ミニアルバム『空から降る一億の星』を11月に発表したplentyの一番大きな変化は、やはり3年ぶりに正式ドラマー・中村一太が加入したことだろう。鉄壁のサポート陣との活動も無論素晴らしかったが、江沼郁弥(vo&g)の頭の中で作り上げた音楽を再現していくことが多かった最近の彼らが、正式ドラマーの加入によって遂に“バンド”になった。完全にフラットな状態から3人で作り上げた今作に、まるで今までと別のバンドのような瑞々しさを感じてしまった。今まで聴いてきた人も、初めて聴く人も、みんなが納得出来る…そんなバンドになっているように思う。江沼の歌声の変化など、いろいろと感じ学んだこと、そして現在の心境をメンバー全員に聞いてみた。
――まずは8月にドラマーとして正式加入した中村くんのお話をしたいと思います。
江沼(vo&g)「『手紙』(M-1)が出来て、『イキルサイノウ』(M-6)が出来て、これは想像以上のものが出来るなと。どうしても、1人で全ての詰めの作業をやっていると予想通りのものしか出来ないので。自分の頭の中を再現していくだけになりますから。彼が入ったことで、バンドっぽい作業が出来るようになりましたね(笑)。骨組みだけを投げて“よろしく!”みたいなことが、彼にはお願い出来るので。そうしたら、“もっとこうした方がいい”みたいな意見も返ってくるし、いい意味でスタジオでケンカ出来るんです。自分が考えもしない明後日の方向から意見がくるのは、おもしろくていいかな。そうやって細かく時間をかけて作業が出来るバンドっていいなと、今は思っていますね」
新田(b)「3人でスタジオに入るようになって、“昔はこうだったよな…”と懐かしくもあり、新鮮でもあり…。(中村)一太は、ドラム以外のことも一緒に考えて話をしてくれるので、刺激になりますね」
江沼「そういう刺激を受けてケンカが出来るのは青春漫画みたいというか。何でも言い合える関係は、本当にいいですよ。風通しがすごくいい。一太とは音楽的な話が出来るのがいいですよね。助かりましたよ」
中村(ds)「江沼に…plentyに惹かれた理由は、もう音楽しか出来ないみたいな…何か音楽に取り憑かれている感じがよかったんですよ」
江沼「えっ、俺が!?」
中村「うん(笑)。いい音を出したいと思っているのが伝わってくるし、そういう人と音楽をやりたいと思っていたから。当たり前ですけど、バンドをやるとストレスが生まれる。でも、それはお互いがいい音を出したいと真剣に思っているから。それをちゃんとぶつけ合えたら何の問題もないし」
江沼「それが健全だよね。今までは不健康な環境でやっていたと思うし、もっと面倒なことをやりたかったので。やっぱり、バンドがやりたかったんです。今回は7曲に絞りましたけど、今までとは作業のペースが違いますね。ライブで育てられたところもありますし、曲はどんどん貯まっていて。とにかく楽しいですよ。“憑き物が取れたような顔しているね”とよく言われますから(笑)。老成した感じがなくなって、年相応の顔になった気がします」
新田「一太とスタジオに早めに行くようになりましたし、(江沼)郁弥が“曲が出来た!”とか言っているのを聞くと、嬉しそうだなって。優しくなりましたし」
江沼「今までそうじゃなかったのは自分(=新田)のせいだよ!?(笑)」
新田「(笑)。でも、本当によくなりましたよ」
――相変わらず、江沼くんと新田くんの関係性は独特ですよね(笑)。
中村「不思議ですよね(笑)。新田が繊細なのかな?」
新田「弱いだけだよ(笑)」
江沼「新田は打たれ強いのか、弱いのか、よく分からなくなるときがある(笑)」
中村「江沼はそういうことをハッキリ言うんですよね。それはいい音楽を作りたいという一心からだと思うし。オブラートに包んだりという遠回りをしないので、新田はフニャッとなっちゃうのかなって」
新田「うん、いろいろ考えちゃうんだよね」
中村「でも、そういうことが言い合えないとダメだと思うし、みんな届けたいという一心でやっているのは確かなんで。ちゃんと僕も自分の考えを提示していきたい」
江沼「俺の場合は、対等だけど対称じゃないというか…尊重はするけど、切磋琢磨はしたい。別に“俺の言うことを絶対に聞け~!!”ではないから(笑)」
声、違いますよね? 本気度が出ていますよ
――話を聞いていて思うのは、江沼くんが本当に楽しそうだし、楽になった感じがします。
