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ホーム > 落研家:さとうしんいちの『2016 落語ライブ見聞録@関西』

夢の三競演2015~三枚看板・大看板・金看板~

 

今、関西の落語会でもっともチケット入手困難と言われる年末恒例「夢の三競演」。
前もって演目を示すことなく本番でのお楽しみ、と言いながら、
演劇フリーペーパー『ステージぴあ2015年11月+12月号』掲載記事には、
それとなく仄めかしつつ、三師匠それぞれの想いや意気込みが語られていたのでした。

 

(あ、人気実力ともに大師匠の域に達している三枚看板さんですが、
このコラムでは親しみを込めて、敬称を“さん”にさせていただきます。)

『ステージぴあ』のインタビュー記事は、こんな感じでした。

南光さんは一昨年から取り組み始めた『抜け雀』が有力も、
落語作家の小佐田定雄さんと相談中の新しいオチができるかどうか、で、
「やるとは宣言しませんがね(笑)」とのこと。
鶴瓶さんはタモリさんが発掘した江戸時代の遊郭・吉原での実話をもとに、
1年前に落語作家のくまざわあかねさんと創った『山名屋浦里』か、もしくは、
うっかりモノのサンプルが身近にぎょうさん居てやりやすい『粗忽長屋』。
文珍さんに至っては、コラムの文頭から「『寝床』に決定!」と、
ビックリマークまでついてのアッピール!
「旦那が可愛い。やってて楽しい。」と、準備万端、やる気満々の構え。

さて、開演。
幕が上がると、めくりには『口上』の文字、舞台上には三枚看板勢揃い。
ワタクシがこの日の一週間前の京都・南座『顔見世』で観た
「四代目中村鴈治郎襲名披露」の口上とは、ま、比べるものではないと分かっていながらも、
あまりにも違いすぎるというか、でもまあ、お客さんもそれを望んでいるというか、
鶴瓶「え?オレ、もう喋ってええの?」
文珍「ああ、そうか、ほな、どうぞ。」
南光「あんたら、ちゃんとしなはれ!」
って、どんな口上や。

前座は桂文三さんの『時うどん』。
「なんぼや?16文?銭が細かいので、手ぇ出して。ひとつふたつみっつよっつ…」
という、あれです。
兄貴分と二人で、まんまと1文ごまかして15文でうどんを食べたのをいいことに、
翌日、ひとりで同じことをやろうとして失敗してしまうアホの噺。
いや、もう、このアホキャラが炸裂しまくりの弾けまくりで、
うどん屋が「お金はもういらんから帰って」と言ってしまうという、
これまでには無かったタイプのウヒャヒャヒャヒャな『時うどん』でした。

さて、一枚目の看板、南光さん登場。
絵描きが出てくる噺、で、自分も結構アートが好きと前置きをしておいて、
桂べかこ時代、初対面の岡本太郎さんから「変な名前だねぇ。」と言われた話や、
葛飾北斎が87歳の生涯で93回の引越をし、多い時には一日三回して、
「アート引越センターもビックリ!」って、これ、ちょっと上手すぎちゃう。
もう、安定感抜群のマクラから、宣言通りの『抜け雀』に。

2015年3月に亡くなった故桂米朝師匠の持ちネタで、
同年7月、六代桂文枝師匠が18年ぶりに取り組んだ古典落語で、
江戸落語としても立川志の輔さんを筆頭にちょこちょこかけられているネタで、
このコラムでも一度書いていたりします。
大まかなストーリーは同じだったりするので、上記を参照していただきつつ、
南光バージョンの大きな特徴は、『火焔太鼓』に続く“養子シリーズ”の第二弾。
“養子シリーズ”って、なんか、2時間モノのドラマみたいやなぁ。

養子として旅館の主人に収まるも、いっこうに女房に頭が上がらず、
登場する絵師からも「亭主、養子はつらいのぉ。」といじられたり、
自らも、「養子やから上から言われるとつい聞いてしまう。」と言ったり、
そこここに養子ギャグがちりばめられ、
さらには、南光さんらしい会話のリアリティに溢れていて、
志の輔さんの時に続いて、これまた、おもろないと思っていた『抜け雀』という噺が、
ちゃんと笑い溢れる噺に昇華していたのでした。
この南光さんの“養子シリーズ”、第何弾まで続くのでしょうか、楽しみ楽しみ。

