ホーム > インタビュー&レポート > 「記憶は美化されていくというのを素敵なものとして描きたかった」 吉澤嘉代子が贈る、家族と記憶のプレゼント 東阪NHKホールツアーを前に5年ぶりのアルバムに込めた美学を語る 『幽霊家族』インタビュー&動画コメント
少女時代をテーマにした1stアルバム『箒星図鑑』の
シリーズ違いみたいな感覚
――最新アルバム『幽霊家族』では文字通り家族や記憶がテーマになっていて。いずれは取り組みたいモチーフだったもののなかなか手を付けられずにいたところ、地元の埼玉県から『第75回全国植樹祭』の大会テーマソングを依頼され、『メモリー』(M-11)で故郷の情景と向き合ったことが一つのきっかけになったと。
「やっぱりアルバムにパッケージすることによって、自分が絶対に覚えていなくちゃと思ってきた感情を世に放って、それが誰かの記憶になることで、もう忘れてもいいんだと肩の荷を一つずつ降ろせるというか。前作『赤星青星』の後に出した、『若草』('23)と『六花』('24)というEPは2枚で1枚のアルバムと考えていたので、自分としては青春をテーマにしたそれがあってから、家族に向かっていった感覚ですね」
――そう考えると、5年ぶりという長めのインターバルも納得ですね。デビュー時から常に3枚先のアルバムぐらいまでアイデアがあると言っていましたが、変わらず頭の中に設計図がしっかりあるんですね。
「いつか何にも縛られないアルバムを出してみたいけど、作りたい曲がまだまだあるので。『幽霊家族』を作り始めたのはもう3年前とかかな...少女時代をテーマにした1stアルバム『箒星図鑑』のシリーズ違いみたいな感覚で、物語の主人公を描くのではなく、自分語りでアルバムを作る。最初はそうするつもりはなかったんですけど、家族って決まった形がないものだから、いざ作ろうと思うと自分が見聞きしたことでしか書けなかったのはありました」
――兄弟姉妹がいるか、両親は健在なのか、仲がいいのか悪いのか...家族を肯定的に捉える人もいれば、その逆の人もいる。みんなが何かしら思い浮かべられる共通項なのに全部が違うし、家族との思い出=自ずと少女時代という過去を描くことにもなりますもんね。
「そうですね、身を切り売りする側に回るというか」
――でも、身を切り売りしたとき、吉澤嘉代子はいつもいい曲を書くじゃないですか。
「本当ですか。うれしいけど、大変ですよね」
――むしろシンガーソングライターともなれば、全曲そっち側の人もいますよね。
「体感としてはその方が多いかもしれないですね。今作では家族を軸に置きつつ記憶をもう一つのテーマにしたんですけど、記憶は美化されていくというのを素敵なものとして描きたかった。だからこそ、プレゼントできる曲に仕上がるというか、できれば自分の家族に喜んでもらえるアルバムにしたいなと思って」
ずっと子どもに聴いてほしいと思って歌ってきたけど
"ちゃんと聴いてもらえていたんだ"と初めて実感して
――さまざまなアレンジャーやミュージシャンに加え、これまでも独自の人脈と目利きで音楽シーン以外の方も作品に招いてきましたが、今作にも小さな頃から敬愛していた小説家のいしいしんじさんや、一緒に『魔女の犬』という絵本を作ったイラストレーターのてらおかなつみさんが参加しています。
「まずはアルバムのテーマがあって、"このテーマならあの人と作りたいな"と思うことが多いんですけど、いしいさんとの共作詞の『ピーマン』(M-5)なんかはまさにそうでしたね」
――『ピーマン』を聴いたとき、歌詞の一行目から強烈に吉澤嘉代子だと思わせるのはやっぱりすごいなと思いました。途中で笛が鳴り異世界に突入する、"ピ~!"じゃねえよという転調もクレイジーで健在だなって(笑)。
「しっとりと暗いところからお祭り騒ぎみたいにしたいなって(笑)。いしいさんは音楽が大好きな方で、子どもの頃もいしいさんの蓄音機を鳴らす会にいちファンとして参加して、初めて蓄音機で音楽を聴いたぐらいなので」
――13歳の頃にいしいさんのトークショーに行き、弟子になりたいと手紙を渡したと。
「私は『ぶらんこ乗り』('00)という小説から入ったんですけど、夢とうつつを行き来するような世界観が、小学生の自分に重なったというか。私と同じように世界を斜めから見ている人を見つけた、みたいなシンパシーがあって」
――『うさぎのひかり』(M-7)の話じゃないですけど、幼い頃から憧れてきたいしいしんじさんと一つの作品を作るなんて、吉澤嘉代子も夢、かなえてますね。
「確かに、本当にたくさんの夢を音楽にかなえてもらいました」
――『うさぎのひかり』はNHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』の主題歌ですが、そもそもドラマのプロデューサーの南野彩子さんが吉澤嘉代子のファンで、同じく楽曲を聴いてくれていた演出の佐藤玲衣さんともども手紙でオファーしてくれたと。吉澤嘉代子もそれだけ長い間、歌ってきたんだなと思わされますね。
「デビューして12年くらい経ちますけど、"8歳の頃から聴いていました"とか、昔はその人が子どもだったから聞こえなかった声が、大人になった今、届いてくるようになって。ずっと子どもに聴いてほしいと思って歌ってきたけど、"ちゃんと聴いてもらえていたんだ"と初めて実感して...リリースイベントやツアーのときにいただいたお手紙を読んだら泣いちゃうし、そのことを伝えたマネージャーも泣いたり(笑)。すごくいいチームなんです」
――『うさぎのひかり』の"いつかのわたしに伝えてあげたい あなたの夢は叶うと"という一節は、オファーを受けてから書き下ろしているわけですよね? こんなフレーズをもらえたら絶対に泣くわ!