江沼「うん、楽しい。楽になったというか、時間をかけないといけないところに、ちゃんとかけられるようになった。だって、俺がドラムのフレーズを考えても、やっぱり意味がない。そんなのライブになったら関係ないし。一太は元々ジャズドラマーだから、引き出しが多いんですよ。このメンバーで、1人でデモを作っていたときのような音源を作っても違うし、今は3人のテンションが出ちゃう。青臭い感じをちゃんと出したいんですよ。今は何でもバンドで作りたい。バンドがしっかりしていれば、シンセを入れてもいいし、フォーキーなことをやってもいいし、誰かがキャップを被ってもいい(笑)」
中村「新田がラップをしたりしてね(笑)」
江沼「2人がコーラスしてもいいしね。これからが楽しみです」
――あと、すごく感じたのは江沼くんの声が違うんですよ。
江沼「声、違いますよね? 本気度が出ていますよ。歌録りをしながらそう思ってました。歌い方的には最初の頃の荒々しさと、最近の丁寧さと、ちょうど中間を意識しましたね。楽しんでやりました」
新田「今回は初めて歌入れを見に行ったんです。そんな歌い方があるんだ…とかいろいろ感じました。リズムに対して後ろに歌ったりしていたし」
江沼「“何でいるんだろうな!?”と思っていたよ(笑)。こっちが2時入りで歌録りに向かったら、来なくてもいい2人がもう1時半には来ていたし(笑)。やりづらいよ!」
中村「(笑)。歌い方を変えているのは分かりましたね。やっぱり見てみたかったんです、自分の関わる作品ですから。その過程を見たかった。“自分の関わった作品だ!”と自信を持って言いたかったし、歌録りを見れたことで、クセとかの発見もありましたし」
江沼「次の歌録りも来たりするの!?(笑) まぁ、勉強になるなら、どうぞ御自由に! 一太は勉強熱心ですから。リハスタに住んでいるのかなと思うくらい、リハスタにいたので。それに新田も引っ張られたんだと思う。こういうキャンペーンでもベースを背負って来るようになったので(笑)。逆にデカめのロッカーを探すのが大変だけど!(笑)」
新田「僕は2人にまだまだ追いつけていないと感じているので。意識的に本当に変わってきています」
人に任せてみようという勇気
――曲の話も少ししたいのですが、個人的には『パンク』(M-4)が好きでした。
江沼「『パンク』人気ですね~。初期衝動グツグツ系の3コードでガーッと作ったんですよ。“練習してくんなよ! せーの!でやりたいんだからな!”みたいに2人には伝えて」
中村「ちょっと練習してきちゃったけどね(笑)」
江沼「(笑)。何か練習してきた感が邪魔になると思ったんですよね。失敗しないように意識してやるんじゃなくて、部活みたいなレコーディングにしたかったんですよね、あの曲は」
中村「今回のレコーディングは、全体的に気持ちのディレクションが多かったですね」
江沼「人間はアナログなのに、周りはデジタルになっていく。不便なことを敢えてしていきたいなと思っていて。僕らは’88年生まれで、満たされているゆとり世代で、不自由さを感じない世代なんです。だからこそ、ボケッとしていたらいけない。上の世代の人はアナログをちゃんと経験しているから、今の便利さが分かる。でも、僕らは生まれたときから便利な時代だったから、価値観が違ってきている。なので、ちゃんと鍛えていかないといけないんです。音楽家がちゃんと世間から憧れられる職業にならないといけないですから」
――熱情は全く変わってないけど、江沼くんは今、本当にリラックスしているし、肩の力が抜けているよね。
江沼「実は5月に病気をしちゃって、死って身近にあるんだなって思ったんです。そういうときに痛いとか苦しいとか…そんな自分のことより、周りのことを考えたんですよ。メンバーの2人はどうなるんだろう? とか…そういう気持ちをちゃんと曲にしておこうと思いましたね。それは、自分でも意外でした。なので、吹っ切れて迷いがなくなって、でも勢いは入っているんです。ジャケットデザインもそうですけど、全体的に人に任せてみようという勇気を学べました。人任せに出来るようになったんです」
――これからが楽しみで仕方がないですよ。
江沼「次にやりたいことは決まっていますからね。今はライブ寄りになっていますけど、ライブをやりながら曲も作れていますし。今作に入っていない曲をツアーでもやる予定ですし。ツアーに期待して欲しいです」
中村「新体制一発目のツアーなんで楽しみです。バンドになっていますから、その塊を感じて欲しいですね。ツアーを経て見えてくるものもあるでしょうし」
新田「いいものを3人で共有して、熱量とグルーヴがしっかりまとまってきていると思います。頑張ります」
江沼「頑張りましょう! でも、本当に楽しみたいな。いい作品が出来た自信もあるので、心から楽しめるツアーにします。今まではサポートの方への指示も自分でやっていたし、どこかいっぱいいっぱいなところもあったけど、今回は何も考えず剥き出しでいきますよ」