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遅ればせながら、2010年あけましておめでとうございます!
新曲リリースにニューアルバムと、年明け早々増子兄ィ、働きます!

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Profile

怒髪天

どはつてん
’84年に札幌で結成。増子直純(vo/通称兄ィ)を中心に上原子友康(g/通称 王子)、清水泰而(b/通称シミさん)、坂詰克彦(ds/通称坂さん)の4人組で活動中。オトコくさくも人情味溢れる独特の音世界に支えられた圧巻のライブアクトで人気急上昇中のロックバンド。

オフィシャルサイト http://dohatsuten.jp/

Release

Single『ド真ん中節』
1月27日(水)発売
インペリアルレコード

ド真ん中節
初回生産限定盤CD+DVD 1890円/TECI-208

ド真ん中節
通常盤CDのみ 1000円/TECI-209

待ちに待った1年ぶりの大作到来!
オトナマイト・ダンディー
Album『オトナマイト・ダンディー』
3月3日(水)発売
インペリアルレコード
2800円
TECI-1277

Live

『オトナマイト・ダンディー・ツアー 2010
"NEO ダンディズム"』
4月4日(日) 一般発売
Pコード:346-196
▼5月9日(日) 18:00 KYOTO MUSE
▼5月11日(火) 19:00 STARCLUB
▼6月4日(金) 19:00 U★STONE
▼6月5日(土) 19:00 BIGCAT
オールスタンディング3500円
※6歳以上は有料。
夢番地■06(6341)3525

チケットの詳細はコチラ

Link

2010年もすっかり明けてしまいましたが、界隈の皆様、今年も@ぴあ関西『怒髪天 増子直純のナニワ珍遊道』をよろしくお願いいたします。新年1発目は、増子兄ィへの新春インタビューをお届けします! 1月27日(水)発売のニューシングル『ド真ん中節』についてはもちろん、3月3日(水)発売となる待望のニューアルバム『オトナマイト・ダンディー』についても少々、そして増子兄ィからメンバーへ「2010年の叱咤激励」もお伺いしております! よろしくどうぞー!

 

-- 遅ればせながら、明けましておめでとうございます!

増子「あけましておめでとうございます!」

-- 早速ですが、新曲『ド真ん中節』についてお伺いいたします。完全に個人的な感想ですが、『オトナノススメ』をはじめ、ここ一連のシングルは勢いのあるものばかりで。そんな流れの中で『ド真ん中節』を聴いた時、怒髪天のコアで一番深いところを全面に出した楽曲を持ってこられたんだなって、今の流れにおいては意外だなと思いました。

増子「何でもそうだけど、やりたいものはやりたい時にやるのがいい。これは完全に自分たちなりのタイミングだから。まあ、サザンオールスターズで言うところのぉ~~~『勝手にシンドバッド』からの『いとしのエリー』的な。大阪的に言うとぉ~~~ウルフルズで言うところの~~~『ガッツだぜ』からの『バンザイ』的な。その繰り返しだから。いい曲がちょうどできたし、これはいいやということで、絶対いい曲だから出そうっていうだけだよ。よくほら、所属メーカーや事務所が、今はこんな状況ですから、ちょっと待ちましょうよ的なことがあるけど、そんなことは俺らにはないからね。うちのマネージャーやディレクターも、逆に“いや、これ行きましょうよ”っていうタイプだから(笑)。逆に俺らが大丈夫か!?って(笑)。“いや、俺らはいいけど、マジ? 大丈夫? いいの ?これで”って。“いや、もう最高ですよ!”と。いい曲だ!」

-- なるほど~。

増子「これまで掴みの曲を連発して、そういった楽曲を聴いて初めてライブに来てくれるようになった人たちを逆に信頼してるというか。“アレをわかるんだったら絶対、わかるだろう”と思ったから。(『ド真ん中節』は)もっとわかりやすいものだと思うし、そこを俺は信頼しているというか。今、(ライブに)来てくれている人たちが、もっといい曲だと思ってくれることを信じてる。これを聴いて、何だコレは?なんて感じないと思ってるよ。俺らのよさをわかるってことは、これもわかるって思うから、何の躊躇もない! これは絶対、のちに“怒髪天の曲で何が好き?”っていうアンケートをとったら、上位に食い込んでくる曲だと思うし。もしかしたら日本のスタンダードに残るようなものになったらいいなって。小学生が聴いても、歌っても意味がわかるでしょ。そういうのがいい!」