「お手紙に"いつかの私に伝えてあげたいです"と書いていただいたのを引用しました。自分自身には"あなたの夢は叶う"なんてなかなか言えないですし、『おとうと』(M-3)の"きっと僕の声になる 僕の血肉になるんだ"とかもそうですけど、自分には言えないことを人を介して言っているような気もします。歳を重ねるにつれて思ったことはやっぱり言葉にするべきだなと思って、『幽霊家族』のリリース日のキャンペーンが終わった後も、"いつもありがとうね!"ってスタッフたちと抱き合って(笑)」
――『うさぎのひかり』にはROTH BART BARONがアレンジ&プロデュース、演奏で参加していて。若かりし頃にオーディションで出会った旧友と、それぞれが経験を積んでお仕事できたのもうれしいですね。
「出会った頃は触れてはいけない女神というか、美の象徴みたいなただならぬ雰囲気を醸し出していて近づけなくて。久しぶりにお会いして受け入れてくださった三船(雅也)(vo&g)さんに感謝です。三船さんもドイツで生活されて心境の変化もあっただろうし、お互いに変わってまた出会えたのもうれしかったですね」
――ロットの持ち味であるスケールの大きな楽曲になりましたね。
「ロットの中に招いてもらったからこその一曲です。曲ごとに編成が変わったり、別のチームに仲間入りさせてもらえるのはソロの醍醐味だなと、改めて思いましたね」
ステージ上で自分が魔物になっていく
――『ほおづき』(M-8)のエレクトロなアレンジも秀逸で、同時にどんな音像にも耐え得る歌声の個性を再認識しました。無垢だからこその怖さ、すごみ、みたいなものが、嵐のようなアレンジの真っただ中で余計に際立つという。
「デビュー10周年のときにさまざまなツアーをさせてもらって、どんな編成でも楽しめるようになったというか、歌うことって楽しいんだなと思えたんですよね。何かつきものがついた、みたいな感覚になることが増えて」
――つきものが落ちた、じゃなくて、何かが憑依した。
「ステージ上で自分が魔物になっていく。たまにそういう瞬間があるのがここ最近の変わり目ですね。梅井美咲さんの編曲も演奏も素晴らしくて。それは君島大空さんのギターもそうですけど」
――もう一曲、梅井さんが手掛けたミニマムな『時の子』(M-10)も、今作の静かなスパイスになっていますね。
「『時の子』はレコーディング当日に最短時間で作って録った曲で、梅井さんが"(曲をもらうのは)当日でもいいですよ"と言ってくれたので甘えちゃいました。梅井さんと2人だから何とかそれを形にできたという」
――この曲はおばあちゃんから聞いた、亡くなったおじいちゃんの話がモチーフで。それだけ今作には入れておきたかった一曲ということですよね。
「絶対に入れたかったですね。祖母への"お守り"じゃないですけど、美しい記憶として形に残したかったので」
――おばあちゃんもきっとうれしかったと思いますよ。
「良かった、プレゼントって怖いから。それがちょっとしたものならそこまで期待しないんですけど、渾身のプレゼントだとやっぱり心から喜んでもらいたいので」
――家族の話で言うと『おとうと』もそうで、実弟のNovelty Box Orchestraは『Into the dream』(M-1)と『Out of the dream』(M-12)を担当してくれています。5年ほど前に何かの付録だったオルゴールキットを何げなくあげたことがオルゴール職人・奏者になった始まりということですが、こんな未来は想像できなかったんじゃないですか?
