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変わらないでいるために、変わり続ける
ルーツ、震災、ギター職人の道、dozens、そして神戸――
ひらめきという羅針盤を手に点と点を線にする今村モータースの挑戦
流浪の音楽人生を語る撮り下ろしインタビュー&動画コメント

 その人を食った名前と飄々とした佇まいを心地よく裏切る少年性を湛えた歌声と、いつか見た情景を描き出すぬくもりのあるグッドメロディを礎に、『COMIN'KOBE』『MINAMI WHEEL』等関西の主要イベントにも毎年出演。昨年9月にリリースした2ndアルバム『おかわりのかわり』収録の『点と点』が、並居るアーティストを抑えてKiss FM KOBEの同月の推薦曲“HOTRAXX ”に選ばれ、さらには9月26日付ウィークリーチャートでは1位を獲得(!)するなど、大きな飛躍を果たしたシンガーソングライター・今村モータースが、3月8日(日)北野工房のまち 講堂にてワンマンライブ『今村モーターワンマンショー「この街の夕暮れと僕の散歩道」』を開催する。この挑戦は、停滞する弾き語りシーンへの危機感と地元神戸への愛、そして、遡ること20年前の阪神淡路大震災で図らずも経てしまった死生観etc…その全ての点が彼を導いた場所とも言えるだろう。一時はギター職人を目指していた男が、脱サラしてバンドのギタリストとなり、メジャーを見据えたものの解散。ひょんなことからシンガーソングライターとして歩み始めた、今村モータースの流浪の音楽人生をたどる撮り下ろしインタビュー。そう、彼は特別な人間ではない。ただ、人よりほんのちょっと、自分の背中を押しただけなのだ。ひらめきを一歩に変えた、あなたの隣にあるストーリー。

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“俺はもう絶対ここにおりたくない!”って思ったんですよ、痛烈に(笑)
 
 
――マップちゃん(=今村モータース)のここ1年の活動は、やっぱり今までとはちょっと違うよね。1stアルバム『夢見gachi商店街』(‘13)をリリースしたときとは、明らかに違う動きというか。
 
「去年の9月に2ndアルバムの『おかわりのかわり』を出したとき、音楽を続けるための“オモシロ”は、やっぱり自分で作っていかなあかんなと思ったんですよ。ルーティーンワークでもいいんですけど、やっぱり退屈してくるというか、自分自身でこのままではやっていけないなと思ったんで。自分自身をおもしろくしていこうかな、みたいな感じがスタートしたというか」
 
――その“このままだとやっていけない、おもしろくない”って思った具体的な出来事ってある?
 
「これは載せられるか分からないんですけど(笑)、結構な数のシンガーソングライターと沖縄ツアーに行ったとき、シンガーソングライターってワガママなのか、団体行動をしてる中で、結構しんどいなぁと思って」
 
――マップちゃんはバンド経験もあるし、また違った感覚があるかもね。
 
「うん、違う。何かあんまりお互いを尊重しないというか。その割に“みんなでやっていこうぜ”感を出すわけですよ。それを久々に感じて、“俺はもう絶対ここにおりたくない!”って思ったんですよ、痛烈に(笑)」
 
――ブラックモータース出ましたよ(笑)。
 
「フフ(笑)。普段は他人を見てても、それぞれのペースがあるから別に何とも思わないんですよ。そのツアーは全部で20人ぐらいいたのかな?」
 
――あ、それやったらトゲ立たへんから大丈夫。3人ぐらいで行ってたらアイツかな?って特定出来るけど、20人もいたらどいつか分からへんからこのエピソード載せます(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 誰が嫌いとかじゃなくて、自分が今までと変わらん動きをしてたら、多分ずっとここにおることになる。ここから抜け出すために、じゃあ俺はどうしたらいいんかな?って考えたとき、やっぱり単純にもう一段上というか、もっと1人で、単体で動けるようならないとって、何か痛烈に感じたんですよね。頭1つ飛び抜けてる人、1人でしっかり活動出来てる人って、YouTubeも駆使するしメディアにも情報を載せてくるし、ワンマンライブとかイベントでもバシバシ動いてる。自分もそういうところにちゃんと扱ってもらえるような動きというか、曲というか、ライブというか…全部がつながってくるじゃないですか。そこに出続けるために、どうしなければいけないのか。2014年はそういうことを意識してやれた年ですね」
 
――それってシンガーソングライター人生において、結構重要な転機よね。そういう感覚は今までなかったわけで。
 
「そうですね。だって、仕事をしてても、音楽一本でも、1人でやっていく分には続けられるから」
 
――シンガーソングライターって、バンドよりは採算的にもリクープしやすいし、なまじっか音楽が出来る手段も場所もそれなりに手に入る時代になったからこそ、吹き溜まりみたいなものも出来てくる。でも、マップちゃんのキャラクターとしても、“やるぜ!”ってガツガツいくようなイメージはなかったけど、元々はそういう人間なんかな?
 
