ホーム > 文章と詩(ラップ)で綴るオノマトペ大臣のシネマコラム「シネマ、ライムズ&ライフ」 第4回『殺人の追憶』
(C)2003 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
『殺人の追憶』
2003年/韓国/シネカノン/130分
原題:MEMORIES OF MURDER
監督:ポン・ジュノ
脚本:ポン・ジュノ/シム・ソンボ
音楽監督:岩代太郎
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/
キム・レハ/ソン・ジェホ/ピョン・ヒボン/
パク・ノシク/パク・ヘイル/チョン・ミソン
韓国の2003年観客動員数ナンバーワンを記録した極上のミステリー映画。1980年代後半、ソウル郊外の村で実際に起こった連続殺人事件に基づき、犯人探しに奔走した刑事たちの姿を描く。韓国の国民的俳優ソン・ガンホと『気まぐれな唇』のキム・サンギョンが対照的な性格の刑事コンビを好演。事件の猟奇性だけではなく、登場人物の感情に焦点を当てたヒューマンなドラマに仕上がっている傑作。
『殺人の追憶』
DVD発売中
¥1,500+税
発売・販売 KADOKAWA
http://www.
kadokawa-pictures.jp/official/
tsuioku/video.shtml
(C)2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED
『スノーピアサー』
2013年/韓国=米=仏/125分
ビターズ・エンド=KADOKAWA
監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エヴァンス/ソン・ガンホ/
エド・ハリス/ジョン・ハート/
ティルダ・スウィントン/ジェイミー・ベル/
オクタヴィア・スペンサー/
ユエン・ブレムナー/コ・アソン
フランスでカルト的人気のコミック『LE TRANSPERCENEIGE』を韓国の鬼才ポン・ジュノ監督が映画化。舞台は、地球温暖化を阻止するために使用した薬品によって地球が氷河期のような深い雪で覆われ、すべての動植物が死滅してしまった近未来。そこで、唯一生き残った人間たちは“スノーピアサー”と呼ばれる列車に乗り込み、終わりのない旅を続けている。この列車の内部には人間が暮していく様々なシステム・設備とエンジンが搭載されているが、豊かに暮せるのは先頭部の車両で暮す一部の人間だけで、大部分の人間は後部車両で奴隷同然の生活を強いられている。映画は、『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンス演じる主人公カーティスが自由を求めて仲間と共に反乱を起こし、先頭車両へと突き進む過程と“スノーピアサー”に隠された衝撃の真実を描き出す。本作は列車の車両ごとに異なる世界を用意することで、アクションだけでなく、人間ドラマやサスペンス、コメディ、SFの要素も盛り込んだエンタテインメント大作。
TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中!!
http://www.snowpiercer.jp/
1985年生まれの会社員/ラッパー。
2011年インターネットの音楽レーベルMaltine recordsよりソロ作『街の踊り』を発表。古くからの友人TOFUBEATSとともに作った『水星 feat.オノマトペ大臣』がヒット、各地で話題を呼ぶ。ソロ活動の他、 テムズビートとのユニット「PR0P0SE」やこのページのイラストも手掛けた漫画家、西村ツチカやインディーポップユニット「スカート」の澤部渡らが参加するバンド「トーベヤンソン・ニューヨーク」でも活躍。気鋭作家による同人誌『ジオラマ』への参加や、地域研究同人誌『関西ソーカル』等で文筆活動も行う。
オノマトペ大臣オフィシャルサイト
http://onomatopedaijin.com/
トーベヤンソン・ニューヨークの初シングルが発売中!
