ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2013 落語ライブ見聞録@関西』
『柳家三三独演会』
発売中 Pコード429-127
〈夏三三の巻〉
▼9月28日(土)・29日(日)
(土)18:00 (日)13:00
[出演]柳家三三(「唐茄子屋政談」他)
〈冬三三の巻〉
▼9月28日(土)・29日(日)
(土)13:00 (日)18:00
[出演]柳家三三(「柳田格之進」他)
ABCホール
指定席-3500円
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■06-7732-8888
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『桂雀松改メ 三代目桂文之助襲名披露公演』
▼10月6日(日) 14:00 Sold Out!!
サンケイホールブリーゼ
S席-5000円 A席-4500円
[出演]桂文之助/桂ざこば/桂南光/桂雀三郎/
笑福亭鶴瓶/桂紅雀
※口上(〔出〕桂文之助、桂ざこば、桂文枝、桂南光、笑福亭鶴瓶、桂文我)あり。
※未就学児童は入場不可。
[問]ブリーゼチケットセンター■06-6341-8888
発売中 Pコード:430-847
▼11月3日(日・祝) 14:00
南座
1等席-6500円 2等席-4500円
[出演]桂紅雀/桂南光/桂文珍/桂春団治/
桂ざこば/桂文之助
※未就学児童は入場不可。
[問]南座■075-561-1155
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発売中 Pコード:430-976
▼12月1日(日) 14:00
新神戸オリエンタル劇場
S席-4500円 A席-3500円
[出演]桂文之助/桂ざこば/桂きん枝/桂南光/
桂雀三郎/桂まん我
※未就学児童は入場不可。車椅子の方はチケット購入前に会場[TEL]078(291)1100まで要問合せ。
[問]新神戸オリエンタル劇場■078-291-9999
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『三枝改メ 六代 桂文枝襲名披露公演』
9月21日(土)一般発売 Pコード:431-692
▼11月2日(土) 14:00
和泉シティプラザ 弥生の風ホール
全席指定-3500円
[出演]桂文枝 [ゲスト]月亭八方/
大木こだま・ひびき/桂きん枝/桂文喬/他
※未就学児童は入場不可。
[問]和泉市生涯学習センター■0725-57-6661
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『立川談春独演会』
11月2日(土)一般発売 Pコード:425-816
▼12月14日(土)・15日(日) 15:00
森ノ宮ピロティホール
全席指定-3800円
[出演]立川談春
※未就学児童は入場不可。
※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9560(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。
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【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
【其の六】米朝一門会
【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
【其の十】ぴあ寄席 ~湯けむり落語編~
【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(大阪)
【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(神戸)
【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
【其の十四】志の輔らくご in 森ノ宮 2014
【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
【其の十六】志の輔らくご in 森ノ宮 2015
【其の十七】桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK
【其の十八】笑福亭鶴笑の夏休みファミリー劇場~笑福亭鶴笑のパペット落語~
【其の十九】夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~
【其の二十】よしもと落語 若手まつり
【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
【8】11月公演見聞録『白井権八』『三軒長屋』
【9】12月公演見聞録『冨久』『六尺棒』
【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』
どちらかと言うとANAの機内放送『全日空寄席』で聞くことが多い志の輔さんの落語。
ところが、今年5月のフェスティバルホールこけら落としシリーズとして催された、
談春さんとの兄弟会で初めて“生の”志の輔さんを食らい、衝撃を受け、
待ちに待った『志の輔らくご』。
1996年から東京で行われている『志の輔らくごinパルコ』は次々と伝説を生み続けており、
2006年からは、同一劇場での1カ月連続公演を8年も続けているという。
2008年1月15日には、師匠である談志家元が観て、
「こりゃ、1万人、来るわな。」と褒めたという、その『志の輔らくご』が
大阪で4日間連続で上演される初日に、森ノ宮へ足を運びました。
まず出てきたのは、志の輔さんの6番目のお弟子さん、志の太郎くん。
実は、筆者が学生時代に初めて覚えた落語が、この『子ほめ』なのですが、
ま、典型的な与太話、つまり“アホ”が出てきて、
人を褒めてお酒を飲むことを教わって、スカタン言って、チャンチャンな話です。
まず50席覚えたら二つ目、という立川流のルール(いまもあるのでしょうか?)
に則り、真打への階段を上りはじめたところでしょうか。がんばって!