「バンドをやってるときから、音楽の“無敵感”というか、ライブをやってても絶対にいけると思ってたし、もうこれ=音楽をやるっていうのが1つあるから、あんまり周りは関係ないと思ってたんですよね。あんまり周りに左右されることがなかったのに…(笑)」
 
――左右されたと(笑)。
 
「ウワアァ~ッ‼︎ってなったから、これはアカンぞと(笑)」

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昔から、図画工作とか“ものづくり”が好きやったんですよ
 
 
――バンドのときからっていう発言があったけど、マップちゃんここに至るまでのストーリーとして…まぁ全然知らん人からしたら、そもそも“今村モータースって誰やねん!”っていう話やけど(笑)。
 
「アハハハハ!(笑)」
 
――そもそも今のシンガーソングライター人生にたどり着く前に、dozens(ダズンズ)というバンドがあって、その以前は普通に就職もしていて。マップちゃんの音楽人生をさかのぼっていきたいなぁと思うんやけど、そもそもの音楽との接点というか、音楽を始めたのは?
 
「最初は中2ぐらいで、友達に“俺、ベース買うからお前ギターやらへん?”みたいに誘われて、2~3万の謎のエレキギターの教則本セットを買いに行って。普通にコードのFで挫折して、ずっと部屋に置きっぱなしやったんですよ」
 
――もう1億2千万人中、6千万人ぐらいが経験する挫折やん、それ(笑)。
 
「その後、阪神淡路大震災で家が全壊したんですけど、部屋はぐっちゃぐちゃなのにそのギターだけが何ともなく奇跡的に1本ポンッと残ってて。そこに光が差してて、“俺、これを弾かなアカンのちゃうか!?”みたいな(笑)。仮設住宅に引っ越したときにも一応持って行って、高3の文化祭のときに“バンドやらへんか?”って誘われて、“よっしゃ! 遂に俺はこれを弾くんか!”って思ったら、“いや、歌だけ歌ってくれたらいいから”って(笑)。MR.BIGが好きなヤツがいて、ドリルの先端にピックを付けて演奏する『Daddy, Brother, Lover, Little Boy』がやりたいからって。観てるみんなは何のこっちゃ分からんから、全然盛り上がらなかったんですけどね(笑)。ライブをやったのもそのときだけですね。で、高3で進路をどうするか迷ったとき、何しようかなぁっていろんな本をペラペラめくってたら、ギタークラフトアカデミーが載ってたんですよね。それを見たときに、“ちょっとおもしろそうやな”と思ってそこに行って。1年間で3本作るんですけど、2本目を作り終わったぐらいで、学校が燃えたんですけど(笑)」
 
――えぇ~!? 何で?
 
「木屑からコンセントに発火して。元旦に家でテレビ観てたら、よくスカイカメラとかで関西の元旦の風景を放送してるじゃないですか。確かに何か燃えてたんですよ。あとで、“あれ、うちの学校やったんや”って(笑)。で、就職どうするみたいなときに求人情報を見てたら、浜松に楽器メーカーの下請け会社みたいなところがあって、そこはYAMAHAのアコースティックギターを作ってますと。エレキギターは作っててちょっとおもんないなと思ってたんです。“これ、木の塊やんけ”みたいな(笑)。そしたら、ちょうど僕の親戚がYAMAHAに勤めてたおかげもあってか、そこにスッと入れたんですよ(笑)」
 
――そもそも、ギターをただ部屋に飾ってるようなヤツが、何でギター制作の道に?
 
