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「俺の使命は、ちゃんと人の心に有効に作用する音楽を作ること」
縁に生かされ、使命感に動かされ、時代から目をそらさずに歌い継ぐ
激動の’20年の果てにたどり着いた中田裕二の現在進行形
『PORTAS』撮り下ろしインタビュー&動画コメント

 自身の人生に訪れた挫折という名の転換期が導いた名盤『DOUBLE STANDARD』(’20)を生み出しておきながら、その余韻に浸る間もなく中田裕二から届いた今年2作目となるニューアルバム『PORTAS』は、コロナ禍において、変わり映えしない毎日も、予定調和にすら見えた退屈な未来も、当たり前にはやってくることはないという痛烈な事実を突きつけられた人々へそっと手を差し伸べるように、その唯一無二の歌声とメロディをより自然体で鳴らしている。自宅でのレコーディングを余儀なくされたことが功を奏した独自の密室感、それとは裏腹にアルバム全体にそこはかとなく漂う開放感。ポルトガル語で“門、ドア”という意味を持つタイトルさながら、窮地における歌の力を信じ、ためらうことなく自らを更新していく中田裕二の現在進行形がここにある。縁に生かされ、使命感に動かされ、時代から目をそらさずに歌い継ぐ、中田裕二インタビュー。

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人生って何が起きるか分からないなと思う
 
 
――リリース前には、『中田裕二 New Album “PORTAS” リリース記念 ONLINE SHOW~LIVE LOVERS~ from Billboard Live supported by CASIO』をビルボードライブ東京で、有観客と配信のハイブリッドでやってたけど、その辺の肌感覚もコロナ禍で分かってきた?
 
「最近はインスタライブとかもたまにやったりしてるけど、あれも結構自己完結型だから、もう自分で笑って自分でツッコんで(笑)。でも、俺は没頭できる方がいいから、逆に功を奏してるところもあったね」
 
――それは思った。コロナ禍でみんなが閉鎖的、消極的になっていくのに、この人は今さらSNSが活発になってきたし、何なんだろうこの逆張りはと(笑)。
 
「SNSはあえて使わないと思ってきたけど、きっかけはやっぱりドイツのエッちゃん(=ESCHES(エシャス))がインスタをフォローしてくれて、そこからコミュニケーションを取ってみようと思ったのが大きかったですね。面白いな…人生って何が起きるか分からないもんだなと思う」
 
――ESCHESはSNSがなかったら、まずつながれてないもんね。
 
「ただ、最初は読み方が分からなくて、“エシュース?”みたいに誤魔化しながら(笑)。それもドイツ語が分かるファンの方が読み方を教えてくれたんですけど。俺が向こうのアカウントに飛んでみたらめちゃくちゃカッコいい曲をやってたから、“うわ、友達になりたい!”と思って。そしたら向こうも“Wow~Awesome!”みたいな感じで喜んでくれて、そこから盛り上がって、“じゃあ一緒に曲を作らない?”みたいな流れに」
 
――そもそも中田くんは海外に行ったことがないのよね? むしろ今の今まで39年もよく行かずに済んでたね(笑)。
 
「だから俺は、運転免許証とかパスポートという身分証明書に縁がなかった。保険証だけでずっと生きてきた(笑)」
 
――海外に行ったら絶対に意識が変わると思うよ。
 
「もうすでに準備も始めてて、英語も勉強してるし。やっぱりドイツに行きたいんですよ、エッちゃんの家に」
 
――ドイツは日本人の肌に合うって聞くしね。
 
「職人気質だしね。時計とか、ビールとか、ジャーマンメタルとか…」
 
――そのステレオタイプな印象がかわいいな(笑)。でも、その海外から一通の便りで、一気に開放的になり
 
「彼のおかげでかなり価値観が変わりましたね」
 
――今までは音楽を好きにならなければ人付き合いはしないというか、何なら音楽が好きでも人付き合いはしないぐらいのイメージだったけど(笑)、そういうガードとか変なこだわりが、少しずつなくなってきた感じがするね。

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苦しいときこそ芸術家が本領を発揮すべきだなと思って
 
 
――『DOUBLE STANDARD』('20)は、人生が苦難に追い込まれて生まれた産物だったけど(笑)、『PORTAS』は地続きではありつつ、またちょっと違う広がりがあるよね。
 