-- これまた個人的な感想ですが、新しい『マイ・ウェイ』(※1)だなと思いました。シンプルで、これ以上言うことはないって感じがしましたね。

増子「ない! だから今回、一番困ってるのは取材だよ(笑)。歌詞に全部、入っちゃってるから。いつもだったら、どういう心境で作ったんですか?とかの質問にいろいろ答えるんだけど、これはもう、そのまま! 何もないよね。あとひとつ言うとしたら、いわゆる応援歌的なものがいろいろと世の中にある。それは実は違うと。歌詞を書くときにいつも思うけど、最後の歌詞に“俺のド真ん中”って書いたんだけど、ここに肝があって。これね、何も考えないヤツだったら、ここで“キミの”って絶対言うから。絶対言う。でもそれは違う! そんなの俺、“キミの”なんて言えるような人間じゃないし、何回も言うけど人から言われて頑張れるようだったら、もうとっくに頑張れてる。それでも頑張れないからどうするかっていうと、自分の中から自分に“頑張れ”って言うことでのみ頑張れると思う。だから“俺のド真ん中”。俺は、“どんと行け”って自分に言ってるから。そして自分のものとして歌ったとき、それが自分で自分を励ますことであると。それが歌だと思う。俺はね」

-- そうですね。最後はやっぱり“俺のド真ん中”。人それぞれ、道はみんな違ってますしね。

増子「だから、それぞれがそれぞれのド真ん中を行けばいいって話で。何て言うんだろうな、例えば俺なんかバンドをやってて、こういうことをやってるのって世間的に見ると“ド真ん中”じゃない。だけど、俺のド真ん中ってそこにあるから。“こんな俺でも俺は自分のド真ん中を行っているぞ”っていうことなんだよ。バンドマンなんてほんと、水商売だからさ。他の職業と比べたらほんと、不安定だし、ロクなもんじゃないよね。例えば、“ロックバンドやってます”なんて、恋人のご両親に会いに行ったときに親父さんに一番顔をしかめられる部類の職業じゃない。親父さんからしたら“アホか!”って話になるから。世間的に見たらそうかもしれないけど、それでもそれは俺のド真ん中だから。そういうこと。だから、物書いたり、写真撮ったり、映画撮ったり、役者やったり、みんなそう。洋服屋でもそう。自分の好きなことをやってるってことは、それが世界のどの位置に……、なんて言うの? 地理的な意味じゃなくて、ヒエラルキーとしてどの位置にあってもそこが俺のド真ん中だから。半ば逆切れに近い! でも、それでも行くんじゃい~~!っていうさ、それが大事じゃない? 『全人類肯定曲』じゃないけど、同じよ。自己肯定。大丈夫、お前は真ん中にいるよ、世界の真ん中じゃないけど、自分のド真ん中にいるっていう。まあ、俺の解釈だけどね。コレを聴いて自分なりの解釈をすればいいと思う。ただ、今回は俺と受け手側の誤差が非常に少ないと思う。そこに心砕いたからね。“この道を誤るな”っていうね。“道を外れる”じゃなくて、“道を誤るな”。多少、外れてもいいわけよ」

-- 外れたら軌道修正すればいいですからね。

増子「そう!」 

-- リリースが決まった時、気になったことなどはありましたか?

増子「正直、(シングルを)出すときに一番ドキドキしたのは『全人類肯定曲』だったから。大丈夫かな?って。いろいろ誤解されそうで。それでも突き通して。それで自信がついた。だから、『ド真ん中節』って当たり前だよね。ワハハハ(笑)。いい曲に決まってる。どうであろうと、いい曲だったらそんなに誤解されないだろうし、ちゃんと受け取ってくれる。俺はもう、『全人類~』を出して肯定的に受け取ってもらったから、今、聴いてくれてる人たちを全面的に信用できる。これがわかるんだなって思ったもん」

-- それを確信したのは?

