「それが『綺麗』ですね(笑)。一番の“煌めく●● 永遠になるの”の●●に何を入れるか何時間も考えてて、ふと“命”って思いついたときに、ビリビリビリビリー!みたいな(笑)。“煌めく命! 急にスケールがデカくなった!”みたいな(笑)。自分の言葉に反応しちゃって、ビリビリしちゃった。大満足です(笑)」
「同じオーディション出身の方でデビュー前から知っていて、同じイベントに出たりしたこともあって。風の噂で“吉澤嘉代子が好きらしい”みたいな話は聞いてたので、ちょっと嬉しかったんですけど(笑)。全ての作詞作曲を自分が担うのが理想ではあるんですけど、『綺麗』をリード曲にしたい気持ちが強かったので」
「器が大きい!(笑) 個人的な話になると、自分に自信がないから、みんなにキレイだと思われなくてもその人が思ってくれてたらいいなっていう感じなんですけど、例えば、ミュージシャン=かわいいのプロではないし、音楽を生業にしてるんですけど、多分例に漏れずこのお仕事をするほとんどの女性が、そこを避けては通れない。そうすると、元々なかった自信がドンドンなくなっていきますよね。そういうのに毎回ちゃんと傷付いてしまうので、疲れちゃうんですけど」
――『ユキカ』(M-2)は幼馴染の名前を冠した曲ということですが、冒頭の“自転車はETさながら/あなたを写した月まで連れてゆくよ”のくだりには、かつて深夜のコンビニバイトの店員さんに恋をして、バレンタインチョコを渡しに行った自身のエピソードもあると。そんな行動力あったんやって、逆に思いました(笑)。
「アハハ!(笑) 確かにそうですね。ここに至るまでも、その人の家の前を犬の散歩を口実に通ったりとか、すっごい気持ち悪いことを(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「中学生だったので許されたいんですけど、フフッ(笑)」
――やっぱり若い頃、恋に免疫がない頃特有の行動力というかね(笑)。この曲は『綺麗』とWリードみたいな立ち位置なんですね。
「『綺麗』も『ユキカ』もどっちも気に入ってるんですけど、『ユキカ』を作るにあたってのテーマが、みんなに伝わる優しい言葉で、自分が気持ち悪くならない線引きを守る(笑)。そこにギリギリまで挑戦した曲だとは思っていて。友達の名前を借りてるだけあって、ヘンな曲にも出来ないですし、これはMVも残しておきたいなって」
――続く『運命の人』(M-3)も『キスはあせらず』(M-4)も、聴いた印象としてメモしたのは、“ややこしい”(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
――『運命の人』は夢に出てきた“アカサタ・シワラクタ”さんがモチーフということですが…これは吉澤嘉代子やから“そうなんだ…”ってまだ聞けるけど…かなりヤバい(笑)。
(一同爆笑)
「フフフフ(笑)。でも、これを書いてる時期は、本気でアカサタさんに恋い焦がれてる時期だったので、ちょっと泣きながら歌ってましたよね(笑)、レコーディングも」
――失うぐらいなら幸せにならなくてもいいという、相反する想い。友達以上恋人未満のときはすごく楽しいけど、1つ結果を求めたら、それを失う可能性と生きていかなきゃいけない。
「そうですよね。すごい美味しいお菓子をもらったときに、食べたらなくなっちゃうから、食べずに取っておく、みたいな(笑)。それには賞味期限があるのに」
――今作には全編通してそういうパーソナリティがありますね。これがいい統一感かどうかは分からないけど(笑)。
「アハハ!(笑)」
もうぶっ壊したかったんですよね、この生活を(笑)
――『運命の人』『キスはあせらず』『必殺サイボーグ』(M-5)の3曲は、軸足はラブソングですが、ある種の“ドタバタゾーン”というか。『キスはあせらず』は、曲を書いたときにシュープリームスの『恋はあせらず(You Can't Hurry Love)』(‘66)をよく聴いていたと。
「シュープリームスはすごい好きで、特にダイアナ・ロスの声がすごい甘美で。大好きだなぁ。結構“これ、聴いた方がいいんじゃない?”って言われる曲に関して、興味が湧かずに聴かないことも…ってもう歌でバレてると思うんですけど(笑)。好きじゃないと聴かないですよね、やっぱり」
