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「バーンスタインのメッセージは僕の苦悩のある部分でもある」
20世紀アメリカを象徴する音楽家L.バーンスタインの劇場用作品
『ミサ』に23年ぶりに挑む、井上道義インタビュー (1/2)

7月14日(金)、15日(土)、大阪、フェスティバルホールでレナード・バーンスタイン『ミサ』が上演される。歌手、演奏家、ダンサーのためのシアターピース〔劇場用作品〕の副題を持つこの作品は、オーケストラ、合唱のほか、18人の独唱者、ジャズバンド、ブルースバンドなど、総勢200名の出演者を擁する大作。国内での上演は23年ぶりとなる。前回の上演に引き続き総監督・指揮・演出を手掛けるのは井上道義。「バーンスタインの苦悩の一部は僕の苦悩でもある」と語るマエストロの口調は時に饒舌に、限りなく細部に立ち入りながら作品への共感を滲ませる。23年を経て、再び「日本でこの作品が意味を持てるように」環境は整ったということだろう。井上道義に聞いた。

◆才能がある人は、その才能に脅されることがあるんですよ井上

■23年振りの上演(1994年、オーチャードホール/京都市交響楽団)になりますが、そのあたりのお話からうかがえればと思います。
 
井上その時のテープがあるんですけど、今それを観てもすごく面白いことは面白いです。ただ欲張りすぎてて、逆にわかりにくくしちゃったなって思ったので、今回は情報をなるべく減らして、単純化した舞台にしたいと思ってます。バーンスタインも欲張りなことを書いてるんです。ジャズも入れてブルースも入れて、現代音楽も入れてベートーヴェンの「第九」の引用も入れて、ダンスも入れてるし、子どもの合唱も大人の合唱も入れて本当に欲張ってる。その上に演出の僕が欲張っちゃったから、大変なことになっちゃったわけです。だから今回は「欲張りな自分を削ぎ落してやる」わけです。
 
■現代的な多くの要素を取り込んでいる作品ですから、否応なしにメッセージ性が問われる作品でもあると思うんです。バーンスタイン自身のメッセージもあれば、この作品が23年ぶりに上演されることの意味という面もあると思います。
 
井上今やろうとする意味は、書かれた当時はベトナム戦争へのバーンスタインの批判もあったし、今回は別にどこの戦争を、ということは今ははっきりしていない世の中だけど、ありとあらゆるところで代理戦争があるわけで。その代理戦争に対していつも気を付けよう、という気持ちがあることは確かですね。
 
■初演が1971年。ケネディセンターの杮落しっていうのがすごく象徴的ですよね。
 
井上絵画の世界ではよくありますよね。ピカソの『ゲルニカ』とか、藤田嗣治の『アッツ島の玉砕』とか、映画でも表面的には戦争することを肯定しているように見せながら、実はものすごく大反対している内容のものとかいうのは戦争中にもあったでしょう。そういうものと同じだと思います。でもバーンスタイン自身の意図は戦争に反対することにあるのではなくて、それ以前に「神様」ということと「信じる」ということにあるんだと思います。そして「自分が神様扱いされたらどうするか」という問いかけが大きくあって、その周りに「他人から見られている自分」と「人から期待されている自画像」と「本当の自分の姿」といった重層的な「自己」の齟齬(そご)を音楽で描いたんだと思う。
 
■それがバーンスタイン自身の苦悩ですか。
 
井上そうですね。それが「苦悩」ですよね。だから「司祭」っていう人になぞらえて指揮者である自分を一度壊してるんですよ。「壊す」っていうことは現実には絶対必要で、前に進むためには破壊しないといけない。バーンスタインはユダヤ人なんです。両親は完全にユダヤ教であったから、そういう環境の中で育った彼は、キリスト教というもので作られているアメリカの中でギャップを感じたんだな。司祭のような指揮者、スーパースターというレッテルとの間に、本当の自分は違うという意識があった。確か、佐渡(裕)君の文章にもあったけど、「みんな『ウエストサイド・ストーリー』の話ばっかりするけど、俺は『ウエストサイド~』の作曲家じゃない!」。それは僕にも言ってたけど。「自分がなりたかったもの」と「(周りから)何かが成功しちゃってできちゃったもの」が違うわけだな。
 
■あれほどの成功した人がそれはそれですごい贅沢だな、と僕などは思ってしまいますが。
 
井上そうですね。だから、収まりがつかないんでしょうね。ハッピーじゃないわけですよ。だけど何が贅沢なのかな?世間的に成功しているからそれで満足しろ、ってこと?
 
■才能に関しては思います。才能の塊のような人でしょう。満足を感じても不思議はないくらいの。
 
井上才能があるとそれで人は満足できる?できないんですよ。できないですね、全然。才能がある人はその才能に脅されることがありますよ。結局以前にできたことがその次にできるとは限らないわけで。例えばある人はノーベル賞をもらってうれしいかも知れないけれど、そんなうれしさは1年以上は続かないんじゃないかな。それ以上の業績を上げられない自分といつまでも生きていかなきゃいけないでしょ。そんな「自分」のままじゃ生きていけないです。毎日、人は朝を迎えるわけだから。
 
■学者や芸術家ならそれより先に行こうとする。でもなかなかそこへは行けない。その苦悩も含めての才能ですか。
 
井上そういうことです。だから自分がノーベル賞をとった時のことばかりを言われてても「今、俺はそれを超えるものができないんだよ!」ということでしょうね。その気持ちは誰でも、才能があろうとなかろうと持つことだと思うので。

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(2017年6月30日更新)


Check

第55回大阪国際フェスティバル2017 
大阪フィルハーモニー交響楽団創立70周年記念
バーンスタイン「ミサ」

チケット情報はこちら


〈新制作/原語上演・日本語字幕付き〉
歌手、演奏家、ダンサーのための劇場用作品

記者会見の模様はこちら→
「井上道義が甦らせる現代社会への祈り…」

●7月14日(金)19:00/15日(土)14:00
フェスティバルホール
S席-9500円 A席-8500円 B席-7000円 BOX席-15000円 
Pコード 319-516 チケット発売中

【総監督・指揮・演出】井上道義
【照明】足立恒
【美術】倉重光則
【振付】堀内充
【音響】山中洋一
【副指揮】 角田鋼亮
【合唱指揮】福島章恭
【児童合唱指揮】大谷圭介.
【舞台監督】堀井基宏

【バリトン】大山大輔
【ボーイソプラノ】込山直樹

【ソプラノ】小川里美
【ソプラノ】小林沙羅
【ソプラノ】鷲尾麻衣
【メゾソプラノ】野田千恵子
【メゾソプラノ】幣 真千子
【メゾソプラノ】森山京子
【アルト】後藤万有美
【カウンターテナー】藤木大地
【テノール】古橋郷平
【テノール】鈴木俊介
【テノール】又吉秀樹
【テノール】村上公太
【バリトン】加耒 徹
【バリトン】久保和範
【バリトン】与那城 敬
【バス】ジョン・ハオ  

【管弦楽】大阪フィルハーモニー交響楽団
【合唱】 大阪フィルハーモニー合唱団
【児童合唱】キッズコールOSAKA
 ※一般公募のオーディションにより
  結成された特設合唱団
【バレエ】堀内充バレエプロジェクト
 大阪芸術大学舞台芸術学科舞踊コース
【助演】孫 高宏、三坂賢二郎
(兵庫県立ピッコロ劇団)

【ミュージック・パートナー】 佐渡裕

【問い合わせ】
フェスティバルホール チケットセンター
■06-6231-2221(10:00~18:00)