この夏は、『篠島フェス2017』『NUMBER SHOT 2017』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』『WEST GIGANTIC CITYLAND’17』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO』etc、全国のロックフェスに出演。気心知れたバンドメンバーを従えたハイエナジーかつ多幸感溢れるライブで、各地のオーディエンスをフックアップしまくったかと思えば、キャリア初のフルアルバム『FEARLESS』を引っ提げた全国ツアーを9月14日の地元名古屋よりスタート! 現在は、過去最大の砦となるツアーファイナル赤坂BLITZに向けて全速力で疾走するビッケブランカに、生き急ぐように進化を続ける表現者としての生き様と、今改めて『FEARLESS』の真相を問うインタビューを敢行。“今回のアルバムは、自分の想像とは違う出来栄えなんです”だの、“自分のアルバムの曲の中でも好き嫌いが出てくる”だの、まさかの発言も飛び交ったインタビューだったが、彼はこうも言っている。“1人で作って1人で歌ってきた男が、立つべくしてみんなの前に立とうと思えるヤツに変わった”。スターダムへと駆け上がる覚悟も苦悩も挑戦も、全てを糧に突き進む、愛すべきエンターテイナーの横顔をここに。
今回のアルバムは、自分の想像とは違う出来栄えなんです
――『ツベルクリン』(‘14)はビッケブランカの名刺みたいなもので、『GOOD LUCK』(‘15)はツアーで経た経験から、ライブを楽しくするためのものだった。そして、メジャーデビュー作『Slave of Love』(‘16)は、“これぞビッケブランカ”なテイストを全部やるというふうに進んできた中で、『FEARLESS』にはどんなビジョンがありました?
「『ツベルクリン』と『GOOD LUCK』で“自分の世界”と“人とつながる世界”っていう2つをやり切って、今度は全部やるっていう『Slave of Love』になった。でも今回は、そんなに明確なビーコンは作らないでおこうっていう感じがあって。ナチュラルに自然体のまま出てくるものを集めれば、勝手に完成するだろうっていう目論みで」
――今回は膨大にあるストックは使わなかったんや。
「もうほとんど使ってないですね。新しい曲を作りまくってたのもあるし、『Slave of Love』からレーベルも関わる人間も変わっていった中で、いろんな新しいエッセンスを取り入れたりしてたんで、古い曲をリメイクするだけではちょっと物足りないというか。となると、最近作った新鮮な曲の方が、“今”っていう感じでいいのかなぁって」
「アルバムにテーマを設けること自体がそうだし、曲の細かいところにも目を向けてたんですけど、『Slave of Love』ぐらいから“こだわり”とか“わがまま”からは、どんどん離れていってる感じがありますね。頭で考えなくなった。自然に曲を作り出して、自然にアルバムを作り始めるんですけど、自然に作ってる=ゆるいじゃなくて、むしろビッケブランカが自然にやっちゃったら、めちゃくちゃなものを作っちゃうわけですよ。自然=超キテレツなものが生まれちゃう(笑)。だから、その塩梅を見つつ」
「アハハハハ!(笑) じゃあ“何で僕はこの曲を飛ばすんだろう?”とか、逆に“何で僕はこの曲をこんなに愛せるんだろう?”って考えたり…そういういろんなことをこのアルバムを作ることで知っちゃったんですよ。その上で僕は、『FEARLESS』はすごくいいアルバムだと思ってるんです。『Slave of Love』と同じように全曲愛せるとか、『GOOD LUCK』みたいに全部いい曲だわ、っていうある種の自己満足を永遠に繰り返しても進歩がないというか」
「『さよならに来ました』(M-6)みたいな超いいバラードがあって、『幸せのアーチ』(M-9)みたいにみんなが好きになれるJ-POPもありながら、『Stray Cat』(M-5)みたいな都会的なノリもあって、『Moon Ride』(M-2)『Take me Take out』(M-3)みたいにホーンが入ったファンクもある。『THUNDERBOLT』(M-12)みたいにスーパーパワフルな曲もあるし…『FEARLESS』って、ビッケブランカの変遷を知らない人にとっても記念碑になり得るポテンシャルがあると思うんです。それを作った自分がまだイケるっしょ!って思えてるのも、ワクワクするんですよね」
1人で作って1人で歌ってきた男が
立つべくしてみんなの前に立とうと思えるヤツに変わった
――収録曲に触れていくと、ピアノ弾き語りというビッケブランカの1つの核を見せた『Like a Movie』(M-10)は、もうストレートに愛を歌うというか、“すがる”というか(笑)。とは言え、ここまでの曲は今作では珍しいぐらいで、今までの自分が、過去が、の曲じゃなくなってる。
