ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第3回『私をスキーに連れてって』
『私をスキーに連れてって』
1987年/日本/フジテレビ=小学館/98分
原作:ホイチョイ・プロダクション
脚本:一色伸幸
監督:馬場康夫
出演:原田知世/三上博史/原田貴和子/
沖田浩之/高橋ひとみ/布施博/鳥越マリ/
飛田ゆき乃/竹中直人/田中邦衛
ホイチョイ・プロダクション代表の馬場康夫が監督にあたった作品で、スキー場を舞台に、若者たちの恋の軌跡をハートフルに綴るキュートなラブ・ストーリー。原田知世&原田貴和子の姉妹や三上博史といった人気俳優が個性豊かに好演し、また編集段階でやたらに切りすぎたために生まれてしまったという、妙なテンポの良さがうけて大ヒットした。ホイチョイプロならではのモノやテクニックに関するこだわりも見どころ。
DVD発売中!
ポニーキャニオン/
PCBG-50461
詳細はこちら
(C)1987フジテレビ・小学館
(C)2013「ペコロスの母に会いに行く」製作委員会
『ペコロスの母に会いに行く』
2013年/日本/東風/113分
監督:森崎東
原作:岡野雄一
出演:岩松了/赤木春恵/原田貴和子/加瀬亮
/竹中直人/大和田健介/松本若菜/
原田知世
長崎在住の漫画家、岡野雄一の同名エッセイ漫画を映画化したユーモラスでハートフルな人間ドラマ。どうしても“辛い”“苦しい”“大変”というようなネガティブなイメージがある介護や認知症の問題を、それだけではなく普遍的な家族というテーマとして前向きに見つめた視点が光る作品。『ニワトリはハダシだ』以来9年ぶりに監督を務めたベテラン、森崎東の演出も見もの。原田知世&原田貴和子の姉妹共演は約20年ぶりで『私をスキーに連れてって』『結婚』(93/鈴木清順監督)に続き3作目。
梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて上映中!
http://pecoross.jp/
1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。
オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/
トーベヤンソン・ニューヨークの初シングルが11月9日(土)に発売!
「映画『アパートの鍵貸します』をフェイバリットにあげるメンバーが多数在籍する、映画好きにもご注目いただきたいバンドです!」by 大臣
New! 『ロシアンブルー』 トーベヤンソン・ ニューヨーク TJNY-001 http://tovejansson newyork.tumblr. com/ |
『街の踊り』 オノマトペ大臣 EP/MARU-098 http://maltine records.cs8.biz/ 98.html |
『PR0P0SE』 PR0P0SE MARU-113 http://maltine records.cs8.biz/ 113.html |
第1回 『しとやかな獣』 |
第2回 『僕らのミライへ 逆回転』 |
第3回 『私をスキーに 連れてって』 |
第4回 『殺人の追憶』 |
第5回 『ショーン・オブ・ザ・デッド』 |
第6回『告白』 |
ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」。第3回は、ホイチョイ・プロダクションの『私をスキーに連れてって』です。
渋谷の街はいつも僕たちをワクワクさせる。会社の出張で東京に来た帰り、せっかくだからと、渋谷住まいの玉木君(バンドメンバー)の家にお邪魔することになった。2、3年前僕が初めてソロ作品を作り上げたときほとんどの曲をここで録音させて貰った懐かしの部屋だ。当時僕は千葉にいて、東京はちょっと遊びに来るところ、という感覚だったが大阪に引越した今では、ここを訪れるのも一つの旅のように感じる。随分遠くに来たものだ。
せっかくなので何かやろうということで、ネットラジオを録音することになった。喋り始めた頃には深夜0時。ここ最近のあれやこれや、とりとめない話を二人で喋り始めた。楽しい。そういやこれ話しとかなきゃ、あのこと説明しなきゃ、どんどん話は加速し最終的には朝5時を廻っていた。なんてことだ。喋り過ぎた。もういい加減寝ようとマイクの電源を切ったのだが、その瞬間も僕はもっと話したいなぁと思っていた。もっともっと。人は旅に出ると、語るべき言葉を探すのかもしれない。カーテンの隙間から朝日が差すのを感じながら眠りについた。
どうも冬の恋してますか? 毎度おなじみ江坂NO.1 SOUL SETことオノマトペ大臣です!
冬もいよいよ本格化し静電気体質の私には厳しい季節がやってきました。どこに行ってもバチッと来るのを恐れ、ドアノブを目にすると人の背中に隠れる恥ずかしい日々を送っています。そんな静電気に怯える私を尻目に、街にはイルミネーションが溢れ、マライア・キャリーが流れまくり。否が応でも、ロマンチックな気持ちになってしまいます。そんな季節に、ピッタリの作品が今回のお題『わたしをスキーに連れてって』です!
正直『しとやかな獣』、『僕らのミライへ逆回転』と来てなんか急に商業主義の薫り高そうな作品に、「おいおい大丈夫か? これ、中身薄っぺらいんじゃないの?」と反骨精神剥き出しの辛口批評も辞さない心持ちになった私でしたが、開始数分で気持ちはガッツリ志賀高原。爽やかな風が心の中を吹き抜け、頭の中はシュプール描きまくりでした! ロマンチック警報発令!
