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「これからもこの街の歌を歌っていきたい」
今村モータースの、そして神戸ライブシーンの新たなスタート地点
光と緑に満ちたKITANO CLUB solaを舞台に行われた
『Kitano Airy Live with ジャッジメントKOBE』ライブレポート

 昨年は、自身最大キャパとなる神戸新聞松方ホールでのワンマンライブに挑戦。神戸発のシンガーソングライターとして着実に歩み続ける今村モータースが、9月13日・KITANO CLUB solaにてアコースティック・バンドワンマンライブを開催した。舞台となったのは、六甲の山々に囲まれ、神戸の街並みと海を見渡せるリゾート型複合施設。光と緑に満ちた開放感あふれるガラス張りのスペースに、Made in KOBEのビールやワイン、フード等も用意され、風通しのいい半屋外空間をゆったり使用することでソーシャル・ディスタンスを確保。さらには、ART HOUSE、太陽と虎、チキンジョージ、VARIT.という神戸の4つのライブハウスが共同で立ち上げたプロジェクト、“ジャッジメントKOBE”とのコラボによりオンラインでの同時生配信も実施されるなど、音楽の、そして神戸の魅力を伝えるべく総力を上げた1日となった。かつて、神戸のさまざまな場所でその歌声を響かせた、“この街”ライブシリーズをライフワークさながらに行ってきた今村モータースが、withコロナ時代のニューノーマルなライブイベント『Kitano Airy Live』の記念すべき幕開けを飾った、新たなるスタート地点をレポート!

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 限定30名のオーディエンスを前にした有観客ライブ×生配信という形態で行われたこの日。ichi(key・サーカスフォーカス)の奏でるピアノと今村モータースのギターが溶け合い、そこに堕天使かっきー(b・ワダアツシとビアウマイオールスターズ/giv strange car)の太く温かなべースラインが滑り込んでくる。そして、その物語をゆっくりと加速させるようにキヨシ(ds・nayuta)のカホンがリズムを刻む。そんな1曲目の『点と点』から、ガラス張りの空間であるGLASS HOUSEのナチュラルリバーブと相まって、やわらかな楽曲の世界観と優しい歌声に包まれる極上のオープニング。じわじわと高ぶる高揚感が心地いい『青とWhite』も、派手なアレンジやドラマチックな演出がなくとも、そのメロディと歌声でいつの間にか人生に寄り添うような今村モータースの真骨頂。ソーシャル・ディスタンスが確保された環境下でその様子を真剣に見つめるオーディエンスも、自然と肩を揺らし笑顔がこぼれる。

imamuramotorseport6_dansho.jpg 演者側も気持ちは同じで、「ええ感じ」「もっと大きい声で言ってええねんで」「やめて集中できひんから」と口々に小声で話す光景もチーム今村モータースらしくて微笑ましい。そんな想いは、次の言葉からも伺える。
 
「今日は『Kitano Airy Live』1回目ということで、“私たち”今村モータースがお届けします。ちょうどここまで歩いてくる道のりは、こんな感じだったんじゃないでしょうか?」
 

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 その言葉を受けて始まった1曲は、『この街の夕暮れと僕の散歩道』。かつて、地元神戸のさまざまな場所でライブを行ってきた、今村モータースの“この街”ライブシリーズのテーマソングでもあるこの曲が、KITANO CLUB solaという素晴らしいロケーションで鳴り響く。彼の楽曲が、行動が、その期間だけの一過性のものではなく、しっかりと根付いていることを感じさせるシーンだ。
 

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 MCでは、メンバーをいじりまくる相変わらずのチームワークを感じさせ、そのまま『ファンファーレ』へ。4ピースのアコースティック形態とは思えない音の情報量と表現力は、各々が楽曲を深く理解し愛している証拠だろう。そんな豊潤なサウンドスケープに身を委ねる幸福感には、身も心も満たされていくかのよう。ピアニカ調のichiの調べに誘われた『サイダー』の醸し出すノスタルジーには、心がじんわり温かくなる。普段の和やかなリハーサルの様子が垣間見られるようなやりとりの後の『鬼嫁、荒野を駆ける』では、すっかり陽が落ちた会場内に張り巡らされた照明が灯り、楽曲の世界観もろともムードを演出。
 


 ここで、開演前に観覧フリーで行われていたミニライブの無料配信について、そして、コロナ禍を機に立ち上げられたプロジェクト、“ジャッジメントKOBE”について説明。その想いに賛同したKITANO CLUB solaがあって今日があるということを、今村モータースが自らの言葉で伝えていく。
 
「僕は音楽をやる上で、神戸でよかったなということがホントに多いんです。いろんな会場で音楽をやらせていただいて、布引ハーブ園でも、北野工房のまちでも、サッスーン邸でもライブさせていただきました。僕の好きなものを好きなだけ見ていただきたいという気持ちも相まってそういうことをやってきて、その先に今日があったなら、間違ってなかったなと思います。この街が大好きなんで、これからもこの街の歌を歌っていきたいなと思います。あと、昨日散歩してたら、VARIT.の前に南出さん(=VARIT.の代表でありジャッジメントKOBEの立ち上げ人)が立ってたんですよ。何か久々に神戸を感じたというか…別に何てことないんですけど、VARIT.に出るようになったきっかけも、僕が仕事から帰るときにVARITの前を通ったら南出さんがいて、“おお、何してんの?”みたいなところから始まったような気もしますし。そういう何気ないものが、神戸にはあるんじゃないかなと思います」
 

