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1. 声を作ってみよう

 

「やあ、いらっしゃい。ぴっけろくんとくまっぴーくん。お願いをきいてくれてありがとう。今日は僕の作品を見ながら、説明していきたいと思います」
「先生はどんな音楽を作っているのですか?」
「うん、大きく分けてふたつのことをやっています。ひとつは人間の声を合成してつくってみようという作品。それからもうひとつは作曲にアルゴリズムを使った作品なんだ」
「アルゴリズムって?」
「演算と考えてくれればいいかな。ある目的を持って答えを求める時の、計算の手順のことだよ」
「うわっ、いきなりむずかしそう」
「うん。だから今日は、人間の声の作品から聴いてもらおうと思うんだ。まずこの作品を聴いてください」

「これは、ロックバンドのクイーンだ!」
「でもフレディってもう亡くなっちゃったんだよね。それにこれ日本語だ」
「びっくりしたかい。これが僕の作品のひとつなんだ」
「どうしてこんなことができるんだろう。不思議だなあ」
「うん、これはフォルマント合成という技術を使って、クイーンのヴォーカリストのフレディ・マーキュリーの声を作ってみたものなんだ」
「フォルマント合成?」
「そう。人間の声というのはものすごくおおざっぱに言ってしまうと音素というものからできている。これを強さや速さや高さ(または低さ)でコントロールすることができれば、人の声が合成できるという技術だよ。さっき動画の中で僕と弟の佐近田さんが4つの手で鍵盤を弾いていたでしょう。あれはそうやってコントロールしていたんだよ」
「ふうん。だけどそれは、『ボーカロイド』なんかとは違うのかなあ。最近は初音ミクなんかがあるでしょう?」
「はい。とてもいい質問です。『ボーカロイド』というのはね、あらかじめサンプルとなる声優さんの声をもとに合成されて作られた声なんだ。僕たちがやっているのはまったく何もないゼロのところから、音素を合成して作り出した声なんだよ」
「じゃあ、もちろんフレディ・マーキュリーの声だけじゃなくて…」
「そう、いろんな声を作ることができるし、歌うだけじゃなくて会話させることもできるんだ。僕と佐近田さんはこの実験のために、フォルマント兄弟というユニットで活動しているのだけど、いろんなデータを楽器やコンピュータのあいだでやりとりする規格を決めてある。兄弟式日本語鍵盤音素変換標準規格(きょうだいしきにほんごけんばんおんそへんかんひょうじゅんきかく)というんだ。これはいろいろと進化していて、僕らはついにコンピュータにつないだアコーディオン(MIDIアコーディオン)を使って、ふたつの手だけで人の声を歌わせるところまで来たんだよ。えへん」
「じゃあ、ひとりで人の声が表現できるってことなのかな?」
「うん。では聴いてくれるかな。フォルマント兄弟の最新作「夢のワルツ」。これは11月のコンサートでも演奏(?)しようと思っているので注目しておいてね」

その日の帰り道。ふたりはわくわくした気持ちでいっぱいでした。ぴっけろが言いました。

「三輪先生って不思議な人だね。だけど僕、今日とっても楽しかったよ」
くまっぴーが答えました。
「僕もだよ。お茶とお菓子も美味しかったし、明日もまたいってみようよ!」

Concert

サントリー芸術財団コンサート
TRANSMUSIC2014
音楽のエッセンツィア“現代音楽の楽しみ方”
作曲家 三輪眞弘を迎えて

※終了しました
サントリー芸術財団コンサート
TRANSMUSIC2014
音楽のエッセンツィア“現代音楽の楽しみ方”
作曲家 三輪眞弘を迎えて

▼11月8日(土) 16:00開演(15:30開場) 
いずみホール

S-4,000円 A-3,000円 B-2,000円
学生席1,000円

[監修]伊東信宏/岡田暁生/西村朗
[指揮]野平一郎
[演奏]岡野勇仁(アコーディオン)
マーティン・リッチズ/佐近田展康(ギター)
いずみシンフォニエッタ大阪
[トーク]
三輪眞弘×マーティン・リッチズ(美術家)×
伊東信宏

※学生席はいずみホールチケットセンターのみの取り扱い。購入時に学生証提示・お一人様1枚限り。
※未就学児童は入場不可。
[問]東京コンサーツ■03-3226-9755

 

【プログラム】

万葉集の一節を主題とする変奏曲
MIDIアコーディオンと管弦合奏のための(2014)
サントリー芸術財団委嘱/世界初演

海ゆかば -〈万葉集の一節を主題とする変奏曲〉内包曲-
MIDIキーボードとパソコンのための(2014)
サントリー芸術財団委嘱/世界初演/楽譜プレゼント

ひとのきえさり、藤井貞和の詞による序奏と朗読
シンギング・マシン、アイントンと9人の演奏者のための(2013)

フォルマント兄弟 作詞作曲
歌謡曲「夢のワルツ」

MIDIアコーディオンとオーケストラのための(2012/2014)

クラーレンス・バルロ
ナイルの1月

室内オーケストラのための
(1984)

2.アルゴリズムってなんだろう→