ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第2回『僕らのミライへ逆回転』

オノマトペ大臣「シネマ、ライムズ&ライフ」

 

MOVIE DATA

僕らのミライへ逆回転

『僕らのミライへ逆回転』
2008年/米/東北新社/101分
監督・脚本・製作:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジャック・ブラック/モス・デフ/
ダニー・グローヴァー/ミア・ファロー/
メロディー・ディアス/マーカス・カール・
フランクリン/シガーニー・ウィーヴァー

ビョークのミュージック・ビデオやCMで名を上げ、『ヒューマンネイチュア』(2001)で映画界へ進出。『エターナル・サンシャイン』(2004)で絶賛を浴び、そのユニークな世界観が常に注目を集めるミシェル・ゴンドリー監督が個性派俳優ジャック・ブラックを主演に迎え描く、映画愛あふれる物語。友人のレンタルビデオ店のテープを全てダメにしてしまった男がとった策は古今東西の名画を全て“リメイクする”ことだった! 劇中に登場する勝手にリメイクされた名作映画は『ゴーストバスターズ』『ロボコップ』『ライオン・キング』『2001年宇宙の旅』『ラッシュアワー2』『ドライビングMissデイジー』『キャリー』『キング・コング』『メン・イン・ブラック』『シェルブールの雨傘』『ブギーナイツ』などなど。元の作品を見ていなくても超チープな作りに爆笑必至!

DVD発売中!
東北新社
/GNBF-7523
http://db2.geneon
universal.jp/
contents/hp0002/
list.php?CNo=
2&AgentProCon
=4290


(C)2007 Junkyard Productions.LLC. All rights reserved.

CHECK!!

ムード・インディゴ~うたかたの日々~
(C)Brio Films - Studiocanal - France 2 Cinema All rights reserved

『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』
2013年/仏/ファントム・フィルム/95分
131分の〈ディレクターズカット版〉もあり
監督:ミシェル・ゴンドリー
原作:ボリス・ヴィアン「うたかたの日々」
出演:ロマン・デュリス/オドレイ・トトゥ/
オマール・シー/ガッド・エルマレ

『僕らのミライへ逆回転』(2008)や『恋愛睡眠のすすめ』(2006)、ミュージック・ビデオなどで描いてきたゴンドリー監督ならではの手作り感溢れるキュート&ファンタジックな世界が文学と見事に融合! 1946年に発表され、今も読み継がれるボリス・ヴィアンの傑作小説『うたかたの日々』を、ゴンドリー監督が独自の映像技を駆使して映画化。肺の中に睡蓮の花が芽吹く病にかかった女性と、彼女を救おうと奔走する恋人を、『アメリ』のオドレイ・トトゥと『タイピスト!』のロマン・デュリスが体現する儚くも美しいラブストーリー。恋人たちのラブストーリーに重点を置いた95分の〈インターナショナル版〉も素晴らしいが、ゴンドリー監督が原作に真正面から挑んだ映像表現が炸裂する131分の〈ディレクターズカット版〉もオススメ。

梅田ブルク7、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸にて上映中!
http://moodindigo-movie.com/

PROFILE

1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。

オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/

RELEASE

トーベヤンソン・ニューヨークの初シングルが11月9日(土)に発売!
「映画『アパートの鍵貸します』をフェイバリットにあげるメンバーが多数在籍する、映画好きにもご注目いただきたいバンドです!」by 大臣

ロシアンブルー New!
『ロシアンブルー』
トーベヤンソン・
ニューヨーク
TJNY-001
http://tovejansson
newyork.tumblr.
com/

街の踊り 『街の踊り』
オノマトペ大臣
EP/MARU-098
http://maltine
records.cs8.biz/
98.html

PR0P0SE 『PR0P0SE』
PR0P0SE
MARU-113
http://maltine
records.cs8.biz/
113.html

BACK NUMBER

しとやかな獣 第1回
『しとやかな獣』

僕らのミライへ逆回転 第2回
『僕らのミライへ
逆回転』

私をスキーに連れてって 第3回
『私をスキーに
連れてって』

第4回
『殺人の追憶』

第5回
『ショーン・オブ・ザ・デッド』

第6回『告白』

ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」。第2回は、ミシェル・ゴンドリー監督の『僕らのミライへ逆回転』です。

