「ルーツ受け継ぎつつ、自分なりの答えを出していく」
中田裕二の逆襲たる最新作『LIBERTY』解剖計画【前編】
消えない情熱とシーンへの苛立ちすらも自由への序章にした
『STONEFLOWER』撮り下ろしインタビュー&動画コメント
理想を追い求めるのは、この世を生きる上で綺麗事なのか? 自分を信じ続けるのは、叶うことのない絵空事なのか? そして人はいつか、ゆるやかな時の流れを理由に、その確かな想いからそっと目を逸らす――。だが、この男はどうだろう? 最新アルバム『LIBERTY』を再生するや飛び込んでくる、ロック、ニューウェイブ、ヴィンテージ・ソウル、ファンク、レゲエ、ラテン、ボサノヴァ…海外の機運を敏感に嗅ぎ取りながら、80sオマージュ溢れる自らのルーツとキャリアとのジャストな関係を築き上げた、徹底的にハイブリッドでハイクオリティな楽曲群は、前作『BACK TO MELLOW』(‘14)がもたらした予感を礎に、歌手・中田裕二の消えない情熱と妥協なき理想郷を描いている。そこで、ぴあ関西版WEBでは、リリースツアー開幕を前に最新作『LIBERTY』と中田裕二の現在地を紐解く、前後編フルボリュームで贈るスペシャルな撮り下ろしインタビューをお届け! まず【前編】では、先行配信されたEP『STONEFLOWER』を軸に、中田裕二のシーンとの独自の距離感とスタンスを語ってもらった一方、思い信じ続ける、まるで音楽少年のようなきらめきに思わず笑みがこぼれたインタビューとなった。
チャンスが来たときに、今までちゃんとやってきたことを
どれだけ引っ張り上げれられるか
――前作『BACK TO MELLOW』(‘14)以降の状況として、地上波=テレビに出演したのあって、ネット上でも話題になって、検索ワードにも名前が挙がってきたりして。
「まぁ“誰だよ!?”って感じですもんね(笑)。『The Covers』と『水曜歌謡祭』で観た人が反応してくれたのは、結構大きかったですね。でもね、いやいや緊張しましたよ。10年前に1回Mステ(=『ミュージックステーション』)には出てるんですけど、『水曜歌謡祭』は生演奏だし、小っちゃいとき観ていたかつての『夜のヒットスタジオ』とかのノリに近い、いわゆる“歌番組感”があって。それが何かね、すごく楽しかった。“華やかだなぁテレビ”と思って」
――何だかんだ言って、お茶の間へのダイレクトゾーンはそこやもんね。
「大衆向けというか、一般層に投げるには、やっぱりテレビは有効だなって。あと、ただ出たんじゃなくて結構おもしろくできたというか、“何この人?”っていう感じは残せたと思うんで(笑)。人によってタイプはあると思うんですけど、俺の場合はやっぱり“歌手”として、テレビはデッカい1つの鍵を握ってるなと最近は思ってますね」
――中田くんが幼少期のテレビの音楽番組って、憧れさせてくれるものがあったもんね。歌手を目指そうと思わせる1つのきっかけには絶対になってたというか。
「ただね、嬉しかったと同時に、こういうことを何回もやっていかないとダメだなと思いました。テレビに出て“すごく楽しかったです、悔いはないです”だけじゃなくて、“あ~何かもっと歌えたなぁ、次はもうちょっと余裕持ってやれたらなぁ”って、出終わったときに考えちゃってたから。やっぱりどんどん大きいところに出ていく必要があるなぁと、痛感しちゃいましたね」
――その効力が分かったが故に。
「ただ、テレビだけじゃなくて、この
ぴあ関西版WEBとかもすごい大事で。ああいう番組に出たときにこそ、今までちゃんと地道にやってきたことが、こういう風に大事に話を聞いてもらってきたことが、ちゃんと広がるように」
――番組直後に乗っかりツイートしてみたら、思惑通りめっちゃ拡散されました(笑)。
「アハハハハ!(笑) だから、パッとああいうチャンスが来たときに、今までちゃんとやってきたことを、どれだけ引っ張り上げれられるかは今後のテーマかなと思いますね。地道に突き詰めれば、そういうチャンスは必ず巡ってくる。もちろん、そう何回も巡っては来ないんですけどね」
――あと、田島貴男さんもそれこそ『水曜歌謡祭』でだし、ツアーパンフの『居酒屋裕二』でも話に出た柴田淳と本当に共演したり、今までインタビュー中に名前を出してきたアーティストとの接触もあって。
「本当にそう。柴田さん、志帆ちゃん(Superfly)の2大歌姫とも絡んでね。あとは俺が売れるだけですよ!(笑)」
――アハハハハ!(笑) Superflyは“中田くんの提供曲を聴いてどう思いました?”という問いに、“百合みたいに結構キツくて強い香りが焼き付いちゃうような印象”って答えてました(笑)。あと、歌いこなすためにすごく練習したと。
「エロく歌うパターンが自分の中になかったから、最初は難しかったって言ってましたね。でも、最終的には俺の予想を遥かに超え“えぇっ!?”っていうセクシーさで歌いこなしてましたから(笑)。柴田さんも歌謡曲をベースに、アレンジもAORっぽかったりするし、歌ってる世界観は結構通じるところがあるかなぁと。柴田さんの方が全然人気ありますけど、お互いに孤高な感じでね(笑)。まぁ俺の場合は“孤高”というか、“孤独”なだけなんですけど(笑)」
俺の世代の人たちって、20代のときの音像に縛られてる
――配信で先行EPを出してアルバムリリースというのがここ数年の流れだけど、『BACK TO MELLOW』以降、EPの『STONEFLOWER』にはどう結び付いたの?