増子「出したときに、誰も何も文句を言わなかったから。“何だよ!?”ってことがもっと出ると思ってたけど、みんな“いい”って言ってくれて。ラジオでかかっても、ライブでやった時の評価も。すごくうれしかった。それでもう、“ああ、何を出しても大丈夫だな”って。あれはすごい、ノルかソルかかな?って思ったんだよね。で、『ド真ん中節』で、これはもう、いい曲(笑)! 『全人類~』もいい曲だけど、『ド真ん中節』は誤解されないじゃない?」

-- そんな『ド真ん中節』ですが、制作秘話などのエピソードを教えて下さい。

増子「タイトルにさ、いつか“節”ってつけたかったから取っておいたの。“節”ってついた曲は今までない。もう、“これは決定版”だと思うものにしかつけたくないって思ってて。で、今回、タイトルを考えてて、曲名会議のときに“どうしようか”って言ってたら、もっとキャッチーな、若い女の子とかがとっつき易いようなタイトルにしたほうが間口が広がるんじゃないかっていう話をしたの。俺も確かにそうだなって思って、それでまたいろいろ考えたんだけど。だけどね、みんなで話し合いをしてるときに、ひとつ気づいたんだよね。ちょっと待てよと。日和ってるとか、そういうことじゃくて。“ウケるとか、間口広げようなんてことを考えるなんて、そんなものロックじゃないぞ”っていうことで止めたっていうのならわかるけど、そうじゃない。“アレ? 待てよ”と。タイトル云々っていう以前に、バンド名が怒髪天なんだから聴かないヤツは最初から聴かない! “じゃあ、『ド真ん中節』でいいんじゃない”って根本的なことに気付いちゃった(笑)」

-- らしい、ですもんね。そして今回、できあがったものを最初に聴いたときのご感想は?

増子「シミがね、甲子園が大好きだから、応援歌で使われるような曲を作ってくれって(友康に)言ってて。で、歌詞は3回ぐらい書き直したの。基本、歌詞はネガティブだから、俺。“うーん…”っていうのが2回くらい続いて、最後の最後でどうしようかって考えたときに、これが出てきた。もうこれしかねえ!って。いろいろやってみるんだけどね。“どんどどん”っていうところとか、(『労働CALLING』の)“ウンガラガッタ”もそうだけど、言葉で説明するんじゃなくて、音で気持ちを表すっていうね。“どんとこい”だったり、“どんと行け”とか、そういうニュアンスっていうかね。そういうのがいいなって思ってて。で、サウンドはバックトラックだけ聴いたら、まさに王道のロックサウンド。the pillowsがやりそうなもので。でも、俺が歌っちゃうと何だかわかんなくなって、それが残念なところなんだけど(笑)、世界中にはいろんなバンドがいるけど、あの曲のあそこで“どんどどん”って絶対に乗っけないから(笑)。でもそこがやっぱり、俺らの持ち味だし」

-- 怒髪天以外ではできない。

増子「できない。絶対無理だと思う。無理っていうか、できないんじゃなくて、誰もやらない(笑)。カッコよくないから。あのね、カッコいい、カッコ悪いでロックバンドをやってないから、我々は。俺が自分にとっていいか悪いかだけ。カッコいい、カッコ悪いには興味ない。ぐっと来るか来ないかだけ!」

-- 昔からのお客さんにも、すごく伝わると思います。

増子「そうだね。泣くと思うよ。現に昔から(怒髪天を)聴いてる人は、これを聴いたとき泣いたって。俺も作ったとき、泣いた。メンバーも、やっぱり泣いてた。ぐっと来てた」

-- まさに真骨頂って感じがしますね。

増子「活動再開してからは10年になるけど、その時に、それこそ『如月ニーチェ』(※2)とか、あの辺から変わらないようなものをね、今、出せると。今、もっと広がった間口に向かって投げ込める自信がついたね」

-- 新しいファンの方にはいい意味で、期待を裏切ると思うんですよね。曲はストレートですが、タイミングでいうと変化球的な。

増子「野球で言ったら、最後の大事なときに勝負球でものすごい剛速球をド真ん中にぶち投げてきたっていう感じだから。まさにそう。それでいいと思う。それがやっぱり俺らのやり方で、もちろん俺らしかできないし。まあ、誰もやらないと思う(笑)。何のメリットもない! でも俺らにはメリットがあるよ。やりたいことをやるっていう最大のメリットがある!」

-- では、カップリングの『YOU DON'T KNOW』についてお聞きします。箭内さん(※3)作詞作曲でして。怒髪天以外の曲をやる、アレンジするっていうのは珍しいですね。

