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大阪で3年ぶりに劇団イキウメの『散歩する侵略者』が上演 
主宰・前川知大が本作に抱く思いを聞いたインタビュー!

今年、第14回鶴屋南北戯曲賞受賞(『プランクトンの踊り場』)、第18回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞(『プランクトンの踊り場』『図書館的人生Vol.3 食べもの連鎖』)と、国内の演劇賞を立て続けに受賞した劇団イキウメ。東京を拠点に活動する彼らだが、関西での注目度も高く、その研ぎ澄まされた舞台は一度見るとハマる人多数。“身近な生活と隣り合わせに異界が現れる、スリリングな世界観を特徴とする”と劇団プロフィールにもあるように、ありきたりな風景の中にじわじわと滲み出てくる“違和感”が刺激的かつ心地よく、幕が下りると同時に“また観たい”と思わせる中毒性の高い魅力を放っている。 そして、6月4日(土)、5日(日)にはABCホールで『散歩する侵略者』を上演。この『散歩する侵略者』とは、日本海側に位置するある片田舎に宇宙人が現れ、人間の概念をどんどん奪っていくという物語。初演は'05年、大阪では'07年に初上演され、イキウメ主宰であり作・演出の前川知大も「思い入れの強い作品」と自負する、劇団の代表的な作品だ。 4月23日の横浜プレビュー公演を皮切りに、水戸、東京、大阪、北九州の順で再演されるのだが、「再構築をして新しいものを作るチャレンジはできないか」という地点から出発したという今回。そして、そのための稽古も始まっていた3月に東日本大震災が発生。ツアーの一部が中止になるなど、困難もあったが無事、幕を開けることができた。そして間もなく、3年ぶりの大阪公演が控えている。そこで、前川に作品に対する思いや、再演するにあたっての演出的な工夫などを聞いた。

前川知大(以下、前川)「この作品は、初めて劇団で大阪のお客さんに観てもらった作品ということでも思い入れも強いです。今回の再演では、前回とはどう違うものにしていくかを考えていくため、稽古に時間をかけようということで、2月ぐらいから劇団員で集まってワークショップ形式で稽古していきました」

―― その方法とは?

前川「配役をラフに決めて、個々の登場人物の視点から役者にアイデアを出してもらい、登場人物がどこから来てどこに向かっていくのかという、台本に書かれていない部分をみんなで練るという作業をやって。台本上の人物の行動やディテールがもっとわかったら、もっともっと群像劇として厚みが出るんじゃないかという目論見もあって。主人公のナルミ、シンジという夫婦の話ではあるんですけども、それ以外の登場人物にもしっかりと光を当てようという意識で、台本も作り直しました」

―― そういった中で、役者たちのアイデアはとても有効的だっという。

前川「いつもは本の解釈プラス、まだ台本がないシーンをエチュード(即興)的に役者にやってもらって、逆に僕がアイデアをもらうこともあるんですけど、今回のように台本の解釈に時間をかけたのは初めてですね。それぞれの登場人物の立場から、この作品にあるテーマとか、キーワードを出してもらって、それを整理して。次に、挙げられたテーマのうち、どれに登場人物が深く関わっているのか、架空の人物でありつつも役者自身が物語の中でどういう役割を持つのか、何をお客さんに伝えなきゃいけないかなど、そういうことをはっきり自覚するということをしました。それで、役者からの意見で『ああ、そういう見方があるか』ということもあって、『今、君が言ったその一言を台詞で言った方がいいんじゃないか』とか言いながら、作り直していきました」

―― そして、それぞれの人物像をより克明にするほか、前川には現時点で確認したいこともあったそうだ。

前川「あと、6年前に書かれた本が、今、有効なのかと、そこら辺ももっと確かめたいなと思って。宇宙人が侵略してくるという虚構性の高いシチュエーションで、それに対してどういうリアリティを持たせられるかという点において、もうちょっと僕らの日常からスタートするような作品に仕上げようという考えがあって。それで、どうなったらリアリティを出せるかなって思ったときに、桜井という登場人物の存在がありまして。この桜井という人はジャーナリストで、一人だけ『宇宙人が攻めてくる』ということにリアリティを感じて、周りに訴えるんです。でも、ほかの人たちは『宇宙人なんて来るはずない』という前提で生きているもんだから、彼の叫びに対して笑うわけです。そしてどんどん桜井は孤立する。そこで今回は、桜井が持っている危機感をピックアップしていこうと考えていたんです」

