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「からっぽだからこそ求め続けることができる」
徹底的に中野ミホ(vo&g)な最新作『DONUT』携え
東名阪リリースツアーがいよいよ開幕!
Drop’sインタビュー&動画コメント

 Drop’sが早くも4枚目となるアルバム『DONUT』をリリースした。ボーカルであるメインソングライターの中野ミホを軸に、メンバー全員が曲作りに参加した彩り豊かな前作『WINDOW』(’15)。その発売直後から着手したという新作は、これまで以上に中野ミホのパーソナリティにフォーカスした曲を詰め込んだ1枚となった。そのようなビジョンを掲げるに至ったのは、映画『無伴奏』の主題歌となった『どこかへ』(M-11)を書き下ろしたことが大きく影響したという。また、女性や幼児の性暴力被害を扱った映画『月光』主題歌の『月光』(M-8)は、暗闇の中に差し込むあたたかくも鋭い一筋の光を思わせる曲に。ロックンロールやブルース、フォークなど、これまでDrop’sが志向してきた音楽性に加え、“中野ミホ”という個と徹底的に向き合い突き詰めることで、結果的に世代や性別を超えて、誰しもが持ち得る感情に迫る楽曲を生み出している。東名阪ツアー初日となる6月25日(土)Pangeaでの大阪公演を前に、中野ミホにじっくりと語ってもらった。

 
 
今回は徹底的に“自分の素”と言うか、そのまんまを書いてみようと
 
 
――1曲目の『G.O.O.D.F.E.E.L.I.N.G.』が始まった瞬間に、“Drop’sが変わった!”と思いました。ドラムもギターも、中野さんの歌もこれまで以上に力強く伝わってきます。実際に、今回のアルバムを作る上で今までと違ったところはありました?
 
「前作の『WINDOW』を出してから割と早い段階で、次のアルバムは私のパーソナルな部分、素に近い部分を出した作品にしようと決めて。今までの3枚はそういうやり方はしてこなかったんですけど、今回は最初からそういうビジョンを持ってアルバムの制作に取り掛かりました。これまでのアルバムでは私以外のメンバーが曲を書くこともあったけど、今回は全部私の曲と詞で、私の趣味だったり私のやりたいことをやらせてもらいました」
 
――そう考えるようになったきっかけや出来事があったと?
 



「映画『無伴奏』の主題歌になっている『どこかへ』(M-11)を作るときに監督さんとやりとりをする中で、“映画の内容とかは気にしないで中野さんの、たった1人に向けた個人的なラブソングを書いてほしい”と言ってもらえて。“その方が、より多くの人に伝わる普遍的なものになると思う”って。そのときに、いろいろ頭で考えて書いた歌詞よりも、日記みたいな、つぶやきのような形で書いた方が伝わるのかもしれないと思ったんですね。これまでは、頭の中でストーリーを構築してそれを歌詞に書くこともあったんですけど、今回は徹底的に“自分の素”と言うか、そのまんまを書いてみようと思いました」
 
――『どこかへ』の歌詞の最後の“明日出かけよう どこかへ”という1行がとても素敵で。目的地を明確に決めるのではなく、どこへ行くかも曖昧で、でもそれを否定も肯定もしない。行き先や答えが常にあるわけじゃない曖昧さや、決められなさがとてもリアルに思えて。どこか寂しげだけどあたたかい中野さんの歌声とも相まって、いいなぁと。
 
「嬉しいです。最初に『無伴奏』の原作を読ませていただいたときに、物語の時代背景とかこの物語自体の持つ激しさみたいなものを書いた歌を作ったんですね。その後に完成した映画を観せてもらったときに、時代背景とかストーリーよりも、人と人との愛とか、青春のキラキラした瞬間みたいなものが自分の中に強く残って。それは、誰もが経験することだと思うし、時間が経って振り返ってみて気付くことでもある。そういう普遍的なものをすごく感じて、それから新たに『どこかへ』を作りました。毎日の中には寂しかったり切ないこともあるけど、この映画の主人公は強さをすごく持っている人なんですね。そういう強さも曲に出せたらいいかなと思いました。出来上がってみて、自分にとってもすごく大事な曲になりましたね」
 
――また、『月光』も同名の映画の主題歌ですが、ピアノの静けさがかえってズシッと胸に重く響きます。この曲はどんな風にできていったんですか?
 



