片想いあり、遠距離恋愛あり、友達以上恋人未満あり。忘れられないあの恋も、まぶしいぐらいの思い出も、巡り出会えた喜びも、もう会うことのない、大好きなだったあの人も…。“失恋ソング女王”奥華子・濃縮還元の最新アルバム『プリズム』は、恋愛における様々なシチュエーションを、持ち前のクリスタルボイスと涙腺崩壊のドラマチックなメロディで徹底的に磨き上げた珠玉の13曲を収録。年齢や時代やタイミング…乱反射する心模様とブレない奥華子の美学を投影した『プリズム』は、彼女がシンガーソングライターとして充実期を迎えていることを確信させる渾身の1枚だ。動画サイトで再生回数累計1500万超えの失恋ソングの原点『楔 -くさび-』、デビューのきっかけとなったインディーズ時代のシングル曲『花火』、青春映画『あしたになれば。』(‘14)主題歌『君がくれた夏』など、オリジナルアルバムながらこの10年の道のりが今改めて1つになったような今作を旅の新たな道連れに、現在は全国39ヵ所を巡る『10th Anniversary Concert Tour 2015』の真っ只中にいる彼女。デビュー10周年の集大成と言える『プリズム』、この10年を経てたどりついた奥華子の視野を問うインタビュー。
「あるよね(笑)。あとは何かこう…“自然体で作れた”というか。本当は焦って、バタバタして、“うぅ~”ってなんなくちゃいけいぐらいだったのに、意外にそうでもなく、あんまり気負いもなく。“あ~また今回も時間ないな、でもどうにかなるか”みたいな。何かそういう開き直りの精神で作れたというか。このアルバムに関してだけじゃなくて、ライブもそうだし、どう思おうと、もう奥華子でしかないから、やっぱり。だから、今出来ることを、本当に今日出来ることを、頑張るしかない。そう思えるようになったのが大きいかもしれないですね」
「でも、それがあったから、前回のアルバム『君と僕の道』(‘14)も結局出来たから、絶対に大丈夫、みたいな。何かそのギリッギリのやつを経験してるから、味をしめてしまったんですね(笑)」
「曲自体はツアーの前から、もう去年ぐらいからシングル曲を作るつもりで書き溜めていった感じですね。だいたいワンコーラス作って書き溜めるんですよ。で、聴いてもらって、じゃあどの曲にしようってまたフルコーラス作るから、それが結構大変な作業というか。一気にワーッて作らないから。で、最終的に曲を並べて見たときに、ちょっとこれ、全部切な過ぎないかと(笑)。もうちょっと明るい曲とか、何かアクセントになる曲も欲しいねって、『雨のプリズム』(M-8)と『羅針盤』(M-7)を作ったり、全体のバランスをとるというか」
「そうなんですよ。ツアーをやりながら、次の日に帰ってすぐレコーディング、曲を作ってまたツアーっていう。何か本当に常にオン状態。自分の気持ちも、声も。でも、むしろよかったなぁとは思いますね」
「ある。やっぱり初めて来てくれる人も今回のツアーでは多くて、“ずっと好きだったけど、社会人になってやっと観に来れました。中学生の頃から好きです!”みたいな。そういうのを知ると、10年ってすごいなぁって。“その人の人生と共にいたんだ、奥華子”みたいなことを感じるのは、すごい嬉しいですよね」
「アハハハハ!(笑) やわらかいタッチのイラストがすごくいいなってお願いして。そうしたらホントに偶然“奥華子がすごい好きです”って言ってくれって。これまたPVがいいんですよ」
VIDEO
――しかも、デビューのきっかけとなった大事な曲を、ようやくアルバムに入れられてね。
「そう。やっぱり、アルバムに入らないと何か“残せた”っていう気持ちになれないから。やっとここで居場所を与えられた感じがします」
――そう考えたら、『楔 -くさび-』(M-1)もそういう気持ちでシングルにして、今回アルバムに入れられて。何かいろんなことをちゃんと決着させたアルバムというか。
「そうですね、確かに。何か本当にここでやっとひと区切り付いた、みたいな」
それでも好きみたいな。“それでも”っていうのが好きなんですよね~
――『スターチス』(M-2)とかもなかなか聞かない言葉ですが、花の名前で。歌詞の“愛することは 何も失くさないこと”っていう1行はハッとさせるワンフレーズだなぁと。
「歌詞と曲が出来て、最後にタイトルを決めるときに、何かひと言で表したいなって。スターチスの花言葉は“一生に一度の恋”なんですけど、“永遠”とか“変わらぬ心”っていう意味があるんです。あと、ドライフラワーによく使う花だから“枯れない花=永遠”じゃないですか。ピッタリだなぁと思って」
――華ちゃんは一生に一度の恋だなと思うような、大恋愛はしたことある?