二枚目の看板は鶴瓶さん。
客電(観客席の電気)がスーッと落ちて、いい雰囲気に。
これは、もしや『山名屋浦里』か。

まずは二日前のご自身の誕生日の話。
自分なら絶対に仕掛けるであろうサプライズを娘さんが仕掛けてくれなくて、
サプライズを仕掛けないのがサプライズと軽くいなされたり、
「家族に乾杯」という番組をやっている自分が、家族に乾杯してもらえない、とか、
挙句、お勘定を支払わされたというような話から、
テレビでは絶対に聞けない、ライブならではのスペシャルトーク、
タモリさんのプライベートでの失敗談(当然、書けません!)で大爆笑を取った後、
そのタモリさんが原案を掘り起こし、鶴瓶さんにこそ是非やってもらいたいと言った、
『山名屋浦里』に。

当時二万坪あったという江戸・吉原。
3000人いた花魁(おいらん)の頂点と言われた浦里と、
地方大名の江戸留守居役、酒井宗十郎との“友情”の噺。

江戸留守居役とは参勤交代でやって来る地元のお殿様が恥をかかないように、
江戸に駐在して最新の情報を集めたり、他の大名との関係を深めたりする役職のこと。
と言えばもっともらしいお役目ですが、実際のところは、
連日連夜、情報交換の名のもとに吉原などでどんちゃん騒ぎ。

そんな中にあって、くだんの酒井宗十郎はお家第一の真面目で超堅物タイプ。
他藩の留守居役に笑われ、からかわれ、ついつい啖呵を切ってしまった酒井が、
吉原の常識を破っても、なんとか浦里花魁に、
自分の江戸の妻として会に同席してほしい、と懇願するところが、この噺の始まり。
酒井の実直さに心を打たれた浦里花魁自らが志願してその会に参加、
以降二人は友人として親交を温めあった、というのが大まかなあらすじです。

実はワタクシ、この噺を聞くのは三回目です。
鶴瓶さん自身がその都度マクラで、
「この噺は、どんどん変えていきます。その時その時のこの噺を見届けてください。」
とおっしゃっているように、今日のこの三回目、全二回とはかなり違うものでした。

酒井の、あまりの真面目さからくる、悔しさが滲み出る様子、
そんな彼を嘲笑し、さらには「田舎もん」「鮒侍」と他藩留守居役による罵倒の迫力。
浦里花魁が現れた時の、鳴り物も手伝って、舞台がパァ~ッと華やかになる感じと、
浦里花魁に圧倒された他藩居留守役の間抜けな応対からくるおかしみ。
殊さらドラマティックな展開があるわけではないのに、
場面場面にそれぞれの登場人物の複雑な機微を感じ、ジーンと心に染みてくるのでした。

この噺、さらにここからどう変わっていくのか、いつ、どうなったら完成なのか、
期待は膨らむ一方です。

仲入りを挟んで、本日最後の看板、文珍さんの登場です。
『寝床』です。『寝床』のはずです。『寝床』のはずでした…。

いや、もう、文珍さんのマクラのおもろさ、上手さは今さら言うまでもないことで、
ひとつひとつの小ネタが完成品ですもん。
近所に住んでいる95歳と93歳のご夫婦、元気に過ごしていらっしゃるが、
困ったことがただ一つ、「主治医が次々死んでいく」。
とか、
「婆さんや、焼酎の水割りを作っておくれ。」
「比率は?」
「6:3(ろくさん)で。」
「足して10にならんがな。」
「しょうちゅうは、63(ろくさん)じゃろ。」とか。あ、分かっていない人がいますね。
ほっていきますよ。義務教育やないんやから。(これ、ヒント)
こんな感じで、ロボットの話や人工知能の話、
さらには、マンションに住んでいるお坊さんをアマゾンで手配する話などなど、
時事ネタ、考えオチ、ダジャレをちぎっては投げちぎっては投げ状態で、
ドッカンドッカンとウケまくりです。