「『BACK TO MELLOW』は…ちょっと優しい感じがするというか、やっぱりすごくメロウなんですよね。それは敢えてなんですけど、AORのロマンティックな部分に特化して作った。そうなってくると、マインドは元々ロックなタイプの人間なんで、次はもうちょっと社会的な風刺だったり、ビートが攻めてたりとか…最近の“AORリバイバル”みたいな流れと同じ感じには絶対にしたくなかったし、もうちょっとブラックミュージック寄りの、いわゆる“ダンディズム”を感じるものを作りたいなって」
――そんな中、表題曲の『STONEFLOWER』(M-1)が生まれたと。
「アルバムの曲を揃えていくときに、“高速マーヴィン・ゲイ”みたいな感じの曲が欲しくなって(笑)。あんまりテンポの速い曲は好きじゃないんだけど、この歌詞の世界観は都会の街並みを疾走してるイメージがあったんで。風を切って歩いてるというか」
――今のシーンにおいて“テンポ速め”で想像する音楽って、もうドンチードンチーっていう=四つ打ちだけど(笑)、『STONEFLOWER』はそれとは違うスピード感よね。
「そうそう! リズムのコンビネーションで作っていくグルーヴ感ですよね」
――ピアノとパーカッションとストリングスが入り乱れ、且つそれがしつこくなく疾走感もあって。『en nui』(M-2)は『BACK TO MELLOW』から地続きな感じもするけど、『STONEFLOWER』はハードな部分というか、大人の男の硬派な部分というか。
「そう! あとはやっぱり、自分もロックバンド上がりでしょ? 30代も半ばになって今の音楽シーンを見渡したとき、俺の世代の人たちって20代の頃の音像に縛られてるなって思ったんですよ。でも俺は、ああいう風に歪んだギターをガシャガシャ鳴らすのとかって、20代の特権だと思ってるんです。20代だからリアリティがある。ギターをものすごくフィーチャーした曲を作るのって、俺の場合だともうリアリティがないと思うんですよね。そこで強さとかビート感を出すのは簡単なんです。でも、例えばジャミロクワイの『ヴァーチャル・インサニティ』(‘96)って、ギターがそんなに前に出てないけどすごくクールだし、ダンディズムもある。ああいうカッコよさに向かわなきゃいけないなって、前々から思ってたんで。それを日本人でやってる人って本当に少ないというか、俺の世代でいるのかな…。それもあって『STONEFLOWER』では、ロックバンドのフォーマットではない“攻め感”は出しておきたかったんで」
――中田くんは、自分の世代として何を歌うかには、本当に自覚的だもんね。
「それはめっちゃあるし、それがないと俺たちの世代は負けていく一方かなって。でも、ヘンな囚われが今のシーンには非常にあるというか、’00年代からずーっと同じことが繰り返されてる感じがしますね」
――あと、『BACK TO MELLOW』からたった1年でも、日本はどんどん変わっていく。そういう時代も含めて何を歌うのか。歌詞でもやっぱり、思うところはあるよね。
「今は、非常に生き辛い世の中だなぁっていうのがまずあって…ただ“頑張れ”とか、“それでも生きていこう”みたいに優しく言われても、こんな混沌とした世の中で、なかなかそういう言葉は響いてこない。でも、そういうときこそ理想をちゃんと持たないと流されちゃうというか、時代の波に飲まれないように、どう自分の中で落とし前をつけていくか、落としどころを見付けていくかを、しっかり歌っていかないといけないんじゃないかなって。チャゲアスとかはね、本当にそんな感じだったんですよ。大人を鼓舞する大人」
――そう考えたら、音楽も人生も。
「一緒ですね。かなりリンクしてると思います」
『STONEFLOWER』と『en nui』の2曲に関しては
俺の中では両A面みたいな感じなんで
――で、『STONEFLOWER』ってそもそも何?(笑)
「そもそもね、よく分かってないんですよ(笑)。“都会”=“砂漠”と歌ってる、内山田洋とクール・ファイブの『東京砂漠』(‘76)みたいなニュアンス(笑)。この砂漠の中で、どう咲いていくのか。ただ、東京に限らず今の時代がそんな感じがしますね。常に砂嵐が来て飲み込まれちゃって、何もなくなって、それの繰り返し」