さて、志の輔さん。
1000人いるお客さん、ひとりひとりと向き合うような語り口。
ゲリラ豪雨に対処するのに、人間は結局今も傘をさしているという話。
コンピューターやらスマホやら、技術がどんなに発展しても、
やっぱり車はワイパーを使って水滴をよけているという話。
もう、どうでもいいような話が、どうしてこんなに面白いのでしょう。
確かにその通りではあるんですが、だからそれがどうしたのかと言いたくなる、
結局は、本当にどうでもいい話。
リズム、なんですかね。
波が寄せては引いて、引いては寄せるようなリズムで話が進む。
で、油断してうっかり近づくと、大波で爆笑をさらっていく。
そんな調子で、新作落語『買い物ぶぎ』へと入っていきました。
奥さんが熱を出したというので、大手薬局チェーンへ行ったある男。
普段全く買い物をしたことがない、ということで、
店内の商品の些細な矛盾が気になってしょうがない。
そのいちいちを、頼りないアルバイトに聞く丁々発止が志の輔スタイル。
たとえば、トイレの消臭剤「森の香り」。
トイレでこの森の香りを嗅いでると、
今度、森に行った時にトイレを思い出すんじゃないか。
とか。
「おいしい猫のえさ」は、いったいだれが「おいしい」って言ったんだ?
とか。
極めつけは、掃除用の洗剤「ユアペット」。
こちらが風呂用、こちらがキッチン用、こちらがトイレ用です。
じゃこれは?
それは何にでも使える「ユアペット」です。
えぇ~!? そんな、何にでも使える洗剤が出てきて風呂をきれいにした日にゃ、
風呂専用の「ユアペット」の立場がないじゃないか!
とか。
アルバイトくんが「店長に聞いてみる」と全てを後回しにしてたところに店長登場。
これまでの矛盾や疑問を店長に報告すると、
そんなことを聞く馬鹿なやつはいないと一蹴。
その馬鹿は俺なんだけど、と出て来たもんだから収拾がつかない状態に。
レジでずっと待っていた奥さん、たまりかねて一喝!
「あんたらみんなが馬鹿よ!馬鹿につける薬でも置いたらどう!」
「いえ、馬鹿は、死ななきゃ治らない。」と、オチ。
まぁ、実際の世間には、こんなおっちゃんはいません。いや、たぶん、いませんって…。
いないんじゃないかな…。ま、ちょっと覚悟は…って、『関白宣言』やないんやから。
でも、適度なリアリティーを持った、いそうでいないこのおっちゃんが、
人間味あふれる感じで、1000人のお客さんを虜にして、大爆笑。
うわぁ、笑いすぎて泣いてるおばちゃんがいてるがな。“志の輔らくご”、恐るべし。
中入りはさんで、後半へ。黒紋付のりりしい姿。
あら。セットまで変わっている。さりげない造形が素敵、と、思ってたら、解説あり。
舞台美術は堀尾幸男さんだという。
野田秀樹さんや三谷幸喜さんなどの舞台から、
オペラやミュージカル、コントにチャンバラまで第一線の超一流。
『志の輔らくご』は、落語を超越した(逸脱した?)セットの時がある、
と聞いていたので、妙に納得。
セットがいいから落語が面白くなるわけでもないし、
落語が面白かったからセットを絶賛するというものではないけれど、
でも、落語におけるセットも、お客さんに対するひとつの“もてなし”なのかも、と、
これまで全く考えてもなかったことを考えたりしたのでした。
マクラは、選挙速報が楽しみという話。
塩を入れて枝豆を茹でて、これは、「ガッテン」的にはダメなんだけれども、
文字通り、この塩の塩梅がないと、飽きてしまうわけで、
その枝豆とビールでスタンバイして、選挙速報を見はじめたとたんに、
「開票1%、当選確実」とは、一体何なんだ、という話。
あ、気がつけば、またしても、志の輔ビーチでゆらゆらゆらといい気持ち。
と、理学博士の秋山仁教授による当選確実の理論、
「鍋いっぱいの味噌汁の味を確認するために、鍋いっぱい味見しますか?
スプーンひと口で分かるでしょ?これが、開票率1%で当選確実の理屈です。」
で、また、大波、ザッパーン!
