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「僕の音楽で世界は変わらないけど、みんなの景色は変えられる」
君の日々に響く歌を届けるために――
運命の7/21(日)神戸新聞松方ホール、過去最大の挑戦を前に
今村モータースが大いに語るインタビュー&動画コメント!

 青春とは、真っ只中にいるときには気付かない。もう取り戻せない永遠の蒼は、いつの間かこの手をすり抜けていく。大人になったらなったで、どんどん選択肢が狭まっていくかと思いきや、大人だからこそいろいろ選んで、それでも前に進んでいかなきゃいけない。消えゆく青春、失っていく日々への疑問、胸の奥をチクリと刺すようなノスタルジーと、続いていく人生で縁あって出会った数え切れない人たちの顔…。そんな風景と人と感情を、気心知れたバンドメンバーと全10曲のみずみずしいポップソングに仕立て上げたのが、神戸発のシンガーソングライター、今村モータースの最新アルバム『青とWhite』だ。そして、長きにわたったツアーの果てに待ち構えるのは、7月21日(日)神戸新聞松方ホールにて行われる運命のワンマンライブ、『青とWhiteリリースツアーファイナル「さらなる四〇詣る」』。過去最大の挑戦にして、自らの人生に課した分岐点を前に、今村モータースが大いに語る!

 
 
音楽を続けるためにはどうすればいいのかをこの4年間、ずっと考えてた
 
 
――マップちゃん(=今村モータース)のインタビューは約4年ぶりですけど、当時は関西のシンガーソングライターシーンに埋もれてたらダメだ、このままじゃ続けられないという時期で。そして、2年前の初ホール公演、神戸朝日ホールのMCでは、“楽しいこと=楽なことじゃない”と。音楽を楽しむために楽じゃないこともする。この4年間のマップちゃんの動きって、まさにそういうことだったなと。
 
「僕はまず音楽を続けることが一番で、そのためにはどうすればいいのかをこの4年間、ずっと考えてたなぁと思いますね。でも…自分が外を向いてる分、気にすることも増えたというか。大小あるにせよやったことに対しては何かしら評価が出るし、ライブのクオリティとかチケットの値段とか、昔はそこまで気にしてなかったことも、それが適正であるかを考えるようになりましたね。例えば、大人が2時間ぐらいの映画を観て1800円かかるじゃないですか? でも、ライブで1800円っていうのはなかなかない」
 
――ブッキングで4~5組出たって、各30分の出番で2000円は取るもんね。
 
「しかも、ワンマンライブならその値段の1.5~2倍になって。でも、映画と時間はたいして変わらない。比べることが正しいとも思ってないですけど、同じエンタメとして、同じ土俵で、“これやったら映画を観に行った方がよかったな”とは思われたくないわけで。そういうことを気にするようになりましたね」
 
――IMAXで観る『ボヘミアン・ラプソディ』('18)と同じ値段を払って、時にほぼほぼ生音みたいなところで30分のライブを観ることもあるわけやからね(笑)。
 
「アハハ!(笑) ホントそう!」
 
――そのときに映画以上の感動があるのか、そのためにお客さんが使った時間とお金、休みを取るために動いた労力とかも含めて満たされたのか。そう考えるとやっぱり、意識は変わってくるよね。
 
「しかも、チケット代って僕が歌ってパフォーマンスする値段と=じゃないじゃないですか。今回の神戸新聞松方ホールのチケットは4000円なんですけど、作り込んでいけばいくほど経費がかかるから、当然、値段も高くなる。でも、“この演出だから、このホールだからこの値段”っていう観られ方はしないんで。判断されるのは僕がそこでどんなパフォーマンスをして、満足してもらえるかだけでしかないと思うんですよね。そこがこの4年間で一番意識が変わったところかな。あと、僕って結構ゆるっとしたライブをするタイプじゃないですか(笑)」
 