「そうですね、今回はもう実体験の曲ばっかです(笑)」
――アハハハハ!(笑) それがこうやって曲になっていく。だったら、『好きだったんだ』(M-4)みたいに、後から気付くこともホントにある?
「ありますね。自分が好きなときはそれでいいんだけど、逆に好きって言ってもらってるときって、もう逃げたくなるんですよ(笑)。でも結局、自分もすごく好きだったんだなって。本当に後から気付きますね」
――『友達のままで』(M-6)とかは、一歩踏み出すことで同時に失う可能性が生まれてしまう、だったら友達のままでいいっていう、男女間の永遠のテーマというか。さすが恋愛ソングを書き続けてきただけあって、恋における心の動きを描いたスタンダードな曲が今回はしっかり入ってるなぁと。遠距離恋愛あり、友達以上恋人未満あり(笑)。
「アハハ!(笑) そうね。奥華子の中の“王道ソング”が結構入ってる。確かに多いですね」
――だから、新作なんだけどベストっぽいというか、ありとあらゆるシチュエーションが取り揃えてある感じがする。ただ、“傷つくだけだと 分かっていても 何度も会いに行く私を”っていう『嘘つき』(M-10)みたいな恋が、一番奥華子なイメージですけど(笑)。
「アハハハハ!(笑) 確かに、そうですね。“お前またか!”みたいな(笑)」
――こっちに行っときゃ幸せになれるのに…じゃない方にいつも(笑)。
「でも、やっぱり自分はそこに行きたい、それでも好きみたいな。“それでも”っていうのが好きなんですよね~」
――困難が待ち構えてる方がいいんだろうね。
「そうなんですよ(笑)。普通に好きじゃダメなんですよね」
――だから後から気付いちゃう(笑)。 それこそ恋愛観に関しても、制作的なシチュエーションも、安パイであることには実はドキドキ出来ない女性であり、アーティストであるというか。
「あぁ~そういうことか。安心を欲してると口では言ってるんですけど、実際は別にそうじゃないのかも。それじゃ物足りないと思ってるのかもしれない」
何でここまで頑張ってこれたかって言うと
やっぱり奥華子を観てくれてる人がいるから
――大阪市中央公会堂から始まったツアーは今もまだ続いてますけど、まずあの日はやってみてどうでした?