商社に勤める26歳の矢野(三上博史)は軽金属部に籍を置くが、スキーウェアを扱うスポーツ部門に毎日顔を出すほどのスキー好き。冬になると、いつもの仲間とスキー三昧を楽しんでいる。そんな仲間たちで志賀高原を訪れたとき、ひょんなことから知り合った、優(原田知世)に一目惚れ。矢野の不器用な恋のアタックが始まる。。。物語後半には、矢野が携わったスキーウェアの発表会にトラブルが発生し、志賀高原にいる矢野たちが万座の発表会場に山づたいに向かう、圧巻のスキーシーンが展開される。
恋愛映画の場合、観客が主人公に恋をできるかどうかが作品の肝だと思うが、この作品の優ちゃんには、町内随一の硬派でならした私も、登場シーンでいきなりノックアウト! 画面全体が白い雪で覆われた中、全身真っ白のスキーウェアを着た肌の白い彼女。マーク・ロスコ(芸術家)の作品に、大きなキャンバスを真っ黒く塗りたくり観る者全てに、何とも言えない独特の感情を呼び起こさせる作品があるが、それの白版とでも言えるような非常に美しいシーンになっている。一流の芸術作品だけがまとう独特の気品に満ちたこのワンシーンで、観客は完全にヒロインに惹きこまれ、物語に体ごと入っていくことになるのだ。
優の相手役となる矢野は、スキーをさせると唖然とするぐらい上手い。劇中随所で華麗なテクニックが惜しげもなく披露され、さながら哺乳類のガチャピンとでも称したくなるような一流アスリートっぷりに誰しもうっとりすることだろう。しかし、こと恋愛に関しては急にモジモジして口下手になってしまう。優に一目惚れしてアプローチするものの、じれったいやり取りが続き、見ているこちらが「おい、頑張ってくれよ」と全力で応援したくなる二人の恋ではあるが、矢野の悪友たちはお節介とジョークの狭間で折を見ては、邪魔をしてくる。とくに布施博演じる泉和彦は、笑うと目がなくなる子供みたいな笑顔とは裏腹に、繊細さを欠くガサツな首の突っ込み方で、物事を掻き乱してくる。
二人がイイ感じの雰囲気になっているときに、置いてある矢野のスキー板を嬉々として奪い去るいたずらや、矢野が初めて優に電話をかけるシーンで緊張し、ためらっていると「オラ貸せよ! みんな期待してるんだぞ!」と無慈悲に電話番号を奪い去り、勝手にダイヤルを回すところなんてまるでジャイアンそのもの。情緒の欠片もない!
神の存在をも疑いかねない愚行の数々が展開され、怒りが沸々と湧き上がってくるところだが、要所要所では名アシストもしてくれ、結果的には矢野をイイ方向に持っていってくれたりもする。結構イイところもあるのだ。恋愛というと愛し合う二人だけの世界という印象があるが、ああでもない、こうでもないと、気心知れた仲間たちと語らい、それによって恋が前進する側面も強い。この映画では実は重要な、恋の名脇役たちの姿が良く描かれている。是非そちらにも注目して見て頂きたい!
名脇役と言えば音楽もまた、恋を盛り上げる重要な脇役である。この映画では全編に渡り、松任谷由美の歌が採用されている。「サーフ天国、スキー天国」「恋人はサンタクロース」「BLIZZARD」等どれをとっても珠玉の名曲ばかり。この名曲たちが、主人公の心の動きに連動してナイスなタイミングで流れるのだ。特に終盤、原田貴和子扮する真理子が「女26、色々あるわ」と最高なキラーフレーズを放ち車を爆走させ、優が難所をスキーで滑走していくときに流れる「BLIZZARD」は彼女たちの決意が現れて素晴らしいハマり具合だった。女性たちがドラマを演じる時、そこにはいつもユーミンがあったのだろう。なんて素敵な時代なんだ!
矢野が優に会うため雪道を車で走るシーンがある。高く積もった雪の夜道を、ライトを照らし進んでいくのだが、このシーンを離れたところから撮影するカメラのレンズには、端の方に反射したライトの光が球になって映ってしまっている。一瞬映画に没入している状態が解け冷静な気分になったが、次の瞬間このライトが自分自身を照らしているように感じた。あの光は 問いかけているようだ「君の恋はどうなんだい?」と。
この映画は、トレンディな雰囲気が漂い、こっ恥ずかしくなるようなキザなシーンも多い。しかし、人生にとって本当に重要なシーンはいつだってかっこつけていて、ちょっと恥ずかしいものだろう。自分主演の映画の世界に好きな人をエスコートする気分で恋ができれば最高じゃないか? 男子諸君
私を映画に連れてって(←今回の決め台詞)
と言わせてみようじゃないか!(かなり強引!)とにかく冬に最高な映画です!
帰りの新幹線の中、好物の駅弁をパクつきながら東京のことを思い返していた。今回も色々とあったなぁ。恋人に会ったら何の話をしようか考えながら、マフラーを首に巻き新大阪駅で降りた。こっちも寒いな。今年も冬がやってきた。
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企画・構成:天野あゆみ