ホーム > インタビュー&レポート > 「過去の自分からの挑戦状に負けたくなかった」 SURFACE椎名慶治が今でもサヴァイブし続ける理由と生きざま ソロ代表作の12年越しの続編はネオビーイング・サウンド炸裂!? 『RABBIT-MAN II』インタビュー&動画コメント
まず当時は12年後も音楽をやってる保証がなかったですから
――最新作の『RABBIT-MAN II』('23)は1stアルバム『RABBIT-MAN』('11)の12年越しの続編ですけど、36歳と48歳では状況も心境も全く違いますよね。
「まず当時は12年後も音楽をやってる保証がなかったですからね。SURFACEが解散してすぐ、マネージャーにけしかけられてソロが始まって。この12年の間にバンドもユニットも組んでるし、歌詞提供もしてみたり、何ならSURFACEも再始動してる(笑)。解散する前は一切横のつながりがなかったのが、いろんな人と関わるようになって...だから自分でも、"まさか『RABBIT-MAN II』を出す日が来るとは..."と感慨深くなってはいました」
――『RABBIT-MAN』は今でも、椎名慶治ソロのキャリアで1~2を争う重要作で。
「SURFACEという名刺がなくなって"自分の新しい看板を立てなきゃ"と、干支なんて一切気にしたことがなかったのに、"俺はRABBIT-MAN です!"と急に言い出して...他に手だてがなかったんでしょうね(笑)。"うさぎは寂しがりやだし、みんながいてくれないと困る"みたいなキャラクターが、解散直後の当時の心境と重なって...そのタイトル曲も、ソロとして活動していく中で鉄板曲になるとは思ってもみなかった。逆に言うと、その曲で"飛び跳ねてみたいもんだ"と歌ってたのに、『RABBIT-MAN II』(M-6)では"飛べなくたっていい"と歌ってるわけですから。"いやいや、どっちやねん!"ってこの先のライブで言うだろうな(笑)」
――しかも曲の強さや存在感的にも、一本のライブでどっちもやる可能性は高いですもんね。人生を懸けてやってきたSURFACEが解散して、自分の行く末がどうなるか分からなくなった不安の中で作り上げた『RABBIT-MAN』は、疾走感があるのに泣けるというか、切なさやもろさも含んでいて。でも、そこから12年サヴァイブしてきたボーカリストが作った『RABBIT-MAN II』のタフさたるや...もがいてはいるけど、覚悟が決まってる。
「この曲はかなり前からボイスメモにサビのメロディを入れていて、そこからの肉付けを共同プロデューサーの宮田'レフティ'リョウとしました。リリックの方向性として、"俺はこの12年をどう歌いたい? 何が言いたいんだろう?"と考えたとき、12年前と同じように走って飛んでというわけにもいかない。だから、思いを切らさない大事さと諦めない強さを軸に歌詞を書いていったことで、答えが出た感じでしたね」
40代には懐かしく20代には新しく感じるサウンドメイク
――'22年頃にはできていたという『どうやって君を奪い去ろう』(M-3)は、B'z、T-BOLAN、ZARD、DEEN、WANDS...椎名さんの青春ド真ん中、CDバブルの90年代に大流行したビーイング・サウンドに、今改めて挑んだ一曲です。どうやってその境地にたどり着いたんですか?
「次のアルバムの軸となるサウンドをどうしたいのかをレフティと話したとき、俺が新しいところを目指さなくても、レフティとやることで勝手に新しくなっちゃうから、俺は"うわ、歌謡曲とかB'zで昔あったなこの感じ!"みたいな(笑)、温故知新で古き良き時代の王道をやると言ったんです。それを煮るなり焼くなり自由にしてくださいと。前作『and』('21)は、SURFACEが'18年に再始動した後に作った初のソロアルバムだったから、(SURFACEとの差別化のためにも)ギターが引っ込んだ、今の時代に合うような新しいサウンドを2人で作り上げた。でも、今回は真逆というか...やっぱり『and』が反面教師だったんじゃないかな。このまま新しさを突き詰めるより、オーケストラヒット(=サンプリング音源の代表的な一種)がバンバン鳴っているような、40代には懐かしく20代には新しく感じるサウンドメイクの方が、俺とレフティのいいところが合致するというか」
――ファッションもそうで、長く活動しているとリバイバルにぶち当たる。その波の上で徹底的に遊んだんですね。