増子「まあまあ、アレンジしてみたりね、そういうことはあんまりないね。『YOU DON'T KNOW』はほとんどカバーっていうか、本人に来てやってもらったから。『ド真ん中』を急にシングルで出すってことになって、“じゃあ、カップリングどうする?”ってなったときに、やったことないことをやろうよと。箭内さんとは前に、一緒にアコースティックライブをやったりなんかしてて、箭内さんの曲ってすごくいい曲が多いから、しかも全然、音源化していないって言うから、“もったいないよ、じゃあ、やろうよ”ってなって。せっかく、人の曲を出来る機会に恵まれたわけだから、俺らがアルバムで出来ないようなアレンジ、やってみたいけどなかなかできないようなアレンジにしようっつって、『酒と泪と男と女』(※4)とか、飲み屋街を歩いてて、流れてたら、“お!?”っと思うようなものを全部入れた。カラオケで歌いたくなるような曲だね。俺らの中での『酒と泪と男と女』だね。渋いよ(笑)」

-- なるほど。本当、いい曲ですよね。

増子「あのね~、『YOU DON'T KNOW』っていいんだよね。優しく歌うっていうのもやってこなかったことだし、逆に人の曲だと照れずにできるっていうか。…というのもあんだよね。だから、次のアルバムに繋がる架け橋でもあるんだよね、実はね。実は…」

-- 次のアルバムのヒントみたいな?

増子「恐ろしいよ、次のアルバムは!! これ、アルバムが出るときに改めて言うと思うけど、今まで友康が曲を作ってきて、まあ、それを俺らがアルバムを作るという大前提のもとに曲をセレクトしてきた。やりたいものを、こういうのを作ろうと。例えば、すごく簡単に言うと、ロックのアルバムを作ろう、楽しいもの、歌モノに寄せたアルバムを作ろうっていう、それくらいのコンセプトでやってきたんだけど、今回は友康が30曲ぐらい作ってきたの。それを全員が家で聴く。聴いて、何曲かを選んで。それはアルバムに入る、入らないはナシにして、いい曲だなと思うものと、こんなのやったら面白いんじゃないかなっていう、候補としてただ選んでいって。で、選んできたものをアルバムにした。もう絶対、俺らがやらないようなタイプの曲が何曲もあって、それを4人でいかにして自分のところに引っ張り寄せてこれるかってことをやってみようぜっつってやったの。今回は恐ろしい。俺の声が入るまで、イントロを聴いただけでは怒髪天の曲だってわからない曲が半分はあるよ。恐ろしいよ!」

-- ……その恐ろしさ、想像を絶します。

増子「もうハンパじゃない。いつも、マスタリングしてくれるエンジニアの人に“今回どうだった?”って聞いたら、“いや~もう、ほんっと楽しかったです、やってて”って。“あまりにも曲がバラエティに富んでて、しかも全部クオリティが高くて、すごく楽しかったです。この勝負時にエライもの出しましたね”って言ってたよ(笑)。実験的だよ。で、『オトナノススメ』が入って、『武蔵野流星号』が入って、『ド真ん中節』が入るから、この3曲が確実にあれば後はもう好きなように。より音楽的なチャレンジをしてもいいんじゃないかなと思ったの。超えられないハードルも越えたし!」

-- そうなんですね~。では、またアルバムリリースのときに改めて、じっくりお伺いしたいですね。

増子「そうだね。すごいよ! ちょっとこう…、いわゆるテクニカル的にボーカルを処理したようなものを、要は人力でやったりとか。エフェクトをかますんじゃなくて同じように2回歌って、それを合わせてちょっとずらしたりとか。同じように歌ってもちょっとずれるでしょ。人間だから。それを俺、2回歌って、重ねて。あと、人の声って波形になってるんだけど、それを息継ぎの部分とかで切って繋げていくとロボットみたいな人工的な声になるの。それを本来は機械で作業していくんだけど、自分で歌って切っていくっていうね、人力で。“何でこんなにエフェクトしてんのかな?”って多分、最初に聴いたときに思うかもしれないけど、ライブで同じように再現できるからね。“それ、本当にやってんの!?”みたいな。ドラムも坂さんが人力でやってるから。ターン!って強く叩いたらタンタンタンって余韻が残るじゃない。その余韻を消したりなんかも全部、人力で叩いてるから。面白い。こういうの、毎回やってんだけど、細かくてわかりづらい。細かくてわかりづらいチャレンジだもん。物まねじゃないけど、細かすぎて云々だよ(笑)」

-- 3月が楽しみですね!

