「“スリーピースバンドって面白いな”って今改めて全員が思えてる」
結成22年にして、まるで小細工なし、いまだ好奇心あり
覚悟を軽快に鳴らした『スリーピース』引っ提げいざツアーへ！
鶴インタビュー＆動画コメント

酸いも甘いも乗り越えたスリーピースバンドにしかない強さ


――新作を聴いて、自分たちのペースとサイズ感で活動できる鶴は、バンドの一つの幸せの形かなと思いました。

秋野(vo&g)「結成してもう22年ですけど、"スリーピースバンドって面白いな"って今改めて全員が思えてるんですよね。酸いも甘いも乗り越えたスリーピースバンドにしかない強さを感じてライブもやれてるので、それがまんま音源にも出たのかなと。タイトルは"今の自分たちを言葉にするなら"ということで、神田くんが考えてくれて」

――言ってしまえば、『スリーピース』＝『鶴』というセルフタイトルにすら思える。今や何やっても鶴になる、揺るぎない軸があるんでしょうね。

神田「上を見れば、4大ドームツアーができるアーティストはそりゃすげぇなと思うし、いい暮らしをしてるんだろうなと思う(笑)。でも、きっと僕らには計り知れない大変さや苦悩とかプレッシャーがあるじゃないですか。そういう憧れを失ってはいないけど、今の鶴は結構幸せな状態じゃないかなとは思いますね」

秋野「でも、安定にはまだたどり着かないんだよな。たどり着きたいのに、ずっとたどり着かない(笑)」

――鶴はリスナーとテンションが近いというか、同じようにもがいて、同じようにどこかで"まだやれんじゃね？"と思ってる。そこが親密で感情移入しやすいなと思うんですよね。

笠井(ds)「どのバンドもその人たちなりの幸せがあると思うんですけど、地元でフェスができる環境とか、3人が同級生だから仲がいいとか、22年間積み上げてきたものがちゃんと形になってますよね」

――バンドって最初はメンバーだけでライブをやっていても、音楽性が拡張していくにつれてツアーも大所帯になっていくことが多いのに、22年もやってきて今、"3人が最高！"みたいになれてるのはすごいですね。

神田「急にドンッと売れたら、すぐに後ろに従えてるかもしれないですけど(笑)」

秋野「従えてみたいね～鶴の将来の夢は天狗だから(笑)」

――昨年、5年ぶり2回目の『鶴フェス』が行われましたが、振り返ってどうでした？

秋野「出てくれたアーティストのライブを見て"やっぱりみんなすごいな！"と思ったし、特にスターダスト・レビュー大先輩が向こうから手を挙げて出てくれたのが...とんでもないインパクトを『鶴フェス』に持ってきてしまったなと。1日目はあいにくの雨でお客さんの出足が悪いところもちょっとありましたけど、2日間やって良かったです」

神田「5年前の初回は1日だけでしたけど、今回は準備から本番が2日、片付けまで、徐々にテンションを上げていくよりは一日一日しっかり置いていく感じで、"ちゃんと終わって良かった！"みたいなイメージですね。この間、鶴ヶ島市の市長にもお会いしたんですけど、"また次もやりましょう！"と言ってくれて」

――ちなみに現市長の任期っていつまでですか？

神田「今年の秋で切り替わりで...」

――もし行政の体制が変わったら油断ならないじゃないですか(笑)。

笠井「僕は前回、裏で出演者の方にひたすらカレーを振る舞ってたんでフェスを全然楽しめず、最後にライブをしただけで(笑)。これはいかんと！　今回は全部のライブを見に行き、食べるものを食べ、満喫して、"何ていいフェスなんだ！"って(笑)。最高に楽しかったです」

――前回のインタビューで秋野さんが、「あわよくば、アルカラとかLACCO TOWERがやってるイベントに呼んでもらえるよう仲良くなりたい」と願望丸出しで言ってましたけど(笑)、今年はLACCO TOWERの主催する『I ROCKS 2025』のプレイベントに鶴が出たり、着実に距離は近づいてますね。

