、落胆であり、
懇願であり、諦念であり、焦心でありが、もう、濃い~~んですわ。
三席聴き終わって、一席一席の、それぞれの、この味わいの濃さ。
最近食べた、何かに似てるぞ似てるぞ似てるぞと、頭がワァープ!
そうそう、“ホタルイカ”ですわ。
どんな料理に入っても、しっかりした風味と味わいを主張する、
春の富山を代表する旬の味覚。
『スマチュウ』は、さしずめ、
こないだ初めて食べた、ホタルイカのペペロンチーノってところでしょうか。
一見、新しい味わいっぽいですが、でもちゃんと、いや、むしろしっかり、
志の輔テイスト。
『高瀬舟』は、たとえば、
ここのは間違いないから、騙されたと思って食べてみろ!と言われて食べた、
ホタルイカの沖漬け(しっかり目)ですね。
ある意味、どすんと重い味わいの中に、鼻から抜けていく、絶妙の志の輔の薫り。
『抜け雀』は、もちろん、
定番であるからこそ丁寧な仕事が旨みを際立たせる、いつもの店の春の風物詩、
ホタルイカの酢味噌和えで、間違いないでしょう。
手作り酢味噌の華やかさをふんだんに纏った、絶品、悶絶の志の輔仕立て。
あー、なんだか、うまいこと言って悦に入ろうとしてたら、この例えに致命的な欠陥が!
志の輔さんの落語は、季節もんやなくて、一年中ご賞味いただけますやんかいさ!
(2015年6月3日更新)