――でも、その中に咲く一輪の花があると。あと、ストリングスがかなり効果的に機能してる。これは贅沢やな~。
「ですよね~。でも、この方々じゃないと再現出来ないというか、作れなかった。今まではゴージャスにするための弦だったんだけど、今はちょっと違う必要性を感じてます。これは完全にフィリー・ソウルとかの影響で、(久保田早紀の)『異邦人』(‘79)とか昔の歌謡曲もそうだけど、リフを弦で入れてくる感じが好きなんですよね。『STONEFLOWER』と『en nui』の2曲に関しては特にそう。俺の中では両A面みたいな感じなんで」
――『en nui』は以前からあった曲ということですが、その割には『BACK TO MELLOW』を通過して出来たような歌にも感じますね。そして、前作収録の『サブウェイを乗り継いで』で“パヤパパ♪”と歌った中田裕二が、この曲では遂に“パララ パララ♪”をぶっこんできました(笑)。
「アハハハハ!(笑) いろいろ考えたけど、デモの状態で“パララ パララ♪”って仮で歌ってて、もう“パララ”以外に思い付かなかった(笑)。この曲は結構前から歌ってて、原型は2年ぐらい前かな。でも、アレンジは最近決めたんで」
――あと、『en nui』にはスカパラの欣ちゃん(=茂木欣一(ds))が参加しています。
「何かダブっぽいドラムが欲しいなって奥野(真哉)さんに相談したら、“欣ちゃんが絶対いいよ”って。第一印象から本当に明るい方で、やるのは初めてでしたけど曲のイメージにピッタリで、まぁ音が抜ける抜ける。あとはハイハットさばきがすごい。原曲がまったりしてたのでスパイスが欲しいと思ってたんですよね。そういう意味でも、本当に最適なドラムを入れていただいた感じですね」
――中田くんは常々いいドラマーと出会えてきてるよね。
「やっぱり、曲の基本はドラムとベースだと思ってるんですよね。ベースとキック(=バスドラム)が曲の雰囲気とかグルーヴを決めるというか、色気の部分って多分そこだと思う。そういう意味では、絶対に意識からは外せないですね。あと、ドラムは一番キャラクターが出る楽器だから、より楽曲の人間的な部分を演出してくれる気がして、非常にありがたいというか。やっぱりいい曲には必要なんですよねぇ、いいドラマーが」
売れなきゃ話にならない。何も変わらない
――『ROUNDABOUT』(M-3)は、ロックな部分を思いっ切りバーストさせてる曲で。メッセージは『STONEFLOWER』にも通じるけど、現代社会に対する苛立ちみたいな。
「イライラしてたんでしょうね(笑)。もう今は…本当にね、歌に魂がないですよ。しかも、日本だけ音楽的に成長できてないのを感じる。海外は“ネオ・ヴィンテージ”みたいなサウンドを上手く作って、ボーカルのスタイルもすごくソウルフルになってるんですよね。それにはすごく共感出来るというか、結局、テクノロジー任せで音楽やっちゃダメなんだって、向こうの若い人たちはもう気付いてる。日本だけがまだヘンな進歩主義みたいなものがあって、80年代の方がよっぽど世界レベルまでいってたのにって思いますね。海外はBPMがどんどん遅くなってるのに日本はどんどん速くなってきて、もう笑われるよ!って(笑)。特にロックをやる人は、絶対に人と同じことをやってたらダメだと思うんですよね。そこはちょっとね、危機感を持ってやりたいなと思ってますね」
――そういうところに嗅覚はいきつつ、日本のマーケットで戦ってるわけやからね。
「それはもう、これからの俺の戦い方次第ですよね。やっぱり、売れなきゃ話にならない。何も変わらないしね。最近は、それをすごく強く思うようになってきて。“やってることは絶対に間違ってない”ってずーっと自分に言い聞かせてきたけど、最近は“この音楽が本当に必要だわ”って思うんですよね。まぁ誰も通ってない道だからやりやすいのもありますよ(笑)。でも、30代以上の人とかはちゃんと反応してくれるし、ルーツはやっぱり大事にしていきたい。受け継ぎつつ、自分なりの答えを出していく」
――今はまだ“孤高”じゃなくて、“孤独”やからね(笑)。
