ホーム > MONO 30周年特別企画『30Years & Beyond』 > 第35回『コロナ禍の公演』土田英生

 
 

プロフィール

土田英生
MONO代表・劇作家・演出家・俳優
1967年愛知県大府市まれ。1989年に「B級プラクティス」(現MONO)結成。1990年以降、全作品の作・演出を担当。1999年『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞受賞。2001年『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で第56回芸術祭賞優秀賞を受賞。劇作と平行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。2017年には小説『プログラム』を上梓。2020年7月、初監督作品『それぞれ、たまゆら』が公開。ドラマ『半沢直樹』、舞台「感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇『半沢直樹』」出演。

第35回 『コロナ禍の公演』土田英生

MONOの30年の道のりをメンバーや関係者の話から紐解く連載の第35回。
今回は2019年~2020年、コント公演とコロナ禍での公演について土田さんに語っていただきました。

 

――今回は2019年、京都に新しくできた劇場THEATRE E9 KYOTO(※1)のオープニング企画でもあった特別企画VOL.7『涙目コント』からお話を伺います。結成30周年企画第二弾として、イキウメ、カタルシツ主宰の前川知大さん、iaku主宰の横山拓也さん、オイスターズの座付作家・演出家の平塚直隆さんに脚本を依頼し、MONO流にアレンジした「笑って泣けるコント」公演。人生の断片が8本のオムニバスコントで描かれました。

(※1)2019年6月22開館。運営は一般社団法人アーツシード京都。東九条地域にある倉庫を賃貸・リノベーションし、黒い箱形のブラックボックスと呼ばれる劇場形式を持った小劇場。

 

この公演も本当は9人全員でやりたかったんですけど、スケジュールの都合で、尾方くんと水沼くんの出演は叶いませんでした。関西の中には知ってくださっている方もいるかももしれませんが、「GOVERNMENT OF DOGS」というコントユニット(※2)もやっていて笑いが大好きなんです。事情があってなかなか「GOVERNMENT OF DOGS」はできない。だったらMONOでやってみようと。ただ、故林君のような不条理なものは書けませんから「劇団ならではの演劇的なコントをやってみよう」と考えました。

(※2)GOVERNMENT OF DOGS<ガバメント・オブ・ドックス>1991年、故林広志を中心に立命館大学で結成されたコントユニット。土田、水沼も参加。1997年まで活動。2008年に1公演限りの復活公演を行う。連載第19回参照

 

特別企画vol.7『涙目コント』 撮影:谷古宇正彦 2019年8月1日〜4日 東京・三鷹市芸術文化センター 星のホール、8月9日~12日 京都・THEATRE E9 KYOTO

 

――オムニバス形式ですが、すべて設定を屋上にしたのがよかったですね。土田さん以外に三人の方が脚本で参加されています。

屋上だけという設定には苦労しました。ただ、作家が違う分、共通項があった方がまとまりますし。自分より若い劇作家と組みたいというのがありましたので、横山さん、平塚さんには書き下ろし、前川さんには書いたものを提供してもらいました。

――どんな手応えがありました?

新しく入った劇団員は少しだけ苦労してた気がします。“コント”というジャンルに特化してやったことがなかったので。コントは普通の演劇とは違い “気持ちや生理の繋がり”よりも、観客にどう見せるのか、その技術がかなり求められますから。結果としていい訓練になったと思います。今も「またコントやりたい」って言ってますから。石丸さんに関してはひとりで演じるコントもありましたから、度胸もついたんじゃないですかね(笑)。私もこの公演は楽しかったです。

――次は2020年、『その鉄塔に男たちはいるという+」です。前後編の二部構成(休憩あり)で上演され、前半は『その鉄塔に男たちはいるという』(1998年、連載第9回参照)と同じ場所で展開する40年前の物語を新メンバーが上演、後半は初演から20年の時を経てオリジナルメンバーが改訂版を演じました。

前から『その鉄塔に男たちはいるという』の再演の話はしていました。水沼くんは「みんなが70歳くらいになってから再演したら?」と言ってましたけど、そんな歳になったら身体が動かなくて絶対できない。「やるなら今がリミットだ」と(笑)。尾方くんは再演するなら『相対的浮世絵』がいいと言ってましたが、あれはこの先もできますから。ただ、『その鉄塔に男たちはいるという』には5人しか出て来ませんので、新たに加わった4人にも参加してもらう為に、40年前という設定で新作を書き下ろしました。「+」の部分ですね。