「開放感がありますよね。この閉塞的な状況において、何だか能動的なアルバムだなと」
 
――世間が閉塞的で息苦しくなったとき、逆に中田くんの開いていくスイッチが入ったのは面白いね。
 
「何かね、こういう苦しいときこそ芸術家が本領を発揮すべきだなだと思って。過去の歴史を勉強してみても、だいたい芸術運動が起こるのは、そういう大変なことがあった後だから。ここで通用しない芸術は、これからはちょっと厳しいのかなと思ったり。言い方は悪いけど、平常時だといろんな政治力だったり、お金の力だったり、あとは量と数で音楽をカモフラージュできたこともたくさんあって。受け身だと雰囲気でそれが正解だと思っちゃうところもあったと思うんですけど、さすがにこの状況になると、本当に残酷なぐらいにそれが通用しなくなるのをまざまざと見せつけられて…これはマジで気が抜けねぇぞと」
 
――中田くんだって、今まで以上に真価を問われる。
 
「手を抜いたらすぐ終わりますよ。だから、もっともっと追求しないと、本当に勉強しないとなっていうところに。これ、300ページぐらいあってめっちゃ分厚いんですよ(とカバンからノートを取り出す)。これでもう4冊目かな? メモしたり、歌詞も書くし、何でも帳みたいな。生まれて初めてなぐらい勉学に勤しんだ自分がいて、その流れで万年筆にもハマったり(笑)。合理的に考えたら、今の時代に万年筆なんて使う必要はないんですよ。でも、万年筆でしか書けない字が確実にあって、万年筆を使うことで湧いてくる創作意欲があったり」
 
――今、言ってることって、めちゃくちゃ中田くんの音楽っぽい。iPadにApple Pencilで書いた方が、すぐに消せるから便利じゃん、じゃなくてね。
 
「そう! それだと何かが違うんですよね。あとは本能的に、“死”というものがかなり身近になったじゃないですか。それもあって、何かを“残したい”という気持ちが働いたのも大きいのかなって。それが俺の場合は音楽で」
 
――1枚でも多く、1曲でも多く。
 
「今、死んだら、もう作れなくなっちゃうから。今までも天変地異はありましたけど、何となく死というものがぼんやりしてて、“いつか自分も死ぬのか”みたいな感じだったのが…死の臨場感というのかな。実は人間って、そういうものがある程度必要なのかもしれないなと思って。それで初めて生きた心地がするというか、死をもって生を感じる。そこにみんなが直面した気がして…。だからある意味、俺がいつもヒットを出してて羽振りがよかったら…」
 
――もしすでに圧倒的な地位を手に入れてたら、価値観が一変した今、それが失われる怖さがあるもんね。“今のまま変わらないで! 俺はもう評価されてるから”って。
 
「そうなんですよ。そこを真っ向から否定される可能性もあるし。はたから見れば俺なんて小っちゃい波かもしれない。だけど今、振り返ると、ここ10年はいろいろありましたけど、地味にコツコツやってきたのは結構大きかった。コロナ禍の最初の頃はさすがに“どうしよう?”とはなったんですけど、“じゃあ曲を作ればいいじゃん!”みたいな感じで、基本姿勢をあんまり変えずに済んだんですよね」

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俺はこういうときの歌の力を信じてるんですよ
 
 
――そして、4月にインスタライブで弾き語った『君が為に』(M-10)が、『PORTAS』への動線になったと。
 


「東日本大震災のときに書いた『ひかりのまち』(’11)と何となく心境がかぶって…とにかく世の中はネガティブな要素ばっかりだったから、それをどう自分の心で処理していくのか…俺はこういうときの歌の力を信じてるんですよ。いつもはYouTubeのコメントとかはあんまり見ないんだけど、『君が為に』のそれをたまたま見たときに、すごく印象的なコメントがあって。“消えたくなってここに来ました。素晴らしい歌をありがとうございます”みたいな…それを見てすごく嬉しかったというか、そんなふうに“どうしようもない、もうダメだ”というときこそ聴いてほしいし、そういう歌をずっと作ってきたつもりだったから。やってきてよかったなと思って」
 
