27歳。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーン(ニルヴァーナ)、ジム・モリソン(ドアーズ)、ブライアン・ジョーンズ(ex. ザ・ローリング・ストーンズ)…多くのロックスターが亡くなった数奇なジンクス。若さの輝きだけでは勝ち続けられない分岐点とも言えるその年代を、生き抜いて越えていく4人が、SUPER BEAVERという続いていく未来が出した、1つの回答。それが最新アルバムの『27』だ。この春には、昨年より続いたアニバーサリーイヤーを締め括る初のZepp DiverCity(TOKYO)公演『SUPER BEAVER 10周年記念〆「都会のラクダSP~スーパーフィーバー」』を開催、“挑戦”のはずだった大舞台を見事ソールドアウトさせ、『27』は過去最大のチャートアクションを巻き起こすなど、彼らを取り巻く状況は加速度を上げて変わりつつある。そして、全公演完売なった現在展開中のリリースツアーのさ中、10月12日には、前述のZepp公演のライブDVDと書き下ろしの自伝的小説が同梱された『SUPER BEAVER 10th Anniversary Special Set「未来の続けかた」』を発表。残すところ僅かとなったツアーのファイナルで、再びあのZepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ。メジャーを離脱し、傷だらけの希望の中であの頃『未来の始めかた』(‘12)と歌った彼らが、今、“未来の続けかた”を歌う。『27』とは、“大人”とは、“責任”とは、決断という名の“行動”とは――? 変わらないために変わり続ける、あなたに捧ぐインタビュー。
――それこそぴあ関西版WEBのインタビューも、前作『愛する』(‘15)のときと、この前の『ことば』『うるさい』『青い春』(’16)のシングル3部作のときと比べても、SNSでも5倍以上の反響で。今までも多くの人が読んではくれてたけど、“味方が増えてきた”感がすごくて。その『27』は“大人”と“責任”をテーマとして掲げてたけど、前述したシングル3部作を出した先に、どういう流れでこのアルバムがあったのか、改めて聞いておきたいなと。
柳沢「10周年という過去を振り返るきっかけがやってきて、ふと自分たちのことを“もう俺たちは大人なんだ”って自覚したとき、自然とそういうモードになった、と言うのが一番近いかなぁ。自分たちと向き合った時期があり、故に自分以外の人=“あなた”という存在をしっかり認識し、そこに向けて歌い始めた1つの結論が、“あなたが愛する全てを愛する”と言い切った前作の『愛する』だったと思うんです。ってなってくると、やっぱりその言葉に責任を持たないとなって、より思ったというか。やっぱり言葉を大事に、簡潔に、素直に、ストレートにすればするほど、無責任ではいたくない。“投げるんだったら責任を持って投げたい”っていう気持ちが積み重なって強固になっていった結果が、こういうアルバムになったのかなって」
今、歌うことに意味があったと思った
――特にタイトル曲『27』(M-1)は、ここまでSUPER BEAVERの生き様を描き切った曲があるのかと(笑)。
柳沢「アハハ(笑)。やっぱり“大人になったことを宣言してやろう”っていうのがまずあって。“ロックバンドが努力するとか頑張るとか言うのはロックなの?”みたいな空気を感じた時期があったんですけど、僕らはロックバンドである以前に人間だし、そういう“人としては普通じゃね?”っていうこのボヤッとした輪郭を、どんどんハッキリさせてきたバンドだと思うんですよね。もちろん瞬間の爆発的なカッコよさも知ってるけど、『27』で俺たちが鳴らしたい音楽=ポップミュージックは、出会った人たちと永く、深く、より大きな歓びを一緒に共有するもの。それを歌にするのがSUPER BEAVERなんだなってすごく思った。ロックにおける“27”という数字には伝説的なジンクスもあるけど、僕らはそこに何の美学も感じないし、それよりもっと大事なことがあるというのがSUPER BEAVERのスタンスで。ちょうど年齢的にも同じところで、世代の象徴としてそれを歌にできたのは大きいのかなと思うんですけど」