「映画のテーマ自体は重い題材を扱っているんですけど、最後にちょっと光が見えるような、暗闇の中で微かな月の光が見えるようなものに、というイメージは最初にいただいていて。劇中にピアノが出てくることもあって、ピアノをフィーチャーして作りました。私自身、元々映画が好きなので映画の曲を作ることに憧れもありましたが、曲は曲として映画に寄り添い過ぎないというか、自分たちの曲として、私の気持ちとして、ちゃんと成立している楽曲がいいなと思ったんですね。あと、映画って最後の余韻がすごく大事だから、そこもしっかり踏まえつつ、いいバランスで1つの作品として成り立つように。映画の内容を歌うというよりは、日々の生活の中で誰でも大なり小なり辛いことはあるし、それでも誰か他の人と関わろうとしたり、自分からもがいて救いを求めるパワーやエネルギーみたいなものが、その人を救う力になるんじゃないかなと思えて。それを表したかった」
 
 
“今回は中野ミホのアルバムにしたい”
 
 
――前作『WINDOW』は、1曲1曲がカラフルで起伏に富んでいる印象がありました。今作は、改めてDrop’sの持っているロックンロールやブルースのじわじわ伝わってくる熱さ、懐かしさと新しさが同居した感じと、これまで3枚のアルバムで少しずつ築き上げてきたものが、一気に大きく花開いたように思います。『LONELY BABY DOLL』(M-7)のように尖っている部分もあれば、ポツンと寂しい中にほわっとしたあたたかさがある『ダージリン』(M-4)もあって。そういうものもDrop’sのロックンロールなのかなって。
 
「私が元々トム・ウェイツとか友部正人さんが大好きで、そういうフォーキーな感じも出したいし、バンドとして作り込み過ぎず、力が入り過ぎていない感じも出したくて。最近、アメリカのインディーバンドを聴き始めて、『LONELY BABY DOLL』はその影響もあって、遊びの部分が欲しくて作ったんですね。それと、去年アコースティックギターを買って、アコギで曲作りをするようになったのも、今作では大きかったですね」
 
――『ダージリン』はまさにアコギが曲の要になっていますね。
 
「そうですね。これまではエレキギターで曲を作ることが多かったんですけど、アコギはやっぱり違いますね。家で1人でずっと弾いていられるから、そこから自然と生まれてくるフレーズもあったし、そうやってできたものがアルバムにもたくさん入っています」
 
――タイトル曲『ドーナツ』(M-6)では“わたしはドーナツ からっぽなだけの”や“ぽっかり穴のあいた”と歌われています。自分自身も完全な丸ではなくて欠落している部分を日々感じていて、共感するところがたくさんありました。この曲ができたときのことは覚えていますか? 
 



「作ったのは去年の夏ぐらいで、元々はバンドじゃなく弾き語りでやろうと思って作ってみたんですね。なので、“バンドでやるぞ!”というよりは、自分のそのときのふわふわした感じというか、何となく作ってみようかな…という感じで始まっていって。元々、私は世の中に対して言いたいことがあるから音楽を作っているわけではなくて、日記みたいな感じで記録しておきたいと思って曲を作っていて。“じゃあ、自分の中身っていったい何なんだろう?”って考えたときに、好きな音楽でも映画でも、自分の好みは結局誰かに影響されてできているもので、中身はないんじゃないかなと、ふと思って。けど、それでもいいかなって。それでも、自分の涙は自分だけのものだって思ったり…そういう何かとりとめのないことを考えていたのを覚えてますね。それがこの曲になりました」
 
――この曲へのメンバーの反応はいかがでした?
 