――酔拳みたいなね(笑)。
 
「酒も呑まれへんのに(笑)。ひたすら曲のことだけ話して歌うライブと、言い方は悪いですけど、ちょっとワイワイするゆるいライブと、どっちが正しいじゃなくて、どっちがニーズがあるのかを考えたり。昔の自分からしたら余計なことまで考えなきゃいけなくなったというか…楽しむための苦労じゃないですけど」
 
――ただ、それもマップちゃんが前に進んでるからこその悩みよね。
 
「歳を取ったら選択肢がどんどん狭まっていくって言うけど、そういう意味では割と逆やなぁと思ってますね。歳を取れば取るほど、めっちゃいろいろ選んでいかなあかんなと思ってるから」
 
 
“僕”じゃなくて“みんな”でアルバムを作ってみたかったんですよ
 
 
――前作『この街の夕暮れと僕の散歩道』('16)は、言わばコンピレーションアルバムじゃないけど、地元神戸の様々なロケーションでライブする連続企画の過程で生まれた曲を収録する意味合いが強かったと思うけど、その『この街』シリーズってマップちゃんの中でどんな経験として残りました?
 
「僕、自分のことを“シンガーソングライター”って言うのがイヤだったんですよ。そもそも生きていく上で必要やと思って歌ってるだけで、理論的なことも何1つ理解してなかったし。でも、『この街』シリーズをやって一歩音楽に近づけたというか、シンガーソングライターに近づけたと思ったんですよ。それは自信になったかなと思いますね」
 
――そして、2年ぶりのアルバムとなった『青とWhite』は、また成り立ちが違うよね。
 
「とは言え、このアルバムも結構特殊で、僕は一応ピンでやってますけど、サポートしてくれるメンバーはもう3年半ぐらいずっと一緒で。ちょっとしたバンドより長いし、あんまりサポートとも思ってないんで、“バックバンド”とは言わないようにしてて。従えてるわけじゃないから、いつも“サイド”って言ってるんですよ(笑)。だから1回、“僕”じゃなくて“みんな”でアルバムを作ってみたかったんですよね。なので、今回の作り方としてはほとんどバンドで、過去3枚のアルバムとはちょっと位置付けも違ってくると思ってますね」
 
――信頼のおけるメンバーありきの制作体制がまずあって、マップちゃんが今作で伝えたいテーマはあった?
 
「タイトル曲の『青とWhite』(M-5)が最初にできたとき、これで1枚アルバムが作れそうだなとまず思って。色が付いてるものと全く色がないものの対比と、青=未熟とか、淡いとか、青春時代みたいなもの。僕は40歳になったんで、言うなれば大人になって倍の時間が経ってるじゃないですか。あとはWhite=白っていうのは結構後付けで、最初は“Why=なぜ?”っていう疑問の方で、『青とWhyと』やったんですよ(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) ちょっとしたダジャレやん。
 
「ね(笑)。青春と、日々感じてた疑問って=両方消えていくものやと思うんですよ。大人になるまでの期間の倍も生きてたら、青春と呼ばれるあの時間なんて、ホンマにちょっとじゃないですか? しかも10歳までとかは青春もクソもないですから(笑)、それを15~20歳ぐらいまでとしたら、本当に短い時間でしょ? あと、何で人は死ぬのか? 何で勉強する必要があるのか? なぜ生きるのか? …そんなこともいつの間にか考えなくなって。例えば、小学生の頃に遠足に行って晴れやったら全員満足やし、昔はそうやってある程度低いハードルでめちゃめちゃたくさんの人が満足できてたのに、歳を重ねたらもっと細かく欲望が枝分かれしていって、別に晴れたぐらいではそんな喜ばないですよね。会社の人全員が、“今日は晴れた! イェ〜!!”みたいなことってないし(笑)」
 
