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「燃え尽きるまで自分が本当にいいと思う曲を書くことが僕の使命」
自分の音楽の理解者が自分のプライドになる
長澤知之の愛と幸福と誇り高き現在
『ソウルセラー』インタビュー&動画コメント

 1曲目を再生した瞬間に飛び込んでくる、“あー!”という何でもない第一声から、もう長澤知之でしかない。そんな強烈な個性=歌声と、くらくらするぐらいに美しいメロディが、次から次へと押し寄せる2年ぶりの長澤知之の新作『ソウルセラー』は、近年のAL(小山田壮平×長澤知之×藤原寛×後藤大樹)としての活動を経て、再びシンガーソングライターとしての真髄と今を刻んだアコースティックミニアルバム。今作には、細海魚(key・HEATWAVE/SION with THE MOGAMI/他)、キタダマキ(b・Syrup16g)、渡辺等(b)、後藤大樹(ds・AL)、佐野康夫(ds)らに加え、世界的アンビエントアーティストのChihei Hatakeyamaらも参加。’06年のデビューから13年、唯一無二であり続ける長澤知之の音楽は、’19年の今日もここにまばゆく輝いている。音楽家としての夢も誇りも手放さず、魂の揺らぎに身を委ねてたどり着いた現在地を、山本健太(key・ex. オトナモード)と共に旅の途中にいる、長澤知之が語る。そう、全ては音楽のために――。

 
 
何でもかんでも帰結するところは音楽だから
 
 
――近年はやっぱりALが動いていたから、長澤くんの活動はAL↔︎ソロとの往復で。
 
「そうそう、頭を使い分けなきゃいけなかった。だから久しぶりにソロに戻ると、“そうか、これも自分でやらなきゃいけないんだ”と思ったり(笑)」
 
――そうね。ある種バンドだったら“サボれる”とは言わないけど(笑)、任せられるところも。
 
「そう(笑)。でも、そういうのに慣れちゃうとよくないなって思った。いざ、こういうふうにソロでインタビューされたときとかに、“えーっと、えーっと”ってなるから(笑)。何かこう、運転とかギターとかと同じなのかもしれないけど、鈍っちゃうんですよね。人間関係もそうだけど。“この人ってどんなテンションの人だっけ?”みたいな」
 
――長澤くんがNABOWAとコラボしたときもそうだったけど、人と一緒にやるときに、いい意味で長澤知之のまんまでいないのが面白いよね。長澤くんはこういう観点もあるのかとか、見ていて新鮮で発見も多いし。
 
「自分がいかにわがままな人間かは分かっているから、それを出さないようにバランスを取るというか、そうじゃないとうまくいかないって自覚しているんで(笑)。わがままになり過ぎないぐらいのわがままを出すぐらいにして」
 
――でも、こうやっていざ己の表現となったときは違うと。
 
「そうですね、独裁(笑)。音楽だけに関してですけどね」
 
――『GIFT』(’16)をリリースしたときも、バンドをやっているとその反動で、アコースティックな表現に長澤くんの中の振り子が移り変わっていく。ALをやっていたからこそ、『ソウルセラー』はアコースティックと。
 
「ずっとカレーばっかりだと飽きるからラーメンを食べに行こうとか、そういう感じと似ていて(笑)。バンドのグルーヴがすごく楽しいときもあるけれど、また違うところで頭を使い始めて、“1人だったら楽なのにな”って思う部分もあるし。1人になったらなったで、新しいセッションミュージシャンの方に、“僕はこういうふうに思っていて”って1から話さなきゃいけない。でも、そこをおろそかにしたらうまくいかなくなっちゃうし。バンドのオリジナルメンバーだったら甘えられるけど、甘える分何かが生じるというか…だから、どっちも経験するのは悪くないなって」
 
――それが自分にも音楽にも返ってくる。
 
「うん。何かヘンな話だけど、世の中のバンドの見方もちょっと変わったり。“1人は大変だな、バンドを組みたかったな”っていうのはもう経験したから」
 
――ただ、ALがひと段落してじゃあ次はソロとなったとき、リフレッシュのために旅行しようと思っていたのに、結局、行かなかったのよね?
 