神田「本編も見に行って、"鶴が来てるよ～！"とアピールしてきたので、来年はあるかもしれないですよ？(笑)」

秋野「そろそろアルカラからも連絡があるはず!?(笑)」


『ワイワイワールド』は軽快だけど、鶴のこれまでの経験が全部詰まってます


――昨年は『鶴フェス2024』に向けて4カ月連続で新曲を2曲ずつ配信していたので、ニューアルバムを作るなら当然それが入ってくるのかなと思ってたんですが、それはそれで『カタカナ』('24)という企画盤にまとめられ、新譜とは別物になったのは意外でした。

秋野「あれは『鶴フェス』に向かっていこうぜという気持ちで作られた曲たちだったので、フェスが終わったことで役目を終えたような感覚があったんですよね。なので、アルバムを作るならまたまっさらな曲を用意したいなって」

――自分たちの事務所でありレーベルだから、自分たちでリリースのスケジュールも決められるじゃないですか。なのに何でいつも制作期間がタイトなんですかね？

神田「鶴は止まったら死んじゃう生き物だから(笑)。それはもう完全に俺たちのミス！　『鶴フェス』が終わったら、次のツアーのスケジュールを切ろう」

――なら新作あった方がいいんじゃないの？　ツアーは6月に始まるから、いつ頃に出す？

笠井「4月中には出せるようにしなきゃいけないよね？」

秋野「じゃ3月には完パケないといけないか」

――ってことは曲を書くには...もう時間がない！　みたいな(笑)。でも結果、時間もないし、『鶴フェス』みたいに明確なテーマもなかったからこそ、鶴の核たる部分がより出た作品になった。とは言え、サウンドにはこだわろうと事前に思っていたみたいですね。

秋野「今までも試行錯誤はしてきたんですけど、かゆいところに手が届き切ってない感覚があったんで、そこは先に話し合ってからスタートしました。スタジオで練習してるときにマイクを一本立てて録ったあの迫力が、もう少しクリアになって出てくれたらいいだけなんですけど、意外とそれが難しくて。マスタリングの段階までみんなで口を出したんで、これまで以上に全員が納得できるサウンドで録れたんじゃないかな」

笠井「今回の肝はドラムで、1曲目を録る前にエンジニアと話し合いながら6時間ぐらいいろいろ試したんですけど、なかなかうまくいかなくて...。あっつい(＝秋野)から"すっごく力を抜いて叩いてみたら？"と言われてやってみたら、それがめちゃくちゃ良くて。そこから録るスピードがどんどんアップして、自分のプレイと欲しい音との関係性、そのスタジオで録るときにどうすればいい音で録れるのか...その幅が広がりましたね」

――サウンドのリファレンスにした音源はあったんですか？

秋野「いいなと思って最初にエンジニアに渡したのは、OK Goの『ドント・アスク・ミー』('02)でしたね。ドラムの存在感というか、こういうドラムのふくよかさが欲しいなというところから始まって」

――マスタリングだけ海外に振るアーティストもいるし、鶴も一度、外国人のエンジニアに預けたらどういう解釈で返ってくるのかも興味深いですね。曲作りは『ワイワイワールド』(M-2)辺りから始めたんですよね？

秋野「どういう曲からアルバムに入りたいだろうと考えて、最初に出てきたのが『ワイワイワールド』で。だんだんと他の曲も出来上がってくなかで、これをオープニングにしようと」

神田「この曲は、ウォーキングベースのフレーズを結構緻密に考えて組み立てました。ジャズマンなら経験上、直感でできるのかもしれないけど、僕は今までなんちゃってで弾いてきたので、そういう意味では大変だったなって」