――コロナの前に作られた曲でも今を描いたような曲ってあったりするし、やっぱり普遍的なことを歌えてたら、どんな時代にも響くんだなと思うよね。
 
「うんうん。やっぱり自分が生きてる世界のリアル、その世界が抱えてる悩み…そういうことから目をそらさずに歌うことで初めて届くのかなと思いますね。要はまぁ、真面目にやり続けるという。評価や数字で一喜一憂しない。俺もそれを気にする時期はありましたけど、自分が納得できる作品をちゃんと作り続けていけば、自ずとやっていけるのかなと。そして、そういうポジティブさを持っていれば、必ず届くんですよ」
 
――そういう時世と心情と音楽が形になったのが、まさに『君が為に』で。圧倒的な曲の力を感じる。
 
「嬉しい。『ひかりのまち』もそうだったけど、自然とできたんだよね。想いがそのまま曲に流れ出したというか」

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プネウマ=僕にとっては“縁”ですね
 
 
――今回は状況的にも、結構リモートでレコーディングしたとのことで。
 
「3分の1ぐらいはそうですね。途中からスタジオが使えるようになって、『DAY BY DAY』(M-8)とかバンド感のある曲はみんなで録りましたけど、『BACK TO MYSELF』(M-2)とかも1人で作ったので。歌に関しては全部自分の部屋で録ったし、全体的に密室感というか、“俺の部屋感”みたいなものは出てるかも。アコースティックな曲が多いし、今はたくさんの楽器で装飾が施されたオーバーアレンジな曲より、小編成の方が自分の良さを伝えられるんじゃないかと。流れとしては、まずは『君が為に』、その後に『プネウマ』(M-1)をインスタライブでやって…とりあえずどんどん曲を作り始めて。自粛期間中に勉強をし始めたら、伝えたいこととかアイデアがたくさん生まれて、余計に曲ができたという。長いときは1日8時間ぐらい勉強してましたから。哲学史の勉強をしたり、やたら宮尾登美子作品を読んだり、’80年代の邦画を見たり。ここで勉強しとかないと生き残れないと思って」
 
――今作では『プネウマ』とかは特に顕著かなと思うけど、言ってることは感覚的だけど使ってる言葉は分かりやすい。噛み砕かれてるというか、難しいことを言わない。これまでは文学的だけどあんまり説明もしないし、それぞれに汲み取ってもらう感じだったけど。
 
「ちょっと考えながら聴いてもらうみたいな。そこは語彙力が増えたのかもしれない。あとは本当に釈迦が…(笑)」
 
(一同笑)
 
「もう、いちいち釈迦の話が面白いんですよ! 晩年はいろんなところへ旅して、会う人会う人に説法=悩み相談みたいなことをして。毎回、人によって話し方は変えるけど、真理は1つ。そういうふうに伝えたいことの核はドーンとあるんだけど、それをどれだけ平易に伝えるか。世の昔の名曲とかも、シンプルな言葉だけどむちゃくちゃ深く伝えてるし、俺は難しいことを難しく歌っちゃう傾向があったんで、そこにちょっと変化はあったかな」
 
――その意図は1曲目からちゃんと伝わってくるなと。そして、『プネウマ』=人間の生命の原理みたいな意味で。
 
「俺自身、プネウマさんのおかげで生活できてるというか(笑)。言わば、プネウマ=僕にとっては“縁”ですね。みんなが当たり前だと思って雑に扱いがちな真理…挨拶すること、人を大切にすること…コロナで当たり前のことが当たり前じゃなくなったからこそ、それがものすごく重要で。そういう包括的なデッカい入れ物=プネウマですね。『プネウマ』でこのアルバム全体を説明してる感じですね」
 


――さっき話に出た『BACK TO MYSELF』は80sのニューウェイヴっぽい曲で。
 
「はい。ニューウェイヴ説法みたいな(笑)」
 
――だからか、“我に帰りなさい 孤独とは自由だよ”って…もう完全に解脱してもーてるやないか(笑)。
 
「アハハハハ!(笑)」
 
――『夢の街』(M-6)とかも、何も企まないし、何もこだわらない人(笑)。『あげくの果て』(M-5)なんかは頭から、“結末はただ結末であり”って…抗ったところで全ては運命でしかないと。『DOUBLE STANDARD』で描いた、諦めることで前に進めるという諦観。そこから始まった中田裕二のダブルじゃないスタンダードな気持ちだね。
 