――確かに、大人になると些細なことではなかなか喜べなくなるね。
 
「そういうふうに満足できなくなってるのは何なのかを考え出して、『青とWhite』を作ったんです。キラキラしたものとか大事なものが消えていって、どんどん満足できなくなってる。僕はめちゃめちゃお金が欲しいとかも別に思ってないし、好きな友達と楽しく過ごせたらいいかってぐらいですけど、その大事なものを守りたいというか、これからもワイワイやっていきたいなら、もっと挑戦していかなあかんなって思ったんです。このままではそれすらも消えていくなと思った。だから、ホールでワンマンをしようとか、アルバムを出そうとか、ツアーを回ろうとか、ここにきていろんな欲求が出てきたんですけどね」
 
――現状維持じゃこのささやかな幸せすらなくなっていくのを、どこかで何となく感じてるからこそ。でも、それが二度目の青春とも言えるかもしれないし。『ジャイロロック』(M-4)、『青とWhite』、『サイダー』(M-6)とか、今回はノスタルジーを喚起させる曲が多いなと思ったのが、今の話で腑に落ちましたね。
 
 
その先の物語は描いてないだけで絶対にある
 
 
――あと、『幸せになっていく』(M-2)みたいな曲からも感じるけど、マップちゃんの楽曲に常にある、何かこう1つの諦めというか、後悔の念は健在やなと思って(笑)。
 
「いつもね、人よりタイミングが遅いなって思うんですよ本当に(苦笑)。だから、そういう表現が多いというか、“あのときもうちょっと何かできたのに”って…まぁ実際はできないんですけど(笑)、そんな気持ちが多い気がしますね」
 
――前回のインタビューでも、“恋愛感情みたいなものがあって、それがダメになって、それをズバッと切って見ないようにするか、また別の形で付き合っていくかは、自分次第じゃないですか。どっちかって言うと僕は後者なんですよね。やっぱりそれを見ていきたい”って。そこで人との関係とか思い出が終わるんじゃなくて、捉え方が変わるというか、その距離感が変わる。マップちゃんって人との関係を切り捨てないよねっていう話をして。
 
「今だにそうですね、確かに」
 
――この曲を聴いて思ったのは、壁際で“じぃ”っと見てるLINEスタンプのイメージ(笑)。
 
「めっちゃ怖いやん!(笑) いやでも、さっき大阪駅でも思ったけど、めちゃめちゃ人がいるでしょ? でも、誰のことも知らないし、誰の人生にも1ミリも関与してない。だから、こうやってお話しする関係になるだけでも、だいぶすごいことやと思ってるんですよね」
 
――そうやって縁あって出会えて、何なら好きとまで思うぐらいなら、余計にね。ただね、『幸せになっていく』っていうタイトルで、こんなに幸せじゃない曲があるのかなって(笑)。
 
「アハハハハ!(笑)」
 
――このタイトルやったら一見、自分が幸せになっていくと思う。そうじゃなくて、幸せになっていく相手を見つめてる自分っていう。しかも最後に、ダメなのを覚悟で自分の気持ちを伝えるって…。明るくポップなメロディに乗って、こんなに切ないことを歌ってるのが、すごくいいなと思って。
 
「いやぁ~そんなん、めちゃめちゃちゃんと聴いてくれてますね(笑)。やっぱりその人の人生の“段階”を見たいんですよね。別に僕とどうこうじゃなくて」
 
――マップちゃんにこんな人がいっぱいいたら大変やん。常に誰かの老後を気にしてるじゃないけど(笑)。
 
「アハハ!(笑) 最近ね、ツアーの移動中に機材車で『星の王子 ニューヨークへ行く』('88)を観たんですよ。僕は昔からあの映画が好きで、それをキヨシ(ds・CUma)が持ってきて。僕も定期的に観る映画やったんで、“観ようや観ようや!”ってみんなで。来年、続編が公開されるらしいんですけど、あんなにハッピーエンドで完結してたのに、また別のストーリーがあって、しかもあれから32年後じゃないですか。1回終わった物語に、まだ続きがあるという」
 