――この曲で描かれているのはまさに人生の本質で。

秋野「『ワイワイワールド』は軽快だけど、鶴のこれまでの経験が全部詰まってますね」

――『スライダー』(M-3)とかもそう思いました。個人的にはこのアルバムの中で一番好きな曲です。これぞスリーピースなソリッドなサウンドがカッコいいなと。

神田「ベースのイメージは"TRICERATOPSの林幸治(b)さんで"って言われました(笑)」

秋野「レコーディングの1曲目はこの曲だったよね。3人でプリプロを始めたのもこれで」

――ロックバンドの最小形態と言われるスリーピースだからこそ、それぞれに見せ場があってプレーヤーとしての充足感もある。その一方、一人でも欠けたら即バンドが動かなくなるのが分かるから、簡単にはやめられないですね。

神田「確かに自分がやめると2人の人生も絶対に崩れちゃうから、謎の責任感はあるよね」

秋野「3人だと演奏の難易度もちょっと上がるけど、その自由度が絶妙で楽しいし、メンバーが5人以上いたらプレイは楽だけどちょっと窮屈だと思うんですよ。もう一人ギタリストがいたら逆に合わせなきゃいけないし。今は自分一人だから、どんな音を出そうがお構いなし(笑)」

神田「4人とか5人バンドのサポートに入ると、スリーピースをやってて良かったなと思いますね。考え方としては引き算していけばいいのでゆとりがあるというか。3人のときは基本丸裸で、常に矢面に立ってるんで(笑)」


秋野の書く"男のダサカッコ悪い悲しみ"の最新作が『アイニードンデー』


――『からっぽ』(M-6)の気だるさとアダルトさは新鮮で気になりました。

笠井「この曲は、お風呂でこうやって背中をかいたとき、かさぶたを剥がしちゃったところから思い付いて」

――全然大人じゃない、むしろ子どもみたいな意見が出てきた(笑)。

秋野「おじさんが背中をかいてケガをしただけ(笑)」

笠井「いつの間にかケガをして、それを引っかいちゃって、また振り出しに戻ることってよくあるよなと思って広げていったら、だんだんいじけた歌になってきて(笑)。例えば、"自分は相手の理想の人間ではない、だったら自分じゃない方がいいんじゃないか"と思う瞬間とかってあるじゃないですか。でも、そうであってほしくない。みたいなネチネチした気持ちを歌詞にしてみたんです」

――だから、『からっぽ』というタイトルなのにぐっちゃぐちゃの感情が入ってると。それがこういうアダルトなロックサウンドに乗ったのは面白いですね。

秋野「プリプロから、"この曲ヤバいね、鶴の細かいことをやりたがりな一面が出ちゃったね(笑)"って」

――あと、『ミッドナイト』(M-8)の1番のビートって、エディットしてるんですか？

神田「生です。けど、エディットっぽくしたかった」

笠井「ドラムがディレイしてるみたいな感じなんですけど、生で叩いてて」

――1サビ終わりまで抑制されて、ドーンと解放されるのが気持ちいいですよね。アルバム冒頭の『イントロ ～three piece～』(M-1)も、最初に聴いたときに"あれ、音源のデータが壊れた？"って思ったんですけど(笑)。

秋野「過去のアルバムにもイントロは結構入れてきて、今まではその作品のメッセージだったりテーマが入った言葉を抜き取って曲にしてたんですけど、今回は『スリーピース』というワードをどこにも使ってなくて。だから、ミックスが終わった後にエンジニアに、"印象的だったプレイとか音を抜き出して自由に組んでくれ"とお願いして」

神田「だからエンジニアの作品です(笑)」

――いつもは言葉ですが、今回は音でまとめたダイジェストですね。『ロックンロールにおまかせできない』(M-4)ではいきなり、"あの人のスキャンダルで ネットもテレビも大暴走 性懲りもなく証拠などなく 濡れ衣は謎へ"と、タイムリーで強烈なパンチラインが(笑)。

秋野「これは自分でも好きな曲で、先にある程度曲ができてたんですけど、そうしたらあの人があの人とあんなことになっちゃって、あら大変！(笑)」

(一同爆笑)

