「今後のことも、もうデビュー前から考えてるから(笑)。ただ、前作の『箒星図鑑』は、“私がやらなければ誰がやる”みたいな使命感を勝手に感じて作り上げた作品だったんですけど、今作を前段階として、少女時代から飛び出した女の子をミニアルバムの『秘密公園』(‘15)で描いたので、そこでステップが1段階増えたというか。で、『東京絶景』(M-12)という曲が元々あったのもあるんですけど、次は自分にとっての“日常の絶景”を切り取ったアルバムにしたいなって。『東京絶景』は20歳の頃に書いた曲で、多分自分が元々持っている一番ナチュラルな雰囲気かなぁと」
「本当ですよね~! やっぱり“曲になる人”っているんですよね。今までも何人かいましたけど、自分が勝手にその人にドラマを見出してしまうというか。それは自分が好きだからかもしれないですけど、男女に関わらずその人の影の部分を色濃く感じちゃうんでしょうね。ずーっと見てるから(笑)」
「私の住んでいる街って、橋を渡ると隣が東京なんですよね。新宿、渋谷とかも電車で30分かからないぐらいなので、そんなに特別でもなく、お買い物をするとか、遊びに行く場所ぐらいの感覚で。強い憧れもなければ、東京は冷たいって悲観することもないので、あんまり印象がなかったんですよね。だからこそ、『東京絶景』っていう曲は、フラットな書き方が出来たのかなぁって」
「ツアーの初日が大阪だったんですけど、その翌日までやってましたね(笑)。いつもバタバタしてますけど、今回は『秘密公園』のリリースから4ヵ月しかスパンがなくて、嘘でしょ!?って(笑)」
「これは『movie』(M-1)ですね(笑)」
――この曲は前作の『箒星図鑑』と『東京絶景』を橋渡しする重要な曲ですよね。
「そうですね。18の頃に書いた欠片みたいなものがあったんですけど、改めて歌詞を書き直したんです」
――その歌詞に出てくる“緩やかな地獄”は、ドキッとするフレーズですね。歌詞にはなかなか出てこない言葉だと思うし、それを嘉代子ちゃんが歌うというのもセンセーショナルな気がします。
「本当ですか? 嬉しい~ありがとうございます。福岡にキャンペーンでお邪魔した帰りに、空港にタクシーで向かっていたんですね。そしたら、そのタクシーの運転手さんに“あなたと一番奥まで行って戻ってくる覚悟ですけど、それでもよろしいですか?”って言われて。私はちょっとウトウトしてたんですけど、“えっ!?”って驚いて。ふと、“この人と一緒だったら、地獄の釜の底まで行ってもいいかもしれない”って思ったんですよ(笑)」
――アハハハハ!(笑) 何でやねん!(笑) そのタクシーの運転手と? 空港に向かってる話だったよね?(笑)
「“一番奥”を“地獄”だと思っちゃって(笑)。さらに“そこから戻ってくる覚悟でいる”と受け取って(笑)。地獄ってどんな場所だろう?って思ったときに、今まではその地獄の釜の底じゃないですけど、グツグツ煮えてる火鍋みたいなものを想像してたんですけど」
――それ、小学校のときに絵本で見るやつやん!(笑) 閻魔様に舌を抜かれるとか(笑)。
「アハハ!(笑) そういう風にふと思ったとき、タクシーで向かっていた光景がすごい穏やかな夕景だったんですけど、もしかしたら地獄っていうものは、こういう風な“日常”なんじゃないかと思って。日常なんだけど、周りにとっては苦しくなくて、自分にとってだけが苦しい状態が=地獄なんじゃないかって。みんなが苦しかったら乗り越えられるかもしれないけど、“自分だけが”と思ったとき、地獄の価値観がガラッと変わって。でも、空港に着いてからマネージャーさんに聞いたら、“あなたと”じゃなくて“ANAだと”って言ってたんだよって(笑)」
――なるほど!(笑) דあなたと地獄まで”=○“ANAだと一番奥まで”(笑)。って、めっちゃおもろいやん!
