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心斎橋JANUS×ぴあの新企画が始動!
色気を含んだ歌声が雨の夜をふわりと包んだ
盟友showmore×ZINの貴重な初ツーマン

目からウロコがポロポロと落ちるのがわかるような、完璧なツーマンライブだった。 これまで幾度となく“ツーマン”と言われるライブを見てきたつもりだったが、「こういうライブをツーマンと呼ぶのだ」とハッとするようなそれぞれのセットリストとパフォーマンスだったと始めにお伝えしたい。この春、大阪のライブハウス・Music Club JANUSとチケットぴあがタッグを組み「大阪ではなかなか見ることができないアーティストを招聘してのツーマンライブを」と立ち上がったのが、このイベント『JANUSPIA pre. “danro“』。その記念すべき1回目が、4月8日にMusic Club JANUSで開催された。開演前「showmoreとZIN、ここまで親和性のある2組はいないと思う」とブッキング担当者は誇らしげだった。東京に軸足を置いて活動する彼らは、対バンをきっかけに知り合いライブでの共演やお互いの楽曲にコーラスで参加したり、曲を共作したりしながら(showmoreの井上はZINのバンドメンバーとしても名を連ねている)親交を深めてきた。ところが不思議なことに、これまで共演はなかったというのだ。そんな彼らが、ついに共演を果たした。開催日は平日だというのにお客さんでいっぱいだったのは、この2組への期待の表れだったのだろう。この夜の模様をたっぷりとお届けしたい。

大阪は完璧な桜の見ごろを迎えていた週末を超え、週明けの4月8日は桜散らしの雨。しとしと降る気配を感じながらのこの日のツーマンはポップユニット・showmoreが先行だ。「大阪! 今日は最後まで楽しんでいこうね!」というボーカル・根津まなみの言葉でライブの幕があける。

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この日の1曲目となったのは「rinse in shampoo」。キーボーディスト/プロデューサー・井上惇志が奏でるキーボードの音色が心地よくなめらかに流れていくこの曲。rinse in shampoo、匂い、朝の街、歌詞にちりばめられたキーワードをなぞりながら、アダルトな夜の始まりだなぁと思う。「ついにやってきたぜ、ZINとツーマン! 完全に準備ができてるね。煽らなくてもよかったね」と客席に投げた根津は、伸びやかで抑揚の効いたボーカルが際立つ曲の始まりが印象的な「marble」へとつなげる。始まった途端、「この曲好き」と喜ぶ女性の姿が目に入る。個人的にこの曲は「令和の魅せられて(ジュディ・オング)」(ぜひサブスクで聞いてみてください)だと捉えたくなる根津のボーカルの妖艶さと艶が光る1曲だ。

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そしてステージが赤いライトで照らされると、キーボードでメロディーが奏でられていく。披露されたのは「red」だ。曲の進行と共に、疾走感あるテンポでぐいぐいと前へ前へと進んでいく。まるで、海岸線を走り抜ける車に乗っているような情景が浮かんでいたが、リズムはどんどん踊れるものに変化していく様が痛快だ。その気持ちよさを抱えたままスルリと曲は「spotlight」へ。「red」に続いてこちらも疾走感に溢れた1曲なのだが、ただ疾走していくのみにあらず、リズムがとても複雑に絡み合う心地よさがある。そして特筆したいのは、井上の巧み(なんなら匠と書いてもいい)なピアノソロ。手元をガン見してしまうしかない井上のプレイは、まるでピアノでリズムを刻んでいる。ここまでの4曲で、今日のshowmoreはライブハウスで演奏することを大事にセットリストが組み立てられたのだろうと思えてくる。

