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『上方落語若手噺家グランプリ 2016』
決勝進出者インタビュー:林家笑丸

『上方落語若手噺家グランプリ2016』とは、昨年から始まった若手中心の落語コンテストで、エントリー資格は入門4年目から20年未満の上方落語協会員。今年は39名が参戦し、4回にわたって予選を繰り広げてきた。そして各予選の上位2名と、各予選3位の中から最も得点が高かった2人(同点のため)の計10人が6月21日(火)に開催される決勝戦に進出した。ぴあ関西版WEBでは決勝進出者へのインタビューをご紹介。9回目は林家笑丸が登場!

--去年は15年未満で出場資格がなかったのですが、今年は予選に出てみてどうでしたか?

マニアックなネタを出してもうたんですよ。「居候講釈」といって滅んでいたネタだったんです。まあ、「難波戦記」の部分は残して、ギャグとかオチとか全部仕立て直してやったんですよ。なんでこんなマニアックなネタを出してもうたんやろうって。8分で。削りにくいんですよ。参ったなぁと。だから一睡もせずに出ましたよ(笑)。ネタの中も、20ヶ所くらいは初めて人前でやる部分があったんですよ。

--なぜ「居候講釈」を出そうと。

ネタの提出日に今ある短いネタは何かいなと考えてたんですよ。その日にやっていたのが「居候講釈」で。「居候講釈」って書いて出したんです。それは去年の話で、予選は4月にあるからチラシ作るのは2ヶ月くらい前やろうと。で、気が付いたら「え! これになってもうた!」と。マニアックなヤツ出してもうたと。落語好きの方でも生で聞いたことないようなネタやったんです。当たり前ですけど、お客さんはポピュラーなネタが喜びやすいんです。「時うどん」とか「動物園」とか「手水回し」「初天神」。みんなポピュラーなネタを出してきて。僕のは「え? 何これ? 何て読むの?」みたいな。僕の名前も含めて「はやしやしょうまる?」みたいな。何これっていう。

--予選ではトリでしたよね? 会場も乗っているような、すごく楽しかった印象があります。

“腕あるで”っていうのを出しとこ思って(笑)。夏場はいつも腕出てますけどね、Tシャツで。ノースリーブなんか腕が出まくって困るんですけど。ノースリーブで出たらよかったないうて。腕あるでっていうね。

--決勝のメンバーが、最若手の桂あおばさんから、同期のたまさんまで、幅広いメンツですが。

たまくんと僕は同じ京都の大学出身ですからね。向こうは京都大学、こっちは京都産業大学。日本ですから産業が入ってくるんですよ。どうしても産業が入ってくる。何でなんでしょう…。

--同じ京都の大学で。

入れ替えてほしいと思ってるんですけどね、経歴を。まあ落語に一番フィットする大学やなと思って。僕はよく「笑丸くんは自然とアホさが出ていていいよ」と、「この落語は頭おかしいなって人が出てくるけど、君は自然とそれができるね」と先輩から言われるんですけど、褒められてると思ってるんですけど、実はやんわり皮肉を言われているんかなって(笑)。

--高座からもその明るさが伝わりますよね。

一番若いキャリアでなんばグランド花月に出ていますから。落語ファンからしたらそれがどないしてんってことなんですけど、繁昌亭とかできる前は、出番がよしもとの劇場しかなかったんです。小さい落語会とかはいろいろあるんですけど。でも大きい会場を目指すには普通の落語をやってもダメやったんですよね。漫才との間に出るにはどうしようと。僕、笑い飯さんと麒麟さんの間に出たこともあります。学生相手に。

--それはなかなかの状況ですね。

落語家のイメージというのは、おじいさんが着物を着て出て、よく分からない昔のことをぼそぼそ言うて、どういうわけかおじいさん、おばあさんが喜んでいるという、そういうイメージがあるんですよね、どうしても。だから、僕とかが出ると納得してもらえるというか、「あ、違う」と思ってもらえるみたいです。ただね、学校とか行って「次は落語家さんの登場です!」と呼び込まれたら、学生さんから「えー!イヤや~!」言うてね、イヤやってどういうこと!?って感じですよね。ちょっと~!みたいな。僕は師匠が林家染丸といいまして、芸事が達者な人で、その影響を受けているというか、踊ったり、三味線弾いたりというのは、師匠は当たり前でしたから。僕もやってましたから、それも生かしてどうこうというのはどこかで思ってます。僕は芸事が入るネタ好きで、芸事ですから鍛えないとできないですから、そういうのもあるので。滑稽噺とかは間とか、アホさが要るんですけど、さらに芸事を加えたら面白いんとちゃうかなって、そういうのはずっとありますね。ただ、よしもとの劇場とか出させてもらっているので、一般のお客様と落語好きのお客様は違うという認識がありまして、僕はどっちも喜んでいただけるような芸風というか。一般の人は、落語は食わず嫌いが多いと思うので、多分僕を見たら認識が変わると思うんです。だからそういうふうに落語ファンを増やせたら嬉しいなと思います。あと、例えばポピュラーな演目はいろんな人がやるので、よりよくなっているんですけど、あんまり人がやらない演目は進化が止まっているんです。そういう演目を復活させたり、滅んでる落語を復活させるのが好きなんです。それを皆様に楽しんでいただけるようにできたら楽しいなと思います。ポピュラーなネタは、それはそれでいいんですけど、僕は滅んだネタをよりグレードアップさせたいなと思います。

--そういうネタはどこから発掘するんですか?