「本当に! 弟は子どもの頃から自分にとって一番信用できる人間で、いしいしんじさんの作品のように、自分と同じ世界を見ている瞳の持ち主だという感覚で。だから大切だし、その幸せをただただ願っている存在ですね」
――『おとうと』という曲を書くこと、それを送ろうとする姿勢も含め、こういう家族だからこういう吉澤嘉代子になったと一番思った曲でした。これも大学生の頃に書いたということですが、僕は昔のことをどんどん忘れていっているんですよ。記憶が薄れる=そのときに感じた衝動や熱量も薄れるわけで、その辺はどう対処しているのかなと。
「私もいつどの曲を書いてもクオリティを保てると思い込んでいたんですけど、今回の制作で過去の曲を振り返って、"この曲は今は書けないな"と思うものも出てきて...。例えば、『あの家はもうない』(M-2)の前半は当時書いた歌詞で、後半の"独りきりの舞台で初めて拍手を貰った日"とかは今の自分が振り返って書いたんですけど、いくら忘れないと思っていても忘れてしまうし、10年も経てば自分でももはや他人だなと思いましたね」
――TVアニメ『誰ソ彼ホテル』オープニング主題歌になった『たそかれ』(M-9)や、実在しない空想上の友達を描いた『幽霊』(M-6)も、記憶への執着を色濃く感じる曲です。
「17歳の頃に書いた『幽霊』の歌詞も、今見ると稚拙で直そうとしたんですけど、もう書いた自分を理解できなくなっちゃって苦労したというか...結局は"こういうふうに書いたらピースはハマるだろう"みたいに、技術で賄うしかなかった。当時の歌詞をそのまま使えばフレッシュさはあるけど、今の自分が許せない。ただ、常にマスターピースを書きたいけど、それが難しいなと思ったときでも、自分の今持っている力で何とかできるんだと思えたのは、我ながら頼もしいなと感じましたね」
――今の自分でも納得できて、作品の魅力も落ちない着地点がどこなのか。キャリアのたまものですね。
「むしろタイアップのお話をいただいたときは、お願いしてくれた方に喜んでほしいプレゼント探しみたいなものなので、自分らしさとかはあまり考えないから、人に捧げる曲と自分のために書く曲がハッキリ分かれているのかもしれないです。自分を喜ばせなきゃいけないときは徹底的に。それが一番難しいんですけどね...」
アルバムという大きな物語をお届けする
自分の本領発揮の場所はホールだと思っていて
――『わたしの犬』(M-4)の詞はイラストレーターのてらおかなつみさんとの共作です。以前も『洋梨』('18)でイラストレーターのたなかみさきさんと詞を共作&デュエットしましたが、この辺の起用は吉澤嘉代子ならではですね。
「歌を作ることを仕事にしていない方とご一緒すると、特にイラストレーターの方だと、お仕事じゃないからこそ出てくる、自分では書けないようなハッとするフレーズがたくさんあって。あと、最初に犬が歩いている音、水を飲む音も、てらおかなつみさんが実際に飼われていた犬のものを使わせていただいて。アレンジのBabiさんには日常の音を入れてほしいとオーダーしました」
――いろんな効果音が入ったBabiさんのアレンジは面白いですね。
「Babiさんは大学生の頃に大好きになってずっと聴いてきた方で、自分が作ったシンプルなコード進行にBabiさんのアカデミックで複雑な要素がどう入ってくるのかなと思ったんですけど、何かもう"お見事です!"という感じで。自分の好きなBabi印が付いたというか、本当にBabiさんに頼んで良かったです」
――愛犬のウィンディが亡くなったのはもう10年ぐらい前ですかね...そのときの思いは『movie』('16)という曲になりましたけど、また大切な一曲ができましたね。『メモリー』には、"やっと見つけたの わたしのほんとうの名前を"という一節がありますが、実は嘉代子という名前が気に入っていなかったと聞いて意外でした。
「人生でやりたいことリスト100のうちの一つ、みたいな感じで、ずっと改名しようと思っていたんですよ。芸名はもう走り出しちゃっているからいいんですけど、自分の本名=正体を変えたかった」
――でも、長らく音楽活動をしていると、家族のみならずいろんな人から愛情を込めて名前を呼ばれるようになる。そうやって呼んでもらえることで特別な響きを持ちますもんね。
「そうなんです。やっと自分の中の落としどころというか、自分の本当の名前が見つかった感覚があったんですよ」
――ここまで話を聞いてきて驚いたのは、8年前の『女優姉妹』のインタビューの段階で、「この先のアルバムのテーマは"他者とのつながり"というか、恋人関係とか、あとは友情もそうですし、家族とかそういうものを描いていきたい」と言っていて...あの頃にはもう全てが見えていたんですね。そしていよいよ、『吉澤嘉代子 幽霊家族 "Ghost Family Tour"』が、5月1日(金)大阪・NHK大阪ホール、9日(土)東京・NHKホールで行われます。
