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ビスケットかと思って
口に入れたら、チーズ鱈だったような、
大人にも突き刺さる作品

 1996年、『コーリャ 愛のプラハ』でアカデミー外国語映画賞に輝いたヤン・スヴェラーク監督が、チェコ伝統の操り人形の技法を駆使して完成させたパペット・ムービー『クーキー』が、9月12日(土)よりシネ・リーブル梅田、9月26日(土)よりシネ・リーブル神戸、順次 京都シネマにて公開される。ゴミとともに捨てられてしまった熊の人形クーキーが、持ち主だった少年のもとに帰ろうと大冒険を繰り広げる。クーキーの奇妙で愛らしいビジュアルに思わず目を奪われる1作だ。そこで、3名の方に本作の魅力を語ってもらった。

 


 

「捨てられてしまったヌイグルミが、大好きな少年の元に戻るために冒険する話」というと、いかにも子供向けの童話みたいだが、本作はそう見えて、ビスケットかと思って口に入れたらチーズ鱈だったような、大人にも突き刺さる作品となっております。

 

主人公のクーキーは不思議な森をさまよいます。その森には色んな精霊たちが住んでおり、独自の法則が働き、他の生物たち(小鳥やトンボやムカデたち←本物!)となんとなく共存してます。その力の抜け具合や、精霊たちの「ありがたみの無さ・緊張感の欠如」は水木しげるワールドに通じるものがあり、虫たちもクーキーをたたえそうで、昭和生まれの胸を郷愁に駆り立てるのです。

 

登場人物たちはパペットもしくは本物の動物なので、基本的に顔から感情が読み取れません。おまけに言葉足らず。それだけに観てるこちらが感情をいくらでも乗せることが出来るのも、人生経験豊かな大人の観客の特権です。

 

本作で最も感動的なシーン。物いわぬ小鳥(本物)が降りしきる雨の中、自分の羽毛を抜いてクーキーのピンチを救うシーンは観るひとが大人であればあるほど泣けます。筆者も不意打ちのようなこのシーンでポロポロ泣いてしまいました…。考えてみると、この森の住人たちの奇妙さ(ドアーズも「ピープル・アー・ストレンジ・ウェン・ユー・アー・ストレンジャー」と歌ってますが)や、親切な奴もいれば何考えてるか分からない奴、あるいは敵も居て、どうにも自分の思うようにならない感じで、でもどうにかなりゆきに任せながらサバイヴしていく感じというのは成人してしまった私たちが普段送っている社会での営みとなんら変わらない、ともいえます。

 

そう考えると、この映画は「大人のための寓話」という側面も強いのでしょう。こどもが観て判るのか、とも思います。しかし優れた表現は何かしらの形でこどもの心にトラウマを植え付けるもので、それをするのが大人の役割というのが筆者の持論ですので、10歳前の子を持つ親御さんは本作をいっしょに鑑賞して、しあわせなようで一概にそうとも言い切れないようななんともいえない気持ちにさせてあげたらよいのではないでしょうか。

 

余談ですが、本作がお気に召した方は、現在「トーチweb」で連載中のインターネット漫画「FANTASTIC WORLD」(ひらのりょう)も是非ご一読して欲しいなあと思います。クーキーの冒険する森にも一脈通じる、不思議な世界の冒険譚です。

 

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キングジョー

 

DJ・画家・会社員。大阪在住。

9月24日(木)〜10月11日(日)まで、個展「ホテル エンドレスサマー」を開催します(京都出町柳トランスポップギャラリーにて)。

 




(2015年9月10日更新)


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Movie Data




©2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

『クーキー』

●9月12日(土)よりシネ・リーブル梅田、
 9月26日(土)よりシネ・リーブル神戸、
 順次 京都シネマにて公開

監督・脚本・製作:ヤン・スヴェラーク
   (『コーリャ 愛のプラハ』『ダーク・ブルー』)
撮影:ブラディミル・スマトニー
グラフィック・アーティスト:ヤクブ・ドヴォルスキー
音楽:マイケル・ノビンスキー
キャラクター・デザイン:アマニタ・デザイン
主演:オンジェイ・スヴェラーク
2010/チェコ/原題:KUKY SE VRACI/95分

【公式サイト】
http://kooky-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167613/