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「ZINとツーマンだよ...いよいよって感じですね。年度はじめの月曜日にどうもありがとう! 私たちがその気持ちを超えるぐらい楽しみにしてきました」という根津に続いて、井上も「実はZINとのツーマンは初めてなんです」と高揚している様子。すると根津が「ZINはコーラスをしてくれたり、仲間なんだけどお互いを高め合える大事な存在だと思っています。そのZINが好きだと言ってくれる曲を歌いたいと思います」と語り、披露されたのはバラードナンバー「dryice」だ。"ZINが好きだと言ってくれる"という一言も納得の、美しいメロディーが際立つ1曲。

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ここまでの4曲でググッと上がった会場の温度がスッとクールダウンされていき、ボーカルの高音のゆらぎ、ピアノのゆらぎ、シンバルのゆらぎに身を委ねてゆらゆら、気持ちがいい。そんな浮遊感を楽しむ曲から一点「habirabi」へと切り替わる。ライブで人気のこのナンバー、この日もイントロが奏でられると同時に拍手が湧く。「dryice」とは異なる、"踊れるゆらぎ"にお客さんもゆらゆらと揺れている。そして突如聞こえてきたジャングルにいるかのような動物の気配、鳥の声、植物が擦れる音に、耳を持っていかれる。野生みある音から始まったのは「Just a moment」。さっきまで体を揺らしていた人たちが、リズムと声に合わせてジャンプし始める。緩急バチバチの、ジェットコースターのような構成だ。ダンスミュージック特有の飛ばしたビートに合わせた、井上の巧みなピアノソロが、再び目を釘付けにする。

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客席から「最高!」の声が飛び、答えようとする根津はハーハーと肩で息をしている。かなり飛ばしたライブをしているらしい。「ペース配分がわからなくなっちゃった。ZINとの思い出はありすぎて何を話していいかわかんないね」と言う根津に、井上も「今年初めのバンドセットがZINとのツーマンでうれしいです」と笑顔だ。そして根津の力強いボーカルが際立つ曲の始まりにハッとさせられる「aurora」へ。音源では始まりのボーカルはとても優しいものに聞こえていたが、この日は強さが印象強く残る。ライブだからこそ、だろうか。歌唱力、演奏力、オリジナリティー、showmoreの真髄がなんたるかを知らしめる曲でフロアはどんどん盛り上がりを見せていく。

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根津の「次はZINのステージです。showmoreでした、ありがとう!」の言葉にハッとする。もうラストソングなのか。その1曲となったのは、彼らの代表曲でもある「circus」だ。シルキーな声が特徴である根津の声でのラップは、まるで観客と対話しているようで、目が離せない。力強さを感じた「aurora」ではなく、スッと心地のよい温度に着地する「circus」をラストソングにしたのはZINへつなぐためのセットリストか、ブラボー! 「どうもありがとう! またね!」。バンドセットであることが最大限に活かされた曲のコントラストに心踊る、showmoreのステージだった。

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転換中、showmoreのライブがよほど気持ちよかったのか「もう...持たへんかもなぁ」という楽しげな笑い声が聞こえる。showmoreのライブを見たことによる高揚感と、これから始まるZINのライブへの期待感。フロアの雰囲気が、とてもいい。

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シンガーソングライターのZINとバンドメンバーがステージに現れると、突如ZINの美しい歌声が会場に響き渡る。するとフロアからは悲鳴にも似た歓声が上がる。ステージは「Buddies」でスタート。showmoreのラストソングの雰囲気を見事に引き継ぐ、ゆるさを含んだ空気感。会場の温度を確かめるようにZINが放った「調子どうだ?」という言葉にも、誰もが軽く片手を挙げてレスポンスをする具合もなんだかいい。そしてゆったりした雰囲気のまま2曲目の「Carved in Stone」へと続く。メロウなノリが心地よいこのナンバー、音源ではZINの繊細なボーカルが目立ったが、この日はshowmore同様力強さがこもっている。時折バンドメンバーに「もっといけんちゃう?」と煽りながら、笑顔で曲を進めていく。

