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「ちょっとエモい気持ちにはなりますね、さすがに」
2415日をかけた8ottoの新たな夜明け――
マエノソノ(vo&ds)×TORA(b)×プロデューサーGotchが
ここだけの『Dawn On』秘話を語り尽くすインタビュー!

 6年と223日。これは8ttoが新作『Dawn On』をリリースするまでに要した時間である。彼らが過ごした79ヵ月の人生の紆余曲折が、345週間の悲喜こもごもの生活が、2415日のかけがえのない日々が、これほどまでにオリジナルで、胸高鳴る結晶を生み出した。その立会人となったのが、今作のプロデュースを手掛けたASIAN KUNG-FU GENERATIONの“Gotch”こと後藤正文(vo&g)だ。ドラムボーカル×ツインギター×ベースの4ピースという特異な編成から繰り出されるFrom大阪to世界なグルーヴをGotchの陣頭指揮のもと再構築した今作は、メンバーの転機も音楽シーンの変容も、彼らの音楽を信じ続けたオーディエンスと越えてきた夜も、この6年の間にバンドにもたらされた全てのピースが導いた1つの回答と言えるだろう。そこで、現在はスケジュールが決まり次第その都度発表されていくという(笑)、何とも“らしく”て前代未聞な『“DAWN ON” Release Tour 2018-2019 -TOUR TBA-』(=To Be Announce)を開催中の8ottoから、マエノソノ(vo&ds)、TORA(b)、そしてプロデューサーのGotchの3人が、今だから言えるこの6年の顛末とレコーディング秘話を語るインタビューをお届け。決して短くはない時間と、消えることのない情熱をかけて迎えた8ottoの新たな夜明けは、こんなにも眩しく、美しい――。

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全員の体制が整うのにここまで時間がかかった
 
 
――前作『Ashes To Ashes』('11)のインタビューの最後にTORA(b)は、“とりあえず今年中にもう1枚、何か面白いかたちでリリースできたらなぁ”とか言ってましたが(笑)。
 
TORA「アハハハハ!(笑)」
 
――前作の時点ですでに生活に合わせたペースでアルバムを作るのがコンセプトだったはずやけど、実際はそうもいかんかったってことやね。
 
TORA「まぁあのときも生活になるべく寄せていくようにはしてたけど、当時はマエソン(=マエノソノ・vo&ds)が結構忙しくて、そこにみんなのスケジュールを合わせていったところから、他のメンバーにもそれぞれ生活の変化があって…全員の体制が整うのにここまで時間がかかったっていうのが正しいと思います」
 
――まずはそれぞれの出会いのきっかけを改めて教えてもらえれば。
 
マエノソノ「タワーレコードのマルビル店で、“ニュー・オーダーの日本語詞を、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が書いた!” みたいなCDの帯を見て(=『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』(‘05)のボーナストラック『クラフティー』)、“何やと…!?”って震えながら聴いたのがまぁ出会いというか(笑)。その後、僕らが出た北海道の『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』にアジカンも出てて、そのときうちの嫁に“Gotchに会って来てほしい!”って重々言われてたんで、これはちゃんと果たさないと離婚につながるなと(笑)」
 
(一同爆笑)
 
――マエノソノ家におけるGotchの存在のデカさ(笑)。
 
マエノソノ「そこで一緒に写真も撮ってもらって、“やったよ!”みたいな感じでメールしたんは覚えてますね(笑)。それが最初やったと思う」
 
Gotch「8ottoは音がすごくヒリヒリしてたから、“俺たちは誰とでも仲良くするわけじゃない”っていう人たちかなと思ってたけど、TORAちゃんだけはポップで。あとは髪型も三者三様のよく分からない3人みたいな感じだし、これはもうTORAちゃんに話しかける以外方法はないと(笑)。そこからTORAちゃんとは、DAWA (FLAKE RECORDS)さんとかとシモリョー(the chef cooks me・vo&key)とか近しい人がいるから呑んだりしてたけど、マエソンとは本当にここ2年ぐらいで、Muddy Apesのボーカル・レコーディングとかでいろいろ話すようになって。そもそもMuddy Apesのボーカルにマエソンがいいんじゃないかって紹介したのも俺とDAWAさんで」
 