――確かに振り返って歌うことはあっても、その世代ドンピシャの人が“27”について歌うことは案外なかったかも。
柳沢「いやもう本当に、まさにそれですね。今、歌うことに意味があった」
渋谷「僕は音楽として通ってこなかったので、27歳で死んじゃった偉大なミュージシャンを、誰もよく知らないんです(笑)。僕が好きなミュージシャンはいまだに生き続けてる人が多いし、この歳になってみて本当に思うことですけど、やれることがどんどん増えてくるし、いろんな人と出会う機会も増え続けてく中で、年を取るのがおもしろいと思えるようになってきたというか。年月を重ねたからこそ出せるものが、確実に自分の中で増えてきてるのを感じてたので。ちゃんと地に足つけて、これから共に歩んでいくことで見えるものの方が魅力的だと思うから」
――でも、27~28歳でもう10年を越えてるバンドっていうのは、やっぱりすごいね。
渋谷「闇雲な時期も当然ありましたし、鳴り物入りでデビューして、そこからずっと注目され続ける10年と、僕らの10年はやっぱり訳が違うんで。本当に酸いも甘いもいろんなことを経験させてもらったし、いきなり音楽でお金をいただけるような経験をさせてもらうことがまずないじゃないですか。そこから楽しくない時期を経て(笑)、人と人とのつながりを自分たちで模索して…この10年は濃さで言ったら相当なものだったと思う。だからこそ、この辺で積み重ねてきたものを表現できないともったいないと思うし、その年月があったからこそ、今周りにいてくれる人たちを大切にしたいと想う気持ちは、誰よりも強いと思うんで」
――“大人”ってロックミュージックの1つの仮想敵になるもので。それをここまで肯定する曲もないというか。
柳沢「僕らが嫌いだった、今でも圧倒的に嫌いな(笑)“大人”って、結局“責任を取らない人”というか、自分で動かない人というか、カッコよくない人のことを指してるんです。同時にカッコいい大人もいて、そういう人って好き勝手にやってるんですよね。でも、自分のケツは自分で拭く。これは僕らがバンドとしても人間としても、いろんな人と関わらせてもらった中で分かったことで。もう“経験”としか言いようがないんですよ。何か…自分がいざ大人なった今、闇雲に“大人が嫌いだ”とか、“どうせああなっちゃうんだ自分も”みたいな気持ちを持った若い人たちに対して自分たちが言えることがあると思うし、これが僕らだからできる1つの歌の形だよなって、何かすごく思いますね。“この先、案外悪くないのかも”って、思ってもらえたらいいな」
――今作はコンセプトアルバムじゃないんだけど、ここまで全体を通して1つのムードが流れてるアルバムはあんまりなかったかもしれないなと。誰1人置いていかない姿勢は常々あったけど、本当にここまで隙がなく肯定していくか、っていうぐらい感情を拾っていく感じがするんだよな~(笑)。
柳沢「(笑)。『人として』(M-12)ができたのは大きかった気がしますね。ビーバーって何を大事にしてるんだ?って言うと、“カッコいい”か“カッコ悪いか”でしかないというか。SUPER BEAVERの今の精神性を端的に歌えたのが『人として』だったなって。あれが制作の序盤にできたのは、今作にとってはすごくいいことだったと思います」
――『秘密』(M-2)とかも、“好きなこと”や“こだわり”を『秘密』という言葉に置き換えて表現する視点が秀逸で。
柳沢「これは逆に一番最後にできた曲で、いいことであれ悪いことであれ、秘密にすることって何にせよ自分にとって大事なことというか。怒られるから秘密にしようとか(笑)、夢が叶わなかったときにカッコ悪いから秘密にしておこうとか、秘密にしてることって自分の中でウェイトが重いことだなと思って」
あのとき歌えたから、あのとき声に出せたから
あのとき行動に起こせたからっていうのが、後々絶対に効いてくる
――そして、『赤を塗って』(M-5)の歌詞は女性目線で、どんな気持ちで書いたんだろうってちょっと思った。
