ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第6回『告白』
『告白』
2010年/日本/東宝/106分
原作:湊かなえ
監督・脚本:中島哲也
出演:松たか子/岡田将生/木村佳乃
“2009年本屋大賞”を受賞した湊かなえのミステリー小説を、中島哲也監督が松たか子を主演に迎え映画化し、その年の日本アカデミー賞ほか数々の賞を受賞した話題作。ある中学校の教室で行われていたホームルームにて、37人の生徒を前に、担任・森口悠子が語り出す。「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と。松は、自分の愛娘を殺害した教え子の男子中学生に復讐する女教師という難役に挑戦し、空気の読めない熱血教師役に岡田将生、少年B・直樹の母親役には木村佳乃が扮している。クラスメイトの少年少女たちには中学生をオーディションで選出。当時ほぼ無名だった能年玲奈、橋本愛、三吉彩花、刈谷友衣子など37人が出演している。
「告白 DVD特別価格版」
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発売・販売元:東宝
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(C)2014「渇き。」製作委員会
『渇き。』
2014年/日本/ギャガ/118分
原作:深町秋生
監督:中島哲也
脚本:中島哲也/門間宣裕/唯野未歩子
出演:役所広司/小松菜奈/妻夫木聡/
清水尋也/二階堂ふみ/橋本愛/國村隼/
黒沢あすか/青木崇高/オダギリジョー/
中谷美紀
“第3回このミステリーがすごい!大賞”を受賞した深町秋生のデビュー作『果てしなき渇き』を『告白』の中島哲也監督が役所広司を主演に迎え映画化。突然、失踪してしまった優等生の娘を、元刑事の父親が捜索するうちに自分だけが知らない娘の“素顔”に遭遇し、予想不可能な事態に巻き込まれていく様を描くバイオレンス・サスペンス。主人公の娘役にはオーディションで抜擢された新人・小松菜奈が扮するほか、妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀ら豪華キャストが顔を揃えている。
TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中!
http://kawaki.gaga.ne.jp/
1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。
オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/
『ロシアンブルー』 トーベヤンソン・ ニューヨーク TJNY-001 http://tovejansson newyork.tumblr. com/ |
『街の踊り』 オノマトペ大臣 EP/MARU-098 http://maltine records.cs8.biz/ 98.html |
『PR0P0SE』 PR0P0SE MARU-113 http://maltine records.cs8.biz/ 113.html |
第1回 『しとやかな獣』 |
第2回 『僕らのミライへ 逆回転』 |
第3回 『私をスキーに 連れてって』 |
第4回 『殺人の追憶』 |
第5回 『ショーン・オブ・ザ・デッド』 |
第6回『告白』 |
ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」。第6回は中島哲也監督の『告白』です。
その晩も夜空には星が流れていた。梅田東通りには幾つもの居酒屋が立ち並び、夜6時を過ぎると、仕事を終えたサラリーマンで溢れかえる。そのうちの一軒、地下に潜る階段を進むと、響く騒がしい声。今日は会社の後輩が転勤となったので、社内の有志が集まり送別会が行われている。色々な話が飛び交う。ある者は昨晩のW杯の試合の話を、またある者は健康診断で引っかかった項目を。誰かの話が始まるたび、流れ星が一筋流れるように、薄暗い店内はパッと明るくなった。
夜9時、そろそろお開きという頃、転勤していく後輩と映画の話になった。「ところで、橋本君が一番好きな映画って何なの?」。彼は学生時代から名画座通いをしていたような人間で、映画に関しては社内のだれよりも詳しい。映画好き繋がりでよく小津安二郎の話をして盛り上がった仲だった。
「あのー、そうですね、やっぱり一番はホット・ファズですかね」。目の前で星が光った。このシネマ、ライムズ&ライフという連載の第五回は『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で、監督はエドガー・ライト。そしてその彼が、『ショーン・オブ…』の次に撮った作品こそが『ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!』(2007)であった。私は映画好きの彼にも自分がこのような連載をしていることを話していなかった。彼にとって私はただの映画好きの先輩なので、それを話すことで何かが変わってしまうことを恐れていたのだ。しかし彼はもういなくなる。部署も違い、転勤していく彼とはこの先に会う可能性も高くはない。最後に伝えておいた方がいいのではないか、そう思った私は告白しようと口を開いた「あのさー」。
星が幾つか流れたあと、コンビニのゴミ箱に言えなかった言葉をクシャクシャに丸めて捨てた。
どうもこんばんわ、映画コラム界のドログバ、オノマトペ大臣です! 最近覚えた、にわかサッカー用語を武器に現代社会を巧みにドリブル! タフなビジネスシーンを右へ左へ駆け抜けています。さてさて、梅雨なのか夏なのかよく分からないこの時期、外で日焼けするのもいいですがたまには室内で映画でもいかがですか! というわけで今回は、観た方も多いのではないでしょうか、中島哲也監督作品『告白』です。いやぁービックリしました。すげー映画でした!