「もう予想を立てちゃいけないぐらいの気持ちなんですよね。それは時に“そうならなかった”って思っちゃうから。イメージを形にするのも大事ですけど、気付いたらイメージにとらわれ過ぎて、それが自分を苦しめるパターンもあるので。やっぱりバランスなんですよ。それを仏教用語で“中道”と言います(笑)」

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中田裕二史上、最も明るいアルバムじゃないかな
 
 
――『ゼロ』(M-3)は、松本清張の『ゼロの焦点』('59)にインスパイアされた曲だと。
 


「実は全部で3曲ぐらい清張ソングがあって、『あげくの果て』は超大ヒット作『点と線』('58)。で、もう1曲は…新曲か。清張ソングは今後のアルバム用にまだ控えてます(笑)」
 
――いつか中田裕二による松本清張トリビュートアルバムができる(笑)。
 
「『SEICHOU』っていうローマ字で(笑)。最近は、そういう作曲法が結構多いですね」
 
――世の中には素晴らしい小説がごまんとあるから、インスピレーションの宝庫だもんね。『ゼロ』って中田くんの持ち味の火サス感はちゃんとありつつ、歌謡を軸足にしても今までと違うなと思うのは、曲調が明るいのよね。いつもならもっとマイナー調というかダークになることが多かったのに。
 
「確かに! それは自分でも本当に思います。中田裕二史上、最も明るいアルバムじゃないかな。あとは椿屋四重奏の『CARNIVAL』('09)ぐらいじゃない? 珍しく朝に合うアルバム(笑)」
 
――今までは完全に月夜だったもんね(笑)。
 
「“よし、これから仕事に行くぞ!”っていう朝に『DOUBLE STANDARD』を聴き出すと、ちょっとね」
 
――“やっぱり会社に行くのはやめよう…”って途中下車して、川沿いを歩いてたらツーッと涙が出てきて(笑)。
 
「アハハハハ!(笑)」
 
――この変化は何がそうさせたのかな?
 
「それはもう、聴いていただく人にそういう気持ちを持ってほしいという。今は音楽で落ち込ませちゃったらダメというか。でも、バカみたいに明るいとそれはそれで、“こいつ、何言ってんの?”と思われるから(笑)、柔らかくて、ちゃんと地に足の着いた光というか」
 
――ただ、あの切なさを伴う暗さは中田裕二の武器だし、俺も大好きなところだから、その寂しさもあるけどね。
 
「それはね、ちゃんと次のアルバムに取ってますから(笑)」
 
――(笑)。俺が危惧したのは、『DOUBLE STANDARD』は本当にいいアルバムだったから、ちゃんと世に広めなきゃならなかったのに、『PORTAS』が出たことで満足に人目に触れないまま過去になってしまうんじゃないかと。
 
「あぁ~なるほどね。でも、この2枚は兄弟作みたいに思ってるので、どっちも聴いてほしいんですよね、うん」

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人間ってやっぱり変わらないというか
逃れられない真理みたいなものがあるんだなと
 
 
――タイトルの『PORTAS』は聞き慣れない言葉だけど、門とかドアという意味があると。今の中田裕二の開いていく感じ、今までやってこなかった領域に足を踏み込んでいく、みたいなところから。
 
「ラテン語の哲学用語みたいな感じで、世界史の最初の方ってギリシャ哲学の話がよく絡んでくるんですよね。それがすごく面白くて、プラトンとかアリストテレスとかが言ってることって現代人にもバッチリ当てはまっちゃってて。人間ってやっぱり変わらないというか、逃れられない真理みたいなものがあるんだなと」
 