増子「まあ、すごいよ! 最終工程でCD-Rに落としてもらって、“家でもう1回、聴いてください”ってみんなそれをもらって、家に帰って聴いたんだけど、そのときに肝の3曲、『ド真ん中節』、『オトナ~』、『武蔵野~』がない状態で、残りの7曲だけ聴いてさ。ちょっと不安になっちゃって。みんなも思ったみたいで。大丈夫かなってさ。ちょっとマニアックなものを作り過ぎたかな?って思ったの。でもその3曲を入れて聴くとバランスがいい。そりゃそうだよ、それでまとまりとして作ったんだから。言ったらさ、肝を抜いたまま聴いたわけじゃない。そりゃあもう、面白いのが出来上がってるよ」

-- そして初回限定盤にはアコースティックライブの映像もついてきますね。

増子「『オトナノススメ』の特典だったシークレットライブの映像が入ってるよ。何でアコースティックを入れようかっていったら、実は2009年の隠れ目標じゃないけど、2009年は、アコースティックに力を入れて、精度を上げよう、アコースティックセットだけでもできるように練習しよう、曲もそれ用にちゃんと練り直そうというのを目標にやってて、それがうまい具合にできたから。アコースティックでやるとまた違う聴こえ方をするし、曲が違う風になるんだよっていう、その1粒で2度おいしいじゃないけど、その成果をみんなに観てほしくて。今度、『NO MUSIC, NO LIFE.』が入ったコンピ(※5)も出たんだけど、あれもアコースティック。あの曲をアコースティックに直して、箭内さんとBUGY CRAXONEのユキちゃん(※6)をコーラスに入れて、ボサノバ調で。笑うよ(笑)。あり得ない! ほんっと笑っちゃう!」

-- アコースティックライブも応募が多かったみたいですしね。

増子「そうだね、50人しか来れなかったからね」

-- 話は前後しますが、『ド真ん中節』のPVなんですが、すごかったようで…。

増子「PV、観たらわかるけど、泣くよ! あまりにも過酷で。今回、丹下紘希(※7)っていう監督で超巨匠。ミスチルとかあの辺、全部やってて。だけど、東京に来た頃からバイトが一緒で、タイル屋のバイトやってて。そこで一緒にしてたの。あんなに偉くなるとは思わなかったんだけど、で、“撮ってくれよ”って前から言ってて、“あ、いいよ!”って言ってたんだけど、あまりにも偉くなり過ぎちゃってなかなか頼めなくて。やっと今回、ちょっと言ってみようかってなって、それで頼んでやったんだけど、仲いいし、俺らをよーく知ってるから、昔から知ってるからね。17、8年ぐらいの付き合いだから。(the pillows)山中とかも知ってるし。俺らのことよく知ってるからさ。要はその、仲がいいもんだから容赦ないよね。12月の半ばに撮ったんだけど、公園の木とか標識、海の波止場の棒とかに、何しろガチでしがみついて、そこで雨風にさらされる。“それでも俺はしがみついて、ここで頑張るぞ!!”っていうのをあらゆる場所で、メンバー4人でやったんだけど、12月よ!? びしょ濡れだよ! だからもう、手とかあざができちゃって、初めて俺、音を上げたね(笑)。“ちょっともう、無理だ今日。来週にしてくれ!”って。濡れ鼠で。すごいのはさ、演奏シーンが1秒もない!」

-- もう、その肉体的なシーンだけで。

増子「そう。演奏シーンが1秒もない。そしてあと、すました顔をしてるのも1秒もない。が~~~って苦しそう。全部ガチだから! 見たらわかると思うけど、全部何かに掴まってんだけど、低い! そんな高いところで掴まれない!」

-- ほんま、体張りましたね。

増子「ほんとね、鬼だなと思ったよ!」

-- その後、お体は大丈夫でしたか?