――なるほど、そういう縁もあったんですね。
 
マエノソノ「Muddy Apesは3枚目のアルバム(『Faraway So Close』(‘16))を一昨年出したんですけど、それまではフロリダでレコーディングしてたのが、もうスケジュール的に全然行けなくなって。INORAN(g・LUNA SEA)さんはボーカル録りのとき、スタジオに一緒に来てくれることになったんですけど、TAKA HIROSE(b・FEEDER)さんはイギリスだし、DEAN TIDEY(g)さんもフロリダでなかなか来れないっていうときに、うちの嫁さんが“ダメ元でGotchにお願いしてみたら?”って。そしたらGotchが快諾してくれて」
 
――嫁が音楽活動のカギをめっちゃ握ってる(笑)。そういうこともあって距離感も縮まって、理解度も高まって。
 
Gotch「そうですね。“こういう感じで録るんだ”とか、“レコーディングで座って歌うんだ”とか」
 
マエノソノ「あと、歌詞の詰めの甘さにすごい驚いたり(笑)」
 
Gotch「今回はちゃんとしてたけどMuddy Apesなんて当日まで悩んでて、“ちょっと今から外で考えてくる” みたいな(笑)。でも、マエソンも仕事がある中で頑張って書かなきゃっていう感じだから、やっぱり大変そうだなって」
 
TORA「そう思うとちょっと夢があるというか…だって、Gotchに録ってもらって、横にINORANさんがいるサラリーマンのボーカルって(笑)」
 
(一同爆笑)
 
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言い合いとかじゃなくて普通にケンカしましたね
スタジオで椅子投げる、みたいな(笑)
 
 
――Gotchさんから見た8ottoは、最初はどういう印象のバンドでした?
 
Gotch「ガレージロックっぽいバンドで、グルーヴィーで、すごくカッコいいなって。ライブでも、TORAちゃんがずっと(マエノソノがドラムセットを離れハンドマイクでアジテートする間、バスドラムの)キックを踏んでるのが、お約束だけど毎回いいなとか(笑)。でも別に、最初からサウンドをどうこうしたいと思ってたわけじゃなくて、デモを聴きながら、前のアルバムが一発録りのガレージモードだったから、今度はそうじゃない方がいいんだろうな、次はいろいろと実験するアルバムなんだろうなと思って。みんなでとにかく話し合って、いろいろアイデアを試して、ゲラゲラ笑いながらやってたよね」
 
――前作『Ashes To Ashes』の取材時に、TORAは“本当はこのアルバムでもっと変わりたかった”と言っていて。そういう意味では、ようやくタイミングと役者が揃ったというか。
 
Gotch「あと、一発録りでガレージっぽいアルバムを作るには、やり込む時間が足りない感もあったし。そういう物理的なところを今度は逆手に取って、シンセベースを入れたり、いろいろやってみようっていう話だったから」
 
――制作の流れ的には、この6年で生まれた約30曲のストックから20曲ほどバンド側で選んで、Gotchさんに渡し。
 
Gotch「そこからプレイリストを作って、好きな曲に“星5つ!”みたいに印を付けて(笑)。そこから“この曲はもうちょっと詰められるかもね”とか、“絶対シングルでもいけるよ”みたいにバンドにも率直に話しながら。ただ、その時点で四分のキックの曲が多かったんで」
 
TORA「“ズッツータッツー問題”と“曲の終わり方問題”ね(笑)」
 
Gotch「あと、“すぐ転調しちゃう問題”(笑)。アルバムに1曲でも結構耳に焼き付くから、3曲もあったら“こいつらだいぶ転調好きだぞ”って思われちゃうから」
 
――こういう話を聞いてると、8ottoにはプロデューサーいた方がいいなって思いますね。
 
Gotch「特にこの2人は意見とこだわりがしっかりあるから、間に誰かが立たないとバチバチいくところはあるのかなって思いましたね。ただ、今回よかったのは2人がいいパズルになって」
 
TORA「僕が途中で入院したことにより、2人が一緒にする作業が全く…(笑)」
 
(一同笑)
 
Gotch「だからオケ録りはTORAちゃんがリードして、ボーカルのレコーディングからミックスにかけてはマエソンの調子が上がってくるみたいな感じで、2人のスケジュールのノツててほしいところがいい具合に分かれたという」
 