「“いい曲だからバンドでもやってみよう”って。この曲は最初に聴かせたときから、歌詞も全部できていたんですね。それからバンドでアレンジしてレコーディングしたときに、ずっと歌っていける曲だなぁと思えたというか。自分で言うのもアレですけど(笑)、“いい歌だね”ってみんなで言ってました」
 
――“あちこちつけた 飾りをとって まっすぐ 見つめていて”とも歌われていますね。最初、この曲で中野さんは“本当の自分を知ってほしいけど、それは誰にでも簡単に見せるわけじゃないんだよ”と歌われているようにも聴こえました。今こうして話しているときの中野さんも、当然お仕事モードでもあるし、ある意味、飾りはついている。
 
「あぁ、なるほど。そうかもしれないですね。曲を作っていたその瞬間に自分が思っていることをそのまま書いただけなんですけど、後になってから聴いてもすごくグッときて。曲によってもいろいろやり方は違うんですが、歌詞を書くときはだいたいいつも、自分が思ってることをノートに書いていって、ぐるぐる考えて…という作業をずっとしていて。でも、今回は本当に自分の好きなことや自分だけを表現しようと思ったから、余計なことを考えずに自分だけの気持ちに集中して…って言うと、ものすごく自己中ですけど(苦笑)。しんどいなぁと思うときもありましたけど、そこはブレなかったから、作りやすかったですね。振り切ったというか」
 
――そのやり方に関して、メンバーからは何か意見はありましたか? 
 
「特になかったですね。最初の段階で“今回は中野ミホのアルバムにしたい”って宣言したから、みんなも分かってくれていて。でも、みんな年齢も一緒で、生活している場所も同じ北海道だから、曲の中の風景とか匂いとかは分かってくれている。歌をすごく大事にしてくれるので、やりづらさみたいなものはなかったですね」
 
 
からっぽだからこそ、新しいものがどんどん自分の中に入ってくる
 
 
――『グッド・バイ』(M-9)はとてもさわやかな曲で、この曲にも“からっぽ”が出てきますが、中野さんの中で“からっぽ”というワードや、そういう気分が制作中は大きかったですか?
 
「そうかもしれないですね。作り始めた頃は、“変わっていくこと”をテーマにしようと思っていて。街の景色も自分の気持ちも毎日変わっていくし、小さなことも目に見えないこともじわじわ変わっていっている。それはどうしようもないことで、止めることはできなくて。それと、『ドーナツ』で歌っているように、自分がからっぽだと気付いても、毎日は終わることなくずっと続いていくし、変わることもからっぽなこともマイナスなことではないと思ったんですね。からっぽだからこそ、新しいものがどんどん自分の中に入ってくるわけですし」
 
――アルバムの完成から少し時間が経って、からっぽだったところに何か入ってきていますか?
 
「うん、そうですね。でも、ドーナツの穴が埋まることはきっとないんだろうなと思って。自分の中のぽっかり開いた穴と向き合ったときに今回の12曲ができて、それがドーナツの外側になっていって、真ん中の穴はなくならないけどこの先もどんどん外側の部分は増えていく。自分も周りも日々変わっていく中でも穴はなくならなくて、でもそれがあるから生まれてくるものもあるし、からっぽだからこそ求め続けることができるし、それがエネルギーになるんだなって思う。いつかまたこれから先、『DONUT』を聴き返してみたときにその外側に自分が救われるんじゃないかなって。そうやって、いい意味でちょっと開き直った感じもあります(笑)」
 
――6月25日(土)心斎橋Pangeaから始まる東名阪ツアーも楽しみにしています。
 
「今回のアルバムは、今まで以上に作り終えた達成感もあるし、いい制作ができました。ツアーではアコギも使うし、新しい曲がこれまでの曲と一緒になった時にどういう感じになるか、自分たちでも楽しみにしています」
 
 
Text by 梶原有紀子



(2016年6月24日更新)


Check

Movie Comment

独特のムードに惹かれます…
中野ミホ(vo&g)からの動画コメント

Release

世代も性別も超え音と言葉を鳴らした
転機と充実の4thアルバム!