第47回公演『その鉄塔に男たちはいるという+』 撮影:谷古宇正彦 2020年2月13日~17日 兵庫・AI・HALL、2月22日・23日 長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター) 大スタジオ、3月1日 三重・四日市市文化会館 第2ホール、3月7日・8日 福岡・北九州芸術劇場 小劇場、3月13日~22日 東京・吉祥寺シアター

 

――しかし、この公演の頃からコロナ禍が……。

そうですね。公演1カ所目であるAI・HALLでやってる時にはまだマスクをしなくても大丈夫でしたが、ツアー中に、徐々に状況が悪化していきました。四日市公演の時は空席が目立ち、北九州の公演でもキャンセルが出て、その頃に吉祥寺シアターから「劇場自体を閉めるかも」という連絡がありました。だから「東京公演は中止かもしれない」と覚悟しました。四日市も開催は危うい状態でしたので。会館自体は「閉館」でしたし、吉祥寺も同じ状況でした。

――会館は閉まっているけれど、劇場で公演は行われているとは、どういうことでしょうか?

閉館しつつ、公演の時間だけ開館して、芝居が終わったらすぐに閉館という形でした。「すでにチケットが販売されているから」「観客の連絡先はすべて把握できているから」など、劇場の担当の方がそれぞれ努力して市に掛け合ってくださったんだと思います。

――またここで劇場の人たちに助けられたことになりましたね。(連載第3回参照)。

まったくです。僕たちはそういった部分では恵まれているというか、劇場に本当に助けられています。この公演では演劇を上演することのありがたさをしみじみと感じました。僕は内容にかかわらず「カーテンコールは笑顔で」と思っているんです。だけど、はじめて四日市のカーテンコールで泣いちゃったんです。ガラガラの客席の中、それでも拍手がすごいんです。コロナの期間に公演した劇団はみんな言ってますが、お客さんが必死に拍手してくれるんです。それを見たら泣けてしまって喋れなくなって。反省して次の北九州に向かったんですけど北九州でもやっぱり泣いてしまって。次の年の『アユタヤ』という作品の時の話になるんですけど、さらにコロナの状況はひどくなってて。またカーテンコールで泣くと思ったので、挨拶を水沼君に代わってもらったんです。「分かった、分かった、ツッチーは泣き虫やからのう」と笑って引き受けてくれたんですけど、初日挨拶で「こんな時期に演劇は……」って水沼くんが涙ぐんで言葉を詰まらせていて(笑)。それ見て僕ももらい泣きしちゃって。結局、二人泣くという。後で金替くんから「つっちゃんが挨拶してたら、泣くのはひとりで済んだのに」って言われました。

――コロナ禍で演劇は大きな打撃を受けました。

見に来ることができなかったお客さんにも感謝はしています。いろいろと思ってくださっているはずですから。ただ、動員に関してはものすごく減りました。『アユタヤ』の動員は関西ではいつもの半分。東京は半分よりは少し多かったですけど。こんな減り方をしたことは今までなかったんで……。ショックでしたよ。でも「半分も来てくれている」ということです。コロナ禍で「お客さま」のありがたさを改めて感じました。もちろん今までも感謝はしていましたし「演劇は観客がいてこそ完成するもの」とは考えていました。でもそれまでぼんやり“観客”という全体で捉えていたものが、“一人一人”のお客さまをはっきり感じることができました。だから改めて皆さんにお礼を伝えたい気持ちです。

――コロナ禍で創作自体に関して変化はありましたか?

作品を書く時の設定に苦労するようになりました。“日常をベースにしてフィクションの世界”を生み出すには、日常の風景の上に嘘のレイヤーを乗せる作業をします。そうやって日常の中に潜む、普段は気づかないものを浮き立たせる。だけど、そもそも「日常」がなんなのかが分からなくなりました。大体、マスクって……。

――確かにマスクは……。

長く続いているせいで、コロナ禍以前の「マスクをしないこと」と、コロナ禍で「マスクをしていること」のどっちが果たして日常なのかが分からなくなってるんです。時代劇なら問題ないと思うんですけど、「現代を書け」って言われたら「マスクどうする」って迷いますよね。

――日常の中で起こることをフィクションとして描いてきた土田さんにとっては、大きなことですよね。

そうなんですよ。だからもしコロナ禍が10年続いたら、マスクなしでは日常は描けない。マスクをせずに芝居にするには、例えば「2001年秋」とか、時代や風俗を決めて作るしかないですよね。けれど僕の芝居は設定を曖昧にすることが多いんです。「ある地方都市」とか。見た感じは現代なんだけど、現代を示す固有名詞も出さず、つまり空気として現代性を出すことにこだわっている。そういう意味ではとても難しくなってますね。私の中でも混乱はあります。

 

取材・文/安藤善隆
構成/黒石悦子