――コーラスは誰か他の方も参加してるんですか？

秋野「全部3人だけで何とかしてます。今回は過去作に比べてユニゾンが多いのはありますね。最初はサビのコーラスでハモろうとか考えるんですけど、そうなると難易度がどうしても上がる。それでライブでやったときのプレイとか勢いに影響するぐらいなら、スリーピースバンドがやるユニゾンの力強さを生かしてみようと思って」

神田「今回のタイトルは『スリーピース』だし、鶴という人間自身を推してるので、そっちの方が伝わるかなって」

――歌詞を読めば何のことだか分かるリード曲『アイニードンデー』(M-7)は、かつての『低気圧ボーイ』('17)をほうふつとさせる雰囲気とMVですね。



神田「曲もMVも、まさに『低気圧ボーイ』みたいなパンチが欲しいと話してたんです。デビュー曲の『恋のゴング』('08)とか、インディーズ時代の『ダイナマイツ勘違い』('06)とか、秋野の書く"男のダサカッコ悪い悲しみ"の最新作が『アイニードンデー』ですね」

秋野「アルバムの曲がだいたいそろってきた最後の最後にこれが出てきて...もう時間もないし、でも曲も足りないしで追い込まれたんで、パンチのある鶴らしい曲がよく降りてきたなって自分でも思います」

――今の時代になくてもいいやろというHR/HMなブレイク、MVにおける神田さんのワカメっぷりもすごい(笑)。

神田「YouTubeのコメントにもヤバいと書いてました(笑)」

――応援歌あり、等身大の人生のメッセージあり、エディットと思いきや生演奏だったり、いろんな試みや遊びもあって、鶴らしいアルバムになりましたね。

神田「時間がないというネガティブな要素の副産物というか、昔よりアイデアを出して、試して、これでいこう、みたいな一連のスピードがめっちゃ速くなったんですよ」

秋野「『正解はないのだ』(M-10)の間奏も、どん(＝笠井)くんに"何かちょっとぐちゃっとしたい"ってすんごい抽象的なことを言っても、"じゃあ...こんな感じ？"って叩いたら、"あ、これいいじゃん！"ってすぐ」

神田「あと、諦めが良くなったというか、"もっといいテイクが出るかも"じゃなくて、"今ちゃんといいんだからGOでしょ！"ってみんなが言える。"俺たち成長したよね"ってちょっと思ったな」


ライブで聴いてもらいたい曲、ライブで育っていくだろう曲がいっぱいある


――6月8日(日)大阪・心斎橋JANUSより、いよいよツアーも始まります。これだけライブをして、これだけリリースもしてるのに、アルバムの収録曲を中心に披露するまっとうなツアーは、何と9年ぶりということで。

神田「しかも、今回のツアーは全部で12本しかないので、初日からもう寂しいんですよ(笑)。アルバムの曲自体はインストアイベントでアコースティックではやったけど、バンドセットでは『アイニードンデー』以外は全然やってないですから、今までより初日の段階でバンドへのなじみ具合を高めておきたいですね」

秋野「アルバムにはライブで聴いてもらいたい曲、育っていくだろう曲がいっぱいあるけど、逆にこれ以上長くやると飽きちゃうというかこなれちゃうので、いろいろ変えたくなっちゃう(笑)。だからある意味、ちょうどいい本数なのかも。ただ、お客さんの期待に応えられるかが今は不安なんですよね...耐えられる？　あの初日の独特の緊張に」

笠井「もちろん俺のハートは耐えられない(笑)。でも、インストアでの反応がめちゃくちゃ良くて、"この曲はツアーで確実に盛り上がるだろうな...！"とか、まだ人前でやってない曲でも理想を描いちゃうぐらい、どの曲も楽しみで」

――何年バンドをやってもそのワクワクがなくならないところが、鶴の続いている理由かもしれないですね。

秋野「いつだって初期衝動だもんね」

笠井「もういい加減慣れたいよ～(笑)」

――いいツアーになるのは間違いないと思うので、あとは見てのお楽しみということで！

Text by 奥"ボウイ"昌史

（2025年5月29日更新）