昨日までの自分にサヨナラを
人として、アーティストとしての転機がタフにした
最新アルバム『good-bye』の世界
過去最大の弾き語りツアー真っ最中の奥華子にインタビュー
一瞬にして景色を変える透明感のある可憐な歌声、胸を締め付ける切ないメロディで、老若男女幅広い支持を集めるシンガーソングライター・奥華子。昨年日本を襲った未曾有の大震災により余儀なくされた自らの変化をポジティブに変換し、人間として、アーティストとして大きな転機を迎えた彼女の最新アルバム『good-bye』には、aiko、いきものがかり、JUJUなどのアレンジャーとして知られる島田正典や、ケツメイシ、加藤ミリヤらを手掛けるYANAGIMANなど、今をときめくヒットメーカーが参加。彼女の描く素朴でハートフルな世界観を彩る多彩なアレンジメントで、新たな可能性を切り開いている。そこで、現在は半年にも及ぶ過去最大の弾き語りツアーの真っ最中である彼女が、今作に向かった変化の1年を振り返ったインタビューをお届け。“失恋ソングの女王”“赤メガネの弾き語りシンガーソングライター”なんてキャッチフレーズだけでは、もはや彼女を語れない!?
奥華子からの動画コメントはコチラ!
――フルアルバムとしては『うたかた』(‘10)以来1年半ぶりということで、まずは前作から今日に至るまでの流れを振り返って聞いておきたいなと。
「前回のツアーファイナルが3月12日、13日の大阪で、その直前に震災があって、ホントに特別な想いでファイナルを迎えて。当初はそのツアーが終わったら、ちょっと休もうかなって思ってたんですよ。でも、4月に宮城県塩釜の炊き出しライブに誘ってもらって行ったら、もうとんでもない状況で…。今年1月に出したシングルの『シンデレラ』(M-4)も、ホントは去年の6月に出すのが決まっていて、その頃にはもうレコーディングも終わってジャケットも撮ってたんですけど、こんなに世の中が変わってしまっているのに、予定通りにリリースが進んでいることにすごい違和感を感じて。今自信を持って聴いてくださいって言えない。だから、リリースを止めたいって。そこで、急遽『君の笑顔-smile selection-』っていうコンセプトアルバムを作らせてもらったんです。あと、今自分に出来ることをやろうと、支援金を募りながら“スマイルライブ”というフリーライブを始めて…全てが今までにはないことでしたね。スマイルライブも普段のフリーライブとは全然違う意味を持ってるので、自分で会場も押さえて。でも、上手く言えないんですけど、チャリティーライブとか、誰かのために少しでも何かすることって、結局自分のためなんだと思ったんですよね。自分がそうしたい、そういう人間になりたいんですよ。誰かの代わりに生きることも出来ないし、中途半端な想いでしかないかもしれない。そんなことをしたって“たかが”かもしれないけど、みんながそうやって少しずつ思うことで、何かが変わるかもしれない。自分がただ精一杯生きればいいんだって、すごく思いました」
――とは言え、華ちゃんはチャリティーライブにしても動き出すのが早かったよね。そこに迷いはなかったんかな?
「私がもっと有名な大物歌手だったら、いろんなしがらみがあってやりたいと思っても出来なかったと思う。でも、私はそうでもないから(笑)。もちろんいろんな人の協力があってやれたことなんですけど、“奥華子だから出来た”のかもしれないって思ったんですよ。もし今まで東北で1回もライブをしてなかったら、感じ方も違ってたと思います。何度も東北に行って、そこのファンの人たちの顔も浮かんでくるし、3月12、13日に大阪でライブをした日もmixiでメッセージが届いてたし、避難所からもメールが来ていて…やっぱり他人事じゃないっていうか、親戚がいるみたいな感覚で」
――実際に現地で歌うことで、何か感じることはありました?
