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「スパッと割り切れないものに返った」
劇団イキウメの傑作戯曲が待望の映画化
映画『太陽』を手がけた入江悠監督インタビュー

第63回読売文学賞で戯曲・シナリオ賞を受賞した劇作家、前川知大(劇団イキウメ)の同名舞台を、『SRサイタマノラッパー』シリーズ以降、注目を集め続けている入江悠監督が映画化した話題作『太陽』が4月23日(土)より、シネ・リーブル梅田、5月7日(土)より、MOVIX京都、神戸国際松竹、5月21日(土)よりユナイテッド・シネマ岸和田にて公開される。21世紀初頭、人類が昼と夜それぞれに生きる旧人類キュリオと新人類ノクスに分断された世界を舞台に、家族や恋人など大切な誰かと引き裂かれた人々の物語を綴る。SFであり、青春ドラマであり、ラブストーリーであり、 究極の家族の物語でもある作品だ。そこで、入江悠監督に話を訊いた。

――入江監督はSF映画がお好きらしいですね。
そうなんですよ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)や『ターミネーター』(1984)でハリウッド映画にはまっていった世代なので、「SF映画好き」ということはいろんなところで言ってて。それで『サイタマノラッパー』の頃からお世話になっているプロデューサーから「この戯曲読んでみて」と渡されたのが『太陽』との出会いなんです。でも『太陽』って実は、中を見ると小さなコミュニティの話だったりするから、プロデューサーとしては、日常のちょっとした狭間というか、小さなところにフォーカスを当ててきた僕に「入江にやらせたらどうなるだろう」と思ったのかもしれないです。
 
――たしかに『太陽』をSF映画とひとつのジャンルに当てはめるのは難しい。日本でSF映画を撮るというのは難しさもありそうですね。
「これは面白い!」と企画が立ち上がって、脚本を書いてから映画化が実現するまでに3年くらいかかっています。日本でこういうジャンルがないですからね、やっぱり資金集めも大変で。脚本の段階だとどれくらいSF感を出すか分からないですしね。ノクスの世界にいくらでもかけられるなら『ガタカ』みたいにすることだって出来ますから(笑)。それもあって、なかなかGOサインが出なかった。それでもプロデューサーが粘り強く動いてくれて実現しました。
 
――原作は、2011年に劇団イキウメによって上演された同名舞台。2014年に蜷川幸雄さん演出で上演された舞台『太陽2068』もありましたが、企画としては蜷川さんによるリメイクと入江監督の映画化は同時進行だったんですか?
どうしても映画は時間がかかりますからね、蜷川さんに先を越された感じです(笑)。でもそれでイキウメ版と蜷川版を観ることが出来たからこそ「自分ならどうするか」「映画ではどうしようか」と深く考えられた気がします。ただ、舞台は抽象的なひとつの空間の中で描かれる世界なので、それを映像にどう置き換えていくかという作業には試行錯誤しました。
 
――舞台から映画になって語れることが多くなっているとは思いますが、いろいろと語りすぎずに描かれていたのがとても良かった気がします。
「そうなるかもしれない」と観客に思わせてくれたり、「こんな未来がきたら自分ならどうするか」を考えさせてくれるのが、SFのいいところだと思っています。
 
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――企画スタートから撮影までに3年、公開までに4年ほど経っているわけですが、その間に現実が物語に追いついてきている感じもしますね。
2014年の冬に山の中で撮影していたんですけど、そこから考えても、この2年で急激に近づいている感じはありますね。スピルバーグが『ブリッジ・オブ・スパイ』を撮ったり、ドナルド・トランプ氏(アメリカの大統領選挙候補者)が「国境沿いに壁を作れ」と言ったり。脚本を書いていたときは想像上のものだったのに…という“近さ”があって怖いですよね。
 
――怖いといえば、映画の冒頭に鳴るサイレンの音も…。
東京だけでなく大阪もそうだと思うんですけど、最近警告のアナウンスが多くないですか? 駅のホームで「端を歩かないでください」とか。路上でも客引きを注意するようなアナウンスが流れていたり。それがなんだか「そこまで管理する?」と思うところがあって。あの頭上から問答無用に音が降ってくる気持ち悪さ。
 
――映画の中でキュリオたちを消毒する場面がありますが、そのとき同じ言葉が繰り返される感じはまさにそういう気持ち悪さがありました。
立場や役割が変わると急に相手の扱いが変わることに違和感を感じることがあって。大阪だとそうでもないのかもしれないけど東京だとよく感じるのが、居酒屋の店員さんとかに対する態度がやけに冷たかったり。物を運んできてくれた人に対して礼も言わず、ただのマシーンみたいな扱いをする人が増えてきているんですよ。
 