「最初はサバイバルをやろうと思っていたんですよね(笑)。食材もあんまり持って行かないで、釣りとかで何とかしようと思ったんだけど、周りの友達とかから、“実際にやってみたらマジで何も食べられない日もあるし、多分耐えられなくなるよ。お金も持って行かないんでしょ?”って言われて。エマージェンシーな最低限のお金を靴の中に入れて持って行こうとは思っていたけど(笑)、“いや、知之は絶対に甘く見てるよ”って」
 
――長澤くんをよく知る友人たちが、ちゃんとコントロールじゃないけど、未然に(笑)。
 
「そもそも旅に出たかったのも、何でもかんでも帰結するところは音楽だから、何かインプットしようと思ったからで。作ってる最中は他の音楽があんまり聴けなくなっちゃうから、美術館に行ったり、建築物を観たり、いろいろと音楽を聴いたり。インプットしているときは、“俺は今こういうふうに思っている”って分かるんですよね」
 
 
信頼される自分でいたいなとはずっと思っていますから
 
 
――もうアナウンスもされているけど秋にバンドサウンドでのミニアルバムのリリースも控えていて、最初からそのつもりで『ソウルセラー』は作り始めたの?
 
「そういう想定で始めて、ここに入っていない曲もいろいろあって。『あああ』(M-1)はたまにライブでもやっていたりして、『笑う』(M-3)もやったことはあるかな? ただ、言葉だとか、考え方という意味ではコンセプチュアルなものではなくて、サウンドでそういうふうにしようとなっただけで。その時々に感じていたり思っていることを書いたものが入っている感じですね」
 


――それこそ『あああ』とか『笑う』なんかはとても幸福だね、こういうことを思えたら。
 
「あの…幸福になりたい(笑)」
 
――アハハ!(笑) 今回は長澤くんの幸福感というか愛みたいなものもすごく感じましたね。激しさとかドロドロの感情はバンドサウンドの方が出やすいのかもしれないけど、光と影があるなら、光を感じさせる曲が多いなと。
 
「そうですね。今、奥さん(=筆者)がおっしゃったように、感情がサウンドに表れやすいなと思うのは…例えば、“怒り”ってスピードを伴うじゃないですか? 気持ちが“ブワッ”となるからバンドサウンドが合うし、怒っているときにアルペジオなんか弾く気にはならないし(笑)」
 
――確かに、キレているのに細かいアルペジオを弾いていたら、“どんだけ辛抱強いヤツやねん!”ってなる(笑)。
 
「アハハ!(笑) そういうのは何かちょっと曲と乖離するから、“これはバンド向きだな”ってなっちゃうことに」
 
――今って断捨離とかミニマリストみたいな感じで、物を持たないとか、どんどん捨てる、どんどん身軽になろうみたいな風潮があるけど、人生にはちゃんと持って歩かなきゃいけないものがあるということが、タイトル曲の『ソウルセラー』(M-2)からは感じられて。歌うためのエンジンというか、使命感というか。
 


「そう思う。ただ、例えばこうやって奥さんと話しているときもそうで、自分の理解者が自分のプライドになっていく、そういうすごくポジティブな気持ちと愛が大半を占めているんだけど、確か最初はちょっとキレ気味に書き始めたような気がする(笑)。多分、書いていくうちに自分のいる環境への喜びだったり、理解者がいることが嬉しいと気付いたというか…言葉にしようとすると安っぽくなるなって、すぐに頭の中で思っちゃうけど」
 
――この曲はフラッシュバックする長澤くんの生き様というか、まさに長澤知之の“現在”という感じがする。何の仕事でもそうだけど、自分を分かってくれる人がエネルギーになって、カッコ悪いことはできないなとも思うし。
 
「本当にそう!」
 
――この曲ではそういう気持ちを言葉にしてくれていて、長澤知之の理解者=リスナーはきっと嬉しいと思うよ。
 
「よかったです。信頼される自分でいたいなとはずっと思っていますから」
 
――『Archives #1』(’17)のインタビューでも、“いい曲を書くシンガーソングライターがいたなって、人生の中の良質な記憶として残っていてほしい”と長澤くんは言っていて。そこは揺るぎない気持ちというか、だからこそ真摯に音楽と向き合って、曲を書いて。
 
「これからどうなるのか、いつが結末かは分からないけれど、燃え尽きるまで自分が本当にいいと思う曲を書くことが僕の使命だと思うから、それをやり続けていく。一生懸命、ちゃんと作品を作り続けたいなと思っていますね」
 