作品の内容は、愛する娘を殺された中学校の教師が、自分が受け持つ生徒たちに「命」に関する授業を行い、それを受けて子供たちがどう反応していくのか、という学園もの。ハッキリ言いますが、全く想像通りになりません! 正直見る前は、ヒューマニズムに溢れ心の奥がジンワリ熱くなり一筋の涙が…と思っていましたが、まるで違いました。一言で言って、「ザワつく」という表現が一番適切な衝撃作で、この映画のメッセージは、これでここを訴えていて、ということを誰もが共通認識の元に置けない、大変珍しいタイプの映画だなと思いました。
思春期の心の内の何とも言えない「ザワつき」を上手く表現した映画としてはこれまで、『リリィシュシュのすべて』などの名作がありました。高校生の頃、この映画を見た私は全身に稲妻が走り、一ヶ月ほどその世界観に心酔しきって街を眺めていました。思春期のどうしようもないナイーブさが映像、音楽の美しさも含めて画面いっぱいから表現されており、まさにその世代であった自分も、映画の登場人物たちと不可分なものではないと感じさせられたからです。しかし、それから時が過ぎ身も心もすっかり社会に染まってしまった今の自分には、もうあの頃の世界の見え方に100%共感することは不可能になっています。化け物のような自意識、一つの価値観で全てが成り立っていた世界はかなたに霞み、とにかく日々迫りくるタスクをこなして、多様な価値観に目配せをおこなう今では、立ち止まり自分の頬に当たる風の感覚に意識をむけることなどありません。そんな今の生活実感には、今回の『告白』はとてもしっくり来ました。
『告白』は、同じ思春期を扱っていながらも、子供達の世界には全く移入できない作りになっています。全編を松たか子扮する教師による「大人の目線」が分厚い雲のように覆っており、どこか客観的で突き放しているような巧みな描かれ方をしています。途中、娘を殺した犯人である生徒が「人殺しをするに至った事情」について、彼のことを好きな女生徒が感情をこめて説明するところがありますが、教師はそのグッとくる話を聞いた直後、大きな声であざ笑います。空気を鳴らして嵐のように渦巻く子供たちの心の叫びは、教師の目の前でポトリと蚊のように落ち、届くことはありません。子供の世界の事情を拒み続けるこのような態度は、ときに無慈悲で残酷なように映りますが、冷静に考えると、愛するものを奪われた大人の態度としては至極真っ当なものであるとも思えます。愛するものを奪われた、という事実を忌避して短絡的な解決を求める周囲の空気に、命の重みを真に知らしめるまで戦うという強い態度は、なかなか取れるものではありません。またそれは、もっと簡単で万人受けする物語を選べたかもしれないが、賛否がありそうな道を選んだこの作品自体の大人としての腹を括った態度とも捉えられるでしょう。
映画は、全体的にトーンをグッと抑えた暗い色調でまとめられておりこの物語が持つ異様な雰囲気が統一感を持って描かれています。しかし会話や個々の映像の切替えは、水を弾くようにテンポ感がよく、鈍重さはまるでありません。『告白』という、タイトル通り、数人の登場人物による独白調の場面が多いですが、その地続きのシーンの中にちょいちょいイメージ映像のような不思議な画が挿入されます。背景が無いスタジオの中で生徒数人がスローで動くなど、他の映画で見たことのない表現の仕方が随所にみられ、どちらかというと制約が多い中シーンの転換を図る舞台演劇や現代アートのような感覚が大胆に導入されているように感じます。音楽でいうところの、渋谷系がイタリア映画のサントラからサンプリングソースを拝借したような、そんなセンスの良さを、畳み掛けるように浴びる快感。また実際のBGMとして使われている音もセンス良く、ディスコから、アイドル、果てはドローンまでと幅広い選定で、おぉなんじゃこりゃ! と唸ったところが幾つもありました。しかしそれぞれにちぐはぐ感は全くなく、全体を通すと一つの交響曲のような豊かな流れが生み出されています。