さて、ここから、『寝床』の浄瑠璃の会を控えた旦那のセリフに入っていくと思いきや、
あれ?電話してるがな。『寝床』の時代に電話はないでしょ。誰これ?何の噺?
で、始まったのは『セレモニーホールたびだち』という新作でした。
「早割」などいろいろなサービスを開発する葬儀場の営業さんが出てきて、
それでも、人材不足のため社員募集の面接をする、という噺。
面接に来たのが、浪曲好きやらラッパーやらで、
葬儀の司会進行を、厳かさとは縁遠い浪曲風やラップ風で。
あそこに飾ってる写真が「イエーイ!」みたいなネタの嵐が吹き荒れます。
もう、笑わんと損!みたいなお客さんの笑いを、根こそぎ持って行って、オチ。

ラストは、三人が再び舞台に上がり、
その後ろに文珍さん弟子の桂珍念さん、鶴瓶さん弟子の鉄瓶さん、
ざこばさんの弟子のそうばさんが鳴り物担当としてスタンバイ。
錣(しころ)という大入りを祝う寄席囃子を奏でつつの、お土産投げ。
フィナーレは「打~ちまひょ」の大阪締めで、パパンがパン!

いや、ほんまにもう、この3人と同時代に生きているというだけで儲けもんですわ。
その3人が、勝ち負けはないと言いながらも、ライバル心をむき出しにして、
その時その時の最高の自分をお客さんにぶちまけてくるこの三競演。
まさに、「夢」の名に相応しい落語会です。

そしてそして、ワタクシはえらいことに気づいてしまいました。
今年の年末、13回目が開催されるとすると、
三人の年齢の合計が、ちょうど200歳になるんです。
それがどないしたんや、と言われたら、いや、別にどないもせんのですが、
今年の暮れにまたこの三枚看板が観られると、そう思っただけで、
ニヤニヤしながら、ヘラヘラしながら、会社の女子たちから気色悪がられながら、
一年暮らしていけそうやなぁと、そんなことを考えた年の初めなのでした。

 

(2016年2月17日更新)


撮影:大西二士男


その他のオススメ落語公演

『三代目桂春団治角座追悼興行』
発売中 Pコード:597-892
▼2月15日(月)~19日(金)19:00/
2月20日(土)・21日(日)13:00

DAIHATSU MOVE 道頓堀角座
前売-3500円(整理番号付)
[2/15(月)出演]桂福矢/桂福車/内海英華/笑福亭呂鶴/伊藤史隆(朝日放送アナウンサー)/桂福団治
[2/16(火)出演]桂福丸/桂一蝶/ミヤ蝶美・蝶子/笑福亭松枝/前田憲司(芸能史研究家)/桂小春団治
[2/17(水)出演]桂治門/桂花団治/シンデレラエキスプレス/森乃福郎/内海英華/桂梅団治
[2/18(木)出演]桂咲之輔/笑福亭鶴二/三吾・美ユル/桂ざこば/戸田学(作家)/桂春雨
[2/19(金)出演]桂咲之輔/笑福亭枝鶴/海原はるか・かなた/桂南光/小佐田定雄(落語作家)/桂春若
[2/20(土)出演]桂寅之輔/桂福楽/酒井くにお・とおる/笑福亭鶴光/桂春之輔
[2/21(日)出演]桂壱之輔/笑福亭三喬/桂朝太郎/笑福亭鶴志/桂福団治
※未就学児童は入場不可。出演者は変更になる場合があります。
[問]DAIHATSU MOVE 道頓堀角座
■06-7898-9011
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『桂文枝独演会』
発売中 Pコード:448-041
▼3月6日(日) 14:00
加古川市民会館 中ホール
一般-4000円
[出演]桂文枝
※未就学児童は入場不可。
[問]加古川市民会館■079-424-5381
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『桂文珍独演会』
発売中 Pコード:446-712
▼3月20日(日・祝) 14:00
ラブリーホール(河内長野市立文化会館)
全席指定席-3500円
[出演]桂文珍
※6歳未満は入場不可。
[問]ラブリーホール(河内長野市立文化会館)
■0721-56-6100
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『立川談春 独演会2016』
発売中 Pコード:448-486
▼4月8日(金) 18:30
明石市立市民会館 中ホール
全席指定-4000円
[出演]立川談春
※未就学児童は入場不可。
[問]明石市立市民会館■078-912-1234
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『桂文珍独演会』
〈JAPAN TOUR ~一期一笑~〉

