ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第5回『ショーン・オブ・ザ・デッド』
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『ショーン・オブ・ザ・デッド』
2004年/イギリス/99分
原題:SHAUN OF THE DEAD
監督:エドガー・ライト
脚本:サイモン・ペッグ/エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ/ケイト・アシュフィールド/ニック・フロスト/ディラン・モーラン/ルーシー・デイヴィス/ペネロープ・ウィルトン
映画史を激震させる(!?)衝撃のホラー・コメディ。ロンドンの家電量販店に勤める冴えないショーンは、その無気力で煮え切らない態度ゆえにガールフレンドのリズから振られてしまう。意気消沈したショーンだが、翌日起きてみると街中にゾンビがあふれていることに気づき、母親とリズを助け出すため居候のエドと共に奮闘する。
Blu-ray発売中!
NBCユニバーサル・エンターテイメント/GNXF-1779
http://db2.geneon
universal.jp/
contents/hp0002/
list.php?CNo=2&
AgentProCon=21588
(C)2013 UNIVERSAL STUDIOS
『ワールズ・エンド
酔っぱらいが世界を救う!』
2013年/イギリス/シンカ=パルコ/109分
監督:エドガー・ライト
脚本:エドガー・ライト/サイモン・ペッグ
出演:サイモン・ペッグ/ニック・フロスト/パディ・コンシダイン/マーティン・フリーマン/エディ・マーサン/ロザムンド・パイク
イギリスの個性派監督エドガー・ライトが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ-俺たちスーパーポリスメン!-』の盟友サイモン・ペッグ&ニック・フロストと組んだ痛快爆笑コメディ。ひと晩で12軒のパブを巡る冒険に身を投じたアラフォー男5人組の珍道中が、いつしか人類の一大危機に!?
シネ・リーブル梅田ほかにて上映中!
http://worldsend-movie.jp/
1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。
オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/
『ロシアンブルー』 トーベヤンソン・ ニューヨーク TJNY-001 http://tovejansson newyork.tumblr. com/ |
『街の踊り』 オノマトペ大臣 EP/MARU-098 http://maltine records.cs8.biz/ 98.html |
『PR0P0SE』 PR0P0SE MARU-113 http://maltine records.cs8.biz/ 113.html |
第1回 『しとやかな獣』 |
第2回 『僕らのミライへ 逆回転』 |
第3回 『私をスキーに 連れてって』 |
第4回 『殺人の追憶』 |
第5回 『ショーン・オブ・ザ・デッド』 |
第6回『告白』 |
ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」。第5回はエドガー・ライト監督のホラー・コメディー『ショーン・オブ・ザ・デッド』です。
人々は白い光の下、群れをなす。煌々と照らす現代の太陽、白熱灯の光をエネルギーに変えうごめく多数の消費者たち。小魚が集団で泳ぐときその全体像が大きなクジラに見えるように、スーパーマーケットの中には確かに巨大な化け物がいた。
増税前の駆け込み需要の機運は街の隅々まで行きわたり、テレビのニュースでその模様が伝えられる。オバちゃんたちが安売りの缶詰を買い漁る姿は、アメフトの試合を見ているようだ。「3%は大きいからね、値上がりする前に半年分買いだめしようと思って来たのよ」と勇敢な戦士がマイクの前でヒーローインタビューをしている。なるほどなぁ、たしかに安いうちに買った方が得かも。しかしちょっと考えて思った、半年分の缶詰ってなんだ? 荒れ狂う雪雲はすっかりなくなり、今年も夙川に桜が咲いた。
長かった冬も終わり、身も心もウキウキ☆外へ飛び出したくなる季節がやってきました。春物の洋服がなくて家から出られません、オノマトペ大臣です! どもー!
フレッシュな若者たちが街を七色に染めるこの時期、全然フレッシュじゃないそこのあなた! 家でラーメンばっか食って、ダラダラとツイッターでつぶやいてる暇があるなら、フレッシュな気分で映画でも見ませんか? そんなあなたにもオススメなのが、今回の映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』です!! はい起きて、ゾンビ映画の時間だよ!
2004年公開のイギリス映画、監督はエドガー・ライトで左のほうに情報載ってますが、最新作が大ヒット公開中で今注目の方です! 実はこの映画、ゾンビ映画の傑作と呼ばれている『ゾンビ(原題:Dwawn of the dead)』のパロディ的な側面もあるようで、たしかに若干似た作りになっています。パロディ洋画らしくゲラゲラ笑えるところも多くありますが、しっかり作ってあるので怖いところは割とガチで怖い。怖がり屋の皆さんはちょっと気合い入れて見てください! ホラ、うしろ!