「だから歌詞もあえてつまらなくしてるんです。最後もただ繰り返しただけで膨らませない。"どうしよっかな~"で終わってる(笑)。デビュー前は、コード進行の鬼だったプロデューサーの武部(聡志)さんに、ちょっとでもB'zに似てたら、"ダメ、寄ってる!"みたいに言われてたから、すごく大変だったのに(今回はむしろ当時に寄せている)」
――そもそも前作の『and』では、SURFACEを遠ざけることに過剰に必死になっていて。なのに、いざライブでやってみたらソロはソロですでに確立されていたから、そんな心配は無用だった。何ならその気遣いのせいで、好きな音からも知らず知らず遠ざかっていたことに気付き。
「そうなんですよ! だからそこからは、SURFACEに似てもいい、避ける必要もない。どうせ似ないから、というやり方になっていったんですよね」
――結局、SURFACEに似るのはギターが鳴るかどうかじゃなくて、永谷(喬夫・g)さんが弾くかどうかだった。そういう意味では、音色とフレーズだけでSURFACEの個性を決定づける永谷さん、ズルいしすごい。
「あいつがいると、ビックリするぐらいSURFACEになっちゃう。でも、そこから抜け出せないのが永谷は不服みたいです。"別にいいじゃんSURFACEで"と俺は思うんですけど(笑)。それをここ数年、ずーっと繰り返してますね」
――ただ、ファンのみんながみんな、昨年のデビュー25周年のアニバーサリーイヤーには、さすがにSURFACEのニューアルバムが出るだろうと思っていたはずですが。
「思ってた思ってた! 俺も思ってた(笑)。最初のざっくりした予定は、25周年の5月27日のデビュー記念日前後にSURFACEのニューアルバム、11月10日の自分のソロデビュー近辺でソロアルバムも出そうと。でも、結果的にSURFACEは1曲だけ、アルバムはソロの『RABBIT-MAN II』だけになった。その辺は永谷も、もどかしい、悔しい思いをしたんじゃないかな。SURFACEはやっぱり、"期待を裏切っちゃダメ"ってなるんですよ。どうしても責任を感じちゃう。俺ですらそうですから、永谷にはそれが大きくのしかかったのかなと思うし。なので、ちょっとゆっくりにはなっちゃいますけど、解散はないので待っていてくれたらなと思いますね」
こうやって台無しにするの、好きです(笑)
――今作の中でも、『そりゃないぜ』(M-5)のシチュエーションはユニークですね。
「ただ単に彼女がトイレから出てこないだけの歌ね(笑)」
――トイレにこもるつもりなら携帯は持っていけよと、ちょっと思いましたけど。
「でもね、置いていくことでドラマが生まれるわけです。携帯をほったらかしにするぐらい、私は潔白だというメッセージで。だから、この2人は別れないんだろうなと思ってますけど」
――トイレの前で椎名さんがドアをノックしてる姿が目に浮かびましたよ(笑)。
「ホントですか? トイレのドア越しに彼女と背中合わせで座ってるMVとかどうです?(笑)」
――これは念のために確認しますけど..."どんなにクソ真面目でもさ"という歌詞は、もしかして掛かってます?
「当り前じゃないですか! トイレですからね。何にも考えずに...じゃないです。どこまでも考えておかしくなったという(笑)。80sのおしゃれなビートを使ってるのに」
――アハハハハ!(笑) さすがですね。でも、何やってんだって話ですよ。
「こうやって台無しにするの、好きです(笑)。そこの歌詞、初めて指摘されましたよ」
――かと思えば『ジレル』(M-8)の歌詞はいきなり、"歌声に誘われ落ちていく雌コオロギ"で転げ落ちました(笑)。
「作詞家・野口圭という男の脳みそというか性癖が出てますよね(笑)。面白いヤツと組んでるなと思います」
――野口さんと言えば、『歪』('14)の一節、"生の牡蠣に 歯をあてるみたいに/君のこと愛したいんだ"もすごかったですけど、今回もJ-POPに"雌コオロギ"というワードをぶっ込んだのは史上初じゃないですか?(笑) しかも、この言葉は『こおろぎでんわ』という児童向けの詩からインスパイアされたという。
「子どもがそれを音読してるのを聞いて、"うわっ、エロ!"って思うお父さんってどうなんでしょうね(笑)」
――ちなみに、『Miss Regret』(M-7)でアレンジと演奏を手掛けたcozycozyとの関係性とは?
