東京というアイコンが、今までにどれだけの名曲を音楽家に書かせたことだろう。そこは時に夢をかなえるための希望の戦場となり、時に敗北を突き付けられる絶望の地平となる。そんな東京で生まれ育ったSUPER BEAVERが、今ここに高らかに掲げるニューアルバム『東京』は、“愛されていて欲しい人がいる/なんて贅沢な人生だ”という、何ともらしくて、彼らにしか歌えない人生賛歌とも言えるまなざしで幕を開けるタイトル曲をはじめ、映画『東京リベンジャーズ』主題歌『名前を呼ぶよ』、テレビドラマ『あのときキスしておけば』主題歌『愛しい人』など、全12曲を収録。雑誌で表紙を飾り、映画やテレビの主題歌として自らの音楽が流れ、巨大な看板が街を彩ろうと、「SUPER BEAVERは、もらった割合の方がまだ多いバンドだから」と、己の17年の歩みを振り返る。聴く者の感情をそっとすくい上げる言葉の機微に、それを届ける歌とメロディの強さと優しさに、練りに練られたサウンドへの情熱に刻まれた、SUPER BEAVERの現在地。4人がいまだ追い求めるロマンが何度でも一歩を踏み出させ、奇跡を現実に変えていく。さぁ、あなたはどうする――?
――1曲目の『スペシャル』の1行目から、“「普通」が普通であるために 努力している人がいる”でいきなり救われる。今作では、“何でビーバーは分かってくれるの!?”と思うような1行がとりわけ多かった気がします。
VIDEO
柳沢 「うれしいですね。でも、そうあってほしいと思いながら作っていたところもあります」
――その『スペシャル』にある“人間冥利”という一節は渋谷くんのMCからということだけど、何かもう…すごいね、この言葉の濃さ(笑)。藤原くんが、“この言葉が出てくるライブは絶対に良いだろ”と言っていたのはまさにだなと。
藤原 「去年はそういうヤバいライブがたくさんあったなと。それも今回のアルバムには関係してきたというか、その想いだったり力を制作では使わせてもらった感じですね」
柳沢 「まずは『人間』(M-2)を作って、“人間冥利ってこういうことだよな”という前提が生まれて、“じゃあ、そこからどうなっていくことが人間冥利に尽きるのか?”と自問してできたのが『スペシャル』で。だから1曲で解決するというよりは、作ってはもしかしてと気付き、みたいなルートでアルバムが出来上がっていったんですよね。最初に『人間』を作ったときは久しぶりに、ゴールは曲の中になくてもいいかなと思いましたね」
――『人間』の、“素直になれない 素直さにちゃんと その人が居るから”という視野。“素直になれない”で終わらず、こういうところに気付けて見いだせるのは、まさに人間の面白さなのかもしれない。
渋谷 「去年は何度もオンステージして、その都度、尊い時間を過ごさせてもらって。あと、計画的に人と会って話していました。’20~’21年は人の良い部分も悪い部分も見えた2年間だったと思うし、例えば悪い部分が見えたからと言って、そういう人と付き合わなくなるわけではなくて。もちろん、合う/合わないが出てきちゃった人間関係もありましたけど、そういうことを感じたとき、すごく人間臭いなと思う人たちが周りにたくさんいたんです。それでもなお一緒にいたい人、そう思う理由を一つ一つ紐解いて自分の中に落とし込むことができたからこそ、オンステージでより人間臭く、より明確な言葉が出てきたのかなと」
――ダ・ヴィンチWebの 『SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」』の第4回「お嫁においで」 を読んで。お蕎麦屋さんでお冷の入ったピッチャーの持ち手の向きをそっと変えてくれた人のエピソードは秀逸だなと思ったけど、その気遣いに気付けた自分だからこそ、より感じられる人の優しさと素晴らしさというか。
渋谷 「そういう細やかな気遣いだったり、絶妙さに気付けたら素敵だなと思ったんですよ。自分もそうありたいと思ったし、知らず知らずのうちに差し伸べてもらった優しさをスルーするのはイヤだなと思ったんですよね。こんなご時世なので、そういう気持ちはオブラートに包まれまくっているかもしれないけど、触れてもらった温かさに返していきたい気持ちはとっても強くなったので。“何を思ってこの人はこういう行動をしたのかな? 何でこの人はこう言ったんだろう?”みたいに考える時間はすごく増えました。その辺のアンテナはかなり磨かれたんじゃないかな」