「アルバムという大きな物語をお届けする、自分の本領発揮の場所はホールだと思っていて。NHK大阪ホールはとってもいい会場ですし、東京のNHKホールは初めてなので楽しみです。今までで一番大きな会場になるので、気合が入っています。家族というのはこれっきりのテーマだと思うし、アルバムが本当に完成するのがツアーだと思うので、絶対に見に来てほしいです。このテーマのツアーは今回しかないので」
――最後に、かつてした質問で今聞いたらどう答えるかなと思うことを聞きます。「吉澤嘉代子が物語を書く上で今、志していること、大事にしている部分はあります?」。
「誰かにとっての逃げ場というか、自分がずっと物語から得てきたシェルターみたいな居場所になる音楽ができたら...それが私にとっては小説や短歌という言葉の檻だったので」
――素晴らしい。当時は、「自分が子供の頃に救われた物語を音楽の中に落とし込んで、その主人公の人生をひとときの間、生きてもらう。それは楽しむ時間でもいいし逃避の時間でもいいし、シェルターみたいなものを用意したい」と。全くブレていないですね。
「変わらなさ過ぎてもう...かたくな過ぎる(笑)。変わりたいんですよ。歌うことをあまりにも神聖な行為だと思っているし、そう信じているんですけど、それも崩していきたい。歌なんて誰にでも歌えるし、日常的なものだと思ってみたい。全然できないんですけど(笑)」
――だからこそ、吉澤嘉代子の音楽がここまで愛されてきたんじゃないですか? 次のアルバムではいったいどうなってしまうのか、楽しみにしています!
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2026年4月28日更新)
Album
『幽霊家族』
発売中 3520円
ビクターエンタテインメント
VICL-66130
<収録曲>
01. Into the dream
02. あの家はもうない
03. おとうと
04. わたしの犬
05. ピーマン
06. 幽霊
07. うさぎのひかり
08. ほおづき
09. たそかれ
10. 時の子
11. メモリー
12. Out of the dream
よしざわ・かよこ…’90年6月4日生まれ、埼玉県川口市鋳物工場街育ち。16歳で作詞作曲を始め、’14年5月にミニアルバム『変身少女』でメジャーデビュー。’17年5月には、バカリズム原作ドラマ『架空OL日記』の主題歌として書き下ろした1stシングル『月曜日戦争』をリリース。同年10月にリリースした2ndシングル『残ってる』がロングヒットを記録する。’25年2月にTVアニメ『誰ソ彼ホテル』オープニング主題歌『たそかれ』、5月に『第75回全国植樹祭』大会テーマソング『メモリー』、9月にNHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』主題歌『うさぎのひかり』、’26年2月には『おとうと』を配信。3月18日に6thアルバム『幽霊家族』をリリースし、5月には東阪NHKホールでの単独公演を開催。
吉澤嘉代子 オフィシャルサイト
https://www.yoshizawakayoko.jp/
『吉澤嘉代子 幽霊家族
“Ghost Family Tour”』
チケット発売中
※販売期間中はインターネットのみでの販売。
▼5月1日(金)19:00
NHK大阪ホール
指定席8800円
夢番地■06(6341)3525
(平日昼12:00~17:00
https://www.yumebanchi.jp/)
※未就学児童は入場不可。
小学生以上は有料。
【東京公演】
チケット発売中
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。発券は5月2日(土)10:00以降となります。
▼5月9日(土)18:00
NHKホール
指定席8800円
ソーゴー東京■03(3405)9999
※未就学児入場不可。
小学生以上チケット必要。
「個人的には'18年にやった『女優姉妹』以来8年ぶりのインタビュー。コロナ禍を挟んでいたとは言え結構なブランクでしたが、京都の某FM局で久々に会った彼女との会話は、みるみるうちにその時間が埋まっていくような感覚で。変わらぬ魅力と変わろうとする気持ちがせめぎ合うさまもまた吉澤嘉代子で、何だかとっても安心しました。その根底から感じたのは、重ねた経験からにじみ出るすごみとタフネスというか…今やそんじょそこらのことでは動じない、確固たるシンガーソングライターとしての頼もしい姿。取材にあたって自分が担当した歴代のインタビュー(上記参照)を読み返してみましたけど、笑ったな~。そして今回の『幽霊家族』で、音楽も人柄も本当に魅力的なアーティストだと再確認。僕が懇意にしているROTH BART BARONとの邂逅も喜ばしい限りで、家族と記憶というスタンダードなお題でも一筋縄ではいかない吉澤嘉代子印はさすがでした。また近いうちに話が聞けますように」