――確かに、見ないようにすれば自分の中で終わるけど、その人の人生は続いてるもんね。
 
「そうなんですよ。その先の物語は描いてないだけで絶対にあるのに、そのときの思い出の良し悪しだけを見る。でも僕は、その後も想像しちゃうというか考えたいし、見てたいんですよね。そんな感じやから、逆にあんまりたくさんの人に会われへんなと思ってるんですよ(笑)。僕はライブに来てくれるお客さんとかも割と覚えてる方で、“あのとき、こんなことがありましたよね”、“え? 覚えてくれてたんですか!?”みたいなことも多いんですよ。だから…お客さんがこれ以上増えたら大変やなぁと思う(笑)」
 
――それぐらいマップちゃんが出会った人たちへの想いが強いんやろうね。だってそれって、お客さん1人1人のことを覚えようとしてるってことやもん。
 
「この前の大阪のワンマンにも、結構いろんなところからお客さんが来てくれたんですけど…目の不自由な方が杖をついて来てくれてはって。あの方は千葉の方ちゃうかな? ここぞというときに来てくれるというか、あの日も不意に来てくださって。その方が帰られるときにちょうどタイミングが合ったんで、会場の扉をガラガラッと開けて“ありがとうございました!”って言ったら、“もしかして今村さんですか?”、“そうです、気を付けてお帰りください”みたいな軽いやりとりやったんですけど」
 
――どこかでマップちゃんの音楽に出会って、観に行きたいなって思ってくれたわけやもんね。ありがたいね。
 
「それってね、決して小っちゃいことじゃないじゃないですか。むしろめちゃめちゃデカいことですよ、やっぱり。だから、そういうことは見逃したくないなって思いますね」
 
 
悲しませないようにすること、悲しくならないようにすることが
まずは一番なんじゃないかなって
 
 
――そういうマップちゃんの“人となり”みたいなものが、今回はより分かるアルバムだなぁと思いました。『灯り』(M-9)とかは特にそういう曲やと思うけど。
 
「『灯り』はめちゃめちゃ前の曲なんですよ。最初に弾き語りのミニアルバムみたいなものを出したときにはもうあった曲で、ライブでもあんまりやることがなかったんですけど、歌詞を追加して、ちょっとアレンジも変えて。この曲は阪神淡路大震災がテーマで、もう24年も経つんで当然、神戸に住んでても経験してない人もいて。この曲は大事にしていかないといけないなと思ってます」
 
――今回、歌詞を追加した箇所は?
 
「“言葉を交わす事だけで/手と手が触れる事だけで君といれるわけじゃない”、の部分ですね。それだけで別につながってるわけじゃないなと思って」
 
――そのフレーズってまさにさっきの話と一緒で、そばにいるから、一緒にいるから=君といるってわけじゃない概念は、マップちゃんの人生観そのものだなと。遠くから見つめてるLINEスタンプやと思う(笑)。
 
「それめっちゃ推すやん(笑)。でも僕、本当に1人が好きというか、『さまよう』(=第2回SAYO映画学校で製作された映画『ROOTS』テーマソング)の歌詞にも、“1人ぼっちが寂しくないのは いつも自分がいるから”っていうフレーズがあるぐらい、よく考えごともしてるし+いろんな人のことを思い出す瞬間があるから、あんまり寂しくないんですよね。自分とばっかり会話してる、めちゃめちゃ重たい40歳になったらヤバいですけど(笑)」
 
――タイトルにパンチがありまくる『鬼嫁、荒野を駆ける』(M-8)は(笑)、どんなきっかけで生まれたの?
 