「コロナ禍にXを介して知り合って。俺の中では新しい出会いだったし、おこがましいけどチャンスをあげたいなと。ダメ出しはしましたけど、ゴールまで諦めずにやってくれました。今度は売れて逆に呼んでほしいです(笑)」
――『予告状』(M-9)~『怪盗Y』(M-10)における茶番劇の警部と部下のアフレコは、椎名さんぽくない声ですね。
「ファンのみんなも、"声優さんにお願いしたのかな?"と思ってクレジットを見たら俺だったから、"どういうこと?"ってなってましたけど(笑)。『どうやって君を奪い去ろう』と『怪盗Y』を新曲としていち早くライブで披露したとき、茶番劇をやったんですよね。だからかレフティが、アルバムを作るときに"『怪盗Y』の前に茶番劇がないのがどうしても気持ち悪い"と言い出して。2人で30分ぐらいで台本を書いて録りました」
――椎名さんは器用だから俳優とかもやれちゃうと思うのに、意外と音楽に一途だなといつも思います。
「実際、『●●●●』(=某有名ミュージカル)にお誘いいただいたこともあるんですけど、普段からミュージカルとかは全然見ないし断っちゃいました。今ならやってみたいですけどね。でもね、こうやってしゃべってたと思ったら、いきなり"アアアァ~♪"とか歌い出すわけですよね?」
――できてるやん(笑)。そして、今作の収録曲を初めて見たとき、真っ先に目を引かれたのが最後の『醜態成』(M-13)でした。このタイトルを付けられるのは椎名慶治だけだなと。
「人間って生きてるだけで汚れていくんですよね。犯罪に手を染めなくても、ちょっとした言い訳をしたり嘘をついたりして、どんどん醜くなっていく。その最終形が『醜態成』なんだろうなと。醜いアヒルの子はいずれきれいな白鳥になりますけど、人間に生まれたからには汚れたら最後だから。汚れ切らないように意識しながら頑張っていこうねという応援歌というか。自分でもよくこんな歌が思い浮かんだなと思いますけど」
俺自身も自分に期待してるんです
――結果、『RABBIT-MAN II』は非常にエネルギーに溢れたアルバムになりましたね。
「自分でもそう思うし、新しい名刺になりました。久々に"とりあえずこれを聴けば、俺のことを分かってもらえる"と言える、本当に痛快で抜けがある、椎名慶治という人間がどこまでも見えるようなアルバムになったなって」
――今になってなぜそれができたんでしょうね?
「SURFACEの楽曲がうまく作れなかった中で、椎名ソロだけでもしっかりやらなきゃなというのがパワーに変わった。あとは何よりも、"『RABBIT-MAN』を超えられるのか?"という、過去の自分からの挑戦状に負けたくなかった。振り返ってみてそう思います」
――『RABBIT-MAN』~『RABBIT-MAN II』の12年間で、変わらないなと思ったことはありますか?
「何だろう? 歌詞を忘れる(笑)」
――それは12年どころじゃないでしょ(笑)。以前、ソロ10周年のときに同じようなことを聞いたら、"自分が本当に気に入ったものしか世に出さないスタンス"だと言ってました。
「え、そんないいコメントしてたんですか? それです!」
――過去の自分に乗っかった(笑)。
「でも、変わってないですね。昔から"捨て曲だよね"とか、"c/wだから手を抜いたよね"とか言われるのが耐えられない。だからSURFACEは、c/wに結構いい曲を入れちゃったりして。今でもそれでよかったと思ってます。だからこそ、"何でもうちょっと早く知らなかったんだろう"と言ってくれる人に出会えると思うので。1月にタワーレコード 梅田NU茶屋町店でインストアライブをやったときも、何をきっかけに知ってくれたのかは分からないですけど、初めて見る顔の人もたくさん来てくれて...やっぱりすごくうれしかったですから」
――リリースツアーに関しては、前半の3月はアコースティック、後半の4月はバンドで回ります。まずはもう本当にアコースティック感のかけらもないアルバムを、アコースティックツアーでやると(笑)。
「地獄ですよね?(笑) でも、そのインストアでも過不足なくアコースティックでやれたんですよ。"『RABBIT-MAN II』ってこんな感じだっけ?"みたいにはならないので。バンドツアーは、レフティがキーボードも自分で弾いて、ベースはシンセでも出して...とかいろいろ考えてました。なので今回はキーボードレスの4人編成でやります」
――『-ing』('18)にも参加していたギタリストの香取真人さんは、当時は抑えたギターを弾くのがすごく上手だと椎名さんも評していましたが、今作ではグッとギターが前に出ているので、ツアーではそれも楽しみですね。
「香取はまだ若手ですけど、向こうは向こうでキャリアを積んでいたので、よりうまくなってました。4月のバンドツアーでも、ギタリストとしての力量を見せてもらおうと思ってます!」
――それでは、今インタビュー界では愚問と話題の、"最後にメッセージ"ってやつを(笑)。
「出た! ここまでめっちゃメッセージを放ってきたのに(笑)」
――でもね、経験上、"最後に一言"と投げ掛けられたとき、人って割といいことを言うものなんですよ。だから、聞く意味があると俺は思ってるんです。
「ハードルを上げるのやめてもらっていいですか?(笑) 去年は、『RABBIT-MAN II』というアルバムを卯年に間に合うように作った。でも、その全てが花開くのは今年なので。『RABBIT-MAN II』は通過点でしかなくて、ツアーが終わった後に何が残るのか? プレッシャーもあるし、でもワクワクもあるから。みんなが俺に期待してくれてるかもしれないですけど、俺自身も自分に期待してるんです。そんな'24年にしたいなと思ってます!」
――ありがとうございます、やっぱり聞いてよかった!
