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「上方落語若手噺家グランプリ2015 決勝戦」
決勝進出者インタビューシリーズ第二弾!
「いらち俥」で<予選第二夜>
1位通過の笑福亭べ瓶が登場

2015年より新たなコンテスト「上方落語若手噺家グランプリ」が始まった。「上方落語若手噺家グランプリ」は、関西のアートや文化、伝統芸能の支援を目的としたアーツサポート関西に、アートコーポレーションから500万円の寄付金が届いたことをきっかけに創設されたグランプリ。今後、1年に1回開催し、10年間続けられる。出場資格は入門6年目から15年目までの上方落語協会所属の噺家。初年度は31人が予選に参加し、4月7日から4回にわたって予選会を開催。各予選上位1、2位の8名と、各日3位のうち最も審査点数が高かった1名の計9名が決勝へ進出した。そこで決勝へと駒を進めた9名にグランプリに向けてのインタビューを実施。二人目は〈予選第二夜〉で「いらち俥」を熱演し、1位で通過した笑福亭べ瓶が登場。決勝に向けての意気込みはもちろん、予選の振り返りや活動の拠点である東京についてなどを聞いた。

--<予選第二夜>で「いらち俥」を口演され、1位通過されました。まずは心境を聞かせてください。

「まさかと思いました」というのがベストな答えだと思うんです、芸人として。でも10年以上やると正直、わかりますよね。お客さんの反応とか、楽屋の雰囲気、先輩、後輩を見ていると、多分1位やなと。そこは正直、「だろうな」と思いました(笑)。逆にこれで落ちてたら…(笑)。落語って評価が難しいと思うんです。たとえば寄席なんかでも、前が爆笑だったら次は聴かせる噺をとか、前が人情噺だったら次は爆笑噺をとか、前が重かったらちょっとアクションの多い噺をしようとか、全体のバランスを考えるのが僕は落語だと思うので、賞レースというのはすごく難しいと思うんです。賞レースって自分が目立たないといけないものですし。けど、そういうものがなかったらないで、多分落語界も盛り上がらないと思うし…。ウミガメが年に1回、産卵に来ますよね、砂浜に。こういうコンテストって、それやと思うんです。それがないと切磋琢磨はないし、「あ、自分はまだまだあかんねんな」とか、「自分のこういうところは個性として伸ばして行けんねんな」とか、こういう機会ないと気づきにくいですよね。自分のお客様の前でやっていたら、ウケますから。そうではなくて、お客様、師匠方、あとは普段、落語会にあまりお越しでない方々がどう見られるのか。僕らはそういう経験を得る機会が少ないので、このコンテストはすごくありがたいと思いました。

--普段の寄席では、出る順によってネタも変わってくるとのことですが、今回は先に演目を決めて、当日の舞台で順番を決めました。

僕、こういう賞レースって7割、順番で決まると思うんですよ。だから、僕がこの<予選第二夜>でトップやったら、また変わったかもしれない。この日はたまたま、7番目という順番もよくて、ネタのチョイスもよかったということだと思うんです。

--「いらち俥」を選んだ理由は何ですか?

なんか、一番コンパクトで、賞レースに出すにはいいネタなのかなって。あんまり前フリも長くないし。前で仕込んで、後で回収する仕込み噺のネタって、ちょっと難しい気がするんですよね。言うたら前半は捨ての時間になるから。その分、後半で盛り返して倍にウケたらいいんですけど、僕はそういうことをやる度胸がなくて。最初から積み上げていけるネタの方がいいかなと思ったので「いらち俥」を選びました。

--持ち時間15分でしたが、その時間内に収まる工夫はされたんですか?

予選の日は、前の雰囲気を見て、いつもよりマクラを多くしました。7分くらいマクラだったかな。半分くらいマクラを振ってたと思います。「いらち俥」は、本来15分から20分くらいあるんですが、今回は10分なかったと思います。前の6人がすっごいマクラをふってネタに入ってたら、逆にマクラをほとんど振らずに入ってると思うんですよ。そういうバランスだと思いますね。今回はそれがたまたまうまくはまったという。

--順番は大事ですね。

大事です。だからトップってしんどいですよ。<予選第一夜>はトップの三幸が獲ったでしょう。これはすごい。しかも新作でしょう。逆にやりきったんでしょうね。すごいと思います、本当に。

--「いらち俥」では熱演されてましたね。べ瓶さんご自身が、すごく乗っている感じがしました。演じられているときはどういうお気持ちでしたか?

