ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2013 落語ライブ見聞録@関西』

立川談春
撮影:橘 蓮二

今後レポート予定のオススメ落語公演

『志の輔らくごin森ノ宮2013』
▼8月1日(木)
森ノ宮ピロティホール
[出演]立川志の輔

その他のオススメ落語公演

「桂ざこば独演会」
発売中 Pコード:429-889
▼9月8日(日) 14:00
サンケイホールブリーゼ
S席-4200円 A席-3700円
[出演]桂ざこば(「百年目」「七度狐」)/
桂出丸(「八五郎坊主」)/桂わかば(「片棒」)/
桂ちょうば(「平林」)
※未就学児童は入場不可。
[問]ブリーゼチケットセンター■06-6341-8888
チケット情報はこちら

 

「柳家三三独演会」
発売中 Pコード429-127
〈夏三三の巻〉
▼9月28日(土)・29日(日)
(土)18:00 (日)13:00

[出演]柳家三三(「唐茄子屋政談」他)
〈冬三三の巻〉
▼9月28日(土)・29日(日)
(土)13:00 (日)18:00

[出演]柳家三三(「柳田格之進」他)
ABCホール
指定席-3500円
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■06-7732-8888
チケット情報はこちら

 

「桂雀松改メ 三代目桂文之助襲名披露公演」

▼10月6日(日) 14:00 Sold Out!!
サンケイホールブリーゼ
S席-5000円 A席-4500円
[出演]桂文之助/桂ざこば/桂南光/桂雀三郎/
笑福亭鶴瓶/桂紅雀
※口上(〔出〕桂文之助、桂ざこば、桂文枝、桂南光、笑福亭鶴瓶、桂文我)あり。
※未就学児童は入場不可。
[問]ブリーゼチケットセンター■06-6341-8888

発売中 Pコード:430-847
▼11月3日(日・祝) 14:00
南座
1等席-6500円 2等席-4500円
[出演]桂紅雀/桂南光/桂文珍/桂春団治/
桂ざこば/桂文之助
※未就学児童は入場不可。
[問]南座■075-561-1155
チケット情報はこちら

9月1日(日)一般発売 Pコード:430-976
▼12月1日(日) 14:00
新神戸オリエンタル劇場
S席-4500円 A席-3500円
[出演]桂文之助/桂ざこば/桂きん枝/桂南光/
桂雀三郎/桂まん我
※未就学児童は入場不可。車椅子の方はチケット購入前に会場[TEL]078(291)1100まで要問合せ。
[問]新神戸オリエンタル劇場■078-291-9999
チケット情報はこちら

 

『ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会』
9月8日(日)一般発売 Pコード:430-647
▼11月7日(木)・8日(金) 18:30/
9日(土)・10日(日) 13:00

森ノ宮ピロティホール
全席指定-5000円
[11/7出演]笑福亭鶴瓶(「らくだ」)
[11/8出演]笑福亭鶴瓶(「死神」)
[11/9出演]笑福亭鶴瓶(「お直し」)
[11/10出演]笑福亭鶴瓶(「錦木検校」)
※6歳未満は入場不可。
チケット情報はこちら

『落語ライブ見聞録@関西』一覧

【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
【其の六】米朝一門会
【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
【其の十】ぴあ寄席 ~湯けむり落語編~
【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(大阪)

【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(神戸)

【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
【其の十四】志の輔らくご in 森ノ宮 2014
【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
【其の十六】志の輔らくご in 森ノ宮 2015
【其の十七】桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK
【其の十八】笑福亭鶴笑の夏休みファミリー劇場~笑福亭鶴笑のパペット落語~
【其の十九】夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~
【其の二十】よしもと落語 若手まつり

『2012年 立川談春見聞録』一覧

【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
【8】11月公演見聞録『白井権八』『三軒長屋』
【9】12月公演見聞録『冨久』『六尺棒』
【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』

 

7月3日に西宮の兵庫県立芸術文化センターで行われた、関西で久々の談春さん独演会。
いやもう、楽しみで楽しみで、もう、ひたすら、楽しみで楽しみで楽しみで楽しみで。
で、発熱、39度。
遠足前日に、はしゃぎすぎて夜更かしして、熱出す子供かっ!?
さすがに、断念! ひどく、残念! ひとり寝る、中年! 情けないっちゅうねん!!
YO! YO! およよ…。

で、この日のネタを聞いてビックリ。な、な、なんと『子別れ』。
これは是非とも、観たい、聞きたい、食らいたい!
すると、ちょうど筆者が東京出張の日に、浜松町で“デリバリー談春”があるという。
しかもネタが『子別れ』!
届いた、信念! これぞ、執念! 盛り上がる、中年! めっちゃ嬉しいっちゅうねん!
YO! YO! やったYO!