Text by 奥"ボウイ"昌史
ライター奥"ボウイ"昌史さんからのオススメ!
「コロナ禍の近年も他メディアでちょくちょく椎名さんに取材していたものの、こういったまっとうなリリースインタビューは意外と久々で。『RABBIT-MAN II』で今はもうB'zがやってくれない(笑)、あのビーイング・サウンドがアップデートされて現代によみがえるさまは、ドンピシャ同世代としてもたまらないものがありましたよ。"これって、まだ松本(孝弘)さんがヤマハの青とか黒×紫ネオンのギターを使ってた時代ですよね?"と如実に分かる、TAK MATSUMOTO以前の音に大興奮(笑)。その本気の遊びに一役買ったレフティは、最近どのアーティストに話を聞いても名前が出てくるかのような売れっ子ぶり。この間も他のバンドの音源を聴いて、"これSURFACEやん!"と思ったらレフティの仕業=アレンジでしたよ(笑)。あと、『醜態成』について椎名さんが"人間に生まれたからには汚れたら最後"と言ったとき、その気高さというか、人間として、歌い手としての芯を改めて感じて、内心ほれ直しました。長年インタビューできていることを、それこそ誇りに思えて身が引き締まるような...この気持ち、忘れないようにしなきゃな。なお、ツアー前にも2月23日(金・祝)16:30~心斎橋KuRaGeで『RABBIT-MAN II』のトークイベント、翌24日(土)15:00~ヨドバシカメラ梅田でインストアライブと、連日来阪するのでそちらもチェックを!」
(2024年2月16日更新)
Album
『RABBIT-MAN II』
発売中 5500円
High Wind
HWCL-0062
<収録曲>
01. Shout it Out
02. Oh Yeah!!
03. どうやって君を奪い去ろう
04. BLACK or BLACK
05. そりゃないぜ
06. RABBIT-MAN II
07. Miss Regret
08. ジレル
09. 予告状
10. 怪盗Y
11. ただ
12. 優しさなんかじゃないんだってば
13. 醜態成
しいな・よしはる…’75年12月30日生まれ。SURFACEのボーカルとして、’98年にシングル『それじゃあバイバイ』でデビュー。ドラマ『ショムニ』『お水の花道』や、アニメ『守って守護月天!』『D.Gray-man』『NARUTO』等、幅広いジャンルのテーマソングを手掛ける。’10年6月、東京国際フォーラム・ホールA公演にてSURFACEは解散。’10年11月に1stミニアルバム『I』でソロデビュー、’11年6月リリースの1stアルバム『RABBIT-MAN』より本格始動。他にも、『仮面ライダーフォーゼ』のエンディングテーマをきっかけに結成されたAstronauts (May’n&椎名慶治)や、タッキー&翼らをはじめとする作詞提供、高橋まこと(ex. BOØWY)率いるJET SET BOYSのボーカリストとしても活躍するなど、その活動は多岐にわたる。デビュー20周年を迎えた’18年5月、豊洲PIT公演にてSURFACEが再始動。’23年12月27日には、最新作となる6thアルバム『RABBIT-MAN II』をリリースした。
椎名慶治 オフィシャルサイト
https://www.yoshiharushiina.com/
『Yoshiharu Shiina LIVE TOUR 2024
「RABBIT-MAN II -Type A-」』
【宮城公演】
▼3月2日(土)誰も知らない劇場
【福島公演】
▼3月3日(日)Hip Shot Japan
【福岡公演】
▼3月9日(土)ROOMS
【岡山公演】
▼3月10日(日)YEBISU YA PRO
【石川公演】
▼3月16日(土)金沢AZ
【新潟公演】
▼3月17日(日)GOLDEN PIGS RED STAGE
【千葉公演】
▼3月20日(水・祝)柏PALOOZA
一般発売2月17日(土)
Pコード263-620
▼3月23日(土)17:00
神戸VARIT.
全自由6500円
[メンバー]友森昭一(acog)/
村原康介(key)
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※未就学児童は入場不可。
一般発売3月2日(土)
Pコード263-621
▼4月20日(土)17:00
梅田クラブクアトロ
指定席8500円
後方スタンディング7500円
[メンバー]TETSUYUKI(ds)/
宮田'レフティ'リョウ(b)/香取真人(g)
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※未就学児童は入場不可。
『S』('13)
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『I & key EN』('12)
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『RABBIT-MAN』('11)
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