オノマトペ大臣「シネマ、ライムズ&ライフ」

 人の出会いはいつだってドラマチックだ。私は今大阪随一の待ち合わせスポット、紀伊國屋書店梅田本店の前に立ち、缶ジュースを飲みながら人々の出会いを眺めている。
 目の前には円を成した二つの集団。一方は、20代中盤と見られる女の子7人。もう一方はこれより少し若い男子が7人。絶妙な距離を保っていた二つの円の片一方から、長身で営業マンみたいな笑顔の体育会系が飛び出し、女性陣の一人に話しかけた。どうやらこの二つの円はこれから一緒に合コン的なお食事会に向かうらしい。
 出会いの興奮を抑え込もうとしながらも、やはり誰もが少し空回りしているように見える。ある男子は、先ほどからスマホを3回カバンにしまって出してを繰り返している。ある女子は、さっきからチョイチョイあひる口の練習をしている。
 営業マンみたいな体育会系が「それじゃあボチボチ行きましょか~?」と声を上げると、二つの集団は初めてちゃんと顔を見合わせ、ギュッと縮こまった空気が一気に弾け梅田の街がジンジンした。先ほどまでスマホをいじっていた男子はそっとそれをカバンにしまい、あひる口の女子は、後ろから肩にかけたカーディガンを胸の前でギュッと強く結んだ。

 役者が揃い、ドラマが始まる。

 こんにちは! 巷のOLさんに大好評(←希望的観測)映画コラム界のクラブハリエこと、「シネマ、ライムズ&ライフ」第2回でございます!
 秋深まるこの時期ですが、皆さん松茸とか食べてますか? 今年は松茸豊作で味もイイらしいですね、報道ステーションで言ってましたよ。私もねぇ松茸は大好物で、てバカヤロー!! そんな話はどうでもええー!! 松茸の話は、古館に聞けー(報道ステーションキャスター)!! 映画の話をさせろー!! というわけで長い前置きはこの辺に第2回ですが、今回ぴあ編集部より頂いたお題は、2008年公開、『僕らのミライへ逆回転』。前回と打って変わって、ハリウッド映画でございます。
 監督はミシェル・ゴンドリーという方で、「ぴあ映画生活」でこれまでの作品を検索したところ、『恋愛睡眠のススメ』『ヒューマンネイチュア』と、誰かと議論したくなるような一癖も二癖もある作品を撮ってた人だということが判明しました! 紛糾必死! あひー!
 とまぁ見る前から、映画観賞力を高めて鬼の形相で画面の前に臨んだのですが、開始10分でこの映画独特のファンキーなリズム感にヤラれ、自然と私の体は独身寮でスイングしていました!
 映画の舞台は、ニュージャージー州のパセーイク。ファッツ・ウォーラーという著名なジャズマンの出身地であることだけが自慢のさびれた工業地帯である。この街にある、見るからに古めかしいレンタルビデオ屋が物語の核となる場所。年老いた店長が店を留守にしている間に、この店のアルバイト店員のマイクと、近くに住む陽気な奇人ジェリーはひょんなことから店にあるビデオのデータを全て消してしまう。困った二人は、自分たちの手で店のビデオ作品を次々とリメイクし、それを本物と偽りレンタルし始める。住人たちも巻き込んだリメイク製作をおこなう彼らの行く末に待ち構えていたのは…。続きは是非その目で確認して欲しい! 子供の頃、段ボールでロボコップの衣装を作り家の中をパトロールしていたあなたは興奮すること間違いなしの爽快な作品ですよ!