「僕らの年代の話題って、子供がいくつになったとか、嫁さんがどうとか、家庭の話が多いじゃないですか。歌詞をバーッと書いて、何となく全体のイメージでタイトルを後から付けたんですけど。やたらイラついてる人とか、何かに怒ってる人って、一生懸命がゆえに孤独になっていくというか…鬼嫁って何であんなに怖いんやろうって思ったんですよね(笑)。もちろん家族のためを思ってのことなんでしょうけど、別に敵じゃないでしょ? 同じチームじゃないですか。職場に置き換えてもそうですよ。周りの人が機嫌よく仕事できる方がいいじゃないですか」
 
――このタイトル、完全にノリで付けてると思ったら、マジで鬼嫁の話やったんや(笑)。
 
「フフフフ(笑)。誰かを怒った後ってやっぱり悲しくなったりするんで、悲しませないようにすること、悲しくならないようにすることが、まずは一番なんじゃないかなって」
 
――歌詞の、“いつか満たされるなんて事も/そろそろないと気づき始めている”とか、“いつか出会えるよなんて事も/そろそろ無いような気がしている”っていうくだりが、40になって、ミラクルなんてそんなに起きないって薄々感じてます、みたいなことかと思った。
 
「もちろんそういうところも若干あります。選ばれることも少ないから自分で選んでいかないといけないし、もう別に誰かが引き上げてくれるわけでもないし、誰かが僕の人生のレールを敷き続けてくれるわけじゃない。何かを築けば築くほど、会社でも偉くなれば偉くなるほど、どんどん視野を広げていかなきゃいけないと思うんですよね。だから戒めの歌でもあるんです。もう誰も何も言ってくれない、みたいな年齢になってきてるから、自分で気付くこととか、自分で考えることはすごい大事やなって」
 
 
続けてたら、誰かがどこかで気付いてくれるんちゃうかな
みたいな感覚があるんですよね
 
 
――今作のアレンジ的なところで言うと、ichi(サーカスフォーカス・key)くんがリードしてくれた『ミュート』(M-3)とかは、新境地のポップソングというか。最初にこのアルバムを聴いたとき、『ブランニュー』(M-1)、『幸せになっていく』、『ミュート』の流れで、“あれ? マップちゃん、ちょっと売れようとしてる?”って(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 僕ね、メロディとか歌詞とか、そんなに悪くないとは思ってますよ?(笑) 『ミュート』は、メンバーが“僕らはサポートとは思ってないんで、もっとやっていいですか?”ってよく言ってくれるから、ichiくんにお願いしてみた流れですね。今回は、“こんな感じにしましょう”って僕じゃなくてメンバーが言ってくれる感じだったから、余計にバンド色が強いというか」
 
――マップちゃん的には、いざ挑戦してみてどうでしたか?
 
「自分でも“こういう感じもいけるんや”って思ったし、ライブでもフックになるし、いいことですね。曲ってアレンジでめちゃめちゃ変わりますよね。僕も勉強になったし、枠が広がりました。そうやって気付かせてくれる人たちと一緒にやれてるのは、本当にありがたいですね」
 
――『ジャイロロック』は、マップちゃんが昔ギタリストだった頃に組んでいたバンド、dozensの曲で。近年のアルバムでは恒例の、もしマップちゃんが売れたら元メンバーに印税という名の小遣いをあげられる枠の1曲です(笑)。
 
「言い方!(笑) この曲はね、デモみたいな感じで当時出してるんですけど、アレンジするのはもう3~4回目ぐらいなんですよ。“青春”と“青”っていうイメージでパッと浮かんだのがこの曲で、ずっと歌詞もメロディも悪くないなと思ってたんで。今、歌っても恥ずかしくないというか、残したい曲は残したいですしね」
 
――最後の『ラララ』(M-10)は、そういういろんな人生を背負って、本当にマップちゃんがやりたいことというか。
 
「それをそのまま体現したような曲ですね。まぁ期待も含めてですけど、続けてたら、誰かがどこかで気付いてくれるんちゃうかな、みたいな感覚があるんですよね。一昨年、神戸のハーバーランドの25周年記念ソングとして『海へ』を書いたんですけど、『ラララ』を書いたすぐ後にその話が決まったんですよ。そういう仕事ができたのもあって、余計にそういう感覚はあります。だからこそ、常にどこかで自分の歌が流れてないといけないなって」
 