「みんなが知ってる曲の方がいいと思って、カバー曲をずっと歌ってたんですね。そうするとやっぱり、おじいちゃんおばあちゃんとか知らない人でも、一緒になって歌ってくれて…知らない人同士でも笑顔になる、みんなが知ってる曲ってすごいなって痛感させられたし、そういう曲をいずれ私も作れたらいいなって。でも逆に、『笑って笑って』を歌ったとき、全然奥華子なんか知らない人が、涙を流してよかったって言ってくれたことがあって。何かちょっと一言じゃ言えないけど、やっぱり私は歌うことで聴いてくれる人と会話出来るし、そこにいられるんだなっていうのはすごく思いましたね」
人に委ねたからって、奥華子はなくならない
――実際に一度決まっていたリリースの流れを壊して、今回のアルバム『good-bye』にはどうやって向かっていったんですか?
「『シンデレラ』を一旦出さないことになって、結局7ヵ月後の今年1月にリリースが決まって。時間がその分開いたので、世の中もそうだけど、私の気持ち的にも全てがリセットされて、じゃあどうせならアレンジも派手に、今までと違う感じにやってみよう!って。ジャケットも撮り直して、だったらメガネも黒くしちゃう? スカートも履はいちゃう?って、とにかくやれることを全てやって、今までと違う奥華子に挑戦した感じですね。赤メガネとカーゴパンツじゃなくなったからって、自分がなくなるわけではないから。あんまり怖いものがなくなったというか、別にダメだったらまた元に戻せばいいって、何かそう思えるようになったんですよね」
――実際に変わってみてどう?
「赤メガネとカーゴパンツというスタイルには、それなりに理由があったんだなってすっごく思います」
――どういうこと?
「やっぱり強烈なキャラクターが出来上がってたんだなって。スカートに黒メガネに変わった途端、普通の年齢のいった…(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「女の人になったなっていうのが(笑)。見た目の印象が結構付いてたんだなって、逆に再確認しましたね」
――アルバムに向けての方向性は?
「『シンデレラ』のアレンジが結構派手というか、自分の手から離れた外側の部分をいっぱい取り入れた楽曲になって。アルバムもそういう路線でアレンジャーさんに委ねた曲もあれば、弾き語りももちろんあるんですけど、今まで全編ピアノを弾いたり自分のテンポ感でやってたのを一旦離れて。結構他の方にピアノも弾いてもらった曲も多いので、自由になれた感じですね。自分で弾くといいところもあるんですけど、それはそれで奥華子色がすっごく濃くなる。濃くなるけど広がらないみたいなところもあるから。人に委ねたからって奥華子はなくならないのが実感としてあるから、大丈夫だと思えたのかもしれない」
――今までは周りのスタッフがアルバムをこの時期に出そうとか、このタイミングで野音でやろうとかいう流れを作って、そこに向かう中で自分がどう頑張るかが奥華子だった。でも、去年から今年にかけては、その流れ自体を自分で作っているのが、すごく変わった部分ですよね。
いつもの奥華子にちょうど飽きてきた時期だったんですよね
――先行シングルとなった『シンデレラ』は、いろんなきっかけを作ってくれた曲になったと思うけど、そんな予感はあった?