柳沢「渋谷がソロの澁谷逆太郎名義でライブするときに女性アーティストの歌をよくカバーしてて、それがいいんですよね。渋谷はロックバンドに限らずシンガーの歌も男女問わず聴いてるし、熱さだけじゃない色気を持ってるタイプだから、女性の言葉で歌ったとしても違和感がないと思ったんですよ。あと、大人になったという意味で言うと、やっぱり純朴な恋愛ばかりじゃないじゃないですか(笑)」
渋谷「女の人が中心にいる曲って、何か好きなんですよね。まぁ書いてるのはこいつですけど(笑)。男ならではの思考だと想像する作業はそこまで必要ないんですけど、女性の歌だといろんなことに入り込むための行程が多いから、多分楽しいのかなと。自分にはわけが分からない未知なものを体現する気持ちよさは、やっぱりすごくあると思う。“あぁ、すごいな。この歌の気持ちいいところに、こういう気持ちを当ててくるのか”みたいなところが、やっぱり女の人は独特だと思ってて。そこで本人よりもいい歌を歌ってやろうと思って歌ってるんですけど(笑)、得るものはすごく多いから。この曲は歌っててすごく楽しいですね」
柳沢「今、話を聞いてて思ったんですけど、この4人って人間観察が好きというか、“自分だったらどうだろう? 今、何を思ってる?”とか、“あ、今この人、気まずそうな顔したな。もしかしたらちょっと怒ってた?”とか(笑)、そういうことを割と敏感に察知するタイプの人間だと思ってて。だからこそ、こういう曲でもみんながすんなりと入っていけて、かつ渋谷が元々そういうのが好きだからナチュラルにできてる気がするんですよね」
――さっきの『秘密』とかもそうだけど、言葉にすることで後に引けなくなることも含めて、歌ったり曲にすることで明確になることっていっぱいあるよね。
渋谷「もろ『秘密』でもそういうことを考えてました。何を求めて音楽を聴くのか、ライブハウスに来るのかを考えたとき、やっぱり100%受け身で来る人ってそんなにいないと思うんですよ。それぞれの嗜好があって、人生があって、その場所に集まってきて音楽を聴く。それって、やっぱり自分が何かを求めてないと、動いて掴みたいものがないと、起こらない“行動”だと思うので。そういうときに行動を起こしてみるきっかけを、『秘密』という曲はたくさん持ってて。表に出すのが恥ずかしい気持ちはみんなにあると思うんですけど、曲を聴いてたら“あ、ここだな”って何となく分かるように、SUPER BEAVERが教えてあげるというか。そこに持ち寄ってきた気持ちを声にしてみたときに、“自分ってこうだったんだ”って発見できるから。やっぱり自己発信が何より一番デカいものだと思ってるし、それができたらますます音楽を好きになってくれるだろうし。人生は悲観的なことばかりじゃなくて、自分が卑屈になって我慢するだけっていうその観点も、きっと変えられる。自分が発信してみたときに気付けることの多さを俺らは知ってるから、“みんなもやってみてよ”って思う気持ちは、すごく強かったですね」
――だからこそ、ただ盛り上がることが目的ではない、自分で発信するきっかけをより手軽に持ってもらうためのシンガロングという。
渋谷「そうなんですよ。分かりやすかったらきっとやってみるだろうし。僕もライブハウスに通ってそうやって歌ってたときは、何だか分からないけど楽しかった。でも、それを紐解いて根源を見てみたら、そういう気持ちが隠れてるのが何となく分かった。あのとき歌えたから、あのとき声に出せたから、あのとき行動に起こせたからっていうのが、後々絶対に効いてくるきっかけになると思うから。何かいろんなことの近道な気がしてるんですよね」
あのZeppで観た景色は、僕らにとっても
観てくださった人にとっても、すごくスペシャルなものだった
――あと、もう1つ気になった曲が、『ひとつ』(M-6)で。この曲は、夢叶わぬことが必ずしもダメじゃないというか、変わりゆく気持ちを肯定してくれるような曲だなと。
