インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「僕は人生が終わるのが怖過ぎるんですよ」 限りあるこの生命が燃え尽きるまで歌い続けるために―― plentyが到達した現在地たる4thアルバム『life』を語る 江沼郁弥(vo&g)インタビュー


「僕は人生が終わるのが怖過ぎるんですよ」
限りあるこの生命が燃え尽きるまで歌い続けるために――
plentyが到達した現在地たる4thアルバム『life』を語る
江沼郁弥(vo&g)インタビュー

 前作『いのちのかたち』(‘15)から僅か1年弱で完成した最新アルバム『life』。デビューして約7年経つが、周りのシーンに惑わされることなく、自分たちの作りたい音楽を、ただ淡々と追い詰めながら煮詰めながら作るという姿勢は何も変わらない。バンドにとってフェスが重要視される現代に、分かりやすく煽ったり盛り上げるだけでなく、丁寧に自分たちの音楽を伝えようとする真摯な姿勢には本当に頭が下がる。この果てない作業を延々と続けるのは容易いことではないが、江沼郁弥(vo&g)は、そこにひたすら挑む。前回のアルバムはメンバー全員のインタビューになったが、今回は江沼にじっくりゆっくりと今、想うことを全て吐き出してもらった。

 
 
最近は生きることへの焦りが結構あって
どうしても死を意識してしまうんですよ
 
 
――前作から1年弱で最新アルバム『life』が完成したことに、まず驚いています。
 
「今までで一番早いですね。スッといけたんですよ。前作のツアー中からもう作っていて、結果的にかかる時間が少なくなったというか、自宅での作業が核になったので。前作のようにみんなで最初から作る時間はなくなりました」
 
――前々作『this』(‘13)のときも、江沼くんの自宅作業が核になっていましたよね。そこで作り上げたものをメンバーに持っていくという流れでした。
 
「そうですね、『this』に戻った感じですね。好き過ぎてヤバいくらいに、1人での自宅作業は好きですから(笑)。ただ、『this』のときは外の空気を吸わなさ過ぎましたね。それがよくないから(中村)一太(ds)を入れたわけじゃないですけど。1人で自宅作業をしても最後はメンバーに渡すわけですから、最初からメンバーと作るのと変わりはないっちゃないんですけどね。でも、のびのびと自分で作りたい気持ちもありますし、デモっぽくないデモと、作り込んだデモの違いもありますから。でも、今回は『this』のときのように1人作業を“しなきゃいけなかった”わけじゃないんです。それをメンバーから求められたんですよ。だから、あのときとは気持ちが違うし、心置きなくできましたね。ちょうど緩和されたというか」
 
――『this』のインタビューで、“天ぷら職人になりたい”と言っていたのが印象的で。何かすごくストイックな方向に、あのときは向いていたなと思うんですよ。
 
「今、精神的には職人さんより僧侶に近いですよ。心を開いて、リラックスした状態でアルバムもできましたから」
 
――同世代のバンドと比べても、plentyは“自由に”と言うと語弊があるかもですけど、ちゃんと自分たちのやりたいように音楽活動や作業ができている気がするんです。
 
「ありがたいですよね。本当に好き勝手やらせてもらってますから。前はもうちょっといっぱいいっぱいでしたけど、リスナーを喜ばせたいとは思っているので。ただ、最近はお客さんから“江沼さん、丸くなりましたね”とか言われるけど、別にそういうことでもなくて。CDデビューして7年くらい経ちますけど、最初の頃の歌詞って“対大人“とか“社会とは?”みたいなことを書いていて、普段の態度もそういう感じだった。でも、これだけ周りの人も付き合ってきてくれて、優しくならないなんて無理でしょ(笑)。やっと気付けたし、憑き物が取れたというか。音楽もやわらかくなりましたよ。人の感情を、ちゃんともらえているんでしょうね。初期(1stミニアルバムt『拝啓。皆さま』(‘09)、2ndミニアルバム『理想的なボクの世界』(’10))は怒りが原動力だったんですよ。そういう感情が軽くなったとまでは思わないけど、いろんな人と会って、いろんなことがあって、いろんなものが増えていって、愛や喜びがテーマになってきましたね。怒りや悶々は全くなくなったりはしないですけど、そればかりをアウトプットするわけではないので。誰かの孤独を思いながら歌ってみようかなとか、思えるようになった。『ワンルームダンサー』(M-10)とかがそうですけど。“その人のため”とまで言うとあれだけど、遠いところにいる顔を知らない理解者のためにも歌えるようになったんです」
 