――ただ、『Ganges-Fox』(M-1)のアレンジでは結構ぶつかったとも。
 


TORA「言い合いとかじゃなくて普通にケンカしましたね。スタジオで椅子投げる、みたいな(笑)。マエソンがめっちゃいいって言うアレンジがあって、でも俺は曲自体は好きやけどアレンジはイマイチ気に入らないっていう」
 
マエノソノ「でも、それがあったから今のアレンジもできたし、よかったのかなって」
 
――これだけ長いバンドで、ちゃんと今でもケンカできるのはいいね。
 
マエノソノ「いやもう、ホンマ久しぶりのケンカでしたよ。Studio do-doっていう中百舌鳥のスタジオだったんですけど、スタッフの中野くんもその日からちょっと喋り方が変わりましたもん」
 
(一同爆笑)
 
TORA「めっちゃ止めに来たもんな(笑)。もめるのは結局いつもこの2人なんで」

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ホンマに今までやってきてよかったなぁって思うことがたくさんありました
 
 
――制作はそれぞれの生活もあって夏休みの5日間、家族ともども合宿レコーディングみたいなことも。
 
マエノソノ「もうホンマ、毎朝海で遊んだすごくいい写真が携帯に入ってるんで載せてほしいぐらい(笑)」
 
――海に行って遊んで、戻って来てRECっていう(笑)。
 
Gotch「髪が乾いてないときもあったもんね(笑)」
 
――久々のアルバムレコーディングにいざ取り掛かってみてどうでした?
 
マエノソノ「いやもう楽しいことばっかりというか、ホンマに今までやってきてよかったなぁって思うことがたくさんありました。本人を目の前にして言うのはアレやけど、すごいミキサー卓の写真がメールに入って、“今後のレコーディングにも要るから8ottoに合わせて買いました”って。後でエンジニアの古賀くんに何となしに値段を聞いて…」
 
(一同爆笑)
 
マエノソノ「まぁハッキリは言わないですけど、そんな想いで買ってくれてたんやってことが、ありがたいなって」
 
TORA「僕は普段は仕事をすることで逆にマエソンがメロディをよく思い付くようになったり、今まで普通に遊んでたSNSでGotchとかと仲良くなれたり、何かそういうことが今回のアルバムでギュッと1つにできた感じがして、めちゃめちゃ嬉しかったですね。僕の周りのみんながそういうことを上手くつなげて形にしていってる中で、なかなかそれができない歯痒さがあったのが、いろんな人に協力してもらってそれができたのが一番嬉しかった」
 
Gotch「みんなのささやかな空き時間を持ち寄って、それをどう有意義なものにするかを考えながら作ったから、今までのプロデュースワークの中でも思い入れはすごくあって。“よくできたよな”って思う瞬間がたくさんある(笑)」
 
TORA「Gotchがいろいろ協力してくれたことにより、スケジュールがないことをポジティブに変換できたのがめちゃめちゃ楽しかったです。“この日はマエソンが無理やったら、俺たちで勝手にやっちゃおうぜ!”みたいな(笑)。それによって新しい何かが生まれたり」
 
Gotch「4人だといちいちエクスキューズが必要で、ストップするところも、物理的にレコーディングに来れないことをマエソンがちょっと後ろめたいと思ってるから、“じゃあみんなで楽しくやってよ!”って言ってくれるとかね」
 
TORA「今やから言いますけど、それこそマエソンがおらんときに、“俺はこのアレンジの方がいいと思うんやけど、マエソンが多分嫌がるんですよ。俺から言うともめそうやから、Gotchから言ってください”って(笑)」
 
(一同爆笑)
 
Gotch「でも、“これはTORAが嫌がるかな?”みたいに逆もあったと思うよ。何かね、2人ともちゃんと分かり合ってるんですよ。ここはギリギリ攻めるところ、みたいな(笑)。だからいいコンビだと思うんですよね」

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本人たちだけじゃなくて周りの大阪の人たちとかも
“このバンドはもっと世の中に知られるべきなのに”って
悔しく思ってる感じがあるんですよ
 
 
――8ottoと実際に作業して、プロデューサー側の楽しみとか発見はありました?
 