びしょぬれのまま、無防備に、『柳田格之進』を受ける羽目に。
結論から言うと、たっぷり1時間、まったく気持ちが離れずにのめり込んだまんま、
感激、感涙。
いや、泣ける種類の話ではないはずなのですが、
途中から、それぞれの登場人物の心の動きに夢中になりすぎて、
ふとした勇気や優しさに触れて、ぐっと来てしまったのです。
文武両道に優れ品格に溢れる浪人、柳田格之進と両替商、万屋源兵衛は、囲碁友達。
万屋の離れ座敷で、しょっちゅう碁に興じ、
終わってからは一献酌み交わすという、至極よい関係。
ところが、ある日、この部屋で、集金したばかりの50両が無くなった。
格之進を疑う万屋の番頭は主人が止めるのも聞かず、単身、格之進のもとへ。
「もしかしたら柳田様がご存じかと…」
番頭が帰った後、
疑いをかけられたこと、そのことが許されずに腹を切ろうとする格之進。
それを察してなんとか止めようとする、格之進の娘、おきぬ。
もう、このシーンのおきぬが、抜群にいいんです。
武士の娘としての凛とした態度、親への恩愛、まっすぐな決意。
59歳の、富山県出身の、還暦間近のおっちゃん(志の輔さんのことです)が、
なんとも、鼻筋の通った、長いまつげに切れ長な目で、
うなじに粋なほくろのある女性に見えてくるではありませんか!(ほんまか?)
「私が吉原に身を沈めてお金を作ります。」
格之進、ただ一言。
「おきぬ、すまん。」
翌日、無邪気に集金にやって来た番頭。
ほんまに腹立つわ、こいつ。
でも、ここまで、能天気で、すっとんきょうな「悪者」を作るのが、
志の輔流の『柳田格之進』かも。笑えるもん。
番頭に50両を渡しながら格之進、
「その金ではないので、後日、50両があの部屋から出てきたらどうする…?」
「えー? なんすかー? じゃあ、その時は私と主人源兵衛の首を差し上げますよ。」
ほんまに、腹立つ。
年末の大掃除、額縁の裏から出てきた50両。
とにかく柳田さまを探し出せと、店をあげての大捜索。
結局年内は見つからず、年があらたまって、
あいさつまわりの番頭さんが路上で、かの柳田格之進とばったり出会う。
もともと気品ある佇まいの格之進なのですが、
一層の品格を持っているように感じる、
というか、そう演じている志の輔さんの“演じ分け力”に驚愕。
同じ人物が、浪人ゆえに、ほんの僅かでもこの番頭に付け入る隙を与えていたこと、
今や、その隙が全くなく、とはいえ、決して偉そうではないという佇まい。
で、ここからが志の輔『柳田格之進』の本当の見どころなのでした。
とにかく、全ての登場人物の濃ゆくて深い描写力に圧倒されて、
ここまで一気に惹きつけられて見てきましたが、ここからはこの人に注目!
(ドラムロール)ドロロロロロロロロロロ~~~ジャン!
番頭さん!!
さっきまで、腹の立つ、小役人のような奴だったのが、
ことさらに人間臭く、でも潔くもあり、いや、つまりは善人でも悪人でもない、
普通の人間としての番頭さんが、“いきいきと”ビクビクしているのです。
脇役の光るドラマこそ面白い、とはよく言われたことで、
50両が後日に出てきたことを格之進に伝えるくだり、
あるじ源兵衛への、首を差し出すと言ってしまったことの報告のくだり、
そして、格之進が首を取りに万屋に来た際は、源兵衛の計らいで外に出ているはずが、
主人が自分をかばっていることを、もちろん分かって外には行かず、
飛び出して来て、本当に悪いのは自分であると訴えるくだり、
ここでひと言、番頭の想いが観る人の背筋を突き抜ける。
「やきもちでございます!」
え?あ。そうか、やきもちなんや。
大の大人が、お店の番頭さんが、やきもちなんや。
「落語とは、人間の“業”の肯定である。」とは、師匠談志家元の到達した世界観。
やきもちゆえの、50両の犯人探しであり、
やきもちゆえの、主人に対する裏切りであり、
やきもちゆえの、あまりに軽はずみな自己満足であり、
そして、人間はそれをやってしまうもんなんです。
二人を斬ろうとした格之進が誤って碁盤を斬ってしまうというのは、
志の輔『柳田格之進』にとっては、単なるエピローグのように感じました。
噺が終わって、いったんお辞儀をし、再び顔を上げた志の輔さん。
「今日、体力をほとんど使い果たしてしまいました。
明日からの3日間は惰性です。」で大爆笑。
最後に、この日の二日前(7月30日)に他界した、
故笑福亭松喬さんとの想い出と追悼の言葉をさりげなく言える、
この辺が、なんかカッコいいなぁ、男前やなぁ、
59歳の、富山県出身の、還暦間近のおっちゃんやのに、ずるいなぁと思って、
まんまと『志の輔らくご』の大ファンになったのでした。
談春さん、志の輔さんと、ことごとく魅了してくれる立川流落語の凄さを思うに、
これはちょっと、はやく、志らくさんも観んとあかんのちゃう?
(2013年9月27日更新)