――言葉も、より素直にシンプルになりましたよね。
 
「今回、歌詞は最後に書いたんですけど、過去のノートを読み漁るという謎の作業から始めたんですよ。常に変化したいとは思っているんですけど、変わっちゃいけないところまで変わったのかなとかも考えちゃうので、だからこそ過去の歌詞を読みふけることから始めて。ちゃんと変わっていないところも確認できたし、それは嬉しかったです。初期衝動のまま作ろうとかではなかったけど、昔の感情が消え去ったわけじゃないのはホッとしましたよ。その辺りのバランスが半々でやれているのはよかったですね」
 
――完全に落ち着いたわけじゃないし、いつも悶々としているわけでもないですもんね。
 
「“これでいいのかな?”という疑い癖はありますね。ただ、落ち着きもあるし、悶々ともしているし、”落ち着き悶々”ですね(笑)。でも、ちゃんと光は感じていますけど、最近は生きることへの焦りが結構あって、どうしても死を意識してしまうんですよ。歳を取ったおばあちゃんが“死ぬのは怖くない”とか言うじゃないですか? 平然と死をネタにできるご老人たちって、本当に強くて。でも、僕は人生が終わるのが怖過ぎるんですよ。やりたいこともいっぱいあるし、やれていないこともいっぱいあるし、分からないこともいっぱいある。やりたいことを存分にやらないともったいないですから。この命、燃やし尽くさねばというか」
 
――くしくも、アルバムタイトルも『life』ですしね。
 
「1つの意味だけでないですけど、何かそういう想いは入っているかもですね」
 
 
どうやったら、お客さんを心から解放してあげられるのか
そういうグルーヴって何だろうって
 
 
――今回はかなり曲数も揃っていたと聞いたのですが。
 
「ブラックミュージックっぽいアプローチがしたくて、そういう楽曲が多かったんですけど、スタッフから“難しい”と難癖をつけられ(笑)。なので、徐々にギターリフものを作っていったんですよ。そしたら、やりたいことも明確になってきましたね」
 
――今、ブラックミュージック的なアプローチをするバンドも増えてきていますよね。江沼くん的には、どのようにブラックミュージックを捉えていますか?
 
「元々好きだったという単純な理由もあるし、音楽は身体で感じるものというのもあるし。タテノリが全て悪いとは言わないけど、ジャンル的にはいろいろやりたいんで。ブラックミュージックって、まぁゴスペルというか、讃美歌というか、神に近づくために祈りとして歌ったり踊ったりすると考えている人の音楽じゃないですか。1つの生命体として生きる上で、何かに抗うには心地いい音楽なんですよ。BPMが速いのは疲れちゃいますしね」
 
――今、ロックフェスとかだとBPMが速い音で踊らせる風潮がどうしてもありますよね。
 
「そうですね。ただ、それだとステージ上から観える景色がワンパターンになるんですよ。別に会場が1つになっているわけでもないし、縛りつけているようにしか見えない。そういう同調意識って怖くなる。どうやったら、お客さんを心から解放してあげられるのかを考えていますね。そういうグルーヴって何だろうって。日本人って細かくリズムを取るのが難しいらしく、だからこそ誘ってあげるというか、そこにチャレンジしたかったんです」
 