Gotch「とにかくアイデアがたくさんあって、こっちからああしようこうしようじゃなくて、俺が5人目のメンバーみたいな感覚で、みんなであーだこーだ言いながら作ってね。一番は、マエソンってこんなに面白いヤツなんだっていうこと。さらにファンになったというか、やっぱりなかなかいない人ですね。今日も撮影で一緒に写真を撮ってても、1人だけオーラがすごいというかヘンというか、やっぱり癖があるんだなって(笑)。言うことも考えることも独特だし、興味深いという意味で、すごく面白い人だなぁと」
 
――めちゃくちゃ才能があるなぁと思っても、案外本人はそれに無自覚だったりして、辞めるヤツは辞める。ヘンな話、生活のために音楽を諦めることにならなくてよかったですね。
 
TORA「’11年にアルバムを出して、ライブの本数も減って、焦りはやっぱり出てきて。でも、“ここまで時間がかかったんだから、今さら焦ってもしょうがないよ”って…そんな言葉1つですごくポジティブになれたし、そういういろんな人の言葉とかで、こっちの考え方がどんどん変わっていけたのは大きかったなぁと思いますね」
 
――バイク通勤中にメロディが浮かぶようになったのも、ホンマにこの活動形態ならではやしね。
 
マエノソノ「例えば、音楽を選んでギリギリの生活をしてたら、アイデアが枯渇してもそのまま無理矢理回すような活動になったかもしれない。あのとき仕事を選んでよかったなと今は思ってます。そこで初めて社会勉強もできたし、“みんなちゃんとしてるんや”ってすごい思って(笑)。逆に思ったのが、僕がこのタイミングで仕事をして分かったことを、Gotchはミュージシャンをやる前に仕事をしてたから、多分いろいろ考えてたんやなと気付いたり」
 
Gotch「俺の場合は、当時はサラリーマンをしないと音楽なんて続けられなかったから。大学を卒業しても東京とか横浜に残るには金がかかるから、手取りである程度もらえないとそもそもあの街に住めないという(笑)。その分バイトするって考えたら…ね。ただ、働きながらバンドを続けるのは生半可なことではないから、それでこのクオリティはとんでもないなと思いますね。でも、本人たちだけじゃなくて周りの大阪の人たちとかも、“このバンドはもっと世の中に知られるべきなのに”って悔しく思ってる感じがあるんですよ。8ottoのすごいところは周りも巻き込んでるというか、そういう想いもバンドのエネルギーになっていったように思いますね」
 
――そう考えたら、8ottoはもう自分たちだけのものじゃないというか。
 
Gotch「そうだよね。愛され方がハンパない」
 
TORA「フフッ(笑)。嬉しいですね」
 
マエノソノ「ありがたいですよね。何か…自分たちだけでは何もできないことにようやく気付いた(笑)。それで、“気付いた”=『Dawn On』っていうアルバムにしたんですよ」
 
――お、綺麗!
 
TORA「僕はもうちょっと前から気付いてましたけどね(笑)」
 
(一同爆笑)

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もうバンドだけで作ってる段階から手応えが伝わってきましたね
この曲は大事な曲なんだなって
 
 
――収録曲についても触れていくと、『It’s All Right』(M-4)とかを聴いてたら、“もしかして今後スカパラのフィーチャリングボーカルでマエソンが呼ばれたら、また状況が変わってくるんじゃないか!?”なんて期待させるような、ホーンとの絶妙なマッチングですね。
 
TORA「アハハハハ!(笑) それこそさっき言ってた、『Ashes To Ashes』のときにもっと変わりたかったっていうところで、スカみたいな感じをやりたかったんですよ。6年かかりましたけど(笑)」
 
――個人的には『Mr. David』(M-9)が抑制されたビートの中にも熱とドラマがあって、クールでカッコいいなぁと。
 


Gotch「『Mr. David』はもうバンドだけで作ってる段階から手応えが伝わってきましたね。マエソンが歌ったりコーラスを考えてきたときも思ったけど、この曲は大事な曲なんだなって」
 
――『Ganges-Fox』と対になる、生と死、表と裏みたいな今回のアルバムの背骨みたいなところもある曲だと。
 
マエノソノ「この曲は僕がめっちゃ前に作ってたんですけど全然形にならなくて、TORAとセイエイ(ヨシムラ・g)があーでもないこーでもないって作り直してくれてたんですよ」
 
TORA「セイちゃんのリフとマエソンのメロディはすごくいい感じやってんけど、アレンジが何かグッとこないなぁっていうところから詰めていって。セイちゃんと2人でもっとシンプルに、そのフレーズを使いながらオケを完成させて、この感じならマエソンのメロディもよりよくなるかも、みたいな」
 
