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「ロック映画ですが、アイドルの現代的な部分も投影している」
インディーズで“無双”した入江悠監督、ついにメジャー進出!
『日々ロック』入江悠監督インタビュー

 いま、インディーズ映画界隈で「憧れの監督は?」と尋ねると、ほとんどが「園子温と入江悠」という名前が挙がる。『SR サイタマノラッパー』3部作は、自主映画規模での公開でありながら全国的に熱烈な支持とファンを獲得。「これがダメなら映画をやめるつもりだった」と強い決意で挑んだ映画監督・入江悠の、まさに“一発逆転無双モード”。そんな入江監督が、榎屋克優の原作漫画の映画化『日々ロック』でついにメジャー進出。ロック一筋で生きてきたバンド青年の泥臭い生き様を、超越した熱量で描いている。

――入江監督とは2012年、『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の大阪公開時、トークイベントや舞台挨拶などをご一緒させていただきましたが、そのとき「この主題歌でお願いします、というような“何かありき”で映画を作るのはできるだけ避けたい」とおっしゃっていました。今回はそもそも原作があるし、メジャーの映画会社(松竹)での製作とあって、あらかじめレールが敷かれているところもあったのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがですか。
 

原作モノについての抵抗はまったくなかったのですが、主題歌に関してはかなり粘らせてもらいました。映画が完成してから、その内容にあわせて爆弾ジョニーに主題歌『終わりなき午後の冒険者』を作っていただきましたから。

 

――主人公・日々沼拓郎(野村周平)の音楽への向き合い方は、原作の要素がまったく損なわれていない!


そこは『SR サイタマノラッパー』シリーズの主人公たちに近いかも。歌とバンドしかできない不器用さ。今の日本映画はシュッとした、さわやかなキャラクターが多い。でも日々沼は汗まみれでギトギトしていて、つばも飛ばしまくっている。こんな男が、日本映画の主人公として果たして成り立つのかという(笑)。

 

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――歌しかできなくて、自分のためだけに歌ってきた男が、宇田川咲(二階堂ふみ)というアイドルと出会い、彼女のために曲を作ろうとする。つまり、初めて誰かのために音楽をやろうとする。その踏み出し方をこの映画では描いている。それって、いわゆる「自主映画」でやってきた入江監督が、この『日々ロック』や、次回作『ジョーカー・ゲーム』(主演は亀梨和也!)でメジャーという「大衆的」なフィールドでやることになったことと、つながる気がするんですよね。


確かにそうです。メジャーのステージにあがるかどうかは、選択を突きつけられていた気持ちでしたから。これは脚本家・向井康介さんとお話をしていたことなのですが、「入江君、僕たちの世代がそろそろちゃんとメジャーでやらないと、日本映画が育たないよ」と言われていたんです。で、向井さんは2013年『陽だまりの彼女』、2014年『クローズEXPLODE』の脚本を手がけられて。向井さんの言葉を聞いて、「よし」とメジャーでやっていく意思が強くなりました。成功するか失敗するかは分からないけど、僕らが日本映画を背負っていかなければならないんだろうな、と。

 

――メジャー、インディーズという意味で、僕の中で2014年のエンタメのトピックスとなっているのは、入江悠監督と、シンガーソングライター・大森靖子さんのメジャーデビューの時期が重なっているということなんですよ。自主で活動しているときのメンタリティーというか、おもしろいことだけをやるために、まさしく自分の足で動いていた。『SR サイタマノラッパー』のあの市街戦的でゲリラな宣伝活動、そして大森靖子さんの日本全国を飛び回ってライブをする姿。そしてインディーズで無双した両者が、同じ年にインディーズからメジャーへ飛び出す。僕自身、入江さんと大森さんは2012年の同じ頃に出会い、お仕事をご一緒させていただいたので感慨深いものがある。