「映画『アパートの鍵貸します』をフェイバリットにあげるメンバーが多数在籍する、映画好きにもご注目いただきたいバンドです!」by 大臣
『ロシアンブルー』 トーベヤンソン・ ニューヨーク TJNY-001 http://tovejansson newyork.tumblr. com/ |
『街の踊り』 オノマトペ大臣 EP/MARU-098 http://maltine records.cs8.biz/ 98.html |
『PR0P0SE』 PR0P0SE MARU-113 http://maltine records.cs8.biz/ 113.html |
第1回 『しとやかな獣』 |
第2回 『僕らのミライへ 逆回転』 |
第3回 『私をスキーに 連れてって』 |
第4回 『殺人の追憶』 |
第5回 『ショーン・オブ・ザ・デッド』 |
第6回『告白』 |
ラッパー、ミュージシャン、作詞家のオノマトペ大臣に、編集部が指定した映画を観てもらい、評論家や専門家とは違った目線から生まれた言葉(コラム&ラップ)を紹介する企画「シネマ、ライムズ&ライフ」。第4回は、ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演の大ヒット・ミステリー作『殺人の追憶』です。
ひとつ曲がり角ひとつ間違えて迷い道くねくね。渡辺真知子『迷い道』の歌詞である。人は曲がり角に差し掛かったとき進むべき道を自分で選ばなくてはならない。私はいま、まさにこの選択を迫られている。事務所で午前の仕事を終え、以前に会社の先輩に教えて貰ったちゃんぽん麺屋に行ってみようと思ったのだが、場所が思い出せない。大阪駅前には第1~第4まで昔からあるビルが4つほど連なっているのだが、どれも形が似ているし、巨大な要塞のようだ。方向音痴の私が道を覚えるのは容易ではない。記憶を辿りながら歩みを進め、うろ覚えのチケット屋が見えてきた。ここを過ぎて右に曲がれば、目的の場所だ。のはずだ。しかし、右に曲がってしばらく行ったがちゃんぽん麺屋はなく、また別のチケット屋が現れた。こっちのチケット屋だったっけ? と自分なりの推理をし、過ぎてすぐ右に曲がったが目的の場所は現れない。しばらく行ってもちゃんぽん麺屋は現れずおかしいなぁと思っていると、代わりに以前に行ったことのあるうどん屋が現れた。あれ、ひょっとしてちゃんぽん麺屋とうどん屋が頭の中でごっちゃになっていたのか。時計を見ると昼休憩は残り20分。吸い寄せられるようにうどん屋に入った。迷い道くねくね。
どうもー見てました? ソチ! 映画コラム界のK点越え、オノマトペ大臣です。暦の上では余裕で立春過ぎましたけど、まだまだ寒いですね。早く春が来ないかなぁと寝る前暖房の電源切りながら氷河期を過ごす今日この頃ですが、当コラム的には春の訪れ並みに嬉しい話題が舞い込んできました! 前回のコラムソング『espresso』を作曲してくれた、考える正方形氏がなんと《第8回TOHOシネマズ学生映画祭》のオープニング音楽を担当されることになりました! うおー! マジスゲー! 映画のコラムを担当している身としては、こうして参加してくれた人が映画文化に直接的に貢献してくれている様を見ると胸が熱くなります。映画祭の成功をお祈りするとともに、考える正方形氏には「シネマライムズ&ライフ組(←蜷川組みたいなノリ)」として多方面でご活躍して頂きたいと思います! 俺のこと忘れないでくれよな!
というわけで、景気イイ流れに乗っかってようやく映画の話に入っていくわけですが、今回の映画はズバリ『殺人の追憶』です。いきなり言っちゃいますが、まぁ~とにかく面白い!! 大臣太鼓判の作品です!