「昔から、図画工作とか“ものづくり”が好きやったんですよ。料理とかも好きなんで」
 
――だいたい“音楽を始めたきっかけは?”って聞いたら、カラオケで上手いって言われて、それが人生で唯一褒められたことだったとか、兄貴が音楽をやっててとかさ。
 
「親が山口百恵とテレサ・テンとかを聴いてる世代で、昔からずっと車とかでかかってたから、だいたい歌えてたんですよ。だから影響を受けたと言えばそこです。でも当時は、別にそんなに音楽が好きじゃなかったんですけど」
 
――別に音楽にガツンと衝撃を受けて人生は変わってない。むしろ沖縄ツアーの方が人生変わってる(笑)。

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知ってる人が普通に死んでいくという現実を目の当たりにしたら
もう好きなことをしようというか、全部やっとくべきやなぁって思うから
 
 
――そうやってクラフトマンの道を歩むわけやね。まだ全然能動的に音楽やってない(笑)。
 
「結構ガッツリ仕事にのめり込むんですよ。しかもちょうど“若いヤツを育てよう”みたいな時期でいろんな仕事をさせてもらえて、3年目ぐらいで塗装部門の主任みたいになってそこから現場を仕切っていくんですけど、それがめっちゃおもしろくて。それこそさだまさしさん、長渕剛さん、ゆずさんとかが使うギターというところで、ちょっと音楽業界に触れて輝いてる人たち見るわけで、何かすごい素敵な世界やなって。あと、楽器を作ってる会社やから、休憩時間に調整室みたいなところに集まって、普通にポップスのカバーしたりっていう職場やったんですよ。会社のお祭りとか誰かの送別会があったらバンドを組んで何かやるとか、ちょいちょいギターを弾くようになって。やっぱりそれでちょっと変わっていくというか、音楽に触れていくんですね。そうこうしてる内に盆・正月に実家に帰ったら、同級生のヤツらが“俺らバンドをやり始めてん”って。もうそのときで23~24やったんですけど、“俺、ドラムやり始めた”とか言ってて(笑)」
 
――おっそ!(笑)
 
「で、“今ギター探してるけど、とりあえず新しい音源が出来たから聴いて”みたいな。で、浜松に帰って部屋でそれを聴いたとき、演奏はめっちゃヘタクソなんですけど、メロディとボーカルの声の良さが飛び抜けてたんですよ。これ、何か売れそうやなぁとパッと思ってしまって、もうやりたくてしょうがなくなってしまって」
 
――すごいね。その曲の魅力というか。
 
「ただ、仕事もそれなりのポジションやったし、これは辞められんなぁと。でも、来期の方針を決めましょうみたいな会議中に、そんなんもう決めてられへんから(笑)、“すみません、僕はもう来期はいないと思います”、“え? どういうこと!?”みたいになって(笑)。そこで会議を中止して、部長さんとずっと話して。そしたらその部長さんが、“それをやりたいのは分かるから、じゃあ3年休職してもいいいよ”って言ってくれたんですよ」
 
――めっちゃ優しいやん。
 
「そう言ってはくれたんですけど、そんなん他の職人さんに失礼やし、そんなことしてたら腕も落ちるし、多分戻ってこれないと思うんで、やっぱり辞めさせてもらいます、みたいなことを言ったら、“いきなり抜けられても困るから、じゃあとりあえず1年だけおってくれ。やれることを全部下の子に引き継いでくれたらいいよ”って。そこから1年仕事して、神戸に帰って、バンドをスタートさせたんですよ。それが25歳です(笑)」
 
――アハハハハ!(笑)
 
「おっそ!(笑)」
 
――普通やったら、1回音楽を続けるかどうか考える歳よ。でも、マップちゃんが最初に音楽に心を揺さぶられたのは、プロミュージシャンの有名なヒット曲じゃなくてdozensのデモってことやんね。マップちゃんのひらめきに対しての行動力がすごいよね。
 
「悪く言ったら行き当たりばったりですよ(笑)。でもそれは、震災があったからなんですよね、やっぱり。普通に僕らは生き残ったけど、川を挟んで向かいの家の人は全員死んでるんですよ。そのときに、“あ、人は死ぬんや”って。知ってる人が普通に死んでいくという現実を目の当たりにしたら、もう好きなことをしようというか、全部やっとくべきやなぁって思うから」
 
――やっぱりそれって、マップちゃんが神戸に生まれ育ったからこそ。
 
「そこから結構変わりましたね。音楽に対してどうとか言うより、生き方に対してすごく大きい出来事でした」

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こんなに続けるとは思ってなかったから、こんなにヘンな名前なんですよ(笑)
 