「多分“覚悟”とかも本当は言われてなくて、自分の気持ちがウワーッて溢れて、勝手に後付けしちゃったんでしょうね(笑)。それからずっと地獄をテーマに考えて、この曲のエッセンスになったという。“緩やかな地獄”=地獄はドラマチックなものじゃなくて、地上と地続きにあるもの。少しずつ命が途絶えていって、ある日ふと断絶される」
――そもそもこの曲は愛犬のウィンディの死から生まれたのに、その空港での出来事が合体したというか、インスピレーションを受けて。
「病気でどんどん身体が弱っていく様子とかも、それがどんどん日常になって馴染んでいく状態と何かリンクして。だから本当の地獄というものは穏やかで、いつもと変わらない日常の中で、誰か1人だけが苦しんでいる。そして、それを止めることが出来ない緩やかな速度で進んでいくものだと思って書きましたね」
今は生きてきて初めてじゃないかっていうぐらい
自分が25歳だと自覚できる
これまではずっと自分が13歳ぐらいだと思ってたんで(笑)
――日常を描く際によくある“等身大”とはまた違って、嘉代子ちゃんが描こうとしてる日常から連想されるものが『胃』(M-3)とか『ガリ』(M-4)っていうのも、普通のミュージシャンとアプローチが全く違う(笑)。『胃』はすごくオシャレなイントロから始まる曲なのに、“一緒にいると胃が痛くなる”と言われたことがあるというエピソードがすげぇなって(笑)。なかなか言われん言葉やぞ、これは(笑)。
「そうですよね~。本当に私、男女関わらず、何ならお母さんにも言われたことあるんですけど(笑)。何で? 何でだろう? いやだぁ~直したいよぉ~!」
(一同爆笑)
――でも、逆にマジだったら本人に言えないわ。だから、そう言ってもいいぐらいの関係性になれてるんだと思う。めちゃくちゃポジティブに思うと、愛されてるとも言える(笑)。ちなみに、全然ライトな質問ですけど『ガリ』はお寿司の歌ですが、好きなネタは?(笑)
「一番好きなのは、“ハマチ”っていう」
――アハハハハ!(笑) いや、何を言われても笑ったと思うけど、ハマチね(笑)。おもしろい!
「ウニとかイクラとかも美味しいんですけど、お店によって結構波があるから。でもハマチはそんなに波がないから、安心して頼んじゃう(笑)」
――あと、これまたTwitterでも“昔の歌いかたを忘れるかわりに、あたらしい声をてにいれてきた”とありましたけど、どういったきっかけで歌い方を変えようと?
「それはもう本当に、好き嫌いで。1年前の音源を聴いたときに、自分で“うわっ”て思うんですよね。ただ、今回歌を入れ直したところで、1年後にまたそう思ってしまうかもしれないんですけど。声が少しずつ成長したり変化してるのって、1年ぐらい経ってようやく分かるものなので。自分が聴いていて気持ち悪いから、気持ち悪いと思わないような歌唱法になろうなろうとして、どんどん変わっていってる気がしますね」
――新しい歌唱法を身につけよう、というよりは、過去の自分の声に満足出来ないのかもしれないですね。でも、アルバムって“’15年当時の吉澤嘉代子”でもいいわけじゃないですか。それが時に尊いとも思うし。荒削りだなぁ~っていうデビューアルバムでも、それ故の輝きがあったり。
「そうですね。歌詞やメロディは時代を問わないものが出来る可能性があるんですけど、声は身体を使ってる以上、もう不可能で。なので、音源にはその時代時代の自分がやっぱり全部出てる。例えば、高校生ぐらいの頃の歌は、聴いてて本当に“うわぁ~!”ってなるんですけど、あのときにしかない、今じゃ絶対に出来ない、好きな部分もあったり。それは心とか感情もそうで、何かが出来るようになると何かが出来なくなるのを、最近は本当に感じてて。今は生きてきて初めてじゃないかっていうぐらい、自分が25歳だと自覚できる。これまではずっと自分が13歳ぐらいだと思ってたんで(笑)。25歳になって何だか帳尻が合ったんですよね。今年に入って初めて追いつけた(笑)」
――そういう意味では、いち女性としての成長のタイミングと、アーティストとしての活動のタイミングが、『東京絶景』で合ったのかもしれないね。
「確かにそうですね。曲を作ることだけが自分の全てだと思ってたんですけど、リリースして世の中に出すことがとても重要なんだなぁって。やっぱり人に聴いてもらうために曲は生まれてくるんだなぁって今は思いますね」
――あのときに聴いた『ジャイアンみたい』(M-6)に助けられて…っていう人も、曲を世に出せば少なからず出てくるわけやもんね。その『ジャイアンみたい』は“恋人のまえで素直になれなかった女の子の歌”ということですが、素晴らしい歌詞ですね。いちリスナーとして受ける印象は、何だか吉澤嘉代子に近付けた感じがする。実際はフィクションなのかもしれないけど、本当の話のような気がするというか(笑)。
「アハハ!(笑) 今回は全曲タイトル先行で作って、出来事自体がほぼ作り話だったりもするんですけど、私自身は結構すぐに愛情表現をする方なのかも」
――言えずにモジモジしてるイメージがあるけど、違うんやね。“あ、好きなんだろうな”って分かっちゃうぐらい表に出ちゃうってこと?
