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2. アルゴリズムってなんだろう

 

 次の日、ぴっけろとくまっぴーは、また三輪先生の家を訪ねました。お茶とお菓子を食べながら、さっそく質問です。

「声の合成はなんとなくわかったんだけど、作曲にアルゴリズムを使うっていうのは、どういうことなのですか?」
「うん。たしかに説明はむずかしいかも知れないね。でもこう考えてみてほしい。コンピュータは人が与えた命令のために、いつも機械の中で計算を繰り返しているでしょう? それは電子の情報の単位である『bit』というもののやりとりなのだけど、僕たちの目には見えないよね」
「はい」
「それを僕はコンピュータ以外のなにか、たとえば人であったり、ふつうの木や金属で表現できないかなあと考えたんだ」
「コンピュータが行っている計算の流れを、人や機械の動きに置き換えるのですね?」
「くまっぴーくん。するどい! ではこの作品をみてほしいんだ。『またりさま』っていうのだけど…」

「これはなにかのおまじないみたいだけど…」
「鈴とカスタネットの鳴らし方に決まりがあるみたいだね」
「そうなんだ。この作品は、まさにコンピュータが行うアルゴリズムを人の動きと楽器の音に置き換えている。鈴とカスタネットはきちんと決まった法則で鳴らされているんだよ。僕は、これを逆シミュレーション音楽って呼んでいるのです」
「逆シミュレーション音楽?」
「そう。もともと、僕らの世界にあるいろんなものを整理して考えるために、コンピュータを使おうっていう考えがあったわけだよね。僕は、逆にそのコンピュータがやってることを僕らの世界にもってこようとしているんだ」
「でも先生、それってなんだかロボットみたいな冷たい音楽にならないかな?」
「そこなのさ、大事なところは。さっき、ぴっけろくんはおまじないみたいって言ってたよね」
「はい」
「ここから先は想像力の世界なのだけれど、僕はそれを、人の生活のどこかに位置づけてみたいんだよ。少しユーモアをもってね。だから逆シミュレーション音楽の中には、おまじないみたいなものもあったり、踊りみたいなものもあったり、おゆうぎみたいなものや、不思議な機械がかつやくするものもある。顔をあらったり、ごはんを食べたり、泣いたり笑ったりする人の世界のなかに『ありえたかもしれない音楽』として置かれるためにね。僕はそれをいろんなふうに楽しんでもらえればうれしいんだ。ちょっとむずかしいかい?」
「うん。だけど、大事なことは想像力とユーモアってことだね。三輪先生はそれをもとに音楽を創ってるんでしょう」
「うん。そうなんだよ。こんどのコンサートでは、そのことがよくわかってもらえると思うよ。きのう話した声の合成や、声の合成と逆シミュレーション音楽を組み合わせた作品、それからお客さんには自分でも声の合成を楽しんでもらえるような楽譜も、おみやげに用意してあるんだ」

ぴっけろとくまっぴーは三輪先生からコンサートの招待状をもらいました。
その晩、ぴっけろが言いました。

「僕、今日、世界にはこんな音楽もあるんだって、とっても驚いちゃったよ」
くまっぴーが答えました。
「僕も。それに頭がすごくやわらかくなったような気がするな。ねえ僕たち、なんだか、三輪先生と友達になれそうな気がしない?」
11月8日のコンサートがとっても楽しみなぴっけろとくまっぴーなのでした。

Concert

サントリー芸術財団コンサート
TRANSMUSIC2014
音楽のエッセンツィア“現代音楽の楽しみ方”

※終了しました
サントリー芸術財団コンサート
TRANSMUSIC2014
音楽のエッセンツィア“現代音楽の楽しみ方”
作曲家 三輪眞弘を迎えて

▼11月8日(土) 16:00開演(15:30開場) 
いずみホール

S-4,000円 A-3,000円 B-2,000円
学生席1,000円

[監修]伊東信宏/岡田暁生/西村朗
[指揮]野平一郎
[演奏]岡野勇仁(アコーディオン)
マーティン・リッチズ/佐近田展康(ギター)
いずみシンフォニエッタ大阪
[トーク]
三輪眞弘×マーティン・リッチズ(美術家)×
伊東信宏

※学生席はいずみホールチケットセンターのみの取り扱い。購入時に学生証提示・お一人様1枚限り。
※未就学児童は入場不可。
[問]東京コンサーツ■03-3226-9755

 

【プログラム】

万葉集の一節を主題とする変奏曲
MIDIアコーディオンと管弦合奏のための(2014)
サントリー芸術財団委嘱/世界初演

海ゆかば -〈万葉集の一節を主題とする変奏曲〉内包曲-
MIDIキーボードとパソコンのための(2014)
サントリー芸術財団委嘱/世界初演/楽譜プレゼント

ひとのきえさり、藤井貞和の詞による序奏と朗読
シンギング・マシン、アイントンと9人の演奏者のための(2013)

フォルマント兄弟 作詞作曲
歌謡曲「夢のワルツ」

MIDIアコーディオンとオーケストラのための(2012/2014)

クラーレンス・バルロ
ナイルの1月

室内オーケストラのための
(1984)

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