――それぞれの人生に歌が流れることが、やっぱりマップちゃんの命題というか。そのために初のMVも撮ってね。
 


「あ、そうそう(笑)。(小声で)あれは恥ずかしかった…」
 
――俺も観てて恥ずかしかったわ!(笑)
 
「でしょ?(笑) あれ、多分みんな恥ずかしがってる(笑)」
 
――でも、今のご時世、MVは絶対に必要じゃないですか。ただ、途中でよく分からんビンを拾ってましたけど(笑)。
 
「(笑)。何かホンマに…40歳にして恥ずかしそうに歌って、ちゃんと恥ずかしそうなMVができるんやなって(笑)」
 
――めっちゃ初々しかったよ。マジでキャリア1年目ぐらいのフレッシュ感(笑)。
 
「恥ずかしいなぁ〜。もう撮ってる最中、ずっと恥ずかしがってたし。でも、また撮る計画もあるんでね(笑)。そのときはまた恥ずかしながらやろうかなと思ってますけど」
 
――でも、40になってまだまだ初めての挑戦があるって、いいことよね。
 
 
今村モータースはいよいよこれから、という一発目のライブだと思ってます
 
 
――それこそツアータイトルも『四〇詣る(フォーティーマイル)』で40推しですけど、40になってマップちゃんの中で何か心境の変化はあったりしましたか?
 
「もうちょっと1つ1つのことをしっかりしようとは思ってますけど、基本はあんまり変わってないかなぁ…ただ、世間との違いが浮き彫りになったかなとは思いますね。“40でまだこんなことやってんのか”みたいな(笑)。もう明らかにマイノリティ。だから現状は『ブランニュー』の歌詞みたいな感じ。僕の40はみんなの40とちょっと違うなっていう(笑)。かと言って、ほんのひと握りの人だけが手に入れられる輝かしい人生でも何でもないんですけど」
 
――嫁も子供もいないし、持ち家もないし、何の地位にも就いてない。かと言って、タワーマンションの最上階に住んで、印税で暮らしてるわけでもない(笑)。
 
「そうそう!(笑) 私生活はズタボロやけどすごい評価されてるミュージシャン、とかでもないんで。40歳で音楽やってるめちゃめちゃマイノリティな存在なくせに、売れてなかったりすることはマジョリティじゃないですか(笑)。それが、“誰にでもある事が僕には無い/かと言って特別な事ばかりあるわけない”の歌詞に(笑)」
 
――ここ、全く同じフレーズを2回言うのは何でなん?
 
「大事なことだから2回言いました(笑)。この曲の一番のポイントってそこなんです」
 
――でも、マップちゃんはそんな今もイヤじゃないでしょ? むしろ楽しめてるというか。
 
「全然イヤじゃないし、悲しくもないから、何なんやろうって思いますね(笑)」
 
――結果的に、『青とWhite』は自分にとってどういうアルバムになったと思いますか?
 
「“更新したな”って思いました。過去最高のアルバムやと思いましたし、めちゃめちゃいいものができて、めっちゃ嬉しかったですし。“まだまだいけるな”って思えたのは大きいかな。もちろん自分だけの力じゃないですけど」
 
――いよいよ迫ってきた、ツアーファイナルの神戸新聞松方ホールワンマンはどうなるんやろうね?
 