自分の気分が乗らない噺は絶対したくないですね。だから自分が“こんな感じにしたいな”って思うネタしかやらないようにしています。

--今回の予選ではそのイメージどおりでしたか?

そうですね……あれ、ほぼ原型ないですからね(笑)。かなり“自分やったらこうかな?”って思うように変えたので。でも古典落語って、ずっとそうやって変わってきているので。それを評価してくださるのはお客様であり、今回で言うと審査員の方なので。それであかんって言われたら、あかんかって思うというか。今回はたまたま、お客様にもいい感じで受け入れられたのかなって感じです。

--では、落語をする際に、心がけていることは?

クサくしすぎないことですかね。笑わせたいとか思うと、どうしてもクサくなっちゃうんですよね。クサくしないとあかんのですけど…。バランスですね。すべてバランスだと思いますね。そのバランス感覚が合っているのかというのは常に自問自答しています。普段から。全部そうかもしれないですね。

--普段からというのは?

例えば飲みの席とかでも、自分ばっかりしゃべってたらあかん。時には人の話を聞かなあかんし。だけど取材とかやったらしゃべらなあかんしみたいな(笑)。そういうバランスの取れる落語家になりたいなとずっと思ってますね。うちの師匠がそれの最たるものだと思うんですけど、そこに近づくことは難しいでしょうね…。

--それを思うとコミュニケーションですね。

そうですね。落語って人と人のコミュニケーションを見せるものなので。そこって普通のバランス感覚が要るんじゃないかなと。だけどほんまに普通の人間やったらおもんないですからね。やっぱり芸人ですから、振り切れた部分もないと。狂気もないといけないので。そこのバランス。普通と狂気のバランスは大事にしないといけないですね。

--鶴瓶師匠が最たるものとおっしゃいましたが、師匠はコミュニケーションの天才ですよね。

破天荒なことすれば、NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』もやるし。あんなに狂気と普通が同居している方を僕は観たことがないので、えらい人の弟子になったなと思います(笑)。

--べ瓶さんがよく高座でかけられる噺は古典が多いですか?

僕は新作をやらないんです。まだ怖いです、新作は。自分の会とか勉強会とかで三大噺みたいなものはしますけど、1から作るのは…。実は2、3本、作ったのは作ったんですけど、少なくともこういう会では絶対できないし、本当に自分の勉強会でしかやったことないですね。

--「怖い」というのは?

落語をどうやったらいいのかわかっていないうちから、新作なんて作れないと僕は思うので。やっている人は全然いいんですけど、僕はそう思うからちょっと怖いですね。ようしません、まだ。

--今年で入門13年ですよね。それでも「落語というものは」という答えは掴めず?

わからないですね。さらに言うと、いろんな師匠方のCDを聞くたびに(落語家を)辞めようかなって思いますね。

--それはどういうところで?

自分の落語を聞いて笑うときもあるんです。けど、やっぱり今、音源が残っている師匠方の落語は、聞いてたら本当に面白いし、俺はこんな方々みたいになれないって思うと、落語家をやってて大丈夫かなって思いますね。

--13年目でもまだまだ?

これでもし優勝したら、やっと入り口に立てるくらいじゃないですかね。予選で1位だとか、2位だとか言ってる間は、まだ全然。入り口の門から100メートル手前ぐらいじゃないですかね。これで優勝して初めて門が開く感じがしますね。

--一つの結果を出して、そこで初めて入り口。

そうですね。ただ、僕、こういう賞レースの優勝とかって英検1級とか、公認会計士とか、資格に似ていると思うんですよ。英検1級を持ってるって知ると世間は、“この人、英語できるんや”って思うでしょう。公認会計士も“この人、計算できるんや”って。けど、世の中には英検1級を持ってる人より英語のうまい人はごまんといるし、流暢な英語をしゃべれる人もごまんといるわけですよね。僕、賞レースもそうやと思うんですよね。1位じゃなかったからダメ、1位だったからうまいじゃないと思うんです。あくまでも資格なだけであって、世間の皆さんにわかりやすい資格をいただくということ。ただ、持ってないより持ってる方がいいです(笑)。だからといって持っていない人がダメという意味ではないと思います。

--現在は活動の場を東京に移されていますが、東京を中心に上方落語をされるというのはどんな感じですか?