 
人前で、同じ空間で、ライブをやるのが楽しみだと思えている自分が好き
 
 
――今作では『金木犀』(M-4)に世界的なアンビエントアーティストChihei Hatakeyamaさんがサウンドプロデューサーとして参加してくれているけど、きっかけはディレクターの方からの推薦だったと。
 


「Chiheiさんは本当に寡黙な方で、ちゃんと仕事=音楽で表現するというか、素晴らしい世界観を見せてくれたから。この曲では特に空気感だとか、映像とか、五感を刺激するような要素が欲しかったから、そういう意味ではChiheiさんは本当に適任で。よかったなぁと思います」
 
――この曲とか、フジロックのFIELD OF HEAVENとかGYPSY AVALONで観たいなと思った。長澤くんの新しい表現の1つだなと。でも、長澤くんってホント金木犀が好きだよね。
 
「あ、言いましたっけ?」
 
――俺は長澤くんのブログを熟読していますから(笑)。
 
「そうか(笑)。いろいろな思い出がフラッシュバックするのと、嗅覚って一番記憶に密接な感覚らしくて。よく言うじゃないですか、“昔、付き合っていた子の香水が”とか」
 
――シャンプーとか、お父さんの枕の匂いとか。
 
「そうそう。一瞬で“バッ!”とフラッシュバックする。それが僕にとっては金木犀で、追憶の中にある匂いであって。だから、やっぱりすごく好きなのと、同時にいろいろと考えさせられたり(笑)。そういう象徴ですね」
 
――あと、『Close to me』(M-8)は結婚式とかでも歌える曲だなと。『あああ』とか『笑う』とも通じる、“何だろうこの幸福感は”っていうぐらいの愛。
 


「それは書いているときもちょっと思ったんですよね。でもまぁ、別にそこを心配する必要もないかと思って(笑)」
 
――愛が溢れる分には制限する必要もないよね?(笑) 今作を聴き進めて、最後のこの曲が終わったとき、“うわ〜やっぱり長澤知之はすげぇわ”って思ったよ。
 
「アハハ!(笑) ありがとうございます。嬉しいです。光栄です、本当に」
 
――今作を形にしていく作業は楽しめた?
 
「1つあるのは、 GarageBandでいろいろと遊ぶのが面白くて。それまでは簡易なシーケンサーとMTRとかで遊んだりしていたんだけど、こういう便利なものがあるんだと思って。本当におもちゃの延長線上で楽しかったし、あと、新しいディレクターさんが博識で、いろいろと好きな音楽だとかを教えてくれて、それにハマったりして。Chiheiさんにしてもそうですけど、そういうのがあったからまた新しい出会いとか発見があって。とは言え、人と会うのは億劫なんだけど(笑)、そういうことを経てこそ“なるほど”って俯瞰したり、自分の多面性、人の多面性を知ったり、いろいろと発見があって面白いなぁと思いましたね」
 
――そして、今回のタイトルは『ソウルセラー』で、そのまま受け取ると“魂を売る”になるけど、絶対にそうは思わないのが長澤くんがやってきた音楽への信頼かなと。そもそも長澤くんの魂=音楽だと思うから、その音楽を世に売っていく、届けていく。今作はより長澤知之そのものな感じがしますね。アコースティックツアーに向けてはどう?
 
「これは元オトナモードで同い歳の山本健太(key)くんと2人で回る感じです。もう知った仲だし、彼はコーラスもうまいから頼りにしていて。やっぱり人前で、同じ空間で、ライブをやるのが楽しみだと思えている自分が好き。怯えているときもたくさんあるけど(笑)。それこそ、たかっちゃん(=谷口貴洋)に、“長澤さんはライブをしなさ過ぎ。ライブに怯え過ぎだ”って言われて(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) あいつも言うよねぇ。でも今、改めてライブ楽しみだと思えるのは。
 
「幸せなことです。旧曲ばかりやっていても楽しくないんで、何より新しい曲ができて、それをライブでやりたい」
 
――長澤くんのプライドを形成する人たちの前で演奏できるのはいいね。
 
「うん。何かヘンな言い方だけど、自分にとってライブはとってもロマンチックなことだなぁって思っています」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史



(2019年4月 9日更新)


Check

Movie

新譜と大阪の友達と城について(笑)
長澤知之からの動画コメント!