増子「全員ね、多少風邪ひいたね。で、ヒーターの効いた機材車の中で待ってるじゃない。コート着て。寒いから待ってる。撮影は一人一人だから、誰が呼ばれるかわからない(笑)。メンバーとさ、“うわ~、海に着いたな~、次は誰が行くんだろうな~”なんつって言ってたら、コンコンってノックされて。“じゃあ、シミさんお願いしま~す!”“は~い……”みたいな地獄の呼び出しが行われてたんだよ。“俺!?”みたいな(笑)。大変だった。でもすっげぇ面白かった! 坂さんが一番、体張ったかな。PVでそこまでする必要あんの!?っていうくらい。銭湯の煙突にガチで登ったからね。そこだけ恐ろしく高い! まあまあ、タダゴトじゃない。背中にドラムも背負わされて。あの中年が(笑)。でもバカだからすごい喜んでた(笑)」

-- “すごい”とは聞いていたんですが、そういうことだったんですね。

増子「タダゴトじゃないよ! ずっと水と風を当てられるんだから。ゴミも飛んでくるし、俺、歌ってんのに顔に新聞紙が飛んできちゃったりして、ビニール袋がまとわりついたりとか、大変だったんだから。もう、泣くよ! ほんとぜひ、見てほしい。タダゴトじゃないから!」 

--頑張りましたね!

増子「いやほんと、頑張ったね! まさかあんなに辛いことが2009年の末にあるとは思わなかったよ。結構ビックリしたよ(笑)。ここで来るか~!みたいなさ(笑)。まあ、恐ろしかったね。監督は鬼だったね。俺、高いところ大嫌いなんだけど、“増子さんさ、スカイダイビングできる?”って言われて、“ふーざーけーんなー!!!”って(笑)。“絶対ヤダぞ!!!”っつって。そしたらシミがさ、“やったほうがいい、絶対やったほうがいいよ!”って。“やんねぇよ!!”っつって(笑)」

-- 阻止できてよかったですね。

増子「予算をそんなことに使わないでって(笑)。完全にもう、芸人だもんね」

-- それでは、今年の話を。2010年は1月に渋谷C.C.Lemonホールと下北沢シェルターでの2デイズライブがあって、27日には『ド真ん中節』のリリースがあって。3月にはアルバムが発売になり、そして4月に日比谷野音でライブがあり、5月からはツアーが始まりと、もう半年分は決まってますよね。

増子「年末にねiPhoneにしたから、それに予定を入れてったんだけど、すごかったな。えぇええぇ!?みたいな。ありがたいね」

-- 2010年もガンガンいくと。

増子「そうだね。今さら遠慮してもしょうがないし、今さら失うものもないし。誰かが損することもない。25周年のときにお客さんにね、“心配すんな”と、“バイトしてでも続けるから、その点だけは心配すんな”って言っちゃったから、あとはもう何もないよね。へへへへ(笑)。やりゃあいいだけだから。死ぬまでやるよ!」

-- おお、今年も期待大ですね。それでは最後に新年っぽい企画を。2010年、増子さんから友康さん、シミさん、坂さんに何かお願い事があれば…。

増子「ああ、要望的なね。友康はまずやっぱり、今年もいい曲を作ってくれるだろうし。ね。健康状態も友康が一番いいだろうし、友康はそのままで。そのままでいい! 現状維持で。友康に関しては言うことがない! シミはね、なにしろなるべくお酒は控える方向で。体にも精神にもよくないから。飲み過ぎはね。なるべくこう、抑えていく方向で。俺も今年は協力しようと思ってるから。シミが控えられるように協力していこうと思ってるから。アイツの体調が心配。それだけ! あと……あのジイさんは……。坂さんはね、最近またちょっと食うようになってきたから、自制心を持つということ。あと、音楽で食っている、事務所から給料が出ている。と、いうことはさ、仕事なわけ。大人として仕事に向かう最低限の心構えというものをきちんと認識してほしい。肝に銘じてほしい(笑)。もう、新年早々ね、人前に出られる格好で出る!」 

-- そんなにひどいんですか?

