ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2015 落語ライブ見聞録@関西』

立川談春
写真:鈴木 心

その他のオススメ落語公演

『25周年記念、西明石浪漫笑
~集結!新鋭上方落語六人衆』

発売中 Pコード:442-503
▼5月8日(金) 18:15
明石市立勤労福祉会館 多目的ホール
全席自由一般-2500円
[出演]笑福亭仁智/桂雀々/桂梅団治/
笑福亭三喬/笑福亭鶴二/桂文三/桂小梅
梅団治事務所■06-6606-5632
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『第193回 帝塚山・無学の会』
4月29日(水・祝)一般発売
Pコード:444-109
※販売期間中は店頭での直接販売および通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。インターネットでは1IDで1回のみ購入可。電話予約は同一番号から1回のみの予約で「発信者番号」通知の設定が必要。公衆電話・IP電話・一部携帯電話での予約不可。1人2枚まで。
▼5月10日(日) 14:00
帝塚山・無学
入場券-5000円(整理番号付)
[出演]笑福亭鶴瓶 [ゲスト]有
※小学生以下は入場不可。
リバーボトル■0798-33-5699
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『志の輔らくご in 森ノ宮 2015』
発売中 Pコード:442-566
▼5月14日(木)・15日(金)・16日(土) 18:30
/17日(日) 14:00

森ノ宮ピロティホール
全席指定-4800円 立見-3800円(整理番号付)
[出演]立川志の輔
※未就学児童は入場不可。
キョードーインフォメーション■
0570-200-888
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天満天神繁昌亭
〈桂春蝶独演会 明日ある君へ
 ~知覧特攻物語~〉

発売中 Pコード:597-700
▼6月3日(水) 19:00
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]桂春蝶/他
※未就学児童は入場不可。
天満天神繁昌亭■06-6352-4874
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『たびたびさんざ 柳家三三 独演会』
発売中 Pコード:442-647
▼6月21日(日) 13:00/16:00
酒蔵通り煉瓦館 ホール
全席指定-3400円
[出演]柳家三三
※未就学児童は入場不可。
キョードーインフォメーション■
0570-200-888
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『鶴瓶・晃瓶親子京都落語会 第4回』
5月20日(水)一般発売 Pコード:443-190
▼6月21日(日) 14:00
京都府立文化芸術会館
全席指定席-3500円
[出演]笑福亭鶴瓶/笑福亭晃瓶/笑福亭達瓶/
林家木久蔵/林家染吉
※未就学児童は入場不可。
松竹芸能■06-7898-9010
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桂雀々「雀々夏まつり」
5月16日(土)一般発売 Pコード:442-375
▼8月27日(木) 18:30
京都府立文化芸術会館
全席指定-3500円
[出演]桂雀々(「蛇含草」「らくだ」)/笑福亭仁智(「スタディベースボール」)/笑福亭智六(「開口一番」)
※未就学児童は入場不可。
オトノワ■075-252-8255
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『落語ライブ見聞録@関西』一覧

【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
【其の六】米朝一門会
【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
【其の十】ぴあ寄席 ~湯けむり落語編~
【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(大阪)

【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
『もとのその一』(神戸)

【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
【其の十四】志の輔らくご in 森ノ宮 2014
【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
【其の十六】志の輔らくご in 森ノ宮 2015
【其の十七】桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK
【其の十八】笑福亭鶴笑の夏休みファミリー劇場~笑福亭鶴笑のパペット落語~
【其の十九】夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~
【其の二十】よしもと落語 若手まつり

『2012年 立川談春見聞録』一覧

【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
【8】11月公演見聞録『白井権八』『三軒長屋』
【9】12月公演見聞録『冨久』『六尺棒』
【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』

立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」
『百年目』の会

 

開演前に席に着くと、座席には2ツ折りの今公演パンフレットが。
裏表紙には今回のツアースケジュール。
2/26の熊本から始まり、5/1の北海道で終わるらしい。ふむふむ。
なかなかの長期にわたる全国行脚で、大変そうでもあり楽しそうでもあり。
あれ?ボートレース場のありそうなところが少ないのは、
『百年目』というネタに集中するために、あえてそういうところを選んだのか、
とは、さすがに勘ぐりすぎでしょうか。
中を開いてみると、右のページに本日の高座プログラム。

一、(空欄)
一、談春半生記
仲入り
一、百年目

『談春半生記』気になる…。
で、目を左ページに移すと、いきなり、「演目『百年目』について」。
読み進めると、
ストーリーが書いてあって、オチが書いてあって、オチの解説が書いてあって、さらに、
「名作百年目の落(さ)げ(=オチ)を変えてみました。その為に蛇足を承知で説明文を書き連ねました。ご容赦のほどを。」

なんと。オチを変えるとは、興味がふつふつと沸いてくるではありませんか。

まずは、一席目。『へっつい幽霊』。
ストーリーは、2014年7月4日神戸朝日ホールの会をご覧ください。
なんか、軽~い感じで演ってました。
途中、勢い余って変な座り方をした時には、
「興奮して変な風に座っちゃった。こういうの、米朝師匠はどう思うんでしょうかね。」
と、2週間前に亡くなった、故・桂米朝師匠のことに触れたりして。
この噺、談春さんの師匠、談志家元がオチをいじくっている話で、
今回、談春さんも、そのオチで演りました。
「このオチで私がやることを、談志は嫌がったんですが、死んじゃえばこっちのもん。」
と、悪態つきながらも、継いでいく意思みたいなもんが感じられたりするのでした。