マエノソノ「トラックが分かりやすくなったというか、聴くだけでアガる感じにしてくれたから。さらにバイクの上で浮かんだメロディがもう1つあって、それもいいなと思ってたら『Mr. David』にたまたまハマって、一気に手応えが生まれて。この曲のギターのワウのパートを“『BE MY BABY』(‘89・COMPLEX)”って呼んでたんですけど(笑)、4年ぐらい前の8月8日の『One or Eight』っていうイベントでは、全然違うメロディでやってますから」
 
TORA「もう正直、どの曲からどうなっていったのか分からへん曲がいっぱいあるもん(笑)」
 
マエノソノ「『Mr. David』と『Romance』(M-3)も元々は1曲やったと思う。そのときの気持ちいい箇所が結構似てる=コード進行が似てきちゃうじゃないですか。それで2曲に分かれて」
 
――俗に言う走馬灯じゃないけど、アルバムを聴いてたら6年分の想いが蘇りそうですね。
 
TORA「ちょっとエモい気持ちにはなりますね、さすがに。しかもこのアルバムって40分ぐらいしかないじゃないですか? “短か!”と思って(笑)。この40分のために6年かけてきたんやと思ったら何かね、やっぱりエモいっすよ」
 
Gotch「曲も絞ったしね。スケジュールが全然見えないから(笑)」
 
マエノソノ「GotchもMuddy Apesの前例があるから、“ちゃんとドラムを練習してレコーディングに臨んでほしい” っていうメッセージをTORAに伝えてて(笑)。これはプレッシャーやからちゃんとやっとこうと練習してたんですけど、“この曲は打ち込みっぽい方がカッコいいぞ”みたいなことも結構あったから、ちょっとラッキーみたいな(笑)」
 
Gotch「1つはレッチリのこの間のアルバム(『ザ・ゲッタウェイ』(‘16))がヒントになって、冷酷にマエソンのドラムを切ったり貼ったりしようと思ったんですよ。逆にTORAちゃんには“まだまだ! もうちょっといける!!”とか言って、夜中までベースを弾かせた記憶があるから(笑)。TORAちゃんは実は一番演奏的には頑張ったというか、ちゃんと正確なところで弾いてもらって、グルーヴを作らなきゃいけなかったんで」

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この人たちがどうやって
“この先も音楽を続けていける”という手応えを得られる場所になれるのか
 
 
――そもそもGotchさんはそういったプロデュース術をどう身に付けていったんですか?
 
Gotch「本当にやりながら覚えてきた感じですね。でも、今回はとにかく空気がよければいいと思ってました。みんなも相当切実な感じで集まってるから、楽しい現場じゃないと意味がないと思ったので。まぁthe chef cooks meは俺にとっては結構デカい経験で、あれもシモリョーがブワーッ!と集中していくから、そこをどうやってほぐしながらみんなが緊張しないでやれるか、みたいな。8ottoは歳も近かったから共有できることが多かったですね。ただ何かね、僕がプロデュースする人たちってちょっとね、“FAしたのに移籍先が見付からない”みたいな…(笑)」
 
(一同爆笑)
 
Gotch「ちょっとメンタルを骨折しかかってる人たちが多くて。シモリョーも結構参ってる時期だったし、TORAちゃんとかマエソンというかもう8otto自体が病みかけてるみたいな(笑)。だから復活の現場にいることが多いという」
 
――後藤再生工場(笑)。
 
Gotch「あとは、この人たちがどうやって、“この先も音楽を続けていける”という手応えを得られる場所になれるのか。作ったものに人が集まるかどうかはもう自分の作品でも分かんないから、運でしかないような気もするし。だから、時間と場所と空気の転がし方だけを考えて下地を作っておけば、バンドって基本クリエイティブだからやりたいことは勝手に出てくる。それがぶつかったときに何をするかっていうだけの話で。“こっちがいいよ”ってちゃんと言ってあげたり、一緒になって悩んだりしてね。世のプロデューサー像と違って全権方式じゃないから、みんなで話し合うというか共同プロデュースみたいな現場だし、“いいね~”って言ってるだけの時間もあったり(笑)。ただ、自分を甘やかしたりするときに、“そこはダメ、もう1回!”って」
 