監督は、ポン・ジュノ監督。『グエムル-漢江の怪物-』や、『母なる証明』など記録的なヒットを連発させている韓国映画界きっての鬼才。彼の作品では、『グエムル-漢江の怪物-』と『吠える犬は噛まない』の2作品だけしか観たことがないんですが、生活実感のこもった会話のやりとりから地続きに、いつのまにか狂気の世界に足を踏み入れている何とも言えな独特の展開を生み出すのが魅力的です。グエムルでは、どう紳士的に言おうとしても適切な表現が「グロい」としか言いようのない執拗な怪物表現がなされ、鑑賞後8年程経った今でもありありと思い出されます。とても生々しい。『殺人の追憶』においてもこの生々しい表現は人間描写として冴えわたっており、巷間で言われるリアリティのようなぼんやりしたものとは質が異なる、肉体に直接訴えかけるような凄みが全編に渡って統一した緊張感となって包んでいます。
映画の内容は韓国の田舎町で実在した連続殺人をテーマにしたもので、犯人を追いつめる刑事たちの奮闘、という実に王道と言えば王道なミステリーなのですが、ご覧いただけるとお分かりになるとおり、途中いくつもある曲がり角を選んでいくとその先は迷い道、くねくねととても特殊な展開を辿っていきます。
主要なキャストは、韓国の名優ソン・ガンホが演じる無骨な刑事を筆頭に、都会から出てきた頭の切れる刑事、手が早い暴れん坊刑事。欽ちゃん劇団でいうところの、良い子、悪い子、普通の子さながらの、知力と体力のパラメーターが等間隔に並んだ分かりやすい3人組。愛されたようにしか人を愛せないのと同じように、それぞれ自分が教わってきた手法でしか捜査ができない彼ら。最初は反発していても、日が経ち追い詰められていくと、何か別の拠り所を模索してか、段々とその手法が似通っていく様は心理描写としても非常に面白く感じました。
この映画の舞台は韓国の田舎町。この町で生まれ育ったソン・ガンホ演じる無骨な刑事は、長年の勘を頼りに犯人に目星をつけ、確たる証拠がないまま尋問を続け犯人であると自白させようと尽力します。犯罪史でも類を見ないほど複雑で、ひとつの証拠も出さない狡猾なやりくちの犯人に、極端に単純化した方法で迫ろうとする彼の姿には、限られた範囲で単純化された関係性のなか生活を営む田舎の精神性が反映されているように見えました。それに対し、殺人当日のラジオリクエストといった直接の関係性が全く見えてこない事実を手掛かりに捜査を進める、頭の切れる刑事は極端な複雑さを過信する都会の精神性として対比され、また終始空回りしている暴れん坊の刑事は現代に対する、過去のやり方としてとらえられます。3人の人間がもがく姿が生々しく描写されることによって、田舎と都会、過去と現代、というものの正体があぶり出されているように感じます。
刑事たちは犯人を追い詰めては、新たな事実の発見により振り出しに戻ります。この映画が素晴らしいところは、この「戻る」というのが、本当に振り出しに戻ることを意味することで、今まで見たミステリーサスペンス系の映画ではほとんどが犯人を取り逃がしても、それは次へのステップに繋がっているという描写ばかりだったので、この点はかなり新鮮でした。実際人生には、同じ手法の延長に次のステップがある場合ばかりではなく、全く別のやり方を試さないとならない局面も多いことでしょう。ある視点から積み上げたものが崩れても、また別の視点から一から積み上げトライ&エラーを繰り返す彼らは、犯人逮捕という観点から見るとほぼ何の意味もない時間となるのでしょうが、ただただ人格の形成という点において道を進んだと言えることでしょう。そのことに価値を見出すことができるかどうか迫られている気がします。
映画全体を通しても茶色掛かった抑え目なトーンの色使いとか、スローモーションになるシーンでの全員の構図の妙とか、美術的な目線で見ても見どころ十分。
自分の人生をふと考える機会になること請け合いなので、ソチ五輪が終わって脱力したあなたは、新生活のスタートに『殺人の追憶』いかがでしょうか!
この映画マジ金メダル級!(←今回の決め台詞)
時間大丈夫かなぁと思いながら、うどん屋で月見うどんを注文したら時計を見る間もなく商品がやってきた。ものすごい早さだ! 食べようと思い箸を割った後、思うところあって席を離れ、銀の器が置かれたエリアにやってきた。ネギ入れようっと。キャベツが大盛りのちゃんぽん麺とは程遠いが、せめてもの野菜の摂取にと、器に盛られたネギをいつもより沢山入れることにした。これはこれで上手い。満足感を感じながら少し早足で事務所への帰路を急いだ。
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企画・構成:天野あゆみ