いったんお辞儀をして、出囃子を止めて話し始めました。
ここからが、『談春半生記』ということになるのでしょうが、
笑福亭鶴瓶さんの『鶴瓶話』、さだまさしさんの『ステージトーク』といった風情で、
近況を物語って、笑いを取ったり、感心させたり、しんみりしたり。
この春公開されるアニメーション映画『百日紅~MissHOKUSAI~』に声優として参加した話から、
自身著作のエッセイである『赤めだか』がドラマ化されるという話へ。

なんと、立川談志役をビートたけしさんがするという!
さらに、談春さん役には嵐の“ニノ” こと二宮和也!!
原作者本人と演じる役者の距離感が最長不倒、原作者界の高梨沙羅と言われ、
イラッとしつつも、近い例がなかったかと探し出したのが、
『ゲゲゲの女房』での水木しげるさん役が向井理はどうなんだ、で、大爆笑。
最後に、米朝師匠との想い出話。
談春さんが米朝師匠から直接稽古をつけてもらった『除夜の雪』をはじめ、
『らくだ』『算段の平兵衛』など、上方噺で好きなのは「死生観」につながるものが多く、
米朝師匠から「こんなん、やらんでもええんちゃう。」と言われたとか。
ちょっとだけしんみりして、「そいじゃ、休憩です!」。

さて、『百年目』です。
オチを変えた、新解釈の『百年目』が、始まりました。
物語は、とある大店で権勢をふるう番頭治兵衛さんが主人公。
商い一筋で莫大な利益を生む切れ者であり、また、
丁稚たちに厳しく、小言も多く、まじめを通り越して堅物と言われている人物。
と、思いきや、実は裏の顔は大変な洒落もので遊び人。
ある春の日、芸者を上げて大いに遊んでいるところを自分の旦那に見られ、万事休す。
翌日、叱られる、罵倒される、暇を出される、と覚悟したところ、
意外にも、旦那は、優しい言葉で番頭を諭し、逆にお願いまでされ、
感涙にむせぶ番頭に、旦那が尋ねる。
「ところで、昨日出くわした時に『お久しぶり、ご無沙汰を申し上げて…』と言ったが、
あれはどういうわけか?」
それに対し、
「堅いと思われていたあたくしが、あんなざまでお目にかかりましたので、
『これが百年目』と思いました」
というのが、これまでのオチ。

途中で談春さんが、
「ここまで聴いてきて、どこが違うんだと思ったでしょう。お待たせしました。」
とは、気合入れなおしのサインだったのでしょうか。
でも、そこまでも、丁稚たちの描き分けのキレもよく、
駄菓子屋のばあさんと治兵衛さんの絡みも深みのあるシーンになっていて、
後半への期待は高まる一方でした。

屋形船で酒をあおり、芸者や幇間(ほうかん=太鼓持ち)に乗せられて船を下り、
着物をはだけて自慢の襦袢をこれ見よがしに見せつつ、鬼ごっこに興じた挙句、
旦那と鉢合わせする、ひとつのクライマックスシーン。
満開の桜が咲き誇る、華やかで賑やかで長閑な風景の中、
突如勃発した、治兵衛の人生最大級の悲劇。
治兵衛の狼狽ぶりで、笑いの波状攻撃を起こさせるのが、談春さんの腕。
丁稚奉公から数えて三十年目が一つの節目、という、治兵衛の境遇も、
芸歴三十年の独演会でこのネタを選んだ、ひとつの理由ではないかと思えたりして。
店に戻って部屋に籠り、許されたいのか、許されたくないのかと悩む姿は、
談春さん本人の葛藤やら逡巡を重ねているのかも、とは、
これもまた、勘ぐりすぎかな。

さてさて、夜が明けて、治兵衛と旦那の対面シーン。
豪遊する治兵衛を見て、ひょっとして店の金の不正はないかと台帳を確認してみる、
ああ、やっぱりそんなことはなかったと安心し、暖簾分けを遅らせていたことを反省し、
翌年の独立を約束するのが、これまでの『百年目』。

今日の『百年目』は、ここからが大いに違いました。
なんと、旦那が全く違っていたのです。
もともとそういう噺であったかのように振る舞いながらも、全く新しい旦那でした。

丁稚奉公の初日から見てきた治兵衛のことは、自分が一番よく知っているはず。
にもかかわらず、自分の知らない治兵衛を見たことに対する驚きと、自らへの憤り。
「私がお前を育て上げた。」「お前を見誤っていた。どこで見誤った?」
少しあざとく丁稚をしかる従来の旦那とは全く違う、
人間として、まさに、談志家元が言い続けた“業(ごう)”と向き合う旦那。
治兵衛にお茶を淹れるという演出を、肩をもませるという演出に変えてのモノローグ。
「覗き込むんじゃない。この方が話しやすい。」とは、
なんとも、グッとくるリアリティのある言葉。

「いろんなこと、想い出すなぁ…。」

旦那と奉公人からスタートし、旦那と大番頭という関係になった今も脈々と続く、
盤石な信頼関係が、この一言で会場に充満します。
この噺が、時にサラリーマン社会における上司と部下の関係の、
見本のように引用されたりするのをあざ笑うかのように、
骨太の大ネタ、まぎれもない名作落語として、息が吹き込まれた瞬間でした。

変えられたオチも、
“旦那”の言葉の由来は栴檀(せんだん)の木と南縁草の関係から来ているという、
『百年目』を名作たらしめるエピソードからストンと落として、見事な読後感。

この『百年目』は、間違いなく、「もとのその一」というサブタイトルに相応しい、
新しい談春さんの『一歩目』と、言えるんではないでしょうか。
『百年目』と『一歩目』をシンクロさせて、うまいこと言うた気になってますが、
いかがでしょうか?(どや顔)
え?駄目?
ま、そこは、ひとつ、大目に見てくださいませ~。

 

(2015年4月23日更新)