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 そして、“この街の好きな景色~”と歌い出したのは『タワー』。彼が人生の中で見てきた神戸の景色が、こうやって1曲の歌になり、それが人の心を震わせる。彼が出会ってきた多くの顔がフラッシュバックするような楽曲に、今日その顔の1つ1つを形成するオーディエンスがグッと引き込まれていく。“見渡して気付いたよ好きな事”と帰結するこの楽曲に、今村モータースが今でも神戸を起点に音楽を発信し続ける意義と強さをまざまざと感じる。静かな感動が何度も胸を突き上げる中、流麗なメロディラインに彼のソングライティング力を感じるミドルチューン『アコガレ』が、その感動を優しく増幅させていく。
 

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 すでに万感の表情のメンバーに、ここまでの感想を(半ば無理強いして)聞いていく今村モータース(笑)。いよいよとなる終盤戦は、自ずと発生したクラップに後押しされた『踊るランドリー』で幕開け。躍動するグルーヴとライブを共にするかけがえのない一体感に心をフックアップされる。
 
「この取り組みは今日からなので、またいろんなアーティストがここでライブすると思いますし、ふらっと遊びに来ても音楽が鳴っているという日があると思います。そして次は、マイク1本をみんなで囲んでライブをやるときに作った曲を。今日は4人なんですけど、ホントはもっとメンバーがいるんですよ。ケンヤ(acog&perc)のこと、もう忘れてるやろ?(笑) またみんなでできるときが来るでしょうから、これからもよろしくお願いしますということで」
 
 軽快なビートに乗った『KAKOME』では、かっきーに煽られた今村モータースのギターソロ(おかわりアリ)でも盛り上げつつ、「やっぱりイクちゃん(=イクロー)(g・ワタナベフラワー)必要~!(笑)」と照れ笑い。客席から大きな拍手をもらいながら、ついにライブはフィナーレへ。
 

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「改めて今日を作ってくださったスタッフの方々、いつものサイドを固めてくれる君たち(笑)、あとはお客さん、配信を見てくださってる方もありがとうございました。本当に贅沢な試みをさせていただいてるなと。そこに反応してくださる皆さんがいて…日々状況は分かりませんので、これからもいろいろあると思いますけど、やっていこうという土台の上に僕らは乗ってますので。それを好きなタイミングで、配信とか何かしらでつながっていけたら嬉しいなと思います。まぁしんどいですけど、歌えないわけじゃないし、曲が作れないわけじゃないし。皆さんも、きっとそうだと思います。いろんなお仕事をされてると思いますけど、でも、やれないわけじゃないという。最後はそういう感じの曲でお別れしたいと思います。今日はどうもありがとうございました!」
 
 最後を締めくくるのは、コロナ禍に書かれた新曲『雨でもないのに』。現在進行形の日々を作ったこの曲が、想いを重ねて耳を傾ける目の前の1人1人に、画面越しにライブを眺めるあなたに、そっと寄り添う。やはり今村モータースは今村モータースだと痛感させされる絶妙な距離感の、押しつけがましくない優しさが沁み渡る。
 

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 沸き立つ拍手に退場することなく迎えたアンコールでは、予想外のリズムで翻弄する今村モータースに目を丸くするキヨシと、最後までおふざけがすごい(笑)。気を取り直してのラストナンバーは『feel』。ラララと歌えなくとも、その手拍子が声となり一緒に楽曲を作り上げ、神戸の地にまた新たな絶景を描き出す。有観客×配信のハイブリッドなライブでも、その持ち味を存分に発揮した今村モータース“たち”だった。
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by ハヤシマコ

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(2020年10月19日更新)


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Set List

神戸の街並みを見下ろす光と緑
抜群のロケーションで届けた全12曲

 
『Kitano Airy Live
 with ジャッジメントKOBE』
9月13日(日) at KITANO CLUB sola

01. 点と点
02. 青とWhite
03. この街の夕暮れと僕の散歩道
04. ファンファーレ
05. サイダー
06. 鬼嫁、荒野を駆ける
07. タワー
08. アコガレ
09. 踊るランドリー
10. KAKOME
11. 雨でもないのに
~ENCORE~
12. feel

Live

次回公演は神戸を代表する
日本庭園に佇む迎賓館のカフェで!

 
【兵庫公演】
『KITANO Airy Live
 with ジャッジメントKOBE』
Pコード188-935
▼11月11日(水)19:45
相楽園パーラー
通常チケット3500円
応援チケット5000円
神戸VARIT.■078(392)6655

~10/22(木)23:59まで先行予約受付中!
チケット情報はこちら


Column1

「僕の音楽で世界は変わらないけど
 みんなの景色は変えられる」
君の日々に響く歌を届けるために
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今村モータースが大いに語る('19)

Column2

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Column4

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Column7

ルーツ、震災、ギター職人の道、
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ひらめきという羅針盤を手に
点と点を線にする今村モータースの
流浪の音楽人生を語る('15)