―― その矢先に東日本大震災が発生した。

前川「劇中、桜井が一生懸命、叫んでいた台詞がそのまま、あの震災への危機感と響くところがあって。本当に危機が訪れた後に危機感を煽るのは果たして有効なのかなと考えました。それについてみんなと徹底的に話し合って、むしろ今だから届く作品ができるのではないかと強く感じたんですね。今まで以上のすごい響き方をするんじゃないかと。だからこそ、宇宙人が来るというファンタジックな演出をするよりは、宇宙人という存在をより具体的に、僕らの日常に起き得る危機みたいなものとして描くべきだと思いました。むしろ、そう描かないとふざけてると思われるのが嫌なので。この物語には『戦争』という背景も出てくるんですけども、宇宙人だったり、そういったものに対してどれだけ真摯に向き合って作品を作ることができるかということに注視しました」

―― そして神奈川芸術劇場にてプレビュー公演を3ステージ上演。震災の影響を受け水戸公演は中止となり、懸念事項がある中での開幕となったが、無事、幕を下ろすことができた。また、プレビュー公演ということで、いつもとは異なる詳細なアンケートを用意した。そして、「この芝居を見て、何を連想しましたか?」という質問には物語に対してや、ごく個人的なことなど、劇場に足を運んだお客さんそれぞれの響き方が膨大に記されていた。それを読み、自分たちが今回の演出に込めたメッセージがちゃんと届いたんだと実感できたという。だからこそ、「東京の公演を経て、大阪に来るときには、すごく強い作品になっているんじゃないかなと確信しています」。では、その演出面はどう変わったのだろう。

前川「僕の演出のスタイルみたいなものって『散歩する侵略者』を初演した6年前ぐらいに固まってきたところがあるんですね。映画のカットに近いような形で、場面転換ゼロで、抽象舞台でさくさくと次の場面転換をしていくという、そういうスピーディーな見せ方をやってきたんですけど、今回、演出的に変えようというか、変わってしまったと言う方が正しいですね。10人の登場人物がいて、それぞれ5ペアになるんです。その5組に光を当てようという演出にして。今までやってきた方法とはがらっと違う形になっているので、そこらへんも注目していただけると思います。具体的には、シーン構成を変えて、舞台上でいろんなペアが同時に走り続けているという状態を作ってます。会話は同時多発ではないんですけど、1組のペアが喋っているとき、その前後のシーンに出てくるペアも舞台上にいて、その存在を関連付けています」

―― 本作は「人間の概念を奪う宇宙人が侵略してくる」という物語。その発想の起点は何なのか。

前川「元になったのは、ふと思いついた短編のシチュエーションコメディですね。アメリカに留学をするんだけども、アメリカが怖いからって留学先でひきこもって。基本的にはテレビとかビデオを見たり、ゲームとかして、仕送りで生活して、買い物は通販。それでだんだん、国という概念を忘れていくというもので、それは台本にはしなかったんですけど。そもそも国という概念がなかったらどうなるんだろうと考え始めて。で、その概念を失わせる存在とか現象って何だろうと考えたときに、病気とか身近なものよりも宇宙人ぐらいぶっとんだものにした方がリアルに訴えられるんじゃないかなって思って、そこからですね」

―― そして、その宇宙人にはさらなる出自がある。

前川「この作品の宇宙人のモデルは、『ウルトラセブン』のメトロン星人なんです。メトロン星人の何が怖いかと言うと、宇宙人がタバコに薬物を混入するというせこさですね。タバコに薬物を混ぜて、それを吸うと人間の中に猜疑心が出てきて勝手に人間を殺していくっていう、そうやってメトロン星人は侵略しようとするんですけど、その薬物混入のタバコは小さい田舎町の、駅前の自動販売機にしか売っていない。だからその作戦は無理だと思うんだけども、そういったメトロン星人があんまりリサーチしていない感じとかも、バカバカしい反面ちょっとリアルな感じもして。あと、有名なシーンで、畳の部屋でウルトラセブンとメトロン星人がちゃぶ台を囲んで話し合うというのがあるんですけど、それもすごいリアルで巨大な宇宙船がゴーッと攻めてくるより、畳の部屋で地球の運命が語られることにものすごい恐怖を感じましたね」

―― ちなみに、メトロン星人から着想した宇宙人ではあるが、舞台上での姿かたちは“人間”。そして、宇宙人とは言え、その役割はよくあるSF作品に出てくるそれとはまた一線を画している。

前川「この作品での宇宙人には、実を言うと人間の概念を奪うという命令だけがあって、登場人物はOS上におけるプログラムみたいなものなんですね。自分はただ、命令に従って人間の概念を収集して持ち帰って調査するという、データみたいなイメージです。なので、宇宙人たち自身も、いろんな概念を得ていくうちに、自分たちをどう表現したらしっくりくるかということから自発的に宇宙人って言ってるだけなんです。だから正体としては実は明らかではないんですよ」