Album
『DONUT』
発売中 2639円(税別)
STANDING THERE, ROCKS /
キングレコード
KICS-3386

<収録曲>
01. G.O.O.D.F.E.E.L.I.N.G.
02. CLOUD CITY
03. 十二月
04. ダージリン
05. 誰も知らない
06. ドーナツ
07. LONELY BABY DOLL
08. 月光
09. グッド・バイ
10. 部屋とメリー・ゴーランド
11. どこかへ
12. からっぽジャーニー

Profile

ドロップス…写真左より、中野ミホ(vo&g)、荒谷朋美(g)、小田満美子(b)、石橋わか乃(key)、奥山レイカ(ds)。’09年、高校で知り合った5人で結成。高校2年生の夏休みに初めて作ったオリジナル曲『泥んこベイビー』で高校生バンドコンテストのグランプリを獲得。’11年、高校3年生の7月に1stミニアルバム『Drop’s』リリース。同年12月に同じ札幌出身のバンド、爆弾ジョニーとスプリットシングル『SPLIT』発売。3月SHOWCASE LIVEツアーを開催。’12年、地元・北海道の夏フェス『JOIN ALIVE』に初出演し、今年で通算4回目の出演を果たす。’13年9月に発売した1stフルアルバム『DAWN SIGNALS』は『第6回 CD ショップ大賞2014』北海道ブロック賞を受賞。’14年7月に2ndフルアルバム『HELLO』発売。同作を携えた全国ツアーの東京、札幌公演はソールドアウト。’15年7月に発売した3rdアルバム『WINDOW』が、『ミュージックジャケット大賞2016』の準大賞を獲得。’16年5月25日にリリースした4thアルバム『DONUT』を携え、6月25日(土)大阪Pangeaを皮切りにツアー『Drop’s 2016 TOUR「DONUT JOURNEY」』を開催。

Drop's オフィシャルサイト
http://drops-official.com/

Live

初日は大阪Pangea!
東名阪リリースツアーが遂にスタート

 
『Drop's 2016 TOUR
「DONUT JOURNEY」』

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード294-305
▼6月25日(土)18:00
LIVE HOUSE Pangea
オールスタンディング3000円
プラムチャウダー■06(6357)6969
※未就学児童は入場不可。
小学生は保護者同伴の場合は無料。

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【東京公演】
チケット発売中 Pコード294-026
▼6月26日(日)17:00
東京キネマ倶楽部
オールスタンディング3000円
VINTAGE ROCK■03(3770)6900
※未就学児童は入場不可。
小学生以下は保護者同伴に限り入場無料。

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【愛知公演】
チケット発売中 Pコード294-023
▼7月9日(土)18:00
池下CLUB UPSET
前売3000円
ジェイルハウス■052(936)6041
※小学生は、保護者同伴に限り無料。
未就学児童は入場不可。

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Comment!!

ライター梶原有紀子さんからの
オススメコメントはこちら!

「中野ミホさんは歌詞を書くときに、ひらがなとカタカナ、漢字の使い分けにこだわると言う。『CLOUD CITY』(M-2)では、“きのうから くしゃみが とまらないんです”と、誰にでもある何気ない日常の1コマが、ひらがなでつづられていることに歌詞カードを開いて気が付いた。何歳になっても悔しい思いはたくさんするし、楽しいことがあれば全力ではしゃぐ。イライラしたり、世界中が虚無で覆いつくされてしまうように思う日もあって、そんなときにDrop’sのブルースはとても優しく鳴り響く。なぜなら、どの曲のどの歌声にも、どの音にも同じような思いが秘められているから。“自分がからっぽだから、ぽっかりあいた穴にいろんなものを入れられる”と言う中野さんの言葉を聞くまで、自分は自分の中にある欠落した部分を、虚しいものとしか思っていなかった。でも今、『DONUT』がそこにあるだけで、世界は少し明るくやわらかくなると思える」