「『GOOD LUCK』で、実際の失恋が元になったことによって、歌詞が激リアルになったタイミングがあったじゃないですか?(笑) 『Slave of Love』でもその雰囲気を残しつつ、何となく小っちゃい出来事を寓話化して歌う、ちょっと現実離れした以前の作詞方法に戻った感覚があったんですよ。だけどそれは自然なことなのかなと。なぜなら、失恋のド真ん中にいたときに書いた歌詞と、それを乗り越えちゃった後の歌詞は、当然変わると思ってるから。今回のアルバムの中では特に『THUNDERBOLT』が本当に好きで、この曲を作って気付いたのは、パーソナルな感情を曲に閉じ込める、結局そこは今でも変わらないんですよ。だけど、そのパーソナルな感情って、『Slave of Love』までは自分1人のものでしかなかったんですけど、このアルバムでは自分が思ってること=みんなが思ってることっていうところにたどり着いてるんです。そこがもう決定的に違う。今自分が感じてる“もどかしさ”とか“情けなさ”みたいなものは、みんな同じなんだって絶対的に信じた上で歌ってるんで、何か“WE感”があるというか(笑)。歌詞で“WE”を使ってる曲もあるし、何なら“僕”って言ったことでさえ、僕1人のことじゃない。みんな同じっていう」
――だってこのアルバムの最後の最後の『THUNDERBOLT』の歌詞は、“We know we can, yeh!”だもんね(笑)。印象的なのは、フレディ・マーキュリーが“We Are The Champion”と歌えば、マイケル・ジャクソンが“We Are The World”、ミーカが“We Are Golden”、そしてビッケブランカは“We Are The Thunderbolt”だと。何で『THUNDERBOLT』やねん!(笑)
「今作には80sなシンセ使いやギターソロもクールな『Stray Cat』とか、ビッケブランカ=振られるというセオリーを(笑)反対の角度=女性目線から描いた名曲『さよならに来ました』、だいたい男女間の話になるビッケの歌で珍しく男と男の『Postman』など興味深い楽曲が多々。あと、『Like a Movie』にちなんで好きな映画を聞いたら、『ユージュアル・サスペクツ』(‘95)との回答も。これ、俺もオススメです(笑)。“マイケル・ダグラス主演の『ゲーム』(’97)とかもう、やられた〜!みたいな。あの感じのプロットツイスト=どんでん返しの作詞方法はたまに使います”なんて、相変わらず独特なソングライティングに唸ったり。そして、彼のライブしかり、このご時世にこんな全肯定のエネルギーを発してるアルバムもなかなかない。そんな充実作『FEARLESS』ですが、個人的にはハイパーポジティブ期なビッケが知らない間に無理してないか、ちょっと心配にもなったなぁ。でも、それすらいずれ音楽になるのを、楽しみにしてる自分がいるんですけど(笑)」
Album 『FEARLESS』 【CD+DVD】 発売中 3780円 avex trax AVCD-93697/B
<収録曲> 01. FEARLESS 02. Moon Ride 03. Take me Take out 04. Want you Back 05. Stray Cat 06. さよならに来ました 07. Postman 08. Broken 09. 幸せのアーチ 10. Like a Movie 11. Slave of Love 12. THUNDERBOLT
<DVD収録内容> Slave of Love TOUR 2017@Shibuya WWW 01. ココラムウ 02. Alright! 03. 追うBOY 04. 秋の香り 05. Your Days 06. アシカダンス 07. Slave of Love 08. ファビュラス
【CD】 発売中 3024円(税込) avex trax AVCD-93698
<収録曲> 同上
Profile
ビッケブランカ…‘87年11月30日、愛知県生まれ。本名・山池純矢。幼少期、読めない楽譜を横目に妹のピアノに触れてみる。両親の影響で日本のフォークと洋楽にも慣れ親しみ、小学校高学年で作曲を開始。中高時代は黙々と楽曲作りに励み、音楽活動を目標に大学進学のため上京。バンド活動でギター&ボーカルを経験した後、突如思い立ってピアノに転向。携帯電話を捨て1年間ピアノに没頭した結果、持ち前の集中力と天性の才能で楽曲制作能力が爆発的に開花し、ソロ活動をスタート。『ツベルクリン』(‘14)『GOOD LUCK』(‘15)と2枚のミニアルバムを発表後、’16年に3rdミニアルバム『Slave of Love』でメジャーデビュー。今年7月5日には、待望の1stフルアルバム『FEARLESS』をリリースした。美麗なファルセットボイスと抜群のコーラスワークを、独創性に富んだ楽曲に昇華させ、ジャンルレスにポップとロックを自在に行き来する、新しいタイプのシンガーソングライター。人柄が滲み出る、楽しく激しく盛り上がるライブパフォーマンスも注目度が高い。なお、ビッケはポルトガル語で“海賊の下っ端”、ブランカはポルトガル語とスペイン語で“白”を意味し、海賊という粗暴な現場で一生懸命雑用をしている人間が、後々船長になるという願いが込められている。