「あの日は今回が“はじめまして”っていうメンバーだったし、10周年で一夜限りだからすごい緊張感もあったんですけど、リハーサル重ねていく内に“これはいいかも”って楽しみになりましたね。いつもはMCも結構考えて臨むんですけど、あの日はそのとき思ったことをそのまま言おうって。何かそれが結構上手くいったような気がしますね」
――すごくハマってました、あの場所は。『嘘つき』(M-10)とかは、あのときのアレンジが元になってると。
「そうなんですよ。最初は弾き語りとバイオリンぐらいのアレンジがいいかなと思ったんですけど、あのライブがあって、ベースとパーカッションが入って。“こういうサウンドもいいな”って、レコーディングではそういう風に。だから、あのライブをやったからこその今のCDですね」
――そう考えたら、制作とツアーがきっちり分かれてて、アルバム作り切ってからあのライブに臨んでたら、生まれなかったアレンジやもんね。
「そう! 本当にそうですね」
――そんな風にシングル曲を目指した楽曲群だけあって、今回は本当にクオリティが高いですね。
「ホントですか!? やった! あと、『ガンバレ』(M-13)は最後に作ったんですけど、とにかくみんなへのメッセージというか…10周年ということで振り返る機会も多くて、そのときに何でここまで頑張ってこれたかって言うと、やっぱり奥華子を観てくれてる人がいるからだなって。それはファンの人も、周りのスタッフの人もそうだし、“頑張って”って言ってくれることが…すごいことなんだって。これだけたくさんのアーティストがいる中で、奥華子に対して声を掛けてくれる、観ていてくれるってすごいなって。時に“頑張れ”っていう言葉がプレッシャーになったり辛くなったりするときもあったんですけど、今思えば“頑張れって=観ているよ”っていう意味なんだなって。例えばマラソンでも、辛くなって歩きたくなるときがあるじゃないですか? でも、遠くで“頑張れ~!”って旗を振ってくれていると頑張れたり、自分ではない力が湧き出てくる。それってまさに、“頑張れ=観ているよ”ってことだなぁって。何かそのことを伝えたくて作った曲ですね」
――そうやってみんなが言葉にしてくれたことに対して、華ちゃんもこうやって曲にして。時々思うけど、アーティストって“頑張れ”という言葉に対して過剰に反応するというか、“俺、頑張れっていう言葉が大嫌いなんですよ”って言う人もいるし(笑)。 でも、“頑張れ”を発する人って、何かしらポジティブな想いじゃないとわざわざ言わないというか。それをちゃんと受け止められる自分になったのかもしれないですね。
『ガンバレ』が出来たことで、やっとアルバムが完成したと思えた
――他に制作中の何か印象深いエピソードはありましたか?
スタッフ 「いやぁ~超いっぱいあると思うんだけど」
「(笑)。『羅針盤』のサビの前に♪テレレレンってスライドさせるところは最初はなかったんですけど、ディレクターから提案があって入れたら、1回でマメが出来て超血が出た、みたいな(笑)。あと、『花火』のストリングス・レコーディングを初めて聴いたときは、もう号泣しましたね。レコーディングであんなに泣いたのは初めてですね。ファンの人との距離も近いけども、10年やってきてミュージシャンとかアレンジャーとの距離も近くなって、友達みたいに仕事が出来てるのも、すごい大きいですね」
――以前のインタビューでも、著名な知らない誰かより、ちゃんと理解あるアレンジャーさんたちを集めたって話になったもんね。だからこそ、奥華子である感じがなくならないのかも。
スタッフ 「あと、最後にレコーディングしたのは『ガンバレ』だよね。『ガンバレ』は自分でアレンジして、ミックスもほとんど自分でしてる感じ」
「『好きだったんだ』も、1、2回録りで歌ったら、もうそれがそのまんまOKみたいなね。それも1人でレコーディングしましたね」
――思いのほか、ツアー中に作るのは合ってるのかもしれないですね。
「あぁ~いいかも。声が出てますよね。やっぱりツアー中って常に歌ってるので。アルバム曲の半分ぐらいで、ライブでいつも使っているマイクのSHUREの57を使ったのも初めてで」
――制作に没頭するより、ちゃんとお客さんともコンスタントに会って、それこそ“頑張れ”と言ってくれてる人たちの何ヵ月か前の顔を思い浮かべるんじゃなくて、昨日とか一昨日とか、次の日にまたそれを観て、気持ちを確認していくのは全然違うよね。
「本当にそうですよ。『ガンバレ』だってツアーの途中に作った曲だし、全然違いますね、やっぱり」
――あと、今回はジャケットがいつものプロデューサーの撮影じゃないですね。クレジットを見て“あれ、違う”と。
「今回はスタジオで撮って。ジャケットのデザイナーはインディーズの『花火』のときからやってもらってる人で」
――じゃあ新旧の奥華子の理解者たちがやっぱり集まってきて、今回のアルバムが出来て。だから、オリジナルアルバムなのに特別感がすごいある。出来上がったときは何か思いました?