――『ふらり』(M-4)の、“なりふり構ってしまう/それを まさか弱さなんて 思わないで”もしかり、一見、負い目に思うような事象へのすくい上げ方が今回はとても細やかで、ビーバーが分かってくれている感じがよりするのは、そういう感受性に磨きがかかったのもあるかもしれないね。この曲の、“一度決めたら変えちゃいけない”の部分は柳沢くんが歌っているけど、これはそう思っていた人間が歌う方が説得力があっていいということ?(笑)
柳沢 「言われてみると、結果そうなっている可能性はなくはない(笑)。でも、自分でも必ずしもそれがいいことだけではないと思い始めていて。歌い分けること自体は音楽的なアイデアだったんですけど、年齢を重ねたが故の変化みたいなものを、ちゃんと拾い集めたい感覚はありましたね。さびていくものもあるんでしょうけど、それはただ放置したからであって、時間の経過と共により味わい深くなっていくものというか。そう思えたのは17年という年月だろうし、ただ年を重ねただけじゃなくて出会いが影響を与えてくれたと思う。そういうところをアルバムを通して歌にしていきたいと、今一度思った感じはありました」
人間の弱さ/強さだけじゃなくて
その中間にある“いじらしさ”とか“歯がゆさ”
――今作では『それっぽいふたり』(M-7)や『318』(M-8)など、ビーバーが普段はあんまりやってくれない恋愛がモチーフの曲もちょくちょくあって(笑)。
柳沢 「アハハ!(笑) でも、『それっぽいふたり』はちょっと前からあった曲で、いい曲だなとは思っていたんですけど、他の曲と一緒にパッケージングすると考えると、“どの曲と合う?”みたいな感じで日の目を浴びなかったんですよね。今回は、“人間冥利”というキーワードが出てきたことで、人間の弱さ/強さだけじゃなくて、その中間にある“いじらしさ”とか“歯がゆさ”みたいな部分も、覚悟の一つとして、目線の一つとして入れていけたらと思えたので。あと、単純に曲調が違うから、アルバムを聴く中でフックにもなるなと思って」
――このハッピーなムードがちょっとしたスパイスになるし、“心と体を満たせば”とかさらりと言えちゃっているのも、エロくていいよね(笑)。『318』にはさらにそれを感じて、渋谷くんにもっとこういう色っぽい曲を歌わせたいというか、聴きたいなと思った。
渋谷 「ありがとうございます、俺も歌いたいなと思っていました(笑)。ようやくそういう曲が浮かなくなってきたというか、真面目なことだけ考えながら過ごしてきた34年なわけがないじゃないですか?(笑) そろそろいろんな側面も出せたらいいなと思って、柳沢に相談しましたね」
柳沢 「メロディラインだけじゃなくて全体に漂うエロさとか、渋谷龍太がステージに立って歌うとき、どういうオケがあればいいのかというところで、こういうコード進行であったりアレンジになった感じですね」
――あと、今作はフレーズが間引かれているのもあると思うけど、各楽器の粒立ちと声がガツンと前にある音像が、今まで以上に意識的に感じられました。
藤原 「今回はめちゃくちゃ時間をかけてそれをやりました。特にドラムはだいぶ音が変わったと思っていて、自分の録った音をサンプリングしてみたり、マイクのバランスもたくさん実験させてもらって。あとは、最初から“ギターのダビングをできるだけ少なめに”と決めてフレーズを作ったり、ミックスも何回もやり直しましたね」
上杉(b) 「YouTubeやサブスクであったり、いろんなイヤホンやスピーカー…どんな環境で聴いても自分たちの信じたバンドサウンドが伝わるように、今までのSUPER BEAVERの正解とは完全に違うバランスを作り出しましたね。聴く環境によっては、音が重なり過ぎるとつぶれちゃって迫力がなくなる。でも、それを気にし過ぎても曲に呼ばれているフレーズがなくなってしまう。だから、音数は少ないけどクリアに、ギターとドラムとベースで一つのデカい拳になる、みたいな捉え方もあるけど、今回は拳が3つ並んでいるような…そういう感覚の違いは音に出ているかもしれない。サウンド的には実は今までにないことをやっている、新しさが詰まったアルバムじゃないかな」