Release

ほとばしる才能とメロディセンス
アコースティックな最新作!

Mini Album
『ソウルセラー』
発売中 2300円(税別)
Au(g)tunes
POCS-1774

<収録曲>
01. あああ
02. ソウルセラー
03. 笑う
04. 金木犀
05. コウモリウタ
06. 歌の歌
07. ゴルゴタの丘
08. Close to me

Profile

ながさわ・ともゆき…8歳でビートルズとブラウン管ごしに初対面、10歳でギターを始め、1年足らずでオリジナル曲の制作をスタート。18歳でオフィスオーガスタのデモテープオーディションでその才能を認められる。以後、福岡のライブハウス・照和、東京のライブハウスでのマンスリーライブを行いながらデモ音源を作成し、’06年にシングル『僕らの輝き』でメジャーデビュー。ミニアルバムのリリースを連発した後、’11 年に自身初のフルアルバム『JUNKLIFE』をリリースした。その後もコンスタントに作品を発表し、’13年には2ndフルアルバム『黄金の在処』をリリース。’15年にはAL (小山田壮平×長澤知之×藤原寛×後藤大樹)のvo&gとしても正式に活動をスタートさせ、’16年4月には1stフルアルバム『心の中の色紙』をリリース。同年8月にはソロデビュー10周年を迎え、12月には6thミニアルバム『GIFT』をリリースした。’17年4月にはデビューからの10年を総括するアンソロジー・アルバム『Archives #1』をリリースし、収録曲である『蜘蛛の糸』も大きな話題を呼んだ。また、’18年1月にはALとしても2ndフルアルバム『NOW PLAYING』をリリース。また、同年12月の『Close to me』を皮切りに、『笑う』『金木犀』『ソウルセラー』と4ヵ月連続配信リリースの後、’19年3月20日にはアコースティック・ミニアルバム『ソウルセラー』をリリースするなど、現在も精力的に活動している。

長澤知之 オフィシャルサイト
http://www.office-augusta.com/nagasawa/

Live

アコースティックギターと鍵盤で
全国を巡るツアーで間もなく大阪へ!

 
『Nagasawa Tomoyuki
Acoustic Tour 2019 ‘Soul Seller’』

【愛知公演】
Thank you, Sold Out!!
▼4月4日(木)sunset BLUE
【福岡公演】
Thank you, Sold Out!!
▼4月6日(土)・7日(日)照和

【広島公演】
▼4月9日(火)Live Juke

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード140-870
▼4月11日(木)19:00
心斎橋JANUS
全自由4320円
[メンバー]山本健太(key)
GREENS■06(6882)1224
※未就学児童は入場不可。
 小学生以上は有料。

チケット情報はこちら

 
【北海道公演】
Thank you, Sold Out!!
▼4月20日(土)くう COO
【東京公演】
▼4月23日(火)duo MUSIC EXCHANGE

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後藤大樹)の大阪初バンドライブを
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蜜月のグルーヴを生み出した
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Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「長澤くんがまた素晴らしい音源を作ってくれたから、こうやって会えましたよね。1曲目の『あああ』の生々しさ、素直さ、ピュアさ、そして聞いたことがないタイトル(笑)。全部が長澤知之で(最高)、まさに彼の現在地。歌詞の端々に感じる終末感というか、いずれ確実にやってくる終わりを見据えたかのような死生観や、彼の深い愛や幸福感も、今作では見事に曲になっています。SIONさんの現場では欠かせない細海魚さんの鍵盤もいい仕事をしていて、『歌の歌』(M-6)の“ミラクルは起こすものじゃないよ/気付くもの”という一節とかも、熟成していく30代の長澤くんならではの表現だなと。日々SNSを眺めていても右か左か、己の正義を振りかざす光景にしんどいな~と思いがちな世の中ですが、『ソウルセラー』を聴いていると、もっとそんなことじゃなくて、身近にある幸福や“好き”を感じている方が豊かな人生だと思い出させてくれます。それを声高に主張するでもなく、痛烈にラップするでもなく、美しいメロディに乗せて胸に届けてくれる長澤知之、やっぱりすげーわ」