中島監督は最新作『渇き。』のインタビューのなかで、「誰が映画はこういうものだと決めたんだ」という風に語っていらっしゃいますが、なるほどなぁと非常に合点がいきます。表現したいことが明確に頭にあるなか、それを実現するために、ある意味ではこれまでのやり方を壊してでも、思い切って表現として使えるものは何でも使っているという印象は『告白』でもすごく感じました。私自身、音楽を作る中で自然と、音楽ってこういうもんでしょ、と思ってコンパクトにまとめてしまうところが悩みの種なので、非常にうまいとびぬけ方をされていてスゴイなぁと思いました。
役者の方たちの演技もいちいち惹きこまれるのですが、特に岡田将生さん演じる若手教師の役は個人的に大臣オブザイヤークラスの感動がありました。熱血教師に憧れる一直線な教師が、生徒たちのなかで信頼を得ていると勘違いして空回りしているというのが、非常に良く伝わってきました。深みのある役というのを演じるのも当然難しいのだろうなと思いますが、一生懸命なのに軽薄な印象を与える教師、という役どころもまた相当な難易度に感じます。声のトーンなどもすごく工夫されていて、絶妙だなぁと思いました。この教師は、ホントは大人びているのにアホを演じる生徒たちに小馬鹿にされていますが、この映画を見ながら、私自身はこういう先生のクラスはいいなぁとちょっと思ってしまいました。私はサブカル好きな、少しトリッキーなタイプの学生でしたが、クラスの大命題としては皆楽しく活発なクラスを目指してほしいなぁと思います。多くの生徒は気さくな方がいいでしょうし、気さくなのが嫌いな生徒はそれを物真似したりしてうまい事面白がるはずだと思うので、なんかこういう先生のクラスは本当なら上手くいきそうだなぁと思いました。
『告白』は答えを教えてくれる映画ではありません。私自身、この映画を観終ってから度々、自分だったらどんな対応の仕方するのかな、と考えています。大人として、許すべきか復讐か、それとも。う~ん、、、ぐるぐると考えは巡ります。しかし、それこそがこの映画の重要なポイントなのかなと今感じています。世の中を見ていても、それぞれの正義のもと相互に理解しきれない行動が様々ありますが、意見が多様に存在することを常に感じることが重要なのかなと思っています。色々な意見の存在を真に受け止めると、小汚い居酒屋でのおっさんの会話も、プラネタリウムみたいに感じられる。かも。『告白』はきっとあなたが何かを考えるきっかけをくれることでしょう。
この映画、favります! (←永久決め台詞に決定)
シネマ、ライムズ&ライフはこの第六回をもって、リニューアルいたします。詳細が決まり次第、当サイトにてお知らせいたしますので、しばしお待ちください。そこで、日ごろからご愛読いただいている方々にジャパネット創業祭ばりの大感謝の気持ちを込めまして、今回は内容非公開の非売品CD-R『新ノーマンロックウェル劇場 vol.1 ~young, alive in the film~』(Promotional use only←ヤフオクに出すなよ!)をザックリ20名くらいにプレゼントいたします! ご応募はこちらから! 締切は8月31日(日)まで。よろ!
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企画・構成:天野あゆみ