あっ、なるほど! これは大森さんと同意見かどうか分かりませんが、自主でやる良さは、やりたいことがあればとにかく素早く動ける。でも反面、自分だけでは気づかない部分も多々あったりする。だけどメジャーでやりはじめて、いろんな方と出会うと、脚本作り、キャスティングなどたくさんのアイデアが生まれてくる。自分の頭だけで考えてきた発想を、大きく超えてくるんです。映画でも音楽でも、何かを作る上でそういう時期をちゃんと迎えないと、成長が止まる気がします。

 

――一方で、まぐまぐで配信するメールマガジン「僕らのモテるための映画聖典」も継続されていて。そこは入江監督のパーソナルな活動ですよね。


やっぱり、多くの方に映画館で映画を観て欲しいんです。映画館を利用する人が減ったら寂しいし、何より僕らのような作り手は、映画で食べていこうとするなら、小さくてもできる限りのことをやっていかなければならない。

 

――「お客さんを呼ぶために、できることは何でもやる」というその精神は、今の日本のアイドルたちの活動にも置き換えられますよね。『日々ロック』にも宇田川咲というアイドルが登場しますが。
 

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今のアイドルは本当にすごい。僕はももいろクローバーZ、AKB48のプロモーションビデオも撮影したこともあって、いろんなアイドルを見ていて。現在のアイドルは、短期間で自分自身を燃焼させている感じがする。アイドルとしての寿命を自分自身で理解しているんだと思うんです。「こんな女の子たちがいるんだ」と衝撃を受け続けています。

 

――2014年7月に解散したBiSは、まさにその象徴的な存在でしたよね。彼女たちの姿には心が震えましたから。


BiSはまさにそうですよね。なんと言うか、1970年代のセックス・ピストルズのような、ロックンローラーに近い佇まいがある。僕には、アイドルのそういう生き方は絶対真似できない。憧れ…というより尊敬。宇田川咲には、そんなアイドルの現代的な部分を投影しているんです。今回『日々ロック』という映画を世の中に出す意味は、実はそこにある気がしていて。だから、原作には登場しない宇田川咲というキャラクターを作りました。男は先々のことばかり考えて、たくさん保険をかけて生きている。10代、20代の女の子は、すごくロック的な生き方をしている気がする。そういう現代の時代感をあらわしたかった。『日々ロック』はロック映画ですが、しかしバンドマン・日々沼拓郎とアイドル・宇田川咲の対比を何より感じて欲しいです。

 

(取材・文:田辺ユウキ)




(2014年11月18日更新)


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Movie Data





©2014「日々ロック」製作委員会 ©榎屋克優/集英社

『日々ロック』

●11月22日(土)より、
 大阪ステーションシティシネマ
 ほかにて公開

出演:野村周平/二階堂ふみ
   前野朋哉/落合モトキ/岡本啓佑
   古舘佑太郎/喜多陽子
   毬谷友子/蛭子能収/竹中直人
原作:榎屋克優「日々ロック」
   (集英社「週刊ヤングジャンプ」連載中)
監督:入江悠
音楽プロデューサー:いしわたり淳治
主題歌:「終わりなき午後の冒険者」
    爆弾ジョニー(キューンミュージック)
脚本:吹原幸太/入江悠
音楽:黒猫チェルシー
劇中曲提供:The SALOVERS
      滝善充
      (9mm Parabellum Bullet)
      DECO*27/爆弾ジョニー
      細身のシャイボーイ
      ミサルカ/忘れらんねえよ

【公式サイト】
http://hibirock.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/164845/

Event Data

舞台挨拶決定!

●大阪ステーションシティシネマ
日時:11月22日(土) 
   10:00の回、上映後
登壇者:野村周平/二階堂ふみ
    入江悠監督/MC:近藤夏子

●なんばパークスシネマ 
日時:11月22日(土) 
   13:30の回、上映前
登壇者:野村周平/二階堂ふみ
    入江悠監督/MC:近藤夏子

※登壇者は予定です。
※詳細は劇場HPをご覧ください。