というわけで、当初レポート予定の西宮公演欠席につき、東京公演に行ってきました。

徳川家ゆかりのお寺、芝の増上寺にほど近いメルパルクホール。
わっさわっさとお客さんが入ってきます。その数、1500。
神戸朝日ホールの500と大阪の森ノ宮ピロティーホール1000を足した数。
ほんま、東京は、どこ行っても人多いわ。

まず、出てきたのは、かわいらしい前座さん。
立川こはるちゃん。談春さんの一番弟子。
女の子みたいな顔してるな~、と思ったら、女の子なんですね。
学生時代から女性の落語をそれなりに見てきましたが、ちょっとした違和感。
あ、そうか。たいていの女性落語家は、女性の着物を着ているのに、
こはるちゃんは男物の着物を着ているんです。

演目は『つる』。
「昔は、つるとは言わなんだ」
という大阪弁の『つる』に慣れ親しんだ筆者としては、こそばい感じの江戸っ子弁。
「首長鳥と言われた鳥が、何故“つる”という名で呼ばれるようになったのか!?
そこに潜む謎と、中国老人が抱えた苦悩。海辺の松の行く末は!?」
というような、スリルもサスペンスも一切なく、
ただ、くだらないこじ付けを、バカがはしゃいで、あー呑気だね、というような話。
さわやかに、すがすがしくやり切ったこはるちゃん、つるーっと下がっていきました。

さて、談春さんです。『子別れ』です。『(上)(中)(下)』です。
どうやら7月3日の西宮公演では『(下)』のみだったようで、
(この部分が単独で『子は鎹(かすがい)』と呼ばれたりしますが)
「関西で(下)だけやったら、これが結構、話が通じるもんで、
じゃあ、(上)とか(中)とかいらないじゃん。」とは、談春さん独特のくすぐり。

今宵のマクラも、おなじみ『談志談春師弟おったまげ物語』。
常々、自分の噺をまんま覚えて高座にかける弟子に対して、
「パクってる!」と言って憚らない談志家元。
これ、他の一門の人が聞いたら、すごく不思議な話なんですって。
師匠に教えてもらって、師匠の形で演じる。たいていの他の一門ではこれが普通。
師匠の教えどおりにやって「パクってる」といわれるのは立川流くらいなもんです。
ところが、ある日、談志家元が談春さんに対してこう言ったんですと。
「なんで、ウチの弟子達は、オレの話をやりたがらねぇんだ。」
対して談春さん、
「何を言ってるんですか、師匠。みんなやりたいんです。やらせてもらいたいんですよ。
でも、師匠のお気に召さないと大変なんで、遠慮をしてて…」
「いいよ。どんどんやってくれ。お前は何がやりたいんだ。」
「子別れ、やりたいっす。」
「いいんだよ。やってくれよ。任せるよ、お前に!」
で、喜び勇んでやった『子別れ』。
そりゃ、もう、師匠から直々に許されて、一所懸命研究して、稽古して、
思う存分に演じた談志作・談春流の『子別れ』。悪いわけはない。
これを、たまたま談志家元の知り合いが聴いていて、褒めたわけです、“談志家元に”、
この、作・立川談志家元、演者・立川談春の『子別れ』を。
しかも、どうやらこの人、談志家元の『子別れ』を“知らなかった”らしく、
すべて談春さん創作のように褒めたんですって。
これ、相当面白くないですよ、家元としては。
すぐに、この話を“志らくさんに”した。
「なんで談春は、俺の『芝浜』とか『子別れ』とかをパクるんだ!
そんなにパクリたけりゃ『やかん』や『金玉医者』をパクってみやがれ!」
志らくさん、さっそく談春さんにニヤニヤして電話。「兄さん、しくじったようですよ。」
釈然としないものの、しくじったと分かって何も手を打たないわけにも行かず、
電話しようと思っていたら、談志家元のほうから電話があって、
「ああ、あれ、たしか、俺がやってくれって言ったんだよな。思い出したよ。」
で、この真相を知るのは談志家元と談春さんと、今日のお客さんだけ、ということで。