柳沢 「そういう意味でも音作りに関しては、初めてと言っても過言ではないぐらい世間と照らし合わせたところはあると思う。それは俺たちの音楽性を変えるどうこうじゃなくて、このままのロックバンドとしての表現で勝ちにいきたい。いろんな光景を見たり、声を届けてもらったからこそちゃんと時代と向き合って、食らいついていきたい気持ちがそうさせたのかもしれないです」
――今作では全曲ベースが歌っているけど、個人的にはエイトビートで聴かせるベースラインが好きなので、『未来の話をしよう』(M-9)なんかは最高でした。
上杉 「“シンプルだけどカッコいい”が、やっぱり一番難しいんですよね。でも、それが伝わる素晴らしい曲だし、今回はドラムの音が変わったおかげで、ベースの聴こえ方も変わった。お互いの楽器が作用しているのを感じることができたし、自分の楽器がカッコよく聴こえる=他の楽器のアンサンブルありきだなと気付くことができました」
――何かそれって今作の根幹にも通じる感じがする。相手のことを考えることが自分にもちゃんと返ってくる、他人を想うことが自分のためにもなるというか。『未来の話をしよう』はエンドロール感もあって、どんなタイアップが付いてもおかしくない曲だね。ちなみに、『VS.』(M-6)のギターソロにX JAPANを感じるのは気のせい?(笑)
上杉 「アハハハハ!(笑) そうですね、モロですね(笑)。ここはハモらせたら面白いよねという話で」
柳沢 「俺が一つ指針にしていることがあって、カッコよ過ぎたり振り切ったものを見ると、“最高過ぎるだろ!”みたいに笑っちゃうんですよね。だから、レコーディング中にそれが発生したら採用する。このソロを弾いてみたら笑っちゃったので、もう絶対に正解だろうと(笑)」
SUPER BEAVERは、もらった割合の方がまだ多いバンドだから
――そして、今回のタイトル曲である『東京』(M-10)は、J-POPにおける大きなお題の一つであり、過去にいろんな名曲が存在していて。でも、ビーバーの描く『東京』は、俺がイメージする『東京』ではなかったというか、こんな『東京』は初めてだなと思いました。
VIDEO
柳沢 「今までにたくさんある『東京』って、“『東京』という曲を書こう”と思ってスタートしている気がするんですよね。でも、今回は逆だったんですよ。そこにある想いを形にしようと思った。そこから“愛されていて欲しい人がいる”というワードが出てきて、最後に“この曲が『東京』なのかもしれない”と思った。それが非常にSUPER BEAVERらしいなと思いますね。今日の自分たちに影響を与えてくれた思考や出会いや関係性、失敗も成功も含めて全部が『東京』だと思ったんですよ。例えば、大阪で奥さん(=筆者)とお会いした上で、僕らがその想いを抱いて帰る場所は東京で。東京に戻って、東京でそれが膨らんでいく。だから、こういう感覚にタイトルを付けるなら『東京』だと思ったんですよね。そういった想いを聴いてくれる人それぞれが掲げることができる曲になったんじゃないかな」
――『愛しい人』のインタビュー で“恋と愛との違いは?”と聞いたとき、渋谷くんが“好きな“おかず”をあげられたら=愛”みたいに話してくれたけど(笑)、この曲の“愛されていて欲しい人がいる”というフレーズに、そのときの話と通じる温かさみたいなものを感じました。
渋谷 「何かもう、全てが一個人じゃ片付かなくなってきている感覚が最近はあるんですよね。例えば、“人間冥利”という言葉が自分から出たとしても、自分一人じゃ絶対に出なかった言葉だろうし、今、自分がこういう生き方をしているのも、誰かがそうさせてくれた感覚がやっぱり強いので。SUPER BEAVERは、もらった割合の方がまだ多いバンドだから、それをどうにかして返したいと思うし、返すなら等価交換ではなく、もらった気持ちをもらった以上にして返したいんですよ。そういうことをちゃんと意識してやりたいなと思い始めました。そう思える気持ちの根源は何だろうと探っていくと、それは自分たちが歩んできた中で、たくさんの人に支えてもらったからなんですよね。あと、返す先がその人本人じゃなくても素敵なことになることは、俺たちが先輩からしてきてもらったことにも通じるなと思って。発信するなら意志を持って、ちゃんと響くように。そういう気持ちとか言葉を“何となく言っていない感じ”は、SUPER BEAVERというバンドの強みだと思うんですよね」