増子「いやもう、センスが悪いから。この前も帽子買わせようとして、買え買えっつっても全然買わないから、ついに連れてったの。で、何件か廻って、俺は次に取材があったから途中で別れて。“じゃあ、これ、買って帰ってね”って言ったら、“わかりました”っって。で、次に来たときに、“自分が気に入った帽子を買っちゃった!”って。今ね、坂さんが気に入って着てるマウンテンパーカーがあって、それが茶色の迷彩なの。全面に柄がバーっとあって。で、その柄にヒッコリーのさ、縞の帽子をかぶってきた! 柄オン柄かよ! ビックリした! “これね坂さん、アレだよ、どういうことかわかる? カレーにマヨネーズ乗っけてるようなもんだよ”っつっだけど、柄オン柄はないわ…。黒いヤツを選べ!!って言ったのに…。もうね、いちいち言わないとわからない。帽子とか何でもそうだけど、全部黒で揃えるのは簡単。誰でもできる。でも黒で揃えるのであれば、素材を違うものにするとかっていう工夫があるじゃない。基本、ジャケットなり、ズボンなりがあって、例えばそこに帽子を合わすのであれば、それぞれに着てるものに入っている色を合わせるっていうのがあるじゃない。それって基本中の基本じゃない。そっから説明するの!?って。柄オン柄はないもん! ビックリした! “いいでしょ~”ってかぶってきたときには、“ええぇええぇ~~!!”っつったもん! いや、単品ではいいけど、組み合わせはないなって」

-- 人前に出る仕事だということをよく考えるのも2010年の目標ですね。

増子「そう! そういうこともちゃんと考えて。見られてるぞっていうことをね」

-- 新社会人へのメッセージですね。

増子「ほんとそう。最悪。何で1個1個いわないとわからないのか、不思議でしょうがない! 死ぬまでに全部教えきられるか心配だよ!」 

 

そんな坂さんのためにも長生き決定の増子兄ィですが、2010年もまさに“止まると死ぬんじゃ!”の勢いで駆け抜ける怒髪天と、そして事あるごとにそんな怒髪天をキャッチしていきたいと目論む当連載を、どうぞよろしくお願いいたします!!

 

(取材・文 岩本和子)


本文補足

※1 『マイ・ウェイ』
もともとはフランス生まれの楽曲に、英語詞をつけタイトルを『マイ・ウェイ』としフランク・シナトラが歌った。日本では美空ひばりや布施明も歌い、格調高いメロディに必ずや聞き覚えがあることと思う。

※2 『如月ニーチェ』
’01年リリースの怒髪天のミニアルバム。今でもライブで聴くことができる名曲中の名曲が揃った1枚。
ご存じない方は、『ナニワ珍遊道』第拾一回をご覧の上、再発盤をチェックしてみて下さいね。

※3 箭内さん
クリエイティブディレクター、箭内道彦のこと。フリーペーパーとは思えない濃厚さを持つ『月刊 風とロック』の編集長であり、昨年、界隈だけでなく多くのテレビ視聴者の話題もさらった(?)、桃屋の『辛そうで辛くない少し辛いラー油』CMのディレクター、またNHK『トップランナー』の司会を務めるなど幅広いメディアでそのお姿、作品をおみかけすることと思う。自身も音楽活動を続けており、そのサウンドは怒髪天も絶賛!箭内さんと怒髪天によく似た(?)メンバーで構成されたザ☆ぽてとサーカスもじわじわ話題に。

※4 『酒泪と男と女』
大阪出身の歌手、河島英五の代表曲のひとつ。やるせない状況にうちひしがれた詞ながらも、どこか救いある河島の歌声で、後世に受け継がれている名曲。

※5 『NO MUSIC, NO LIFE.』が入ったコンピ
タワーレコードの日本上陸30周年を記念して、『NO MUSIC, NO LIFE.』をテーマにした書き下ろし含む、名立たるアーティストの楽曲を収録したコンピレーションアルバム『NO MUSIC, NO LIFE. SONGS』のこと。絶賛発売中!

※6 BUGY CRAXONEのユキちゃん
怒髪天主催のレーベル、Northern Blossom Records所属のロックバンド。ボーカル・鈴木由紀子の突き放すようなボーカルに、高揚感溢れるギターロックが、コアな音楽ファンをもうならす3ピースバンド。
BUGY CRAXONEオフィシャルサイト http://www.bugycraxone.com/

※7 丹下紘希
Mr.Childrenをはじめとした、多くのミュージックビデオを手掛ける映像作家。それにしても、兄ィの交友関係の広さにはいつも驚かされます。

 

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