「ね。前回、ホールワンマンをやったときは、“これが成功したからって別に一生食べていけるわけじゃないし、僕の人生が劇的に変わるわけでもないしなぁ”っていう感覚が正直あって(笑)。でも、そう思い出すと、“じゃあ何でこんな大変なことをわざわざ頑張ってやってるんやろ?”ってなるんですよ。そうするとやっぱり、この場所で、このホールで、こういう曲をやりたいとか、ここを観てもらいたいとか、やるべきことがハッキリ分かってくる。こういう見せ場を作ったら面白いとか、こういう照明、こういうセットを作ってほしいって、もう舞台監督の人とも打ち合わせを始めていて。最初に話した、“4000円でこういうエンタテインメントはいかがですか?”みたいな、この日にしかできないことを考えてます。だからこそ、客席を埋めたいなという意識はもちろん、それを観てもらいたい気持ちは前回より強いと思いますね。ホンマに、めちゃくちゃ面白いと思います、今回のホールワンマンは」
 
――ハードル上げるねぇ。
 
「全然上げていこうと思ってる(笑)。頭の中にアイデアがあることが嬉しいし、それが形になったら、これはすごいことになると思ってますね。普段のライブではできないことなんで、やっぱり観に来てほしいなって。僕の音楽で別に世界は変わらないけど、みんなの景色は変えられると思うんですよ。だからこそ、またホールワンマンをやろうと思ったんで。僕が観る景色も、みんなが観る景色も、これまでとはガラッと変えたいなと思って挑戦するんで」
 
――最後に、運命の7月21日(日)神戸新聞松方ホールに向けて、ひと言もらいたいなと。
 
「今村モータースはいよいよこれから、という一発目のライブだと思ってますね。ようやくいろんなことが分かり始めてきて…これはやらねばならないライブやと思って意識してるし、ここを埋められたら売れるんちゃうかな(笑)。だから観に来てって言うのもおかしいですけど、勝負できるものができたから勝負するんです。『青とWhite』をリリースして、ちゃんとレコード店に挨拶回りにも行こうと思って、僕があんまりライブに行けてないようなところにも行ってきたんですけど、そこでもちゃんと試聴機に入ってたり、買ってくれてる人が実際にいて…。ちゃんと届いてるんだなというか、そういう景色も自分の力になってるし、音楽で戦えてる感覚はあるかもしれないですね」
 
――神戸新聞松方ホールがお客さんでいっぱいになったら、普段は全く浮かれないマップちゃんが、舞い上がってるところをようやく見られるかもしれない(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 4年前よりもずっと音楽ができてるのが嬉しいし、これからですね、本当に。だってね、今村モータースって結構悪くないと思うんですよ?(笑) だから観に来てほしいなぁって思うんですよね」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史



(2019年7月12日更新)


Check

Movie

新譜とライブと神戸ご当地案内も
マップちゃんからの動画コメント!

Release

優しき歌声と甘いメロディに潜む
憂いと諦観が絶妙なポップソング集

Album
『青とWhite』
発売中 2315円(税別)
Favarit Music
FVMI-0017

<収録曲>
01. ブランニュー
02. 幸せになっていく
03. ミュート
04. ジャイロロック
05. 青とWhite
06. サイダー
07. ファンファーレ
08. 鬼嫁、荒野を駆ける
09. 灯り
10. ラララ

Profile

いまむら・モータース…地元神戸を中心に活動。ライブハウス、カフェ等、幅広い場所で歌いつつ、『COMIN'KOBE』等関西主要イベントにも毎年出演。’13年にリリースした1st アルバム『夢見gachi商店街』が、各地CDショップにてオススメアーティストとして展開され好調なセールスを記録。翌’14年9月には2ndアルバム『おかわりのかわり』を発売。収録曲の『点と点』が、地元Kiss FM KOBEの同月の推薦曲“HOTRAXX ”に選ばれ、さらには9月26日付ウィークリーチャートでは1位を獲得。そして、'15年3月には北野工房のまち 講堂にて『この街の夕暮れと僕の散歩道』、同年7月には神戸北野サッスーン邸にて『この街の異人館とふたつの灯り』、同年12月には神戸布引ハーブ園 森のホールにて『この街のハーブ園と空中散歩』と“この街”ワンマンシリーズを重ね、 '16年11月には3rdアルバム『この街の夕暮れと僕の散歩道』を発売、神戸VARIT.に浜端ヨウヘイを迎えたレコ発ツーマン『この街のライブハウスと旅の始まり』を開催。そして、'17年5月には神戸朝日ホールにてシリーズの集大成となる『この街の夕暮れと僕の散歩道~初めてのホールワンマン~』に挑戦、見事に成功を収めた。'18年12月19日には、4thアルバム『青とWhite』を発売。そして、'19年7月21日(日)には、神戸新聞松方ホールにて二度目のホールワンマン『青とWhiteリリースツアーファイナル「さらなる四〇詣る」』を開催する。