 主役二人のうち一人、ジェリーはとにかくクレイジーな白人で、スクラップ工場で働いているはずなのに平日の昼間から当たり前のようにビデオ屋を訪れては、常連の域を超えたおせっかいな物言いをして物事を掻き乱していく。まるでお好み焼き屋で小さなコップビール片手に、「牡蠣使ったお好み焼き作ったらどないや」といらんこと言ってくるそこらへんのオッサンみたいで、あんまり近づきたくないけど遠くで見て苦笑いしている分には楽しい、そんな人物である。
 途中、店にいる他のお客さんが手に取ったビデオを棚に返すとき、親切にも名前順に並べ直してくれたことにジェリーが難癖をつけるシーンがある。お客の後ろをしつこくついてきては名前じゃない順にまた並べなおすのだが、ここでのイチャモンの付け方が「あんたは冷蔵庫の中身もABC順なのか? アップル、バナナ、キャロット、、、」となっていて、言いがかりがクリエイティブな域に達した、彼のクレイジーさがよく表れた一幕であった。彼はクレイジーな厄介者であるが、その分人より堂々としている。そのため、物語の中心となる映画製作では、役者として大活躍するのだ。適材適所がいかに重要か改めて痛感させられた。
 もう一人の主役、ビデオ屋の黒人アルバイト、マイクは多少気弱だが物腰の柔らかいイイ奴である。奇行癖のあるジェリーがビデオ屋で粗相をしても、翌日には当たり前のように店に迎え入れる。“下町菩薩”とでも呼びたくなるような良くできた人間なのだが、残念なことに少し頭が悪い。ジェリーのせいで店のビデオが全て壊されてしまう重要な展開があるが、このときにうろたえたマイクは店長に怒られることだけが頭によぎり、自分たち自身での映画製作を言い出す。しかし冷静に考えれば、一企業人としてまずすべきことはCALL THE POLICE、警察に電話である。州法の名の下、店に大きな損害を与えたジェリーに適切な裁きと賠償を要求して然るべき事態なのに、人の良さと頭の悪さが脳内コラボレーションし、当たり前のように自主版『ゴーストバスターズ』の製作に乗り出すのだ。泣ける!
 狂人ジェリーと、残念な下町菩薩マイクの二人のコンビだが、映画製作ではパワーを発揮する。先ほどのゴーストバスターズの撮影シーンでは、夜のシーンが登場するが、時間がなく、日中に撮影をしなくてはならない事態になる。そのときにジェリーが機転を利かせてビデオカメラの白黒反転ボタンを押して真っ暗にし、コピー機で印刷した顔のお面を作り、夜のシーンの撮影を滞りなく行うのだ。言葉で説明してもよく分からないと思うので、是非自分の目でチェックして欲しいのだが、この辺の発想の素晴らしさには感動することだろう。脳を刺激するアハ体験があなたにも訪れること間違いなしだ。
 彼らの自主製作版は、そのほかにも『ラッシュアワー2』『2001年宇宙の旅』『メン・イン・ブラック』、それからアニメの『ライオン・キング』や、特撮の『キング・コング』まで…。手作り感モロだしではあるが痛快なアイディアてんこ盛りで次々に製作されている。大学の映画部の皆さんは、彼らの姿から是非色々なテクニックを盗んでほしい。一つだけ言っておくと、宇宙のシーンではカメラ自体をぐるぐる回せ! 宇宙感出るぞ!
 この映画は、ファンキーなコメディ要素が盛りだくさんであるが、シリアスなシーンも多い。途中、マイクとジェリーが口論になるシーンでジェリーの口から「ここは底なしの沼だ。しかも一度はまったら一生抜け出せない沼だ」という言葉が出る。この映画自体2008年の作品なのに「ビデオ屋」を扱っている。DVDではない。時代に取り残された街の沈んだ薄暗い色調が随所に見て取れる。時代の脈動を感じ取れない街の寂しさは、いつの時代も大きなテーマとなるが、この映画では自主映画製作に街の人々が参加することで一種の町興しのような要素が描かれている。一つのアイディアが次第に伝染していき、人々の頬が紅潮していく様には、自然と心が動かされるものがあった。
 パセーイク出身のファッツ・ウォーラーについてビデオ屋の店主と、マイクが話をする重要なシーンがある。その話の中でマイクが「ルイ・アームストロングや、デューク・エリントンでなくて、なんでファッツなんです?」と尋ねると、店主は「ファッツは明るいからだ」と答える。明るいファッツのことを思うと、皆明るくなれるだろ、と。
 この映画には、自分たちが今持っているもの、今いる場所を少しでも楽しく過ごすためのヒントが多く隠されている。街で映画の撮影が行われ、それに人々が参加する時、街の人々は役者になる。

 映画は街の中に潜んでいるのだ。

 この映画リアルクラシック! (←決め台詞。ヒップホップ用語で傑作の意味)

 ちなみに、マイクの顔がアメリカの有名なラッパーにそっくりだなぁ、すっげぇ似てます、モス・デフそっくり! と始めこのコラムに書いていたのだが一応調べたら、モス・デフ本人でした。恥かくとこだった! あぶねー! うへー!

 待ち合わせ場所の紀伊国屋書店前を後にして、茶屋町(梅田近くの地名)のほうへ歩いていくと、昔よく行ったソフトメンみたいなナポリタンを出す店が閉店していた。だいぶ古いお店で老夫婦がやっていたから仕方ないかぁ。
 しばらく昔を思い出し寂しい気分になったが、ハッと我に返り20代の今の自分に戻ると、意気揚々とWIRED CAFEへと向かった。

 

Track & Lyrics

ここでは、オノマトペ大臣がその映画にインスパイアされ書き下ろしたリリックを楽曲にしてご紹介!

このコラムのイラスト、今回の楽曲作成も行った漫画家・西村ツチカ先生の待望の新作『さよーならみなさん』(小学館)が発売中!

track by 西村ツチカ
mixed by 玉木大地

【落ち着かないの ~Her love in autumn~】

髪飾りの先が騒がしく跳ねて困る
コーヒーのカップ 洗って行かなくちゃ
ドキドキのハートビート 秋は恋のシンコペーション
つけまつげの先にゴミがついてて困る
これから私は変身するのよ
風の音が耳をふさぐ 私今も夢を見てる
長い袖に指を隠し 赤い糸を手繰っているのよ
Happy days are nearby the baby

金色のチョーカーが人の海で光る
浮いているわオシャレも視線も
風の音に心騒ぐ 私いつも夢を見てる
右の指につけたリング 落ち着かずに光っているのよ
Happy days are nearby the baby


 

次回からのトラックは一般募集いたします。世界中のトラック野郎(トラックメイカー)は、下記注意を参照の上、是非ご応募ください。
【トラック応募に関する注意】
①基本的にサンプリングNG
②3分以内
③音楽ジャンルは不問
応募の宛先はコチラ
onomatope_daijin@hotmail.co.jp

 

企画・構成:天野あゆみ