――結果、2枚目の1stと言えるような、本当にオリジナルな作品ができましたね。
 
Gotch「何かストロークスの呪縛みたいにメディアがお仕着せてるところもあったと思うけど、そういうところから脱却する意味でも、あえてガレージっぽい手法じゃない、ロックンロールリバイバルじゃない、“ロックンロールな8otto”っていう新しい音になったと思いましたね」
 
――今の若い世代では洋邦ハイブリッドなバンドがシーンに出てきやすくもなったけど、何かそれとはまた違う立ち位置というかスタンスみたいなものが感じられますね。
 
TORA「やっぱり世代的にはね、モロそういう音楽が身近にある今の子たちが作る音楽と、どっちかと言ったら洋楽にちょっとコンプレックスがあった僕らの世代が作るそれとは、また変わってくるとは思うんで。僕らはそういう感じを自分らのカラーとして出せたら面白いのかなぁと思ってるんで」
 
――それこそ、経験上英詞の方がメロディに合うという持論があったINORANさんがインタビューでマエソンを指して、“日本語と英語のどっちも合うっていうミラクルな男です。だから、マエソンとの出会いで、僕のその考え方は違うかもしれないなって思っちゃったけど(笑)”と言っていて。今作ではそういう点も如実に実証されているようで。
 
マエノソノ「8ottoも最初は英詞の曲もあったんですけど、結局ライブセットに残ってて、みんなと一緒に歌って、グッとくる曲がほぼ日本語詞だったんで。例えば、僕はオアシスが好きでカラオケで歌うんですけど、その感じとは違うんやなと思ったんですよ。英語圏で育って、自分の気持ちを英語で歌ってる曲を、日本人が真似して歌うのはいいと思うけど、日本で育って、日本語で話してるのに、日本語じゃない言葉で歌っても…届く深さが全然違うなと思ったのがきっかけで。まぁ簡単な英語は入るけど、そこからは日本語メインで歌詞を書くようになったんですよね」
 
Gotch「でも、実はこっちの方が洋楽っぽい作りだと思うよ。坂本龍一さんがインタビューでおっしゃってたんだけど、自分たちの記名性=シグネイチャーをどうやって作るのか。そういうものを打ち立てないとやっぱり海外では評価されないと。ただ、端から海外のバンドを見て真似することは全然できるわけで。もちろん俺たちにレファレンス=参照がないわけじゃなくて、例えばレッチリのアルバムのどこを参照してるのかと言ったら、サウンドの作り方とかレコーディングの方法論の話をしてるわけで、全然違うところに耳をそばだてて考えてたりするから、“こっちの方がユニバーサルな作り方なんじゃない?”って思う。ガラパゴスみたいな言い方をされると腹は立つけど、どこの国に行っても“あのバンドの真似でしょ?”って言われないものを作れるか。そういう意味でも、8ottoのサウンドは新しいものだなと思うし、時代にもアジャストさせてるし」
 
TORA「一番に重きを置くマエソンのドラムを解体していくことも、今までの8ottoでは絶対になかったことなんで」
 
Gotch「あと、マエソンはすごいロック詩人だし、ロックシンガーだと思って俺は接してたところもあるから」
 
TORA「ボーカリストとしてのマエソンが、より出てるアルバムになりましたよね」

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最終的な感覚やったり音のことはマエソンをずっと信用してきたから
 
 
――他にレコーディング中に印象的なエピソードは何かありました?
 
Gotch「俺がエンジニアとして歴史に名を残すなら、“マエソンを立たせた男”(笑)。ずっとイスに座って歌ってきたマエソンが、ついに立って歌ったと」
 


マエノソノ「あと、何かを握ったらいい声が出ると(笑)。『赤と黒』(M-5)のシャウトはマイクスタンドを握って」
 
――何かメンタル面がデカい気がするけど(笑)。
 
Gotch「別にところに力が入ってると意識が喉にいかない、みたいな。マエソンはもうね、本当にアーティストなんだと思いました。その時々で正しいものは正しいんですよ。TORAちゃんと本当にビックリしたのが、マエソンから“俺はドラムを長年やってるから、ハイハットとかシンバルを爆音で聴き過ぎて、もう高音は聴こえへんからよろしく!”みたいなことを言われたんですよ。そしたら、ミックスの最後の確認のときにマエソンがすっごい真剣な顔をして、“何かさっきから高音が気になるねん”って」
 
(一同爆笑)
 