「ちょっと寂しくなってきた(笑)。あと、最近は“好きでした”って言ってくれる後輩もちらほらいるんですけど、椿屋(四重奏)では相当キメを入れまくってややこしいことしてたから(笑)=ギターロックでバリバリやってた俺を観てきた人も多いし、あれはあれでちょっと今に続いてきちゃった影響はなきにしも非ずで。でも、俺の根底にあったのはやっぱり歌謡曲だったし、ブラックミュージックがすごい好きだった。まぁ俺も当時は分かってなかったというか、“何でフェスでこんなに盛り上がらないんだろう?”って常に思ってたし(笑)。やっぱりビートの考え方が、他のバンドとは全く合わなかったですね。サビで速い四つ打ちが来れば大抵盛り上がるけど、そこに俺たちは全然喜びを見出せなくて、その時点からもうちょっとズレてたんですよね。ただ、やっぱり編成はロックバンドだから、まるで違うサウンドにまではならないし、そのしがらみもすごいあったなぁ…。かと言って、他のやり方が分かってたかと言えばそうでもないんで、もう中途半端な感じ。やっぱり1人になってからやっと、ですよね」
みんながみんな似たようなロックバンドをやってる中で
自分も敢えてロックバンドをやりたいとは思わない
――キャリアを重ねていく人って、20代でバンドでデビューして、解散してソロになったり違うバンドを新たに始めたりとかはあるけど、だいたい延長線上のイメージというか、劇的に立ち位置が変わることは少ないけど、中田くんは珍しいケースよね。
「俺はロックバンドをやってたときからすでに、ロックバンドを聴いてなかったんで(笑)。多分、元々素養の違うヤツが無理矢理ロックバンドをやってたから、ああいうおもしろいバンドが出来たと思うんですよね。俺はロックバンドの“マインド”が好きなんですよ。何かを壊して新しく作っていくその考え方が。だから今は、みんながみんな似たようなロックバンドをやってる中で、自分も敢えてロックバンドをやりたいとは思わないんですよ。だったら違うことやりたいと思うのが、むしろロックだと思うんだけどな。人がやってることをやる必然性が全く見出せないというか、俺である必要がないというか。だから、ネオ渋谷系とかAORの波がちょっとキたのも、何かもうヤだもん(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「AORやシティポップが流行るとは思ってたけど、“80sなシンセが”とかサウンドをなぞるだけで、そのマインドにまで踏み込んでない。だからそこに物語やダンディズムがないんですよ」
――その物語に誘発される音楽ではなく、サウンドの肌触りだけ抽出した音楽。
「そうそう! 田島(貴男)さんとかの曲の内容って、もっとセクシーですもん。あと、日本でやる限りは、山下達郎さんとか(井上)陽水さんとかもそうだと思うんですけど、日本の歌謡がベースにあって、そこと洋楽との戦いの歴史だったと思うんです」
――歌謡曲を聴けば聴くほど、そこに洋楽との対峙があったことを感じるもんね。
「そう。今はその戦いを止めた感じがするんですよ」
――そして、あなたがその戦いを今、1人蒸し返してるわけですね(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
『LIBERTY』は自分にとっても変化作
――そして、『イニシアチブ』(M-4)は昨春のビルボードライブ東京公演のテイクで、しかもライブ音源は初だと。
「個人的には、やっぱりライブ=観るものだと思うんですけど、欲しいという声が結構あったんで。『イニシアチブ』は音源が完全な打ち込みなんで、ライブだとまた雰囲気が変わるからそれも楽しんでもらえるかな。ビルボードでのライブが、またいい感じだったんで」
――『イニシアチブ』は配信シングル『MIDNIGHT FLYER』(‘13)のカップリングとしてだったり、今回は配信EPの収録曲としてだったり、常にフワフワした状態やね(笑)。
「アハハハハ!(笑) 常にB面扱い(笑)。本当だ! 永遠の配信限定だ(笑)。世界観とかはおもしろい曲なんですけどね。ただ、このEPだけを聴くと結構ダークな感じに聴こえるかもしれないけど、ニューアルバムの『LIBERTY』は、ピーター・ガブリエルの『So』(‘86) みたいなイメージなんで(※それまでマニアックに音楽を突き詰めていたピーター・ガブリエルが、一気にビルボードチャートのトップに立った作品)。自分にとっても変化作…まぁ全作変化作だけど(笑)、気持ち的にはまた新たに頑張んなきゃなって思ってるところですね。やりたいこともすごく増えたんで、めっちゃギターも練習してるし」
