覚悟は音楽を変える
plentyが初のフルアルバムを手に4/21(土)NHK大阪ホールへ!
バンドとして、人間としての変遷のドキュメンタリーとなった
進化×深化×真価の一枚を問うインタビュー
10代や20歳そこそこでデビューし、たくさんの大人のスタッフに囲まれ、CDを出すこともツアーをすることも当たり前のように与えられてしまうと、自分たちのペースが分からなくってしまう。だが、10代や20歳そこそこで、そんなチャンスを与えてもらえるのはラッキーなことだし、才能があるからこそでもある。そんな壁に見事に気付き、乗り越えたのが今のplentyだ。デビュー時から類稀なる才能で一気に注目を集め結果を残してきた彼らだが、昨年1月に発表した1st ep『人との距離のはかりかた/最近どうなの?/人間そっくり』以降、何かが変わった。明らかに、届けようとする気持ちや意識が変わってきていると感じずにはいられなかった。“人との距離のはかりかた”…それはメンバーであり、スタッフであり、メディアであったりもちろん聴く人であったり…plentyは関わる人全てへの距離を完全に意識し始めたのだ。2月15日リリースされたアルバム『plenty』に際し、その辺りのことを彼らは包み隠さず話してくれた。このインタビューを読んでもらえれば、彼らのバンドとしての、人間としての成長が分かってもらえるように思う。
plentyのふたりからの動画コメントはコチラ!
――初音源『拝啓。皆さま』(‘09)から約2年4か月。今回の『plenty』が初のフルアルバムなんですけど、何度でも聴いてしまう、聴けば聴くほど味が出るスルメみたいな感触があったんですよ。
江沼(vo&g)「それは嬉しい。スルメバンドなんで(笑)」
――(笑)。去年1月に出た1st ep収録の『人との距離のはかりかた』がすごく印象的だったんです。何か、今までのplentyと違う…そう思えた楽曲だったんで。
江沼「あれで何もかもが、変わり始めましたね。歌詞にかける時間は倍以上になったし、今までは1枚のアルバム分の歌詞を書くのにノート1冊で足りていたけど、今は3曲でノート1冊半みたいな。それがいいかは分からないけど、ただ丁寧さ、大事さを持ってやるべきだということを学びました。責任を持つことへの意識ですね。ただ好き勝手にすることが自由なわけじゃなくて、その音楽に責任を持って初めて自由なんだって。丁寧に掘り下げていく、今回の『plenty』はそこからの気持ちが入っているアルバムですね。あと、レコーディングで1曲に割く時間が短くコンパクトにもなりました。それと根本的なことで言うと、アーティスト=華やかではなく、渋みのあるバンドマンにならないといけないなと。レコーディングというのは地味な作業なんだけど、それがライブになったときにいかに爆発出来る人間でいられるかというか」
――今、ほんの2分くらいしか喋ってもらってないと思うんですけど、全部聞きたいことを言ってもらえました。もう、これだけで完璧なインタビューですよ。
江沼「本当ですか(笑)」
――ただ、ここで終わるわけにもいかないので(笑)。新田くんは江沼くんの変化に気付いていましたか?
新田(b)「ずーっとノートに何かを書いてるときがあって、話しかけずらいオーラはありました。怖かったです」
江沼「“砂ってどう思う?”とか突然聞いてたよね(笑)」
新田「うん。だからこっちも考えちゃう(笑)」
江沼「ずっと曲を作っていて、砂について考えたりして。だから突然コミュニケーションを取ろうとすると変になってましたね(笑)」
――江沼くんの新田くんへの“距離のはかりかた”が、難しかったんだね(笑)。
新田「(江沼)郁弥の中で、もっと気持ちを届けようという想いが昂ぶってきているのは、本当に分かりましたね」
江沼「前はね、バンドがバラバラだったんです。同級生から始まって、好き勝手にやるのが個性だと思っていた。ただ単にぶつかり合ったら良いと思ってたけど、それだと文化祭と一緒なんですよ」
新田「まぁ、好きなようにやってましたよ。目立つフレーズを弾きたいとか、そういう好き勝手な自分だけの意識しかなかったですから」
江沼「メンバーがいかにぶっ壊れるかしか考えてなかったら、それだと破壊しか生まない。ちゃんと仕切って、引っ張ってコントロールする意識もないと、ヤバいぞと…。上手に見えるようにプレイしたいだけのスケベ根性だと、おかしくなっていっちゃう。曲に必要なことだけを考えてやる。もっとシンプルになろうと。それまでは例えば胸ぐらを掴む近い距離感だけが届くと思っていたけど、ちょっと距離を取って、遠くから見るということも分かりやすく届くと思えるようになった。日記のような感覚で歌を届けるのは必要だけど、単なる日記だと“あっ、そうですよね”という感想しかもらえない。聴いてる人への余白の与え方というか…遠のくことが、実はより近くなるということに気付いたんですよね」
――今回はフルアルバムというサイズは意識しました?
江沼「別に今までと制作のスピードも変わってないし、自分の性格的に意識したらズッコケるんですよ(笑)。だから、いい作品にしようということしか考えなかったです」
――でも、本当に意識が変わりましたよね。
江沼「そうですね。昔はライブを週3くらいでやっていて、友達が3人来てくれたら“やった!”みたいな。で、ライブハウスにノルマ払って帰る。ところがCDデビューしたら、いきなりいろんな人が聴きに来てくれるようになって…“何でなんだろう?”って頭の中がグワーってなってた。音源出してツアーして、音源出してツアーして…本当に幸せなことなんですけど、どこか冷めている。やりたいことをやっているはずなのに…モチベーションをどうしたらいいのかなって。ラッキーな環境っちゃ、環境なんですけど…」
新田「でも、郁弥が先に気付いたんですよ」
江沼「本当に“俺が仕切らないとヤバい”と思ったんです。だから、ちょっとでも思うことがあったら、“その発言どうなの!?”とかバンド内で言うようになったんです。あと、曲を作るのとライブはもちろんだけど、今日やらせてもらってるようなプロモーションも曲作りやライブと同じテンションでやるようにしないとなと思えた」
――やっぱ若くしてデビューしちゃうと、悪気なく当たり前に勘違いすることって多いと思うんです。感謝の気持ちが決してないわけではないんだけど、何事も当たり前のように恵まれて進んじゃうと、振り返る時間がないというか。でも、それって周りがいくら言ってもダメなんですよね。本人が気が付かないと、どうしようもない。
江沼「天狗になる人もいると思いますし、自分に自信を持つことは必要なんですよ。ただ、本質的に、自信を持ち過ぎた天狗になったらヤバいから。そういう意味では、自分で自分の(天狗の)鼻を折りました。自分のだけでなく、メンバーの鼻も折りましたから。周りもいい意味で、ほったらかしにしてくれましたね。自分たちで考える時間がありましたから」
――そういう意識で挑む今回のツアーは、また一味違ったものになりそうですね。関西では4月21日(土)にNHK大阪ホール公演が控えてます。
江沼「音楽をやっている人が、明日のライブで何を着ていくかしか考えてなかったらヤバいんですよ。アルバムを、いかに良い曲順で見せるかを考えないといけない。今回はホールでもやりますけど、演出が勝っちゃうようなライブはやりたくないです。ありのままを見せるだけですね」
Text by 鈴木淳史
(2012年4月12日更新)
Check