――あと、ブラックミュージックを取り入れた部分を聴いてみても、いわゆる他のバンドと違ってplentyはポップなんですよね。小難しくないというか。
 
「そう、ちゃんとポップですよね。(他のバンドと)アプローチが違うのかな? ブラックミュージックを(音楽より)人として追及し過ぎているのかな?(笑) 要は人としてちゃんとしたいんですよ。時々自分を二重人格だって…まぁそこまでは思わないか(笑)。わがままなアーティスト気質もあるだろうし、仲間を守る仁義な気質もあるだろうし」
 
――例えば、plentyのような音楽をやっていれば、“聴いてください”だけでも、ぶっちゃけ成立すると思うんです。でも、江沼くんは最初にインタビューしたときから、一生懸命説明してくれたんですよ。勝手に寡黙で気難しい人と思っていたから、それはいい意味でのギャップでしたね。
 
「言葉は難しいですけどね…。人と話して感情を説明できないから、音楽で吐き出しているわけですし。説明することの恐ろしさはありますし、言葉自体が持つ脅威は感じています。マイルドにできた曲を説明していたら突っ走っちゃったりもするので、丁寧に言葉を厳選しないといけない。音楽で感じていることを、普段の言葉で表現できないとも思っているし。いろんなものを感じる可能性って、音楽の方があると思いませんか?」
 
――確かにそうですね。その音楽の中でも言葉は使われているわけだし、その後に普通にインタビュー=会話で言葉を使って説明するのって、改めてすごいなと思うんです。
 
「音楽も言葉がなくてもいいかなとたまに思うんですけど、ちゃんと日本語で歌えたら素敵だなって。日本語を操って歌えていなかったら、作詞作曲家として寂しいので。そういうことがちゃんとできる日が、いつ来るか分からないけど。ちゃんと到達できたらいいなって思っています」
 
――この自問自答している感じ、インタビューで丁寧に説明してくれる姿って、どうしても毎回エレファントカシマシの宮本(vo&g)さんを思い出すんです。江沼くんが尊敬するミュージシャンというのも相まってかもしれないけど。
 
「宮本さんの“生き様エンタテインメント”な感じは、脈々と自分にも受け継がれていると思います。音楽的なアプローチは違うかもしれないけど、音楽を作る姿勢、人として生きる姿勢は、宮本さんのようにありたいなと」
 
――また、こういうストイックな人についていくメンバーも大変だと思うんですよ。ベースの新田くんは、元気にしていますか?(笑)
 
「今回も苦戦していましたよ(笑)。今回はメンバーから“江沼のデモから離れた音を出したくない”っていう意見が出たんですけど、こちらからしたら“絶対に一緒の音にはならないよ!”という想いもありましたね。一太は“江沼の持つ洋楽の陰りをなくしたくない”と言ってくれたんですけど、新田はお花畑のようにほんわかしてるんですけど(笑)、僕はそういう個人の癖が音に入っている方が大歓迎なんです。自分で作ったデモから音を離したくないのなら、“自分でベースも弾く!”ってなっちゃいますから。でも、そんなことになるぐらいなら、新田が必死に練習して弾いた方がいいですから。“生き様エンタテインメント”って、技術が上手いから感動するわけじゃないですよね。だからこそ、“新田! 弾けー! こらー!”っていう感じでしたよ(笑)」
 
――(笑)。今回のアルバムを聴いて思ったのは、このバンドは周りのシーンと戦うだけじゃなくて、まずは自分たちと戦っているバンドなんだなと改めて思ったんです。茨の道を歩いていると思うけど、だからこそ応援したいと思うわけなんで。やっぱり、大好きですから。これは最大の褒め言葉ですけど、本当にややこしいバンドですよね(笑)。
 
「うん、そうですね(笑)」
 
 
Text by 鈴木淳史
 




スペースシャワーネットワーク宣伝担当・山内彩さんからのオススメ!