――アコースティック・トリオツアー『trio saloon』も、いい具合に作用してる感じがしますね。
「そう! 即興がすぐに出来たりするような瞬発力も鍛えたいなと。今の音楽ってセッション性が少ないというか、ジャズが持ってるような自由な感じがない。その辺にも将来的にはチャレンジしていきたいと思ってるんですけど、『trio saloon』は難易度が高くて大変なツアーなんで、今もいろいろと練習してます(笑)」
――“練習してます”なんて言ったの初めてやね。
「練習しなかったもん。キラいだったし」
――だって『居酒屋裕二』の百問百答でも、“歌は全然練習しません”って(笑)。
「歌は今でも練習してないですけどね(笑)」
自分は日本のシンガーソングライターとしては
結構不思議な立ち位置にいると思う
――やりたいことが増えてきたのは、年齢的なものなのか、世間のリアクションを少なからず感じたからなのか。
「もっとミュージシャンとして、しっかり立ちたいなって。テレビに出たときにまだまだだなぁってやっぱり思ったし、“元・椿屋四重奏のボーカル”と言われることはそんなにないですけど、日本でバンド上がりのソロアーティストが成功したパターンって、本当に少ないんですよ。でも、海外では結構いて、ガラッと自分を変化させることに躊躇がないというか。俺はバンドはバンドで自分なりの結果を出したとは思ってるんですけど、やっぱり1人でも結果を出したい。自分は日本のシンガーソングライターとしては、結構不思議な立ち位置にいると思うんで」
――中田裕二はシンガーソングライターではあるんだけど、その肩書きがズバリな感じもしないもんね。みんながようやく中田裕二というものを捉えようとすると、そこからスルッとズレていくというか。
「だから売れないんですかね?(笑) まぁ日本人は、期待に応えてくれると思い過ぎてる。で、それに応え過ぎてると思う。もちろん、満を侍してそういうときが来れば、そうする覚悟はありますよ(笑)。ただ、今は求めてくれてる人口がまだ少な過ぎるから! そんな小さなところでまとまってどうすんの!?っていうね」
――ちなみに、中田くんはスランプとかにはならないの?
「なるなる、全然なる。ただ、俺の場合はその時間が短いっていうだけで」
――半年書けない、とかにはならないと。
「半年とかは絶対ない。2日とか(笑)」
――アハハハハ!(笑) 短いなぁ。
「でも、その2〜3日間はホントに落ち込むんですよ。それが何度も何度も細かく来るんです(笑)。“俺がやらなきゃ…” って勝手に思ってるんですよね、誰に求められてるのか分からないけど(笑)。それぐらい、今の音楽にいいものがないと思ってるんです。もし自分が、チャゲアスを聴いてた子供の頃に戻って今の音楽を聴かされたら、絶対にヤだなって思っちゃう。歌の中に人生がない。大人の背中が見えない。俺、“サインレント・マジョリティ”は絶対にいると思ってて。いい音楽がないからCDを買わないわけで、そこを満たしたいのもやっぱりあるんですよね」
――中田裕二が音楽を止めたら、それを摂取できるチャンネルが世の中から1つ減っちゃうわけやもんね。
「もう頭がおかしいと思われるかもしれないけど、俺を失ったら、日本の音楽シーンは…かなりの損失ですよ(笑)」
(一同爆笑)
「本当にバカだな俺って思うけど、それをね、椿屋のときからずーっと思い続けてるんですよ(笑)。もう“この人には勝てない、俺がやろうとしてたことを全部やってる”って思えるような、自分が納得するような人が出てきたら、辞めると思いますよ。そしたらベーシストになろうかな(笑)」
――アハハハハ!(笑) でも、そんなヤツはいないから、まだまだ続けないとね。
「いないよね? 出てきてもらっても困るけど(笑)。いやもう、全然これからだなと!」
――インタビュー【後編】で、この一連の話がどう効いてくるが楽しみだわ(笑)。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
撮影協力:石ノ花
(2016年2月23日更新)
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