Gotch「俺たちは、“さっき聴こえへんみたいなことを言ってたよな?”と思ってるんだけど(笑)、それをちゃんと処理したら本当によくなるんですよ。でもね、それって“フロントマンあるある”なんですよね。bloodthirsty butchersの吉村秀樹(vo&g)さんとかも、前回のライブで“速い”って言われた小松(正宏・ds)さんがテンポを戻すと次のライブで“遅い!”って怒られるみたいな(笑)。そのときのマエソンもゾーンにバリバリ入ってる感じだったから、これは信頼すべきだなって。俺は音楽の現場で言うことが変わる人が結構好きなんですよね」
 
TORA「僕も最終的な感覚やったり音のことはマエソンをずっと信用してきたから、Gotchにも“僕は大丈夫なんで、マエソンの意見で進めてください”って」
 
――マエソン的には、“俺、さっきはこう言ったしな…”っていう自覚はないんやもんね?
 
マエノソノ「全然なかった(笑)」
 
(一同爆笑)
 
Gotch「マエソンもこの6年の間に若干我慢したりブレーキを踏んでいた感覚がどんどん開いていく感じがあって、それも嬉しかったですね。どんどんマエソンが冴えていった」
 
TORA「マエソンのそのモードはメンバー3人が全員分かってるから、基本何も言わないんですよ。それこそアルバムの曲順もマエソンが“この感じ!”って完全に決めてたから、“じゃあそれで!”みたいな。だから、そうじゃないときもすごく分かりやすい。そのときはちゃんと、“ホンマに思ってる!?”ってもめるんですよ。“ホンマにいいと思ってるときのお前はそういう感じじゃない!”って分かるから」
 
Gotch「“今日は帰って嫁さんに怒られるかどうかの方が大事な日だな”っていうね(笑)」
 
(一同爆笑)
 
――もう嫁さんも共同プロデューサーにクレジットした方がいいんちゃうか(笑)。
 
マエノソノ「もうホンマね、かなり効いてます(笑)。例えば、“このメロディとこのメロディがつながってたらToo matchというか、オカズ+オカズみたいになってるから、このメロディを抜いたら?”って言われて、実際に抜いてみて『Ganges-Fox』の最後のメロディを足したんですよ。そしたらすごくよくなって」
 
――へぇ〜!
 
Gotch「マエソン、そういうのはTORAちゃんが一番嫌がる話(笑)」
 
(一同爆笑)
 
マエノソノ「いろいろあります(笑)」
 
TORA「いろんなバランスがね(笑)」
 
Gotch「いやでも、才能がバチーン!と弾ける瞬間は、本当に見ていて楽しかったですね」

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今までもライブは無条件で楽しかったんですけど
共有できる情報が増えたというか、ちょっと立体感が出始めてきた
 
 
――そして、今作に伴うリリースツアーはそれこそスケジュール調整の問題もあって、その名も前代未聞の“TOUR TBA(=To Be Announce)”という(笑)。
 
TORA「常にチェックしてくれたらいいんです! 上手いこと休みが取れるときにちゃんとやりますから(笑)」
 
――日程は決定次第随時発表されていくと。ライブ自体はペースはさておき6年途切れずにやってきましたけど、リリースを経て何か変わりました?
 
マエノソノ「リリースして、アルバムを聴いて来てくれるお客さんもいるじゃないですか? 今までもライブは無条件で楽しかったんですけど、共有できる情報が増えたというか、ちょっと立体感が出始めてきたのは感じましたね」
 
TORA「まぁ楽しいのは変わらないし、ライブをやりたくて音楽をやってるところも実際あったりするし。ライブ用にどんなアレンジにしようかなとか、そういう楽しみも今回はあるんで」
 
Gotch「そうだよ。シンベ(=シンセベース)のところはTORAちゃんが弾かなきゃだもん(笑)」
 
TORA「そうそう。そういうところはどうしようかな? もう弾かんとこうかな?(笑) そんなところも含めて、ツアーは楽しみやなと思ってます!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)

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(2018年1月22日更新)


Check

Release

アジカンGotchを迎えた6年ぶりとなる
最新にして最高の5thアルバム!