そんな、『子別れ』が始まりました。
談志家元がこのネタをやりたくなかった一番の理由である“うそ臭い子ども”が、
見事にいなくなっています。
小賢しくって毒舌で、勘がよくって情に厚い、
きっとそんな大人になるんだろうなぁという素養を持った子ども、これは、いる。
談志家元の“傑作”、それが亀ちゃん。
これって、ひょっとして、談志家元の子ども時代?
自分の『子別れ』を創るのに30年かかったといっていた家元、
30年かけて自分の幼少期を思い出し、適度に美化して、
組み立てたのではないでしょうかと勘繰ってみたりして。

酒飲みで遊び人の大工の熊五郎さんが、
知り合いのお葬式に出たはいいが、いつものように酔っ払って、
仲間と吉原に繰り出して、あろうことか3日も居続け。
酔ったまま家に帰った熊さんを待っていたのは女房のおみつさん。
女房の前で堂々と吉原の女郎とののろけ話をする熊さんに対し、
苦言を呈したところ、なんと逆ギレの熊さん。「出てけー!」ということになり、
おみつさんは息子の亀ちゃんを連れて出ていってしまいます。
と、ここまでが(上)(中)。
「後段は休憩の後」と言って下座へ。

15分間の休憩をはさんだあとは、マクラなし。いきなり、本題。
先ほどの酔っ払いの熊さんとは別人、腕のいい大工の熊さんと、
そんな熊さんに目をかけ続けた番頭さんの歩き語りのシーンから。

吉原の女との一件に、すっかり反省して酒もやめてしまった熊さんが、
ばったりと路上で亀ちゃんに出会うところから、お話はダイナミックに動きます。

しばらくのやり取りの後、
おっかさんには言うなと小遣いとして五十銭を渡し、
翌日またここで会って鰻をごちそうすると言って別れた。
家に帰った亀ちゃん、うっかりおっかさんに五十銭を見つかり、問い詰められる。
「どこで手に入れたのか正直に言わないと、“げんのう”でブツよ!」と言われ観念し、
おとっつぁんに会ったことを告白。
翌日、鰻屋で再会した夫婦、ぎくしゃくしながらもよりを戻す。
「子は、鎹(かすがい)だね。」
「だからおっかさん、昨日“げんのう”でブツといったんだ。」で、オチ。

あらすじを綴ってみれば、他の噺家さんとそんなに変わりはないのですが、
亀ちゃんが違う。全く違う。

熊さんの「大きくなったな。」に対し「他に言うことねーのかよ。」
新しい男がいるのか探ると「そんな女じゃねーよ。みくびんないほうがいーよ。」

ひょっとしたら談志少年であり、さらにひょっとしたら談春少年かもしれない、
見事な亀ちゃんのキャラクター。
本編中に熊さんの言葉を借りて、あまりに見事な亀ちゃんが出来たことを、
談志家元自身が語ってます。
「えれぇガキに育ちやがったなぁ。」

五十銭の使い途を亀ちゃんが考えて「色鉛筆を買いたい」というくだり。
談志家元作では、クレヨン。ここが、全く談志家元の創作部分。
そして、ここから、前後へと波紋のように広げられたそれぞれのキャラクター。

亀ちゃんが青の色鉛筆を使って、空を描きたいという。
そして、一所懸命に書いた空の絵を、わざと家に忘れることで、
おっかさんが会いに来るきっかけ、というか言い訳づくり。
亀ちゃん、熊さん、おみつさんが、本当の家族であるからこその悩みや葛藤が、
思いやりというフィルターを通じて、優しさとなって滲みだします。

『子別れ』という江戸落語の人情話の大ネタに、
大ナタを振るって創り変えた、談志家元の大胆さ。
そして、ポロっと出てしまった、本当は引き継いで欲しいという想い。
さらには、それを確かに受け継いで、『立川流子別れ』という、
新しいネタとして定着・発展させようとしている談春さん。
もともとの『子別れ』より笑いも多く、何より圧倒的に心に深く沁み入ります。

絶品だ、壮絶だともてはやされる談志家元の『芝浜』よりもさらに、
談志家元色が強く打ち出されているのが、この『子別れ』ではないかと思うくらいです。
そして、その色を鮮やかに再現した今夜の談春『子別れ』。

終演直後、目の前に、鮮やかなスカイブルーの空が見えました。とさ。

 



(2013年8月23日更新)