――戦争とかもそうだけど人間って時々、過去から学ばずに同じ過ちを繰り返す。でも同時に、そんな昔からすでに真理に到達していたという驚きもあるね。
 
「昔の人はみんな超頭がいいですよ。今って結局、情報とか物質があり過ぎて満たされちゃってる状態じゃないですか。そうなると脳が退化していくんでしょうね」
 
――現代人が1日に摂取する情報量は江戸時代の1年分だとか、ここ3年の情報量は過去30年間より多いとか…もう人間が許容し切れない状態なんだろうね。
 
「だからもう、ずーっと受け流し状態。ずーっとつかめない流しそうめんみたい(笑)」
 
――やだよ、いつまでも食えないそうめんなんて(笑)。今後のライブに関しては、年末に東京で恒例の年忘れ公演を有観客と配信でハイブリッドにやりつつ、年明け以降は当初予定されていた『DOUBLE STANDARD』ツアーの振替公演が弾き語りに変更されて行われるけど、最新アルバムは『PORTAS』というカオス(笑)。関西公演は京都の磔磔と、大阪は梅田BananaHallで、何のお導きか珍しく大阪ファイナルになって。
 
「本当だ! これは終わってから天王寺に飲みに行きたいがための(笑)。まぁ言わば、ツアーの内容は=『中田裕二の謡うロマン街道』ですね。例えば20曲やるとして、10曲は『DOUBLE STANDARD』と『PORTAS』から、あとはカバーとか過去の曲も混ぜて、セットリストも決めずにアドリブでやります、みたいな」

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追求の果てにしか結果はない
 
 
――今年は2枚もアルバムを出して制作面では精力的な1年でしたけど、世界はコロナ禍で混乱にも陥り。そんな激動の’20年を振り返ってどうですか?
 
「この逆境の中で自分はどういうスタンスでいるべきか、どんな音楽を人々に提供すればいいのか、それをものすごく考えた1年でしたね。と同時に、これまで進んできた道のりと方向性は間違ってないなと思いました。みんなそれぞれが壁にぶち当たって、今でも悩んでる人がたくさんいると思うんですけど、俺の使命は、ちゃんと人の心に有効に作用する音楽を作ることだと、ハッキリ実感しましたね。こういうときこそ俺たちみたいな人間が、世の中から目をそらさずにちゃんと表現することが大事だなと日々痛感しながら、今も過ごしてますね」
 
――最初は誰もが自分のために、楽しいから歌い始める。それがいつの間にか、人のために、誰かのために、『君が為に』みたいになってくるのは面白いもんだね。
 
「夢中で何か1つのことをやり続ければ、何かしら人の役に立てることがあるんだなと思いますし、物作りの基本ってそうなのかもなと。“もっと売れたらいいな”とか、“ちょっとぐらい手抜きしてもいいだろう”とか、そういう雑念が入ると途端に見破られる。とにかく追求の果てにしか結果はないんだなと」
 
――中田くんがそう言ってくれると、勇気づけられる人がきっとたくさんいるよ。
 
「言い方は悪いけど、魂を売っちゃった人は今、如実に苦しんでるなと思うから。“あのときはよかったな”とか、“昔はこうだったのに”とか、自分がやってきたことに縛られず、今、自分がいる場所でやるべきことにとにかく集中する。そこからまた明日が開けていくはずなんですよ。そういう想いもこのアルバムには込めたつもりです」
 
――中田くんが8月にビルボードライブ横浜でやった配信ライブのMCで、“明日は待つものではなくて、作るものだと思っています”と言っていたのも、すごくいい言葉だなと思いました。
 
「いや~たまたま出ただけです。でも、本当に待ってても未来は来ないから。この1~2年は、“40代を迎える前に整えておけ”みたいな感覚が間違いなくあったな。いろいろと自分の心を整理整頓、ですね」
 
――中田くんのキャリアは分かりやすくていいよね。10周年で40歳。キャリア自体もバンドで10年、ソロで10年という感じか。時の流れを感じるな~。
 
「早いよねぇ。昔は“CHAGE and ASKAって25周年か、すげぇなぁ”とか思ってたのに、俺もあと5年で25周年(笑)」
 
――それだけ積んできたってことですね、中田裕二も。
 
「コツコツやってきた自負は多少ありますけど、40代こそいろいろチャレンジしていかなきゃいけないなと思ってます。10周年って何となく総まとめみたいなイメージがあると思うんですけど、俺にとっては心を新たに、またここから始まるぞという気持ちの方が強いんですよね。懲りずにアルバムも出すと思いますし(笑)、だから皆さん、もしよろしければその門出を一緒に祝っていただけませんか? 今はそれぐらいの気持ちなんですよね」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)

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(2020年12月25日更新)


Check

Movie

優しい言葉が沁みます…
中田裕二からの動画コメント!