今村モータース オフィシャルサイト
http://i-motors.info/

Live

バンドセットで贈る過去最大キャパ
記念碑的ホールワンマンが間もなく!

 
【兵庫公演】
『青とWhiteリリースツアーファイナル
「さらなる四〇詣る」』
チケット発売中 Pコード145-381
▼7月21日(日)16:00
神戸新聞松方ホール
前売4000円
神戸VARIT.■078(392)6655

チケット情報はこちら


Column1

神戸旧居留地を舞台に魅せた
旅の集大成にして過去最大の挑戦!
“この街”シリーズ第6弾
『この街の夕暮れと僕の散歩道
~初めてのホールワンマン~』
ライブレポート

Column2

原点の風景に浜端ヨウヘイを招いた
極上のレコ発ツーマン!
“この街”シリーズ第5弾
『この街のライブハウスと
 旅の始まり』ライブレポート

Column3

頬をなでる爽風と世界一のつり橋
を臨む映画のような風景
“この街”シリーズ第4弾
『この街に架かる橋と僕の帰り道』
ライブレポート

Column4

森のホールが誘う
山頂の絶景と木のぬくもり
“この街”シリーズ第3弾
『この街のハーブ園と空中散歩』
ライブレポート

Column5

北野サッスーン邸が
昼夜で劇的に景色を変えた
“この街”シリーズ第2弾
『この街の異人館とふたつの灯り』
ライブレポート

Column6

ルーツ、震災、ギター職人の道、
dozens、そして神戸――
ひらめきという羅針盤を手に
点と点を線にする今村モータースの
流浪の音楽人生を語るインタビュー

Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「マップちゃんとの付き合いもだいぶ長くなってきましたが、彼は本当に“不言実行”という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる、コツコツと積み上げ大きなことを成し得る男というか。冷めてるようで熱くて、優しいようでこじれてる(笑)。掴みどころのない男ですが、今回の神戸新聞松方ホールでのワンマンといい、ちゃんと自分の音楽人生に関門を作って、それを超えていく姿には毎回感心させられます。だってそんなこと、別にしなくたって音楽は続けていけるから。でもね、やっぱり身の丈を超えた挑戦をする人を応援したくなりますよ。マップちゃんを見ていると、“案外やるな”の連続ですよ。この“連続”というのが肝で、常にそう思わせる人間的な懐や、音楽的な奥行きを感じさせてくれる、まだまだ発展途上で、まだまだ上を目指せる、シンガーソングライターだと思います。4年ぶりの取材でしたが、この4年、マップちゃんにとって挑戦のない年はありませんでしたから。また、彼を支えるバンドメンバーもみんな最高で、キヨシとichiくん以外にも、イクロー(g・ワタナベフラワー)、堕天使かっきー(b・天使と悪魔)、ケンヤ(g・CUma)と、会う&呑むのが(笑)楽しみになるグッドヴァイブな人ばかり。上記の『この街』シリーズのレポート、そして、震災、脱サラ、バンドマン、シンガーソングライターと歩んできたマップちゃんの人生をたどった前回のインタビューを併せて読んでもらえれば、きっと彼とその音楽を愛してもらえるはず。7月21日(日)、神戸新聞松方ホールで会いましょう!」