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するとZINの音楽的ルーツでもある90年代~00年代のネオソウル、ヒップホップを色濃く反映させた骨太なビートへと切り替わり「Just Me」へ。リズムを刻むような歌い方、途中に挟み込まれたシャウト。声を自在に操ることができる才能は、ZINの素晴らしいところのひとつだ、と思う。そして曲がダンサブルな「相愛」へと変わると、フロアのお客さんも体を揺らし始めた。懐かしい匂いすら感じるZIN流のダンスナンバーゆえ、JANUSのミラーボールもガンガン回る。いい夜だ。

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「showmoreとのツーマン、ありがとうございます。関わりはあるのにツーマンは初めてで。彼らのZINEに文章を寄稿しているんですね。そこに『showmoreの音楽は水分量が多い』と書いているんですけど、今日のことですよね(笑)。雨が似合う2組だと思っているので、楽しんでもらえたらと思います」というMCを挟み、MCの言葉を引用するようにまるで雨粒を感じるようなリズムで始まったのは「Midnight Run」だ。ZIN本人が精神的に辛かった頃書かれたものだと以前インタビューで聞いたことがある。少ない音数、バンドもグッと抑えた印象の演奏をしていて、歌が心の奥に入ってくる1曲だ。同じことを感じる人が多かったのか、みんなただただZINを見つめて歌を聞く姿が見られる。

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そして曲は「Complex」へ。後半の女性コーラスとのハーモニーやフルートが加わった演奏は、柔らかさを醸し出し、よりZINの声にも優しさが感じられる。そんな世界観にうっとりさせられていたかと思えば一転、打ち込みのビート&ZINのラップが縦ノリを誘発させた「FWB」、そしてゆったりとしたレゲエサウンドが春の雨の日によく合う「Let Me Love You」へ、ZINのボーカリストとしてのポテンシャルの幅を惜しみなく披露していく。showmoreの根津まなみとZINは、同じく"色気のあるボーカリストだと思うが、ツーマンとして同じステージで見ると、どこか違う。根津の強さが光る色気と、ZINの繊細な色気。男女の違いもあるが、これは面白い。

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「楽しんでくれてますか?」と言うZINにフロアからは「おかえりー!」の声が飛ぶ。さすが地元・大阪公演だ。昨年秋に自身の死生観を見つめながら完成させたアルバムをリリースしそのツアーを終えた後、また死生観について思うことがあったそう。「人は必ず死ぬし、常に終わりに向かう。絶対死ぬのになんで生きるんやろうと」。メキシコでは人は2度死ぬと言われ、1度目は肉体的な死を迎えた時、そして2度目は自分を知る人たちが自分のことを忘れた時なのだそうだ。「僕らは音楽を作る身として2度目の死を迎えないように巡らせていく行為の中に自分が音楽活動を続ける理由があると、心の荷がふとおりました」とZIN。生かされている気持ちを持って生きていくことを、次の曲につなげますと披露したのは「If I lose」。美しいメロディーに乗せてZINが迷いの先に見出した光について歌われたこの曲。祈りにもにた思いが綴られた歌詞を、噛み締めるように届けていく。

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先ほどまでのボーカルの力強さは影を潜め、リラックスした声がスッと溶けていくようだ。曲が終わり、シーンとしたフロア。そこに光が射しこむような柔らかなメロディーが流れ「綻び」が歌われる。驚くほど少ない音数で、ZINの思いが込められているこの楽曲。文学的な映画の、美しいエンディングが始まっていくイメージが広がる。ラストソングだろうか、本編を締めくくるのに相応しいいい選曲だと思っていたら...「最後は楽しんでくれますか?一緒に歌って楽しく終わってください!」。あ、もう1曲あるんだ。いいぞいいぞ。ラストソングはアーバンな香りをまとったダンスナンバー「Ooh!」。みんながどんどん大きく体を揺らしていく。軽やかさ、洒脱なビートとメロディーにゆるやかにフロアの温度があがってゆく。そうか、「綻び」で終わらなかったのはツーマンだからこそ。このあとshowmoreとのセッションがあるはずだ。なるほど! そんな思いで、体を揺らしZINのラストソングを堪能した。