Album
『Dawn On』
発売中 2315円(税別)
only in dreams
ODCP-016

<収録曲>
01. Ganges-Fox
02. SRKEEN
03. Romance
04. It’s All Right
05. 赤と黒
06. Rolling
07. Summer Night
08. 愛を集めて
09. Mr. David
10. I Wanna Light

Profile

オットー…写真左より、Seiei Yoshimura(g)、 Masaki Maenosono(vo&ds)、TORA(b)、RYO (g)。’04年8月8日結成。’04年、’05年とNYへ渡りデモ制作、ライブを行う。『SUMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『NANO-MUGEN FES.』等のフェスや多数のイベント、浅井健一をはじめとするアーティストのツアーに出演。初の全国ワンマンツアー、日本全国47都道府県ツアーなどを行い、’10年にライブ活動を休止。同年末に約1年ぶりに復活後、『FUJI ROCK FESTIVAL』出演、韓国でのライブ、初のイギリス&フランスへのツアーなどを行う。結成8周年にあたる’12年8月8日には、心斎橋BIGCATにて自主企画『One or Eight』を開催、大成功に収めた。オアシス、ラプチャー、ビーディ・アイなど海外アーティストとの共演も多く、’15年にはニコニコ動画等で配信されているアニメ『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』第4話のエンディングテーマ『SRKEEN』を書き下ろした。そして、‘17年6月、新しい幕開けを予感させる配信シングル『Ganges-Fox』のリリースとともに、6年ぶりのアルバムリリースを発表。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(vo&g)全面プロデュースのもと、10月18日に満を持して5thアルバム『Dawn On』をリリースした。

8otto オフィシャルサイト
http://8otto.jp/

ゴッチ…後藤正文、’76 年生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATION のボーカル&ギターであり、 ほとんどの曲の作詞作曲を手掛ける。’10 年にはレーベルonly in dreamsを発足し、webサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行するなど、音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目され、Twitterのフォロワー数は現在31万人を超える。ソロ作品としての最新作は、'17年12月24日にBlu-ray『Tour 2016 “Good New Times”』をリリース。

Gotch オフィシャルサイト
http://gotch.info/

Live

ツアー日程は随時更新! 東京ワンマン
に続き初のビルボード公演が大阪で!!

 
『“DAWN ON” Release Tour 2018-2019
-TOUR TBA-』

チケット発売中 Pコード349-551
▼2月6日(火)
UNIT
オールスタンディング3300円
スマッシュ■03(3444)6751
※小学生以下は入場不可。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 

Pick Up!!

【大阪公演】

一般発売1月25日(木)
Pコード106-407
▼2月22日(木)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席4500円
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※本チケットに整理番号はございません。ご希望の方は発券後、お問合せ先まで要連絡。当日は整理番号順でお席へご案内しておりますが、整理番号をお持ちでないお客様は開場時間の30分後のご案内となります。カジュアルエリアの取り扱いなし。未就学児童及び高校生同士の入場不可。18歳未満は成人の同伴が必要。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


Column

『Ashes To Ashes』ツアー
ファイナル目前! バンドの
スポークスマンTORAが語る
休止を経て蘇った8ottoの復活劇

Column2

「一生忘れられないアルバムで
 ツアーになっていくと思う」
Gotchが最高の仲間と旅に出る
時代の空気も、マジカルな瞬間も
音楽の美しさも今に鳴らした
『Good New Times』を語る

Comment!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんからの
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「8ottoの取材をしたのはもう6年前。そうなんです。インタビューって基本的にリリースタイミングでやることがほとんどなので、リリースがない=インタビューもない。だからちょくちょく会っても案外仕事はしない、みたいな(笑)。そうこうしてるうちに8ottoのメンバーも30代半ばになって、そりゃ人生的にもいろいろありますよね。しかもその時期の“いろいろ”って音楽を辞める理由にも十分になるものなので、彼らがスローペースながらも諦めることなくこれだけのクオリティの音源を作ってきたのを聴いて、本当に無駄な時間じゃなかったなと。オリジナリティがちゃんとあって、仕事抜きでちゃんとカッコいいと思えて、ちゃんと更新してる。これって実はなかなかできないことです。ビルボードライブ大阪での初ライブも発表されましたが、どんな絵面になるのかが楽しみですよ。あと、個人的には、この6年の間に取材したGotchさんも交えて素晴らしいアルバムについて話せたこと、そこまで接点のなかったマエソンに話が聞けたこと、そんなマエソンに取材後に声を褒められたのも何だか嬉しかったな(笑)」