 
――そして、dozensというバンドを始めて、それがホントにいい感じになってきて、神戸で勢力を拡大して。
 
「順調に行きましたよ、ホンマに。多分2年半ぐらいしか活動してないんですけど、初めて『MINAMI WHEEL』に出たとき、僕らの会場がknaveでお客さんが8人ぐらいやったんですよ(笑)。“あれ? 今日ミナホやってるよね?”みたいな(笑)。でも、その中に音楽ライターの人がいたみたいで、“今年の『MINAMI WHEEL』で観てよかったバンド”みたいな記事に、ポンッと載せてくれたんですよ。そこから絵に描いたように集客が増え出して、大人の人が観に来てくれるようになって。ま、それでも当時28歳ぐらいですけど(笑)。メジャーレーベルの人に、ホンマにベタに“君らには光るもんがある”とか言われて(笑)」
 
――そんな漫画みたいなことあるんや(笑)。
 
「そこからここ1年の結果次第ではみたいな話になって、“これはもう間違いない、仕事辞めてよかった”みたいな」
 
――でも、そのときはまだギタリストやもんね。曲は書いてたん?
 
「ちょこっと書いてたんですよ。何か書けたんですよね。何で書けたんですかね?(笑)  歌詞はボーカルに任せて書いてなかったんですけど、バンド内で見よう見まねでやってみたら出来るようになって。で、まぁそのメジャー云々の話があった次のスタジオぐらいで、ボーカルのヤツが“もう辞めるわ”って言い出して(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) メジャーレーベルの人の話は、ボーカルも聞いてるんよね?
 
「そうです。でも、何かそのときも“へぇ~よかったなぁ!”みたいな感じで、他人事なんですよ(笑)。で、次のスタジオで辞めるわってなって、“ハァ?”じゃないですか。でも、こいつが言うんやったらもうこの先はないんかなぁって、ちょっと思ったんですよ」
 
――納得したんや、割と。
 
「周りの人の方がザワザワしてた(笑)。僕らはもうしゃあないなって。それでもう、今決まってるライブをやったら終わりますって。そのライブもほとんどがイベンターさん主催のライブだったんですけど、DOESさんとやらせてもらったときに、“もう辞めるって決まってるんです”って言ったら、ボーカルの方が“いや、お前ら絶対辞めへんほうがいいで。おかしいやろ”みたいに言ってくれたんですけど(笑)、結局辞めて、いきなり天国から地獄ですよ(苦笑)」
 
――仕事を辞めて、バンドをするために神戸に戻ってきて、メジャーデビューに続く話がきたところで解散と。こりゃクラフトマンやっときゃよかったよと。
 
「うわ…失敗した! みたいな感じですよ(笑)。もう真っ白になって、普通に(三宮のライブハウス)Star-Clubの事務所で1日ボーッと座ってるのが1ヵ月ぐらい続いたり(笑)。それを見るに見かねたスタッフの人が、“かわいそうやから、ギタリストだけが集まる弾き語り大会に出してあげよう”って(笑)」
 
――そんな都合のいいライブあるんや(笑)。
 
「1回だけ高校の文化祭でMR.BIGを歌ってる経験があるから(笑)、他にやることもないしまあいっかと。ちょうど会社辞めるときに後輩とか同期から作ってもらったアコースティックギターがあったから、それを弾いてカバーとかをちょこっと歌ったら、“お前、結構いけるかもしれんぞ”ってみんなから言ってもらって。自分の声は何か女っぽいというかあんまり好きじゃなかったんですけど、他にやることもないし、みんながいいって言ってくれるんやったらって、そこから弾き語りのイベントに出るようになって。でも、こんなに続けるとは思ってなかったから、こんなにヘンな名前なんですよ(笑)」
 
――タウンページを広げて目に入ったページに“何とかモータース”っていうのが並んでるのを見て、今村モータースになりましたと。だからページによっては“今村クリニック”とか“今村商店”やったかもしらん(笑)。
 
「そうですそうです(笑)。そこからやっとスタートですよ、今村モータースが。もう30になるぐらいの年でしたね」
 
――自分の声の良さに気付いてなかったんや。よく言うけど、マップちゃんってホンマ顔面と違う声出るよね(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) そうなんですよね」

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“理解出来るけど、やっぱりやり切れない”
やり切れない中で、それでもみんな生きている
 
 
――いざシンガーソングライターになったら、詞も曲も書いて歌うわけやん。曲へのアプローチはどう変わった?
 