行く前はすごく怖かったし、食っていけないだろうなって思ってて。実際1年ぐらいバイトしてました。厳しかったですけど、東京って落語の文化が根付いているんですよね。寄席も、大阪は(天満天神)繁昌亭が出来たからようやくですけど、東京は落語がメインで色物が漫才と、逆ですから。落語という文化が東京は根付いているから、上方落語って聞くだけで色物みたいに思われるのかなって思ってましたけど、全然そんなことなくて。むしろすごく興味を持って聞いてくれるし、東京の噺家と同じような感じで聞いてくれます。だからすごく楽しいです。

--その中で刺激になることは?

東京には真打制度があるので、真打になるために一生懸命なんですよ、二ツ目の人も前座の人も。恥をかくのは自分ですから。賞レースもいっぱいありますしね。若手のコンテストとかで二ツ目が切磋琢磨して、それが真打になるときに資格になるんですよね。二ツ目のときにこんな賞を獲りましたみたいな。元々落語というのは競い合うものではないとは思うんですけど、そういう部分もないと全体のレベルアップには…。

--大阪でも繁昌亭が出来て、寄席の文化が根付きつつありますが、出来る前と後では変わりましたか?

劇的に変わったんじゃないですか。やっぱりホームグランドが出来たっていうのは、もう精神状態が違います。帰る家があるんですもん。あそこに行けば誰か噺家がいるので。今まではそれすらなかったから。“ちょっと時間あるし、昼席に勉強行こう”とか、“ちょっと時間が空いたから夜席行こう”とか、毎日やっているわけですから。しかもこんないい立地条件で。だから、本当……(六代)文枝師匠には足を向けて眠れないですよ。誰もなしえなかったことですもん。それを作りはったから。本当、神様だと思います。このグランプリもすごくいいことだと思います。僕も優勝したいですけど、できなくても、僕達若手にとっては…。年に1回、これがあるっていうのは、すごいモチベーションになるし、こんなありがたいことはないですね。

--では最後に、決勝に向けての意気込みをお願いします。

ネタによって大分変わってくると思います(笑)。ただ、同期が4人、決勝に出てるんですよ。雀太、三幸、吉の丞でしょう。同期5人中4人です。もちろん負けたくないっていう気持ちもありますけど、こういう会で競い合えるという、こんなワクワクしてうれしいことはないので、その楽屋の雰囲気から楽しみたいと思います。ぴりぴりしたムードも含めて。で、優勝したらうちの師匠に『家族に乾杯』に出してくださいって言いに行こうと思ってます(笑)。そんなチャンスはないんでね(笑)。

 




(2015年6月 9日更新)


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笑福亭べ瓶
しょうふくていべべ●1982年年10月16日生まれ、兵庫県西宮市出身。2002年5月1日に笑福亭鶴瓶に入門。趣味は映画鑑賞(恋愛もの以外)、スポーツ観戦。平成27年なにわ芸術祭新人奨励賞

天満天神繁昌亭
「上方落語若手噺家グランプリ2015
決勝戦」

▼6月23日(火) 18:30

天満天神繁昌亭

当日-2500円 
※前売り券完売につき、補助席を若干販売予定。

[出演]
桂三幸
笑福亭べ瓶
桂雀太
桂吉の丞
桂二乗
桂三四郎
笑福亭生寿
桂咲之輔
露の雅

★各出演者の名前をクリックすると個別インタビューページにリンクします。

※未就学児童は入場不可。公演当日、25歳以下の方は証明書提示で500円返金。

[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874

天満天神繁昌亭
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