「実はそうでもなかったんですよね。だからアレンジの力ってすごく大きいと思います」
――『シンデレラ』のイントロが流れた時点で、このキラキラ感は何!?って(笑)。
「アレンジャーの島田正典さんに“どんな感じにする?”て聞かれて、ざっくり“メジャー感で”って伝えたんで(笑)」
――アハハハハ(笑)。確かにメジャー感に関しては群抜いてるもんねこの曲は。
「“一般大衆に受け入れられるポップス”っていうところに行ってみたい想いがあったんですよね。奥華子もそろそろ何かあってもいいんじゃないの?みたいな(笑)。いつもの奥華子にちょうど飽きてきた時期だったんですよね。島田さんはホントに強烈な個性を持ってらっしゃる方で、いろんな人の曲を聴いても“コレ、島田さんのアレンジじゃない?”って分かるぐらい、ポップスでキラキラした感じ=島田さんのイメージだったので、いつかお願いしたいなとずっと思ってたんで。YANAGIMANさんは山本シュウさんのイベント『RED RIBBON LIVE』に出させてもらったときに、音楽監督として出会って。『二人記念日』(M-3)『春色の空』(M-6)の2曲お願いしたんですけど、今まであんまり意識してなかったグルーヴに対して歌入れまで一緒にやってくれる方で、すごく新鮮だし楽しかったですね」
――バンドサウンドも然りですけど、今回は今まで一番人の出入りが多いというか、風通しのよさがある。
「だから、すごく気持ちが楽だった。今までは自分自分に向かっていた分苦しくなるし、迷ったり、なかなか抜け出せなかったり…。いっつも苦しみながらアルバムを作る感じだったんだけど(笑)」
――こっちもインタビューで話聞き過ぎたら、いっつも苦しくなる(笑)。
「そうそう(笑)。そういう意味では曲作りもそんなに苦しまなかったし、アレンジの方向性もハッキリしてたから。やっぱり2011年に作った曲が多いので、自分自身もすごく変わったというか。断捨離じゃないけど、いろんなことにちょっと“good-bye”して、新しい自分になる。当初はそういうアルバムにしようとは全然思ってなかったんですけど、結果的にすごく影響してますね。中途半端さがないと思います、自分でも」
――そして、“good-bye”には“good”が入ってる。
「ね。“いいさよなら”っていうことだから。すごく前向きなんですよね」
全公演やり切って、もう動けなくなるぐらい
自分が弾き語りで出来ることは全部出し切りたい
――でもまぁ今回もギリギリまで作ってたんですよね?(笑)
「2月22日リリースで出来上がったのが1月30日ですよ。ありえないですよ(笑)」
――プレス工場ってすごいよな~そう考えたら(笑)。
「いや、ホントにすごいですよね。って言ってる場合じゃ(笑)。ホントみんなに迷惑かけてるんですけど、まず出来てよかった」
――でも今までとは何か違うんじゃないですか?
「いや~全然違う。もうめちゃくちゃ聴いてますもん。出来てからずっと聴いてる。こんなこと今までなかったし、なんか苦しくならないんですよね。すごく楽になる」
――今までのアルバムは全部が全部ガチで向かい合うから、気軽には聴けないというか。
「そうなんですよ。なんかね、自分自身なんですよ。自分と向き合ってる。でも今回は結やっぱり外に向いている。だから、客観的に聴けちゃうんですよね」
――あと、CDの帯に“待望の6thアルバム”って書いていて、“すげぇな。6枚もメジャーでアルバム出してるんだ”って、ちょっと思いました(笑)。
「アハハハハ(笑)。何で何で何で?」
――今のご時世、この厳しい世界で6枚も出せない=続かないですよ。でも、6枚積み重ねてきた奥華子があったからこその今というか。ライブも楽しみですよね。逆にこれだけアレンジされてるものを、弾き語りでどう聴かせるのか。あと、去年のツアーのバンドバージョンもすごくよかったから、そっちも早く観てみたいなと。
「ですよね~。今回のレコーディングはあのメンバーでやらせてもらって。このアルバムは救われましたね、あの人たちに。去年のツアーがなかったら、このアルバムも全然変わっていたと思う」
――1人で大きな荷物を背負っていた奥華子が、仲間と荷物を分け合うことで、音楽を楽してめる感じはしますね。
「ホントそう思った。“あれ、こんなにレコーディング楽しかったっけ?”みたいな(笑)」
――だってインタビューでいっつも話を聞いてて、この娘いつか音楽辞めるんじゃないか…って(笑)。
「アハハハハ!(笑)」
――で、ツアーでお客さんの顔を見て何とか持ち直す、みたいな繰り返しでしたけど(笑)。作品を作った時点で、そんな前向きな気持ちになれてるのは、今までになかったね。
「ホントそうかも(笑)。とにかくツアーの本数も今までで一番多いので、全公演やり切って、もう動けなくなるぐらい、自分が弾き語りで出来ることは全部出し切りたいですね」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2012年6月22日更新)
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