「とりあえず歌うことから探すんですけど、やっぱり頭に浮かぶのは、神戸の街並みとか、友達のこととか。押し付けがましいのは嫌いやから、やっぱり聴いてて風景とか人が見える歌が好きなんで。自分が生きてきたからそう思うのかもしれないんですけど、昭和の歌謡曲を聴いてたら、めちゃめちゃ哀しくもなるし嬉しくもなる。別に今の音楽を批判するわけじゃないんですけど、“頑張っていこうぜ!”とか“楽しくいこうぜ!”とかって、僕からしたらおもしろくないというか、嘘っぽいというか。別にみんながみんな楽しくなくてもいいし、幸せやなくてもいいと思うんですよ。クソみたいな人生であっても楽しめるし、楽しんでる人はいる。それが普通じゃないですか」
 
――それで言うと、子供の頃に親の影響で聴いていた歌謡曲と、震災で感じたある種のリアリズムが、マップちゃんの音楽の土台になってる感じがするね。そう考えたらやっぱり今村家に生まれて、神戸で育った人の音楽で。
 
「かもしれないですね。あんなぐちゃぐちゃやったとこから、もう1回再生していく…1.17の震災の集いが毎年あって被災者の人がスピーチするんですけど、自分の娘が瓦礫に埋もれて、そこから引っ張り出して病院に連れて行かなって車に乗って、いろんなところを走り回って、その途中で娘さんが死んでしまうみたいな話を普通にされたら…そんなんもう全然震災は終わってない。その人に対して、何か掛けてあげる言葉を僕は持ち合わせてない。震災の記事で一番印象に残っているのが、当時は状態が酷い人からまず助けられていったんですけど、比較的軽傷だとされてるその人の息子は助けてもらえない。その後、見た感じ軽傷だった息子さんの状態が実は酷くて亡くなってしまった、みたいな。その状況ってすごい理解出来るんですよね、僕ももう大人やから。でも、そういうのを全部飛び越えて、やっぱり自分の息子を助けて欲しいのが人間じゃないですか。その中でその人から出た言葉が…“理解出来るけど、やっぱりやり切れない”って。その一文って、いろんなことの核心を突いているような気がして。生きていく中でも、やっぱり格差ってあるじゃないですか。能力的に優れてる人と優れてない人、お金のある人ない人…そういうことも生きてたら分かってくるし、分かってるけど、やり切れない中で、それでもみんな生きている。そういう人たちに分かってもらえるようなライブであったり、そういう想いが見え隠れする生き方が出来たらいいなっていうのは、やっぱり根本にありますよね。僕の音楽はウワーッて盛り上がって踊りまくる感じじゃないし、簡単に“頑張っていこうぜ!”みたいな歌は書けないんですよね」

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“やっぱり自分がある程度イメージして動いてきたところには
ある程度近付けるんや。俺、ここからだいぶ変わるな”って思った
 
 
――去年、最新アルバム『おかわりのかわり』が出て、冒頭で話したように“ここから抜け出すために”という意識になって、曲を書いていって。『点と点』(M-1)からこのアルバムは始まったんやね。
 
「そうですね。そういう想いの中で、じゃあもっと分かりやすくとか、キャッチーにとか考える中で『点と点』のメロディが出来て。僕はメロディが降りてくるとかはないんで、曲を作ろうと思って作るんですけど、何だかんだ5~6年歌ってきたけど、バンド時代からのつながりもいまだに多いし、じゃあそこに向けての曲にしようって」
 
――マップちゃんの特徴って、はなからシンガーソングライターをやってる人とは違うつながりを持ってるところやもんね。『点と点』の歌詞を見たときに、“誰に向けての曲なんやろう?”というか、この対象ってすごく特別な関係やなって思った。歌詞を乗せられたとき、大事な曲になるなとは思った?
 
「そうですね。そのときに、神戸のKiss FM主催の『トアロード・アコースティック・フェスティバル2014』に出させてもらって、そこで初めていろんな人と出会わせてもらうんですけど、“今年はアルバムも作ってて、ちょっと今までと違う活動をしたいんです”ってKiss FMの方にお伝えして、その言葉が引っ掛かってたかどうかは分かんないですけど、“もっと多くの人に伝えるような活動をしていくんであれば、HOTRAXX(※Kiss FMの月の推薦曲)とかも見据えて曲を書いてみたらどう?”みたいな。とは言え、基本はレコード会社向けだから練習のお題みたいなもんだったんですけど、“今度会議があるから応募してみる?”って言われて出してみたら、何か通ったんですよ(笑)」
 
――何か通った(笑)。
 
「でも、アコースティック・フェスティバルの流れと、そこから応募するまでの期間に番組にも何回か挨拶に行かせてもらって、今村モータースっていう神戸のアーティストを知ってもらっていった中で、“じゃあコイツで1回やってみるか”みたいな心意気で推してくださったんやと思うんですよ」
 
――エールも含めてね。HOTRAXXに決まりましたって言われて、何て思った?
 