「plentyは新作をリリースするたびに楽曲・アレンジ・表現力全てにおいて常に更新され、彼らの描く世界がどんどん広がっていくような気がします! アルバム『life』は今のplentyが詰まった1枚でこのアルバムの楽曲をどのようにライブで表現するのか楽しみで仕方ありません。しかも、今回の『life』ツアー前半4ヵ所はcinema staffの辻さんをゲストに迎えライブをするということで、どんなライブになるのか乞うご期待! 皆さん一緒に楽しみましょう!」

(2016年11月 1日更新)


Check

Release

plenty史上最強のフィジカルで迫る
生命力と躍動感溢れる4thアルバム!

Album
『life』
発売中 2500円(税別)
headphone music label
XQFQ-1215

<収録曲>
01. 夜間飛行
02. 星になって
03. 嘘さえもつけない距離で
04. 誰も知らない
05. born tonight
06. laugh
07. 独りのときのために
08. high&low
09. こころのままに
10. ワンルームダンサー
11. in silence
12. 風をめざして

Profile

プレンティ…写真左より、新田紀彰(b)、’88年4月8日生まれ。中村一太(ds)、’88年11月20日生まれ。江沼郁弥(vo&g)、’88年9月24日生まれ。’04年茨城で結成。’08年年末、『COUNTDOWN JAPAN 08/09』に一般公募枠で出演。’09年、1stミニアルバム『拝啓。皆さま』を、翌’10年には2ndミニアルバム『理想的なボクの世界』を発表。以降もEPやシングルなどコンスタントにリリースを重ね、’11年には楽曲からインスパイアされた映像作品をパックしたSound Film Track『あいという』、’12年には集大成とも言える1stフルアルバム『plenty』を満を持して発表。’13年には2ndフルアルバム『this』、コンセプトアルバム『r e ( construction )』を発表し、’14年8月には、中村がドラマーとして正式加入。同年11月にはミニアルバム『空から降る一億の星』を、翌’15年には現編成初となる3rdフルアルバム『いのちのかたち』を発表した。今年9月21日に発表された4thアルバム『life』を引っ提げたツアーに伴い、11月6日(日)には大阪・Zepp Nambaにてワンマンライブを開催する。

plenty オフィシャルサイト
http://www.plenty-web.net/

Live

前半4公演はcinema staff辻(g)が参加
リリースツアーが全国展開中!

 
『plenty ワンマンツアー“life”』

【長野公演】
▼10月29日(土)長野CLUB JUNK BOX

【東京公演】
▼11月3日(木・祝)Zepp Tokyo
【愛知公演】
▼11月5日(土)Zepp Nagoya

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード302-652
▼11月6日(日)17:00
Zepp Namba(OSAKA)
スタンディング3800円
[ゲスト]辻友貴(cinema staff)
GREENS■06(6882)1224
※6歳未満は入場不可。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
【愛媛公演】
▼11月12日(土)WstudioRED
【福岡公演】
▼11月13日(日)DRUM LOGOS
【岡山公演】
▼11月15日(火)CRAZYMAMA KINGDOM
【宮城公演】
▼11月17日(木)仙台 darwin
【北海道公演】
▼11月19日(土)ペニーレーン24

Column1

「考えるのではなく感じる」音楽
言葉に頼らぬ表現と無意識を伝える
孤高のplenty新体制初フルアルバム
『いのちのかたち』インタビュー

Column2

「やっぱり、バンドがやりかった」
ドラマー加入で青春期を取り戻した
plentyが贈るまばゆきミニアルバム
『空から降る一億の星』を語る!

Column3

5thEP『これから/先生のススメ/
good bye』で再びバンドとなった
戦い続けるplentyの“沈黙の3年間”
を語るインタビュー&動画コメント

Column4

ドライなギターと美しきメロディ
が誘う異端のポップネス
異次元2ndアルバム『this』
静かに燃える闘志と
音楽家としてのプロ意識を語る

Column5

覚悟は音楽を変える。バンドとして
人としての変遷のドキュメンタリー
1stフルアルバム『plenty』
インタビュー&動画コメント