「そうですね。コントロール出来ない(笑)」
――逆に、動揺とかショックも全部出るっていうことやんね。“今、私はショックを受けました”っていうのが。
「顔に書いてある(笑)」
ライブから帰るときに
新しい風が胸の中に残るみたいな気持ちになってもらえたら
――前回の『秘密公園』のインタビューでは、’15年の上半期の自分がすごく反映されていて、当時は“もうぶっ壊したかったんですよね、この生活を”って言ってましたけど(笑)。
「フフフ(笑)。そうでした。ジャンルが違う人みたい(笑)」
――それ以降の’15年下期をかけて作った『東京絶景』が出来て、何か思うところはありました?
「『東京絶景』に関しては本当に好きな曲を入れたんですけど、テーマやリード曲は自分ではコントロールできない部分でもあるので、やっぱり好きな曲だから頑張れたのはありますね。『秘密公園』以降、苦しいこともすごく多かったですけど、このアルバムを作れて幸せだった。これまでで私、一番好きかもしれない。あと、“曲を作らなくては…”って思うのがもう本当にしんどくて、ちょっと休みたいと思っていたときに、私立恵比寿中学から楽曲提供の依頼があって。私はアイドルに曲を歌ってもらうことにずっと憧れがあって。それはユーミンみたいになりたい気持ちの1つなんですけど、自分が歌うことに関してはそこまで突出してないと思ってるんです。でも、何か大きなフィルターを通して自分の曲が世の中に残る可能性があるんだとしたら、もうお願いします!って(笑)。エビ中は毎回曲のセレクトがおもしろくてコンセプチュアルなんで、いつか起用してもらえたらなぁって思ってたところなんで」
――いや~それは嬉しいね。
「そうなんです! お話が来たことで、もっとやりたいことが広がって。南波志帆ちゃんのときもそうだったんですけど、人に曲を書くのはすごく楽しかった。本来、曲を書くことは大好きなんですよね。だから、今年はもっと好きなことをやりたいなって思いました」
――ツアーもそれこそ毎回ちょっとずつ規模が大きくなっていって、東名阪に関しては遂にホールになりましたね。ツアーに関しては何かありますか?
「『東京絶景』っていう曲自体が、一人暮らしを始めた女の子の物語になってるので、ライブから帰るときに、新しい風が胸の中に残るみたいな気持ちになってもらえたらなと、いろいろと企てているので。皆さんビックリせずに観てもらえたらなぁと思ってます(笑)」
――椅子がガターン!って動いたり、シューッて煙が出てきたり(笑)。
「やりたいやりたい! この前、席が動く会場でライブをしてる夢を見たんですよね。それが結構なスピードで動いて落ちそうになるんですけど、すごくおもしろくて。誰かそういうライブハウスを作ってくれないかなぁ(笑)」
――その内、ツアーの大阪公演の会場がユニバーサルスタジオになったりして(笑)。
「あと、ディズニーランドも(笑)。いいですね、やりた~い!」
――ツアーも楽しみにしてますよ。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史