「ご来場の皆様へ
本日、立川談春の誕生日でございます。
その為、本人に内緒で
バースデー・サプライズをしたいと思っております。
誠に恐縮でございますが
是非、皆様ご一緒に「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」を
歌って頂き、談春をお祝いして頂ければ幸いでございます。
＜終演直前に行います＞　－主催者－　」

ラッキーな日にあたった気配が、ムンムンしてます。

さて、開演。
たどたどしくも、一所懸命に語る前座春松くんの『出来心』が終わり、
上がりましたのは、我らが談春師。

ゆるーいわ。

喋ることを何にも考えずに上がってきたという、ゆるゆるの告白に、
1月の時点では、まさかこうなるとは思わなかったと、ふわふわの感想。

客席も、そのゆるさを受け入れての、優しいまなざしと微笑み。
そして、
「そういう風にぼんやりしているように見えても、
ピシッとした、いい江戸落語を聞かせてくれるんだよね、君は」
といったような、期待感の充満。

談春さん曰く、“愛情”。

こんなに、愛情あふれる客席はめったにない、と。
これは、神戸という土地柄なんでしょうか、と。
そして、最後に、
「この寄席は、師匠談志に褒めてもらえる」と。

上方落語と江戸落語の大きな違いのひとつが、武士の登場の多さであると、
手短なマクラで、さっと『岸流島』に。
さっきまでのふわふわ談春はどこへやら、
本当に首を切って落とそうとする武士の迫力のすごいことすごいこと。
この振り切れ具合が江戸落語であり、談春さんなんですよね。

今さら、談春さんの人間の描き分けがどうのこうの言っても仕方なく、
“粋”なオチに爽快さすら覚えて、はい、中入り。

中入りが明けると、『ツタンカーメン展』に行って来たという報告。
先ほどの春松くんがツタンカーメンのお面、
いわゆる「ツタンカー面」をかぶって登場。
紙袋から取り出したのは、インスタントラーメン「ツタンカーメン麺」。
何回言うねん「ツタンカーメン麺」。
言いたいだけやろ！「ツタンカーメン麺」。
関西の客のいじり方も慣れてきたというか、
関西そのものの遊び方を覚えて来たというか、
あのね、お客さんたちも、家族じゃないんやから！と
言いたくなるほどの盛り上がり。

あれ？ひょっとして、家族化していっているのか？

お噺は『品川心中』。

先月の『文違い(ふみちがい)』のお杉とは違うタイプの女郎、お染。
女として、まだまだやっていけると思っている自分と、
ひょっとしたら、もう、誰も認めてくれないんじゃないかと恐れる自分。
その、強がりというか、しぶとさというか、逞しさというか、脆さというか、
そんな“女”を描く談春さんの巧さは、なんぞ!?

結局、人間としての正直さ＝師匠談志の追い求めた“業”が、
どれだけ深いところで描かれているかっちゅうことなんでしょうが、
なんか、もう、ゾワゾワしましたわ。

めったに演じられない「下」までたっぷり、1時間語ってサゲヘ。

さーて、これからがメインイベント！(え？メインは落語ですよ！)

TVカメラが密着しているとのことで、
カメラマンが舞台に上がり、談春さん越しに客席を収録。
こういう絵は、実際の寄席ではめったに見られないんで、ご協力を。と。
「7月のネタは、何にしましょう？」という問いかけに、次々上がる声。

この、神戸の人たち、どれだけ談春さんの持ちネタ知ってんねん。
ん？またも深まる家族化疑惑…。

さて、終演。追いだしの太鼓と共に、だんだん閉じていく幕。
と、あと2メートルくらいのところでピタッと止まったかと思うと、
すーっと開いていく。

バースデーケーキの乗ったワゴンが届いた時には、談春さん、
すっかり観念した顔に。

その照れっぷりは、実際のテレビ番組のオンエアをご覧くださいませ。
7月15日(日)、午後9時54分テレビ東京系列『ソロモン流』
http://www.tv-tokyo.co.jp/solomon/

ハッピーバースデーを歌うお客さんたちの顔、
もう、みんながみんな、本当の家族を見守る表情やがな！
神戸朝日ホールで落語を聞いていたと思ってたら、
友達の談春くんちのリビングでのバースデーパーティーになってるがな!!

先月発覚した“教祖疑惑”のカムフラージュのためか、
まずは、“家族”として神戸市民を取りこむとは。

恐るべし談春、来月は何を企むのか、何が何でも見に来なくてはなるまい…。