――うんうん。やっぱり貫いているな、ビーバーは。
渋谷 「この歳になって、17年目にして、ようやくバンドマンとして形になってきたと思うんですよ。噺家さんが真打になるように、自分たちにとっての芸事が像を結んできた頃だと思っていて。ここからバンドマンとしてちゃんと音楽をやっていけるのか、どんどん老害の道を進むのかが決まっていく、一番重要な時期だと思うんですよね。なので、その在り方であったり考え方は、ことさら考えるようになりました」
――『東京』を聴いて、このバンドは“愛されていて欲しい人”と出会えば出会うほど、無敵になっていくから末恐ろしいなと思った。『名前を呼ぶよ』の、“助けたい人に ずっと助けられている/ありがとう なんて こっちの台詞なのに”というフレーズもそうだけど、そういう発想と感情を持てていることが、全て今につながっている感じがします。
毎日どこかしらで悔しいと思って生きている
――『ロマン』(M-11)は一番最後にできた曲ということだけど、“頑張って”という言葉の前に“それぞれに”があるのが、何ともビーバーらしいというか。
柳沢 「まさにその部分はぶーやん(=渋谷)のMCからまるっと持ってきていて、これは今、歌にしないとダメだと思って。だから急いでというか焦って(笑)、レコーディングに間に合わなかったらどうしようというのはありましたね」
――“ロマン”って音楽にも似ていて、あってもなくても生きていけるけど、あると人生の豊かさが変わるもの。なくしちゃいけない大事なもののような感じがします。
渋谷 「“ロマン”は割と計画的に多用してきた言葉というか、やっぱりすごく好きなんですよね。こういう仕事だからこそ、それを追い求めていないと面白くないと思っていて、大きい会場でやりたいのもそこなんですよ。自分たちの音楽を一つの点にして、そこに集まった人生がクロスオーバーすることこそがロマンだと思うから。ロマンって一見…ダサいじゃないですか?(笑) でも、そこから絶対に目をそらしたくないと思ったんですよね。…いつからだろうな? 『都会のラクダ』(渋谷龍太著)を書き始めたときか。“形容しがたいこの気持ちに名前を付けるならこれだ!”とビビッときて。だからもうロマン=バンド、いや、ロマン=音楽でもいいような気がする」
――ビーバーは今や日本武道館でも各地のアリーナでもやれて、フェスやタイアップでもたくさんの人に知ってもらった。この先に何か目標というか理想というか、それこそロマンはあるのかなと、ふと思うこともあって。
渋谷 「もちろん、何年か前からすればやれることは増えているかもしれないけど、活動してきて満足したことは一度もないんですよね。対外的に見ても、まだまだ自分たちのことを知らない、出会ったことがない人の方が多いし、毎日どこかしらで悔しいと思って生きている。だから、その満たされない気持ちの正体を探している途中でもあります。それは卑屈な意味ではなくて、“もっと楽しいことができるはずだろ!”みたいな気持ちですよね。“こうしたらもっと喜んでもらえたのにな”とか、“こうだったら俺はもっと楽しかったはずなのに、ちくしょう!”とか(笑)、その気持ちがまだすごく強いので、満ち足りてはいないんですよね」
――いいね。まだまだ続きそうだね、ビーバーは。
渋谷 「だって、どこぞの若手とかと比べても、俺らの方が全然飢えているし、前を向いていると思いますもん(笑)」
――17年もやっているのに(笑)。でも、それも一つの才能かも。
渋谷 「そこは負けないと思いますね。まぁ怪我の功名でしょうね(笑)」
――この曲のクライマックスには、“報われろ”と連呼するパートがあって。報われたい=頑張っていないと出てこない感情というか、努力したからこそ報われたいと思うし、情熱を注いだからこそ反応が喜びに変わる。適当にやっていたら報われたという感情には到達しないから、この最後のラッシュにはグッときました。