2月4日(木)一般発売 Pコード:448-418
▼4月21日(木) 13:00
ロームシアター京都 メインホール
全席指定-4500円
[出演]桂文珍/他
※未就学児童は入場不可。
[問]グリークス■06-6966-6555
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発売中 Pコード:448-527
▼4月24日(日) 12:00/16:00
神戸文化ホール 中ホール
1階席-4500円 2階席-3800円
[出演]桂文珍
※未就学児童は入場不可。
[問]神戸文化ホールプレイガイド
■078-351-3349
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『柳家小三治・柳家三三親子会』
2月6日(土)一般発売 Pコード:448-884
▼4月26日(火) 18:30
ロームシアター京都 サウスホール
全席指定-5500円
[出演]柳家小三治/柳家三三
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
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『南光南天二人会』
発売中 Pコード:448-546
▼4月24日(日) 14:00
サンケイホールブリーゼ
S席-4500円 A席-4000円
[出演]桂南光(「鹿政談」「子はかすがい」)/桂南天(「らくだ」「時うどん」)/桂米輝(「道具屋」)/豊来家一輝(「太神楽」)
※未就学児童は入場不可。
[問]ブリーゼチケットセンター
■06-6341-8888
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『柳家小三治・柳家三三親子会』
2月6日(土)一般発売 Pコード:448-884
▼4月26日(火) 18:30
ロームシアター京都 サウスホール
全席指定-5500円
[出演]柳家小三治/柳家三三
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888
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『桂雀々独演会』
発売中 Pコード:448-584

〈雀々らくご道 ~さいしょの一歩~〉
▼4月28日(木) 18:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「東之旅(発端~野辺~煮売屋~七度狐)」「たぬさい」)
[ゲスト]笑福亭三喬

〈雀々らくご道
~魅力的な面々との出逢い~〉
▼4月29日(金・祝) 13:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「代書」「くっしゃみ講釈」)
[ゲスト]桂梅團治

〈雀々らくご道
~そして、これからのらくご道~〉
▼4月29日(金・祝) 17:30

大丸心斎橋劇場
全席指定-3600円
[出演]桂雀々(「蛸芝居」「らくだ」)
[ゲスト]笑福亭仁智

※未就学児童は入場不可。3回通し券あり(Pコード:786-625)。

[問]オトノワ■075-252-8255
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『第六回上七軒落語会
南光米團治吉弥三人会』

2月13日(土)一般発売 Pコード:449-235
▼5月7日(土) 14:00
上七軒歌舞練場
全席指定-6500円
[出演]桂南光/桂米團治/桂吉弥/桂しん吉/
ザ・ラッキー(獅子舞、太神楽曲芸)
※未就学児童は入場不可。
[問]上七軒匠会■075-465-9090/
米朝事務所■06-6365-8281
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『落語ライブ見聞録@関西』一覧

【其の一】立川談春独演会
【其の二】志の輔・談春 祝祭落語会
【其の三】桂雀々 必死のパッチ 5番勝負
【其の四】立川談春独演会「デリバリー談春」
【其の五】志の輔らくご in 森ノ宮 2013
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【其の七】ぴあ寄席 ~あきんど落語編~
【其の八】立川談春独演会
【其の九】三枝改メ六代桂文枝襲名披露公演
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【其の十一】立川談春 三十周年記念落語会
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【其の十二】立川談春 三十周年記念落語会
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【其の十三】ゆうちょ 笑福亭鶴瓶落語会
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【其の十五】立川談春 三十周年記念落語会「もとのその一」『百年目』の会
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【其の二十】よしもと落語 若手まつり

『2012年 立川談春見聞録』一覧

【1】4月公演見聞録『慶安太平記』
【2】5月公演見聞録『百川』『文違い』
【3】6月公演見聞録『岸流島』『品川心中』
【4】7月公演見聞録『包丁』『紺屋高尾』
【5】8月公演見聞録『かぼちゃ屋』『小猿七之助』『景清』
【6】9月公演見聞録『おしくら』『五貫裁き』
【7】10月公演見聞録『九州吹き戻し』『厩火事』
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【10】最終回 森ノ宮ピロティホール3周年記念祭 特別公演見聞録『芝浜』