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アンコールはZINの「せっかくなのでこのふたりを呼び込みます」という一言から始まる。根津は「よすぎちゃったよー!」と称賛の言葉と共にステージに登場。ZINのライブのあまりの素晴らしさにお酒も進んだ根津は「今度カラオケ行こうよ」と上機嫌だ。(根津とZINはカラオケトークを続け、根津の八代亜紀を聞きたいというZIN、ZINのチャゲアスを聞きたいという根津の話でひと笑い。ZINが「SAY YES」をワンフレーズ披露する一幕も)。

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楽しくなっちゃったけど、しっとりの曲をやりますねとアンコールのステージで披露されたのはshowmoreのEP『△(メジャー)』に収録された2組のコラボレーション曲「in the mirror」。ふたりのボーカルの掛け合いで進んでいく、ラブバラードだ。お互いをしっかりと見つめながら歌う根津とZIN。本質の異なる色気を含んだふたりの声の重なりが、極上の夜を作り上げていく。ライブの終わりを印象付けたのは井上が奏でた豊潤で美しいピアノソロ。ふわりと今日の余韻を体に含むことができるアンコール。

本当に何から何まで完璧な、ツーマンライブだった。

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Text by 桃井麻依子
Photo by 渡邉一生




(2024年4月26日更新)


Check

Set List

●showmore
01. rinse in shampoo
02. marble
03. red
04. spotlight
05. dryice
06. habirabi
07. Just a moment
08. aurora
09. circus

●ZIN
01. Buddies
02. Carved in Stone
03. Just Me
04. 相愛
05 .Midnight Run
06. Complex
07. FWB
08. Let Me Love You
09. If I lose
10. 綻び
11. Ooh!

EN. in the mirror

Release

ZIN 1st Full Album『CURVE』

2024年7月17日発売
LP
BHOYZVB-1201
4000円(税込)

[side A]
01. Endpaper
02. Midnight Run
03. Complex
04. Carved in Stone
05. Ooh!
06. Contagious
07. Jaded

[side B]
01. Eden
02. 憑依 feat.NF Zessho
03. A long way
04. If I lose
05. First Song (dead to me)
06. 綻び

MUSIC INTERVIEW

Live

●showmore&ZIN

『cultra 3rd Anniversary』
【名古屋公演】
▼6月9日(日) 15:00
TRANSIT/STAND APRON/LUGGAGE/VECTORの4会場同時開催
[出演]brkfstblend/GIVE ME OW/PILAF/S.A.R. /saccharin/showmore/ZIN/and more...

●showmore
『FORCE vol.28』
【青森公演】
▼6月22日(土) 八戸Patrie

●ZIN
『A Soulflex joint 復刻milestone』
【大阪公演】
▼6月15日(土) 17:30 ※SOLDOUT
NOON+CAFE
[出演]KZYBOOST/Hiplin/菅原信介/EXmatic.(Dance)/
TAKE-C&TOMO(Dance)/Akinobu&Atsuki(Dance)/hitch(Art from Soulflex)/sota(Art from comic heads)
[DJ]SATOCI ENOMOTION/Mori Zentaro(from Soulflex)


『OVAL -CURVE LP RELEASE PARTY-』

【東京公演】
▼7月14日(日) 19:00
下北沢ADRIFT
※当日会場にてZIN『CURVE』アナログ盤の特別先行販売あり


Link

showmore オフィシャルHP
https://www.showmore.tokyo/

showmore オフィシャルX
https://x.com/showmore_tokyo

ZIN オフィシャルHP
https://zin-soul.com/

ZIN オフィシャルX
https://x.com/ZIN_SOUL

心斎橋JANUS HP
https://janusosaka.com/