――大阪はたぶんほとんどの人が店員に「ありがとう」と言います(笑)。
大阪が最後の砦かもしれない(笑)。なんかいろいろな職業がロボットでも代わりが務まるようになってきている気がする“怖さ”がある。何パターンかの同じことを繰り返して。そういう怖さや違和感もSFの良さでしょうね。
 
――『太陽』には、東日本大震災後の日本が色濃く反映されていますよね。
東日本大震災は、ちょうど『サイタマノラッパー』の3作目(『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』)を撮っていたころに起きたんですけど、「これからもずっと続くだろう」と思っていたいろんなことが急にべこっとへこんだ感じがしたというか。僕自身、やっぱりその感触からはどうしても逃れられないでいます。
 
――『SRサイタマノラッパー』(2009)、『日々ロック』(2014)、『ジョーカー・ゲーム』(2015)など、監督のフィルモグラフィーの中でも『太陽』は、入江監督にとって初期の作品に近い手触りの作品になった気がします。
スパッと割り切れないものに返ったというか。『太陽』で言うと登場人物がいろんな選択肢がある中でいろいろと決断して進んでいくわけですが、その正解が僕自身分かっていません。『サイタマノラッパー』も主人公らがラッパーになることを追求していっていいのか自分で分からないまま気持ちだけで撮っていた部分があって。その感覚が近いですね。
 
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――今回『太陽』を映画で描く上で気を配ったことは?
ド直球なタイトルですからね。太陽そのものをどう描くかはやっぱり考えますよね。そのままカメラを向けて撮ろうとしてもなかなか映らないし、どうしても太陽の光を浴びているものを撮ることになるんです。だから神木くん、門脇さんには顔に泥をつけてもらって、それがだんだん乾いていくように撮っています。実際生活していても“太陽”を意識することはあまりないけど、太陽がなくなったら生活が変わる。大事なものに普段目を向けていないということに気づいて不思議な感じがしました。
 
――もしかすると、“水”の音が印象的に入っているように感じるのもその話に繋がりますか?
『太陽』は変化の話でもあるので、そういう意味でも“水”は象徴的に使いたいなと思っていました。川の流れにしても、上流で氷が溶けて流れていくという意味で太陽の作用なんですよね。“太陽”そのものを映すのは難しいけど、流れていく水みたいな、そこから派生したものに意識しました。あとは、極力音楽を使うのをやめました。エンドロールからも音楽をはずしましたから。鳥や虫、せせらぎの音も大きく言えば“太陽の恵み”みたいなもので。それを音楽と捉えて聞いてもらいたいなと。そこに叙情的な音楽を入れるのは違うなと思ったんです。
 
――人間がふたつに分断された世界というのも面白い。
アメリカとかだと、『猿の惑星』は人種問題がモチーフだしそういったものが多いのかもしれないですね。ヨーロッパも『ノー・マンズ・ランド』とかね、国境の問題がありますよね。でも日本で分断される話ってあんまりないんじゃないかな。なので、この設定が斬新だったんですよね。それだけ思い切ったことをするとそこからにじみ出る問題がいっぱいあるなと。それだけ原作がいろいろなテーマを持って書かれていたということだと思うんですよね。
 
――では最後に。
今までは自分たちのパーソナルなところで映画を作っていて、夢とか現実が主観的なものだった。でも30代になって社会的な責任みたいなものを感じてきたからか、10年後、20年後に自分たちのコミュニティはどうなってるんだろうとか、そういうところに興味が出てきました。今後も、もう少し視野を広げて作品を作っていきたいと思っています。よろしくお願いいたします!



(2016年4月21日更新)


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Movie Data


©2015「太陽」製作委員会

『太陽』

●4月23日(土)より、シネ・リーブル梅田
 5月7日(土)より、
 MOVIX京都、神戸国際松竹、
 5月21日(土)より、
 ユナイテッド・シネマ岸和田にて公開

出演:神木隆之介、門脇麦
   古川雄輝、水田航生、村上淳
   中村優子、高橋和也
   森口瑤子、綾田俊樹
   鶴見辰吾、古舘寛治
監督:入江悠 
脚本:入江悠、前川知大 
原作:前川知大(戯曲「太陽」)

【公式サイト】
http://eiga-taiyo.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/168866/


Stage Data

イキウメ「太陽」(2011年、撮影-田中亜紀)

イキウメ 「太陽」約4年ぶりに再演!

▼6月3日(金)19:00
▼6月4日(土)・5日(日)13:00/18:00

ABCホール
全席指定-4500円 

【作・演出】前川知大
【出演】浜田信也/安井順平/伊勢佳世/盛隆二/岩本幸子/森下創/大窪人衛/清水葉月/中村まこと

※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら


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