「実際に決まって、ここからどうなるのかは自分が全く見たことのない領域やったから分からなかったんですけど、『おかわりのかわり』を作るって決めて、“こうなったらいいな”って動いて、それがポーンと実現したから、“やっぱり自分がある程度イメージして動いてきたところには、ある程度近付けるんや。俺、ここからだいぶ変わるな”って思ったんですよ。さらに想いが加速するというか、自分の中でだいぶ意識が変わったんですね」
 
――しかも選ばれた後も、マップちゃんは策をこうじたもんね。
 
「それもヒントをいだいてて、DJさんが“毎日流す曲を、毎日同じ紹介文で読むのは、あんまりおもしろくないねんな”って言うのを聞いて、“じゃあ僕、毎日Kiss FMにメールします!”って。今ツアーで何処何処に来てますとか、今日はこんなことがありましたって、毎日いろんな番組に送って。そしたら番組でというよりかは、Kiss FM全体としても、今村モータースっていうヤツが神戸にいて、今月のHOTRAXXでっていうのが分かってもらえたんですよね」
 
――普通さ、パワープレイになったアーティストが毎日自分の近況をその局にメールで送るなんてないもんね。逆に言うとそこまでする人がいなかった。あとは、東京だとデカ過ぎるし、神戸の街のサイズ感が、すごく密接な関係を作ったのかもね。

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周りから“ずっと変わらずに、あの人歌ってるよね”って言われるのが
多分僕にとっての正解やと思う
 
 
――『おかわりのかわり』にはそうやっていろんな人を巻き込めてるというか、それこそdozensの元メンバーが書いた『ユリイカ』(M-3)と『キャラメル』(M-7)が入ってるっていう関係も、なかなかないなと。
 
「元々は友達始まりなんで、全然今でも付き合いはあるんですよね。新年会とかで近況を聞きつつ、まだ曲を作ったりとかもしてるみたいで、それを聴かせてもらって。これがもしかしたらミルク代になるかもしれんし(笑)、何ならそれが僕が歌っていく1つの意味にもなる。才能は認めてるところですから」
 
――あと、『雨宿り』(M-4)は聴いていて過去に大事な人を失ったんかなとか、いろいろ考えることがあった。
 
「あぁ~そうですね。まぁでも、一番好きな人とは、得てしてなかなかうまくいかないじゃないですか。アレ何なんですかね?(笑)」
 
――ね。何か思いがけずな人の方がうまくいくもんね。スルッと始まる。
 
「世の中そんなに甘くないぞ的なことが、色恋はやっぱ多いですよね(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) じゃあ別に昔大恋愛したとかでもないんか。
 
「いや、あるっちゃありますよ。僕、高校ぐらいから10年ぐらいずっと好きやった人いるんですよ。何回かメシ食いに行ったりその程度ですけど(笑)。でも、普通に心の中にずっとあって、みたいな。その人は今は結婚してて、Facebookとかでつながってますけどね(笑)」
 
(一同爆笑)
 
「そういう淡いのはあります。なかなかうまくいかんもんやなぁと。例えば、そういう恋愛感情みたいなものがあって、それがダメになって、それをズバッと切って見ないようにするか、また別の形で付き合っていくかは、自分次第じゃないですか。どっちかって言うと僕は後者なんですよね。やっぱりそれを見ていきたいっていうのはあるから」
 
――今までの話を聞いてて、マップちゃんの曲の世界というか生き方やなって思ったのは、人との関係を切り捨ててない。関係がどこかで終わってないというか、もう言ったらキャッシュみたいに全部くっついてくる(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) でも、確かにそうなんですよ。『栄町通四丁目』(M-9)でも歌ってるんですけど、全部持って行きたいんですよね、僕。今まであったいいことも悪いことも。なかったことにも出来るし、別にそれを見なくてもいいんですけど、そうじゃないとやっぱり今の自分がいいと言えないというか、自分がなかなか見えてこないというか。どんどん変わっていきたいし、でも変わらないでいたいし」
 