――『キスはあせらず』とか『必殺サイボーグ』の歌詞は真骨頂な感じがしますね。周りを置いて1人で加速していく感じが(笑)。
「フフフフ(笑)。でも、曲を作って自分を駒にしたり、滑稽さを大切にしてる感覚もあるんですけど、どこかでグッときちゃったり、泣いちゃう自分もいて、何か不思議なんですけど。本気の部分がやっぱりないと、曲として魅力がないと思ってるんですよね」
――『必殺サイボーグ』は、星新一のショートショート『ボッコちゃん』をベースにした完全なファンタジーで。こうやって話を聞いてると、“ラブソングはポップスの王道のお題目だ”って話をしてたのに、全然王道じゃない(笑)。
「私もそれに薄々気付いてたんですけど(笑)。『ユキカ』も王道に切り込んだと思ったけど、“ET”とか“カルピスソーダ”とか、固有名詞が出てくる曲はやっぱりそうじゃないなと思ったり。『必殺サイボーグ』は今作の中で一番物語らしい物語なんですけど、こういう曲こそ、そのときの自分が入ってるなって。この曲を書いてるときに、もう自分がサイボーグみたいだったんですよね」
――…どういうこと?
「曲を書かなきゃいけないとか、ライブでいいパフォーマンスをしなければならないとか、かなりサイボーグ的に自分を追い込んでいて。で、もうぶっ壊したかったんですよね、この生活を(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「でも、“ぶっ壊せたら”って思えると、少し気が楽になるというか。この曲には上半期の自分が相当入ってますね」
いつまで死に物狂いなのかな?(笑)
――『真珠』(M-6)は一番昔の曲ということですが、一番若い頃に書いたのに一番大人っぽい曲で。この曲は21歳ぐらいのときにはもう生まれていたと。
「そうですね、大学生の頃に書いたこの曲を底の部分にして、今回のアルバムを作りたいなって。何かこう…“リビドー”というか、すごいセクシーな曲だなって」
――『ストッキング』が出来たのも同時期だから、やっぱり20~21歳ぐらいが、吉澤嘉代子にとっては重要だったんだなぁと。すごく大事なものが詰まった時期というか。
「うんうん。この頃に初めて社会に触れたというか、それまでは自分が好きなように、自分の頭の中で作った、自分だけに伝わる言葉で、本当に1シーズンに1曲しか書いたことがなかったし。でも、そこを周りに指摘されて、すごくイヤな気持ちになって…」
――好きに書いて歌っていたものに対して、モノを言う人が出てくる。プロとしてやっていく以上は。
「でも、その要望を受けて、自分がどれだけのものを返せるかって、何故か思えたんです。それは今にもつながるけど、自分の子供時代が浮かばれたい想いみたいな…。その初めての刺激というか、否定される感覚みたいな…そういう衝撃に初めて出会ったぐらいの時期だから、いろんな感情が生まれたのかな」
――そして、この曲は、人は結局は孤独であるというか、その孤独に対する否定的でも肯定的でもないスタンスを描きたかったと。俺もよく思うけど、誰かといると、同時に誰かとはつながれなくなる。
「うんうん。確かにそうですね、本当に」
――だから、1人であるということは、逆に誰とでもつながれるという。
「そう思うと、不特定多数の人と一気につながることが出来るライブは、それ故、孤独だということですよね。“1人でライブ行くのはちょっと辛いかな”みたいな人がいると、“私も1人だから”って言うんです。私もやっぱりステージの上では1人だから。孤独だからこそ、みんなとつながることが出来るのかも」
――それこそ今作に伴うツアーもありますが、前回より大きめの会場で本数も増えて。今回のツアーでもいろんな感情をもらえそうですね。
「確かに。でも、いつまで死に物狂いなのかな?(笑)」
――アハハハハ!(笑) そんな吉澤嘉代子が2015年の最後にどう変わっていけるのか、楽しみにしてますよ。それではライブで。
「ハイ! ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史