柳沢「この曲は自分たちを重ねたところもすごくあります。“いつかきっと”と信じ続けるのはやっぱり…“夢”とか“理想”って、先が見えないじゃないですか。じゃあそれをどこまで追いかけ続けるのか。途中途中に点々と跳ね返ってくる小さな“叶った!”があると続けようと思えるけど、それがないブラックホールが果てしなく続くとやっぱりね」
――いつまで続くんだろう、いつまで続けられるんだろう、ってね。
柳沢「でも、やるも辞めるも決めるのは自分だと思うし、終わりにする、諦めるという決断でも、他人が決めたものでければ全然OKだと思うんですよ。それは他人がどうこう指示することじゃないと思うから。僕らも今日現在はまだまだこの先があると思ってる人間ですけど、いつどうなるかは分からない。でも、もし終わりにするとしても、その選択をするときに思い浮かぶ人たちがいて、それを踏まえて考えて考えて自分たちで決めたことなら、それはやっぱりすごく素敵なことだと思う。このアルバムを通じて伝えたいことは同じというか、行動こそが全てで、変わること、終わることは、後ろ向きなこととは言い切れない。そういうことを思ったときに書いた曲ですね」
――ビーバーはいろんなバンドの終わりも見てきただろうし、終わろうと思ったこともあるだろうし。ここまで続けてきたビーバーだからこそのメッセージな気がするね。
柳沢「年齢を重ねると、状況や環境が変わるのは当然のことじゃないですか。その中で大切なものが増えて、その優先順位も変わってくる。それは周りの人にとやかく言われることではないと思うからこそ悩むんだと思うんですけど。でも、変わっていく夢っていうのは素敵だな。その人がそう決断したんだったら」
――いや~ビーバーはホントに大人になったんだな(笑)。
(一同笑)
――そして、現在展開中のツアーも残り僅かで、全公演ソールドアウトとすごいことになりましたが、渋谷くんが紆余曲折のビーバーの10年を書き下ろした小説が同梱されたライブDVD『SUPER BEAVER 10th Anniversary Special Set「未来の続けかた」』の舞台にもなった、前回のZepp DiverCity(TOKYO)での初ワンマンの経験は、やっぱり特別なものでした?
渋谷「過去最高キャパだったし、ずーっと前から僕らを好きでいてくれる人も、最近僕らのことを知ってくれた人も、1つの会場に集まって…信頼してもらってるなって、すごく感じた。でもそれは、本当に年月が成せる技だと思ってるから。同じことを本当にバカみたいに、ただ愚直に続けてきたことが、信頼につながるという」
――信頼と実績のSUPER BEAVERだもんね。
渋谷「いやでも、本当にそれなのかなと。それこそ10年前は“こいつらはホントに青臭いこと言ってるな”っていうところで、その5年後には“こいつらまだそんなこと言ってるんだ、どうしようもないね”ってなって、今では“こいつらがそこまで言うなら、10年以上追い求め続けるからには、もしかしたら何かあるのかもしれない”って…遂にここまで来たと思うんですよ。あのZeppで観た景色は、僕らにとっても、観てくださった人にとっても、すごくスペシャルなものだったんで」
――ツアーをぐるっと廻って、また改めてファイナルのZeppに立ったとき、思うことがいっぱいあるやろうね。
渋谷「僕らもそれを求めてるんで。あと、僕らはもちろんパワーをあげるけど、観に来てくださる人のパワーも欲しいんですよね。そういう貪欲な人たちからのエネルギーを全部かっさらっていきたいと思ってるんで!」
――いやもう、このツアーは“全国パワースポット移動ツアー”みたいなもんだろうなぁ(笑)。
渋谷「アハハハハ!(笑) それおもしろい!」
柳沢「でも、ホントそうだよね。何か僕らが“お楽しみ会の主催者”みたいな(笑)。僕らがまず楽しみたいからそういう会を開くんだけど、やっぱり人数が多ければ多いほど楽しいじゃん!って」
渋谷「僕らも楽しみたいと思ってるし、何より楽しんでほしいと思ってるのは、みんなにも伝わってきてるんじゃないんですかね。で、結果的に“この会が一番楽しかったから”って、ライブハウスにまた来てくれたら嬉しいです!」
Text by 奥“ボウイ”昌史