――それがまさに、変わらないでいるためには変化が必要という。
 
「そこなんですよね、やっぱり。久々に会って“自分あんま変わらんなぁ”みたいな人って、会ってない間の時間をなしにするぐらい細かい変化があって、そう感じられるところがあると思うんですよ。例えば、スピッツとかMr.Childrenとかって、今の曲も昔の曲も聴ける。常にヒット曲を生み出してる人が、変わってないわけないじゃないですか。ずっと変わらずにその場にい続けられるのは、周りがどんどん変わっていくのに合わせてずーっと変わっていってるからであって、やっぱり変化は絶対に必要やと思うんですよ。周りから“ずっと変わらずに、あの人歌ってるよね”って言われるのが、多分僕にとっての正解やと思うんです」
 
――それは=変わり続けた人が言われる言葉であると。
 
「例えば10年後に、“今村モータースって昔から同じような感じでずっと歌ってるよね”って言われたら、めちゃくちゃすごいことやと思う。それなりにみんなから見える位置にいて歌を歌えてるってことは、ずっと人前に出続けてないといけないだろうし。それが目標であり、一番大事なところですよね」

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僕が歌う世界そのままを
その空間の中でライブが出来たらいいんじゃないかって
 
 
――そんなマップちゃんが、2015年も仕掛けていくということで。先ほど会場を見に行きましたけども、思いのほかのデカさにビビりました(笑)。
 
「僕もビビりました(笑)。めちゃデカいやん!みたいな」
 
――神戸・北野工房のまち3階の講堂にて『この街の夕暮れと僕の散歩道』というワンマンショーが行われるということで。何でまたこんな場所でライブすることになったのかと。
 
「今までにアルバムを出してはツアーして、そのファイナルにワンマンやって、みたいな流れを2回だけですけど繰り返して。何かあんまり…自分からやってる感がないなと。手本に合わせてやりました、みたいなお決まりのパターンなんで、何かちょっと違うなぁって思ってるところがあったんでんすよ。あとは、ラジオを聴いてる人が=実際にライブハウスに来るのかっていう話になって。ファイナルのときはそういう人が何人かいたんですけど…」
 
――劇的に状況が変わったわけじゃない。
 
「じゃあそういう人たちにも来てもらえるにはどうしたらいいんだろう?って考えたとき、ライブハウスじゃなくて観光地で、夜帯じゃなくて家族連れでも来やすいお昼に、お休みの日にワンマンをしてみようかなぁっていうことになって。でも、それだけじゃつまらないので、僕が生活している範囲内で、音楽活動で一番重要視してる“風景が見える”っていうことをもっと突き詰めていって、僕が歌う世界そのままを、その空間の中でライブが出来たらいいんじゃないかって。そういうことを何となくイメージして『この街の夕暮れと僕の散歩道』っていう曲を書いたんですけど、そのイメージ通りの場所でライブをしようと。それがここなんです。実際に散歩したり、生活してるのがここら辺なんで。歌のまんまですね」
 
――そして、15:00開演なので、ちょうどライブの終盤とか帰り道ぐらいに夕暮れが見られるんじゃないかと。
 
「そうなんです。あと、僕ら世代はやっぱりだいだい皆さん結婚しててお子さんもいるやろうし、ライブハウスにはなかなか行けないなと思って。そういう人にも来ていただけたら嬉しいので、お子ちゃまは無料みたいな(笑)。ライブ中に騒がれても僕は何にも気にしないです(笑)。それにKiss FMって言っても神戸市だけじゃなくて兵庫県全体、もっと遠くにも電波は届いてると思うんで、そういう人たちもちょっと旅行がてらじゃないですけど、日帰りで来れる時間帯やと思うので、来てくれたら嬉しいなぁという、ちょっとイヤらしい戦略です(笑)」
 
――今僕らが取材してる喫茶スペースもね(北野工房のまち2F)、ラテ・アート体験が出来ると書いてますから(笑)。
 
「アハハ!(笑) もうライブの前後も、全然いろいろ出来ますよ」
 
――場所も三宮のトアロードに面してて便利やし、旧小学校というノスタルジックなシチュエーションもいいよね。ライブに向けては何かありますか?
 
「今までは1人でマイペースにやっていけたらいいなと思ってたのが、HOTRAXXとか、ラジオ番組にも出させてもらって、少なからず自分のことだけではなくなってきているんで、その期待にはやっぱり応えたいなとも思いますし。だから、自分どうこうはもしかしたらないかもしれない。そういう人たちに恥ずかしくないライブが出来たらなと」
 
――昔から応援してくれてる人だったり、最近マップちゃんの音楽を聴いてくれた人だったり、初めて観る人もいるでしょうし。あと、マップちゃんなんかは一度神戸を出て戻ってきたわけやけど、マップちゃんにとっての神戸とはどういう場所ですか?
 