柳沢 「何かね、この気持ちを書きたかったし、“うまくいけ!”って言いたかった。それが結果、“頑張って”という言葉になったと思うし、俺は正直、“頑張って”に他意なんてないとずっと思っている人間なんですよ。ただ、そう受け取れない人だっているし、だから人に押し付ける必要はないと思っていたけど、それを経て経て、それぞれに“頑張って”と言っていいと思った。となるとこれはもう“願い”じゃないですか」
――これまでのビーバーの歩みを知っている人は、それがインスタントな言葉じゃないのが分かるだろうし、このタイミングで初めて出会ってくれた人にしたって、アルバムを聴き進めた上で『ロマン』にたどり着いたなら、その真意がきっと伝わるだろうなとも。この曲はビーバーに向けて歌われている感じすらあるね。
渋谷 「俺らって、自覚もあるんですけど、どう見ても頑張っているじゃないですか?(笑)」
――アハハハハ!(笑) それは間違いない!
渋谷 「ただ、そういう人間から言われる“頑張って”は、ともすると凶器になりかねないから。すごくナイーヴなことだと思ったからこそ、それこそいかに他意なく、あなたのその気持ちだけを尊重したいと伝わるように丁寧に…それを表した言葉が“それぞれに頑張って”というのは、すごくいい落とし所だったなと思っていますね」
――その辺の渋谷くんの繊細なレーダーは、相変わらず機能しているね。
渋谷 「それを持っていたいですよね、ずっと。頑張っている人に肩を組まれて、“一緒に頑張ろうぜ!”と言われたときのあの痛みというか…それは自分もずっと感じてきたことだから、新たな感覚を得て今までの感覚を忘れるみたいなことは絶対にないようにしようと。常にそういう目線で物事を見られる人間でいたいなと思っていますね」
――今、その言葉を記事にして俺たちがちゃんと届けることに意義があるなと思ったわ。
渋谷 「うれしいですね。“自分たちの立場を自覚した上で発信していかないと”と、ますます思ってきていますね」
――最後の『最前線』(M-12)はどんどんシンプルに、想いで突っ走る感じが気持ちいい曲で。歌詞にある“情熱”もすごく大事なキーワードで、結局、何だかんだいろんな要素はあるけど、人生を動かす決め手になるのはそこじゃないかとも思うし。スカッと背中を押してあげられる曲でアルバムを締めくくるのはいいね。
柳沢 「“頑張って”という言葉に対する繊細さも大事だけど、頑張りたい、頑張ろうとしている、頑張っている人に、“そんなに熱くなるなよ”みたいになるのはイヤなんですよ。だからとにかく“他意はない”と言いたくなる(笑)。どっちがじゃなくて、それぞれが“最高!”って言いたいですよね」
一つずつ、少しずつ、培ってきた、築いてきた、
人と人との歩みみたいなものは、ちゃんと実感していますから
――あと、前作の『アイラヴユー』のときも言った けど、2月23日というリリース日、何となくイケるんじゃないかとまた勝手に思っています(笑)。
渋谷 「そこは気にしていなかったな(笑)」
柳沢 「でも、宇多田ヒカルさんのリリースがそこじゃないですか? 先に配信で出た、オリジナルアルバムのCDが」
――え、フィジカルの発売がそこ? じゃあ無理じゃん。
(一同爆笑)
渋谷 「諦めるの早過ぎるでしょ! 分かるけど(笑)。そうなんだけど!」
――週間チャート1位は次のアルバムに持ち越しかな?(笑) そして、リリース後には3月末から『『東京』Release Tour 2022 〜東京ラクダストーリー〜』もあって、大阪はあの山下達郎さんも愛したフェスティバルホールという絵面も楽しみで。さらに10月、12月には、過去最大規模のアリーナツアー『都会のラクダSP 〜東京ラクダストーリービヨンド〜』が開催と。大阪城ホールは去年の10月から丸1年ぶりの再演です。
渋谷 「今回のアリーナの中で唯一かぶっている会場なので、俺たちがどんなふうに変わったか、違いが一番分かる場所だから、ちょっと緊張しますね」
――今さらですけど、初の城ホールはどうだったんですか?