Album

前作からわずか7カ月でアルバム誕生
DISC2には弾き語りライブ音源も!

Album
『PORTAS』
発売中 3500円(税別)
Imperial Records
TECI-1712

<DISC1収録曲>
01. プネウマ
02. BACK TO MYSELF
03. ゼロ
04. おさな心
05. あげくの果て
06. 夢の街
07. Predawn
08. DAY BY DAY
09. ふさわしい言葉
10. 君が為に (album version)

<DISC2収録曲>
『“中田裕二の謡うロマン街道”
 at 高崎 少林山達磨寺大講堂
 2018年9月15日』
01. ロータス
02. 夏の終りのハーモニー
03. はじまりはいつも雨
04. 薄紅
05. 正体
06. ウナ・セラ・ディ東京
07. 結詞
08. おてもやん
09. シルエット・ロマンス
10. ただひとつの太陽
11. Deeper
12. 虹の階段
13. 白日

Profile

なかだ・ゆうじ…’81年生まれ、熊本県出身。’00年、仙台にて椿屋四重奏を結成。’07年にメジャーデビュー。『紫陽花』(’05)『恋わずらい』(’07)『いばらのみち』(’10)など、ロックバンドの枠にとらわれないスケール感と個性溢れる楽曲で人気を集めるも、’11年1月に解散。3.11東日本大震災の被災地/被災者に向け『ひかりのまち』を配信したのを機にソロとして活動を開始。同年11月に1stアルバム『école de romantisme』をリリース以降、『MY LITTLE IMPERIAL』(’12)『アンビヴァレンスの功罪』(’13)『BACK TO MELLOW』(’14)『LIBERTY』(’15)『thickness』(’17)『NOBODY KNOWS』(’18)『Sanctuary』(’19)とコンスタントにアルバムのリリース&全国ツアーを行い、オリジナル/カバー不問のレパートリーからその場でセットリストを決めていく弾き語りツアー『中田裕二の謡うロマン街道』の開催、カバーアルバム『SONG COMPOSITE』(’14)の発表、さらにはアーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュースなど、精力的な活動を展開。確かな歌唱力に裏打ちされた艶のある歌声、幼少時に強く影響を受けた70~90年代の歌謡曲/ニューミュージックのメロディセンスを核に、あらゆるジャンルを貪欲に吸収したバラエティに富んだサウンドメイクと、さまざまな情景描写や人生の機微をテーマとした詞作によるソングライティングが幅広い層に支持されている。’20年4月に9thアルバム『DOUBLE STANDARD』を、11月18日に10thアルバム『PORTAS』をリリースした。

中田裕二 オフィシャルサイト
http://yujinakada.com/

Live

年末恒例の年忘れ公演に続き
年明け早々に弾き語りツアーが開幕!

 
【東京公演】
『中田裕二 年忘れ公演 2020』
Thank you, Sold Out!!
DAY-1 “バシの大奏事”
▼12月26日(土)17:00
[メンバー]平泉光司(g)/隅倉弘至(b)/
張替智広(ds)/sugarbeans(key)
DAY-2 “謡うロマン街道 ひとり忘年会”
▼12月27日(日)16:00
日本橋三井ホール
全席指定7500円(おみやげ付)
ソーゴー東京■03(3405)9999
※未就学児童は入場不可。小学生以上はチケット必要。客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。

 
 
『TOUR 20 “DOUBLE STANDARD
 ”振替公演』

【福岡公演】
▼1月10日(日)イムズホール
【宮城公演】
▼1月17日(日)仙台Rensa
【静岡公演】
▼1月23日(土)SOUND SHOWER ark
【埼玉公演】
▼1月29日(金)HEAVEN'S ROCK
さいたま新都心 VJ-3
【北海道公演】
▼2月5日(金)cube garden
【愛知公演】
▼2月12日(金)ボトムライン

Pick Up!!