ロンドン郊外に住むショーンは、ぼんやりした眼差しと口元の緩みからもハッキリ分かる冴えない29歳。恋人のリズとのデートは毎回下町感モロだしのパブに決まっていて、仕事にしても生活にしてもすべてにおいて無気力感が漂っている。ある日、謎の伝染病がイギリス全土を襲い、街中の人々が次々に狂暴化しゾンビとなっていく。日常の風景が恐怖のテーマパークと化すなか、ショーンは恋人や家族、友人を救うため奮闘するのだが…といったストーリー。人間の数よりも圧倒的にゾンビの数の方が多いので、ゾンビ狂のコアなファンの皆様にも大満足の作品となっている。
この映画を見る前、ゾンビ映画というものをほとんど見たことが無かったため、まずそもそも何でゾンビなんだ? という疑問が浮かんできた。SF小説の世界では、パラレルワールドやタイムトリップなど誰かが考え付いた強烈なアイディアがその世界の定説となり、その後のSF小説では前提事項のひとつとして受け継がれるという話を聞く。全く同じX,Y,Z軸に存在するもう一つの世界パラレルワールドという考え方を前提に、多くの作者が小説を書くとき、その考え自体は誕生から全て偽史として扱われるが、多くの優秀な才能がその前提に対して様々な考察を加えることによって文化的、精神的、ときに科学的にも重要な正史として多様な貢献を果たしている。
ゾンビもこれに似ている。元々はブードゥ信仰から発展しているようだが現在我々が考える、半分腐った死体がヨロヨロしながらマイケルのスリラー踊ってワァー、みたいなイメージはジョージ・A・ロメロの1968年映画作品『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』から受継がれている伝統の様だ。
今回の映画もまさにこのゾンビ像をそのまま受け継いでいる。ただ物語の前半で街の人々が次々に狂暴になっていく様をみてショーンたちが「ゾンビじゃん!」という言葉を発しており、この映画の中ではそもそもゾンビという存在自体を映画などで見て皆が知っているという前提で話をしている。個人的にこの映画を見ていて面白いなぁと感じたところもまさにここにあって、ゾンビというものの存在自体は初めからかなり冷静に理解し、受け止めており、その上で最終的に彼らとの付き合い方をどうするかという新しい観点を持ち込み、驚きの提案をしてくる。ゾンビ誕生から数十年経ち、新しい試みが提案されることによって、ゾンビ文化が成熟度をより高めていく。文化が前進する現場に立ち会う快感を是非味わってほしい。
ゾンビという存在の魅力は、それが何らかの表象であると人々が自然に思い巡らせてしまうところにもある。この映画は、ロンドン郊外の個性的ではないボンヤリした街の風景からスタートしており、ゾンビは大衆迎合主義の象徴として描かれているように感じる。ショーンは街中が次々とゾンビ化していくなか、数少ない「まともな人間」として彼らと対峙していく。クリケットのバットをぶんぶん振り回し、友人たちを先導する彼は頼りがいのある勇者のようだが、冷静になるとレストランの予約も上手くできないようなどうしようもない人間である。全然まともじゃない。生き残った彼の友人たちもボンヤリしたやつばっかりで、親友のエドに至ってはがさつな性分を活かしたサルの物真似をするくらいしか取り柄がないヒドイ男だ。彼らはゾンビという敵と戦っていくわけだが、彼らもまたある意味ではゾンビのような人間である。
大衆迎合主義批判のようなモチーフはマグリットの『収穫の季節』において頂点を迎えたが、この作品からは「皆ゾンビ」というシニカルな態度を超えた、21世紀のあり方が提案されているように感じる。彼らがゾンビに向かってレコードを投げる時、『ブルーマンデー』の初回盤を投げられてゾンビを前にしてエドに怒りを露わにし、ダイアーストレイツは投げていいよ、というショーンの態度には極めて人間的なあり方が現れている。同じような服を着て、同じような時間に眠っていても、そこに生きる人々のあり方は画一化されているわけではない。高度な消費社会が当たり前となり百年近く経ち、均一化された工業製品が人々の個性まで奪うわけではないという現代の重要なテーマをこの映画は図らずも扱っているように感じる。
とここまで、「大衆迎合主義」「高度な消費社会」と仰々しい言葉を使ってゾンビのコメディ映画をサンデーモーニング(TV番組)みたいに熱く語ってきたが、全編ほとんどがゲラゲラ笑えるシーンでてんこ盛りである。とくにエドがプップカプップカおならをするところとか、本当にしょーもないしお下劣なので、絶対にデートでは見ずに、ひとりでジャージ着てダラダラと観て欲しい。この映画を一度観れば私のように、
夢の中までゾンビに夢中! (←決め台詞)
となること請け合いだろう。
大量のダラダラしたゾンビを見たからか、この映画観た後は妙にやる気が沸きました。観る栄養ドリンクとしてゾンビのあなたにもオススメです!
増税前の駆け込み需要が終わり、今日もまたスーパーでペットボトルのお茶を1週間分買ってきた。冷蔵庫に入れてよしオッケー☆ 横の方を見ると、前にまとめ買いしたカップラーメンがあったので、これでも食べようかと思った。作り方を見ようとラベルを見ていたら、賞味期限「14.1.21」と書かれていて膝から崩れ落ちた。ゾンビのようなうなり声を上げてゴミ箱に捨てた。
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企画・構成:天野あゆみ