「やっぱり、神戸は自分が住んでるところというか生きてるところなんで、その地元愛みたいなものは絶対にありますよね。誰しもそれぞれの土地にあるやろうし、別に神戸が一番やとは思ってないですけど、でも、そこにつながったらいいなと思うんですよね。そういう想いがめっちゃ大事やと思うんですよ。今の時代は特に」
 
――マップちゃんが音楽を始めたのは結構遅い方やと思うけど、今の人生において音楽は間違いなく中心にあって。
 
「うーん…何でやってるんですかね? でもまぁ、“ものづくり”の延長ですかね、やっぱり。そこは変わってないと思うんですよね」
 
――その人が、北野工房のまちっていうものづくりのファクトリーでライブをするっていうのはキレイ(笑)。
 
「そうですね(笑)。こういうライブがシリーズ化出来たらいいなと思うんですけどね。もっと他にも観てもらいたいところもあるし、こういう場所をつなげていきたい。そういうことが出来たら、神戸のアーティストとしても認識されると思うので。まずは北野工房のまちのワンマンライブに、ぜひ来てください、ですね。待ってます!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)

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(2015年3月 4日更新)


Check

Movie Comment

北野工房のまちでのワンマンに向け
マップちゃんからの動画コメント!

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Release

ほんわか胸をくすぐるポップソング集
音楽人生の分岐点となった最新作

Album
『おかわりのかわり』
発売中 1800円(税別)
PINEFIELDS RECORDINGS
HOAU-001

<収録曲>
01. 点と点
02. Get back home
03. ユリイカ
04. 雨宿り
05. 春をぬけて
06. HAPPY
07. キャラメル
08. メロディ
09. 栄町通四丁目

Profile

いまむら・モータース…地元神戸を中心に活動。ライブハウス、カフェ等、幅広い場所で歌いつつも、『COMIN'KOBE』等関西主要イベントにも毎年出演。’13年にリリースした1st アルバム『夢見gachi商店街』が、新人でありながら各地CDショップにてオススメアーティストとして展開され、好調なセールスを記録。これを受け、’14年9月3日には2ndアルバム『おかわりのかわり』を発売。恋人に限らず、友達、親、子etc遠くに住む大切な人に向けたという同作収録の『点と点』が、地元Kiss FM KOBEの同月の推薦曲“HOTRAXX ”に選ばれ、さらには9月26日付ウィークリーチャートでは1位を獲得するなど、今注目のシンガーソングライターである。今年3月8日(日)には神戸・北野工房のまち 講堂にて、ワンマンライブ『今村モーターワンマンショー「この街の夕暮れと僕の散歩道」』を開催する。

今村モータース オフィシャルサイト
http://i-motors.info/


Live

小学生以下無料で昼帯にスタート
前売購入者にはCDもプレゼント!

Pick Up!!

【神戸公演】

『今村モーターワンマンショー
「この街の夕暮れと僕の散歩道」』
チケット発売中 Pコード251-414
▼3月8日(日)15:00
北野工房のまち 講堂
前売3000円(椅子席)
神戸VARIT.■078(392)6655
※CD付。小学生以下無料。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


【神戸公演】
『トアロード・アコースティック・
 フェスティバル2015』New!
チケット発売中 Pコード251-784
▼4月19日(日)13:30
神戸VARIT./BO TAMBOURiNE CAFE/
niji cafe/ARTRIUM/スポルテリア/
nomadika/北野工房のまち
前売3500円
[出演]平松愛理/つじあやの/大石昌良/小南泰葉/advantage Lucy/Rihwa/D.W.ニコルズ/ワタナベフラワー/アカシアオルケスタ/カミナリグモ/浜端ヨウヘイ/にこいち/Schroeder-Headz/Keishi Tanaka/Salley/wacci/GLIM SPANKY/ココロオークション/井手綾香/岡野宏典/金木和也/今村モータース/見田村千晴/おおたえみり/山根万理奈/高松豪/澤田かおり/藤原さくら/ウルトラタワー/サンドクロック/ななみ/SHE’S/久和田佳代/中井大介 & The Pirates/ヒラオコジョー・ザ・グループサウンズ/日向文/小園美樹/山田エリザベス良子/ケセランパサラン/Chima/Rei/あいみょん/最悪な少年/芝岡翔梧/他
アコフェス実行委員会■078(392)6655
※未就学児童は無料。小学生以上は有料(12歳未満は要保護者同伴)。

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