【京都公演】

▼2月13日(土)17:00
磔磔
全席自由5500円
夢番地■06(6341)3525
※2020年5/30(土)京都公演の振替公演。未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。公演当日、中学生は学生証を、小学生は年齢が確認できる身分証を提示(コピー不可)で2000円返金。

【神奈川公演】
▼2月18日(木)関内ホール 大ホール

Pick Up!!

【大阪公演】

一般発売12月26日(土)
Pコード191-755
※インターネットのみでの販売。
▼2月27日(土)17:00
梅田BananaHall
全席自由5500円
夢番地■06(6341)3525
※2020年6/27(土)大阪公演の振替公演。未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。公演当日、中学生は学生証提を、小学生は年齢が確認できる身分証を提示(コピー不可)で2000円返金。

チケット情報はこちら

 

Column1

「ようやく一体化できた感じがする
 自分と音楽を」
中田裕二がついにたどり着いた
諦めの先にあった絶景
答えなき時代に矛盾を抱えて
生きる人々に寄り添う
『DOUBLE STANDARD』
撮り下ろしインタビュー('20)

Column2

「新しい歌謡曲の形を見つけたい」
ルーツミュージック×
歌謡のメロディ×現代のリアリティ
共有の渦から抜け出し、己の聖域
=『Sanctuary』を築け――!
撮り下ろしインタビュー('19年)

Column3

「今が一番音楽をやってて楽しい」
自分の好き=価値観は自分が決める
シーンに進攻するここにしかない
声と音楽『NOBODY KNOWS』!
撮り下ろしインタビュー('18年)

Column4

「自信を持って、これは“誰にも
 作れないはずだ”って言える」
宿命に逆らわず、時代に従わず
己の音楽を高らかに鳴らす、これが
中田裕二の戦い方=『thickness』
撮り下ろしインタビュー('17年)

Column5

「何かすごく大きな変化が
 自分の中で生まれつつある」
業も使命もプライドもソロ5周年に
自らをブレイクスルーする
『THE OPERATION/
 IT'S SO EASY』
撮り下ろしインタビュー('16年)

Column6

中田裕二の逆襲たる『LIBERTY』
時代を超えて生まれる歌
世代を超えて生きる歌
初ホールツアー開幕に捧ぐ
撮り下ろしインタビュー('16年)

他の撮り下ろしインタビュー
&ライブレポートはコチラ!

『STONEFLOWER』('16年)
特設ページはコチラ!

ビルボードライブ大阪レポート('15年)
特設ページはコチラから!

『BACK TO MELLOW』('15年)
特設ページはコチラ!

『SONG COMPOSITE』('14年)
特設ページはコチラから!

『アンビヴァレンスの功罪』('13年)
特設ページはコチラから!

『MY LITTLE IMPERIAL』('12年)
特設ページはコチラ!

『école de romantisme』('12年)
特設ページはコチラから!

 

Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「彼とも長い付き合いになってきましたが、今年は本人も自覚しているように、周りから見ても“変わった”と思います。SNSしかり、友達付き合いしかり、変わらないのはその音楽とスタンスだけ。でも、もしかしたらそれが彼に足りなかったことなのかもしれない。時流に流されない音楽を作ってるからこそ、それを生み出す本人は柔軟であれというか。『PORTAS』は歌詞から“解脱ワード”が散見されますが(笑)、その揺るがない音楽がより今に響きます。シーンが中田裕二に追い付いたのではなく、地球全体の問題が中田裕二に追い風を吹かせたようで複雑な心境はありつつも、10周年を前にいつになくいい兆候を感じます。なぜか『徹子の部屋』に出てる中田裕二が目に浮かんだわ(笑)。インタビュー中に中田くんが“追求の果てにしか結果はない”と言ったとき、同じ気持ちである自分自身も勇気づけられたし、だからこそ出会って、今でもこうやって膝を突き合わせ話をしてるんだろうなと思いました。ちなみに今回は所用で東京にいた際に取材したんですが、歴代のリリースインタビューとしては初の東京取材。その後、彼のアテンドで街を徘徊できたのも、とってもいい思い出になりました。来年の10周年も引き続き、中田裕二を全力サポートします!」