平成楽語荘(協会員の資料室)とかに行くとそういう文献がいっぱいあるんです。そういうのを見て、このストーリーはいいな、ただ中身は古いなと。ギャグとか、これを変えたらええかもとな、とか。そういうのを寝るときに思いつくんです。新しく作るのも好きなんですけど、僕は、伝統とか文化が入っているところも落語の一つの魅力と思うんです。例えば漫才で講釈をやるとか、浪花節、都都逸を入れるとかはほぼないんと思うんです。こういうのも絡めていけるのが魅力やと思ってます。これから新作で取り入れることも可能ですけど…。例えば落語を教わってそのまま稽古をするのは、音楽で喩える演奏技術は良くなるんですよ。ただ、アーティストとしてどうなのかという。何か自分で発信したいことはないのか、生み出せることはないのかと思うんです。予選の「居候講釈」でもかなり僕なりのアレンジがされているんですけど、滅んでいるものですからどうアレンジしようがどうってことないんですけど。僕が復活させたようなものですから。

--今、「居候講釈」をかけられているのは笑丸さんだけですか?

こっちでは僕だけと思います。というのは、元々ギャグが古くて、ギャグを作り変えないとダメやったんです。その作業というのは、寝るときに「あ!」と思いつくような。「あ!」というこの作業が要るんです。その積み重ねが出るというか。

--ちなみに、ギャグが思いつくのは寝てるとき以外もあるんですか?

そうですね、人と喋ってるときとか。ギャグを思いついて落語の中に入れてやることが多くて。たとえば僕のウクレレのネタなんかは、15年ぐらい前に作ったものがあるんですけど、ネタが一人歩きしていって、「俺が作ったんやけどな」みたいな、そういうのもあって(笑)。著作権がないので。みんな知らんとやってて「あれ、俺が作ったって知ってる?」って聞いたら、「え! あれ、兄さんが作ったんですか!?」みたいな。「昔からあるネタやと思ってました」って。そういう意味では、僕は落語界に貢献はしているんです。後世に役立つようなネタを作ってるんですけど、一銭も入ってこない (笑)。何でもそうですけど、料理でも音楽でも、思うに完成ってないと思うんです。よく出る「時うどん」も完成されているようですけど、僕は何かあるんじゃないかとか、台詞は一緒でもここの間をよくしたらいいんじゃないかとか、そういうことを思います。

--そういう創作は、例えばギャグにするのではなく、やっぱり落語に取り入れたい?

僕は落語を初めて見たときにすごいなって思ったのは、顔も名前も知らないような人でもみんな面白かったんです。漫才とかも好きでしたけど、漫才は二人なので味方が常にいてるんですけど、落語家は全部一人で、自分で発信して受け止めなあきませんから、すごいなと思ったんです。それで憧れて入って努力の結果、…顔も名前も知られんようになったってわー!!ってね(笑)。そっちかい! 落語家としては、初めて来るお客さんにもそう思ってほしいのと、落語界とか演目にプラスになるようなことができたら。何人かでアップデートさせる場合もあるんですけど、何かいいふうにしたいなというのがありますね。ほんまに万民が喜べるようになれば、もっと落語会はよくなると僕は思うので、そうしたいというのはあります。エジソンさんなんかも失敗してもいいと、これが失敗と分かったのが成功やと。僕もチャレンジというか、そういのが好きで、みんなやってないようなことをやるのが割合好きというか。そういうのもありまして。僕の演目は常に僕のオリジナルが入ってます、必ず。

--同じネタでも、場所によってちょっと違うこともあるんですか?

思いつけばぽんと入ります。

--どこで聞いても新鮮味があると。

何かが違うという、そういうのはあると思います。ネタを飛ばして忘れてるっていう、そういう違いも楽しんでいただければと思います(笑)。

--では決勝に向けての意気込みをお願いします。

僕は一門の中でも好き勝手にやらせてもらったので、何かいい話があれば師匠も喜んでくれると思うので、この決勝も親孝行じゃないですけど、師匠孝行したいなと。師匠に感謝しているのは、僕は師匠の弟子になってなかったら、ただの明るいニートというか、陽気な引きこもりなんですよ、間違いなく。芸人になりたいけどあかんやろうな、照れ屋やし…とか思って。師匠が僕を落語家にしてくれた。ゼロから1にしてくれたので、後は自分の努力とか工夫で。ゼロに何掛けてもゼロですけど、師匠が僕を1にしてくれたので。恩返しというか、感謝の気持ちは変わらないので。師匠がすごいなと思うのは、師匠は落語と三味線と踊りの名手なんですよ。落語のみならず。よくここまで鍛えたなと。それがすごいと。笑いとかはセンス、思いつきの部分でポンッと入れるところがあるんですけど、芸は積み重ねが大きいので。師匠にはそういうのを学びましたね。男でも惚れ惚れする舞台を見せていただいたというか。ただただ笑いではない、芸の奥深さを教えてもらいましたので、恩返しができたらという思いがあります。




(2016年6月20日更新)


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林家笑丸
はやしや・えみまる●1974年年2月15日生まれ、大阪府交野市出身。1998年4月に林家染丸に入門。

上方落語若手噺家グランプリ2016 決勝

▼6月21日(火) 18:30
天満天神繁昌亭
[出演]
笑福亭たま
林家笑丸
桂雀五郎
桂ちょうば
桂雀太
桂三四郎
笑福亭喬介
露の眞
桂三語
桂あおば

※未就学児童は入場不可。
[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874

※前売券完売

当日券(補助席)情報!

6月21日(火)17時30分より天満天神繁昌亭にて発売!
(数に限りあり)

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