「うーん…“間に合って良かった!”っていうのが第一声(笑)」
――そこはいつもと一緒なんだ(笑)。
「出来てよかったぁ~!みたいな感じだったけど(笑)。でも、『ガンバレ』が出来たことで、やっとアルバムが完成したと思えたかな。それまでは何かがちょっと足りない、みたいな。“もう12曲にしようか”みたいな話もあって諦めそうになったんだけど(笑)、プロデューサーも“もう1曲頑張れ!”みたいな(笑)。で、この『ガンバレ』が出来て、ライブの最後に、アンコールとかで歌えそうな曲がやっと出来たねって。それが大きいですかね」
――何か腑に落ちたというかね。その1曲があるかないかで、見え方とか収まりがガラッと変わる。
「そう! ね。本当そうですね」
こんなにツアーを楽しんでるのは初めてですね
――ツアーもいよいよゴールが見えてきましたけど、途中経過はどうですか?
「何かめちゃくちゃ楽しいですね。こんなにツアーを楽しんでるのは初めてですね。昔は弾き語りだけだとみんなつまんないかなぁ? 飽きるかなぁ?と思って、途中で即興ソングとか、カバーとか、何とかコーナーみたいなものを設けてたんだけど、今回はもう何もかもやり尽くして、逆に何もしないっていう(笑)。決め事もなく、ひたすら歌って、ひたすら喋って。何かちょっとヘンな言い方なんですけど、自分の歌を、誰かが歌う、みたいな。客観的に奥華子の曲を、“この曲、実はいい曲じゃないか!?”と思ったり、昔の曲を客観的に歌える感じがしますね。そういう意識ですごく歌ってる。ひと言ひと言みんなに伝えるというか、伝えるように歌いたいというか」
――めっちゃ…ちゃんとしたアーティストですね(笑)。
(一同爆笑)
「えぇ〜っ!?(笑) 待って! どういうこと? ちゃんとしてなかったっけ?(笑)」
――今ではそんな意識を持ってね、ライブに臨めてるなんて(笑)。
「アハハハハ!(笑) ちょっとちょっと!(笑) 真面目ですよ! 前から」
――これをやらなきゃ、あれをやらなきゃじゃなくて。いい状態ですね。
「うん。だからもう、ありのままの自分を観てもらおう、みたいな。そういう感じですね。お客さんが来なかったらどうしよう?とか、ライブがうまくいかなかったらどうしよう?とか、今はもう全っ然思わないですね。全く気にならないんですよ。もちろんいっぱい来てくれたら嬉しいし、盛り上がる。でも今は、“大事なことは本当に今目の前にいる、この人たちに伝えることだ”って思えるようになったし、思うだけじゃなくて本当に心からそう出来るようになった。それが大きいかも」
――以前、“奥華子にとって恋愛とは?”って聞いたら、“生きる意味”って即返ってきたのがあったけど。
「フフ(笑)」
――今回、聞きたいなと思ったのは、“奥華子にとって音楽とは?”って言ったら、何て答える?
「えぇ~っ!? 音楽とは? …“社会とのつながり”かな。そこに奥華子の意味じゃないですけど…何ですかね。音楽以外何も出来ないから、やっぱり。それでしかないかな。この社会に奥華子が所属してる証は、歌を歌ってることでしかないですね、今は」
――そして、ツアーファイナルには東京で、再びストリングスを招いたスペシャルコンサートもあって。あと、他のインタビューでも言ってたけど、来年は全曲演奏ライブをやってみたいとか。現時点で全部で何曲あるのかな?
「多分150曲ぐらいだと思うんですけど。1日10時間ぐらいかけて2日でやろうかとか言ってるんですけど」
――150曲は2日じゃ無理ちゃう?(笑) 歌えるの?
「歌えるはず! 喋るのが一番声が枯れるんですけど(笑)、歌うのは全然平気」
――他のアーティストの全曲演奏ライブでも、1日最大40~50曲だと思うよ。
「そっか、じゃあちょっと省略バージョンも入れつつ(笑)。来年も何かおもしろいことをやっていきたいですね」
――10周年というお祭りを終えた後の奥華子が、どうなるかも楽しみよね。
「うん。全く想像つかないです。今は本当に何も考えられないですね。何やってるんだろうね?(笑)」
――まぁでも、歌い続けるのは間違いないと。
「そうですかね? また休みたいとか言い出しそう(笑)」
――お願いしますよ、ホントに(笑)。
「頑張ります!(笑)」