渋谷 「いや、すっげぇよかったですよ! やってよかったなと思ったし、楽しかったですね」
――関西だと何かと、キャパ250人のLIVE SQUARE 2nd LINEすら埋まらなかったビーバーが…みたいな話になるけど、あの日のライブを見て、“マジですげぇな、そういうバンドが城ホールでやるようになるんだ”と思った(笑)。
柳沢 & 上杉 「アハハハハ!(笑)」
渋谷 「俺も思いましたね。とうとうやるんだ〜って」
――『未来の始めかた』('12)で初めてインタビュー して10年経つけど、10年で人生ってこんなに変わるんだなと。
上杉 「グッとくるなぁ。“いつか城ホールでやります!”と言って、本当にやる(笑)。それがどれだけ一握りか…」
――それが目の前で起きているのが、何だか不思議な気持ちというか…感慨深いってこういうことだなと思ったね。
渋谷 「でも、ここまで地続きで、“急に売れてアリーナに行っちゃいました!”とかじゃないバンドも珍しいですよね?(笑) 一つずつ、少しずつ、培ってきた、築いてきた、人と人との歩みみたいなものはちゃんと実感していますから、“こんなところまで来ちゃって…”みたいな感じは全くなかったんですよね」
――本当に一歩ずつ前に足を出したら、着くところには着くんだなと思った。改めて、ビーバーは作品だけがメッセージじゃなくて、行動の全てがメッセージだと思うよ。それでは最後に、一人ずつ言葉をもらって終わろうかなと。
藤原 「いいアルバムができたと思っているし、去年はいいライブを一本一本更新しながらできた感覚があるので。今回のツアーでも、より成長したライブができるんじゃないかと思っています。楽しみにしていてほしいです!」
――ここまでやってきて、いまだにその感覚が芽生えるのは頼もしいね。
藤原 「いやいや! 僕らの歩みがスロー過ぎるから(笑)。だから、まだまだできないことがたくさんあるし、まだまだこれからも一生懸命頑張ろうという感じなんです。本当に少しでもいいものにしていきたいなと思っています」
柳沢 「まずはアルバムの反応が素直に楽しみです。“あ、そうやって届いたの? うれしいな!”とか、“何か力になれたかな?”とか実感してツアーを回りたいですし、いざライブが始まってしまえば、単純に“楽しい”に尽きるんですけど、その楽しいと思ったエネルギーがそれぞれの生活に戻って何かに変わることに、それこそロマンがあるわけで。その数が増えて、それがより濃くなっていった方が、絶対に楽しいと思うから」
渋谷 「アルバムは、いいものができたので聴いてほしいと純粋に思っています。ツアーに関しては、精進して楽しませるし、自分たちも楽しみます!」
上杉 「『東京』はいつも以上に届く先=聴いてくださる方のスペースがいっぱいある作品で。『アイラヴユー』は完成した瞬間に最強のアルバムができた実感があったんだけど、『東京』はその前夜感があって、これが届いて徐々に作品が仕上がっていくワクワク感がすごくて。そういった意味でも1年かけてツアーを回って、この作品をしっかり完成させたいと思っています。’20~’21年と、バンドがどんな状況下でも歩んできた中で、言い訳がましく生きていくんじゃないポジティブが鳴っているアルバムが作れたので。それはこの2年間の自分たちがいろいろと考えて行動してきたが故だし、それを自信を持って共有していきたい。’22年もそれぞれに頑張って生きていきたいです!」
Text by 奥“ボウイ”昌史