―― そんな宇宙人たちは日々、ファミリーレストランで侵略会議を重ねている。

前川「その状況が楽しいと思うんです。侵略会議をする場所として、謎のアジトとか小部屋でやるよりふさわしいと思いましたね。あと、ファミレスでそういう話をしているギャップも怖いなと思って」

―― ところで、この作品では、ひとつのキーワードが重要な意味を持っている。そのキーワードとは「愛」。『散歩する侵略者』にはいわば、「愛は地球を救う」というテーマが流れているというのだ。それは前川自身、思わぬ発見だったようだ。

前川「先日、この作品について映画監督の方と対談をしたときに、『愛が地球を救う話って誰も書こうと思わない』ということで盛り上がったんです。チープだし、バカバカしいメッセージになりかねない。基本的には、クリエイターは書かないし、やろうとも思わない。でも、この作品は結果的に『あれ? これって愛が地球を救う話だな』って思って。そうなったら逆に『愛が地球を救う』って言いたくなる(笑)。ストレートなメッセージを直球で投げると、みんな避けるというところがあって、それは、すごいわかりきっていることだからなんです。わかりきっていることを一生懸命、ストレートに言ったところで誰にも届かない。そういう点においても、僕も絶対、愛は地球を救う話を書こうと思わない。だけど苦労してそこに辿り着けたら、もしかしたら伝わるかな、と。なので、このお話は結果的にそうなったのだから、それはもう、しっかり訴えなきゃって思いますね」

―― 初演から6年過ぎた今、上記のような違った見え方は他にもあるのだろうか?

前川「まず、作り手って、自分が作っているものに対して100%理解しているかというとそうじゃない方が多いと思って。この作品も6年経って見直したときに、役者から登場人物の視点で出された質問や意見に対して僕が予想以上に答えられないこともあって。登場人物の言動が、書いた当時は僕の中でつながっていたんでしょうけど、今読むと『こいつ、何考えてんだろうな』って。それは、僕自身が変わったところもあるし、登場人物の言動を今の解釈で理由付けしていかないといけないし、僕自身もちゃんと見ておかないといけない。でも、そうやって時間を重ねた台本への距離感がものすごく取れて、演出家として台本に対峙できるようになったと思いますね。3年前に大阪で上演したときは、まだまだそこまでじゃなかったと思うんですね。作品について語ることだったり、演出について語ることも今ほど自覚的じゃなかったんで、そういう点においては結構、自分が変わってるんだろうなって思いました」

―― 後に、この作品に対する思いを語った。

前川「僕の場合、いつもアイデアが先にあって、そのアイデアで一体何が語れるのかというところからテーマを選んでいるんですが、この作品は『概念を奪う宇宙人』ということから考えて、結果として『愛が地球を救う』となった。そういうことをメッセージとして作品に込めることが今まではなくて、この作品である種、それができたし、今後もなかなか自分の中で生まれてこないんだろうなと思っています」

6年前に初めて上演をしたとき、舞台に立った役者たちが自分よりも先に、「この作品は絶対に面白い」という確信を持っていたことを今でも鮮明に覚えていると前川。関西でも上演を重ねるにつれて劇場のキャパシティを広げ、動員も着実に増加している。注目の劇団イキウメが贈る『散歩する侵略者』は、6月4日(土)、5日(日)、ABCホールにて上演。この機会にぜひ、観ていただきたい!




(2011年5月27日更新)


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プロフィール

劇団イキウメ●'03年、結成。身近な生活と隣り合わせに異界が現れる、スリリングな世界観を特徴とする。前川知大が作・演出を担当。'10年の本公演は『プランクトンの踊り場』『図書館的人生Vol.3 食べもの連鎖』。『散歩する侵略者』が'11年最初の本公演となる。

前川知大●まえかわともひろ 劇作家、演出家。'74年生まれ、新潟県柏崎市出身。昨年はロンドン・ロイヤルコート劇場の劇作プログラム「インターナショナル・レジデンシー」に参加。そして、'09年から'11年にかけて、鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨新人賞、読売演劇大賞優秀作品賞、読売演劇大賞優秀演出家賞など国内の演劇賞を多数受賞。舞台のみならず、小説、コミック原作、テレビ/ラジオドラマなど幅広いジャンルで活躍する。『散歩する侵略者』 は、メディアファクトリーより小説も発刊。舞台未見の方は、予習の一助にどうぞ。

公演情報

イキウメ「散歩する侵略者」

▼6月4日(土)・5日(日) (土)13:00/18:00 (日)13:00
ABCホール
[一般発売]全席指定4000円
[作・演出]前川知大
[出演]浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世/森下創/窪田道聡/大窪人衛/加茂杏子/安井順平/坂井宏

※この公演は終了しました。