ホーム > インタビュー&レポート > 『上方落語若手噺家グランプリ 2016』 決勝進出者インタビュー:笑福亭たま
--決勝進出おめでとうございます。激戦でしたが、たまさんは通るやろなっていう下馬評でした。
まぁ、それでも勝負は水もんですからね。結局、コンクールは水もんなんですよ。落語好きのための落語をする人間っていうのは、本当はコンクールにはちょっと通りにくいっていうのは僕にはあるんです。落語の力量とコンクールの優勝は一致しないっていうのが僕の理論なんですけどね。コンクールで優勝してなくても、おもしろいやつがいてると。で、僕ができるだけコンクールに出てるのは、それを言うために出てるんです(笑)!
--なるほど。
逆に言うたら、それくらいコンクールは難しいと思ってるんですよ。落語の力量とコンクールで勝つことの力量は一致しないですけど、「コンクールに勝つ」ってむちゃくちゃ難しいんですよ。その不思議な矛盾があって。だから、難しいですけどね。今回はそれで負けてもかめへんって思ったらあかんねんけど。
--でも、たまさんの受賞歴は華々しいですよね?
コンクールは落語の腕を証明するもんではないって思ってて、それはコンクールで勝った人間じゃないと言われへんから、それを証明するために出ています。でも、負けるかもわからんけどね。
--それを、身をもって証明している?
逆に言うたら、僕はノウハウをわかり、傾向と対策をわかって、戦略の下にやってるんです。コンクールは心優しき、落語好きチームに不利なんですよ。普段やってる落語のやり方がコンクール向きなやつっていてるんですよ。そういう人たちは僕らの落語のやり方とちょっと違うんですわ。ほんなら、僕ら落語好きチームからもそういう賞を取っとかないと、落語好きチームが負けた気がするじゃないですか。だから、傾向と対策だけで賞を取ってるわけですよ。実は、賞を取っている時の演目じゃない時の方に僕のおもしろみが本当はあるんだと思います。
--賞には笑いが必要ですか?
ここが難しい。笑いだけじゃないんです。笑いじゃないっていう落語家もまたコンクールで勝ったりするんですよね。笑いだけじゃないっていう落語家が勝つのが難しいんですよ。でも笑いは大前提ですよね。
--予選では8分の制限時間の中で長編の「地獄八景」をされましたね?
「地獄八景」を知ってる人は、僕のこの間の8分のを聞いた時に、なんか全部聞いた感はあったと思いますよ(笑)
--あえて、このネタで挑もうって思ったのは?
コンクールやからです(笑)。でも、予選で新作の「憧れの人間国宝」をやって、本選が「地獄八景」の方がよかったかなってちょっと反省したりはしました。
--みんないろいろ戦略を考えているのかな?
コンクールはたくさん笑わすという大会です。もしくは、たくさん快感を与える会だと思います。でも、考えてもできる時とできない時があったり、その人の持ち球があったり。そう思うと、運とかもあるんじゃないですかね。落語会は集客とリンクするんですよね。集客というのは読後感のいい笑いなんだと思いますけど、コンクールはその瞬間笑ったっていうのが大事になってくるんです。
--それほど落語を見ない審査員の方だと、たくさんの人がやってる鉄板のマクラをとても評価されたりしますね。
その力量がまた別で、みんなが鉄板で使ってる焼き直しの中で、たとえばね、三扇姉さんが「桂三扇と申しまして、本名瀧川クリステルと申します」って言うたら、これよりおもしろい本名ないんですよ。誰が言うより一番うけるんですよ。つまり、そのマクラをもってして1位を叩き出せるっていう腕、センス、チョイスっていう評価にまた、変わるわけです。「あんなん、誰でもやってる」という単純明快とはちょっと違う奥深さが落語にはあるんですよね。面白い芸能やなと思います。
--ほんとうですね!
落語っていうのは乙な芸なんでしょうね。甲乙でいうたら、甲ではなく、乙な芸であると。乙な芸の甲の人がすごい。乙の中の乙もありですけどね。乙の中の甲が桂春団治だったりするんじゃないかな。すごいんだからね、落語の世界の中で。米朝師匠は甲の世界を見せるっていうことなんだと思うんですよね。甲の人たちに甲の世界を。たとえば文枝師匠や鶴瓶師匠は甲の人たちなんでしょうね。乙のグループじゃないわけで。
--みなさんに意気込みを伺っています。
意気込みは、まぁ、そうですね。優勝を目指します、です。もういっぺん8分やったら勝つんやけどね。
--決勝は12分ですよ。
長いわ。最近はどんどん短こなってるし。でも、この噺家グランプリはほかのコンクールと違うんですよ。違います。予選に出て分かった! 今までのコンクールじゃないねん。
--どう違うんですか?
えっとね。普通のコンクールは後ろに行けば行くだけ得なんですよ。ところが、なぜかわからないですが、若手噺家グランプリは前半と中入り後が得なんですよ。不思議でしょ? びっくりでしょ? ただ決勝の空気を僕は知らないのですが…。
--いま入門18年ですが、20年に向けての計画はありますか?
僕は入門して3年目に自分で落語会をやりだした時から、やってることは一緒なんです。つまり落語を見てもうて、また見たいと思ってもらいたいと。また、自分の落語会に来て、知らん落語、見たことがない落語家さんでこんな面白い人がいてたんやと思ってもらいたい。また自分もよそへ行っておもしろいって思われたいというために落語会をしてると。昔、20人くらいの落語会から始めて、ちょっとずつ人数を増やして、そのやり口が巨大になっていって、今は繁昌亭で毎月150人くらい入れてて。名古屋と東京でもそのやり口がおっきなって、今は東京も150人くらいかな。名古屋も150人くらいは入ってるんですかね。どれも150人なんですけど、僕の落語会はほかよりもものすごく、小さい落語会と同じ空気があるはずなんです。20人でやってた時の空気がある落語会なんですよ。
--お客さんがみんな一体感がありますよね。
そうなんです! それは、そうしてるんですよ(笑)。つまり、また見たいと思った人が母集団に加わって、それがまた母集団になっていってるから、牛丼屋の継ぎ足し継ぎ足しじゃないけど、それでお客さんが増えていったので。一応、初心者から好事家までみたいなことになってるんですよね、ずっと。
--年季を重ねるにつれてお客さんも年季を重ねているみたいな感じになっていますよね?
そういうことです。だから20年に向けて、いずれその空気で1000人に行こうと思ってるんです。
--東京でもたくさん会をされていますよね?
しょっちゅう会をやってるから、お客さんが来てくれるんです。めったにやらんと結局知り合いだけになる。僕の中では商売が下手くそで、お金儲けの採算としてはペケかもしれないけど、集客という意味ではわりと成功している。ちっちゃい世界ですよ。ちっちゃい世界ですが、集客という意味では頑張ってる落語家だと思います。まだまだ上はありますけど。
--落語の路線としたら今みたいな感じで?
そうです。砂を集めるようなもんです(笑)。めっちゃくちゃうけて、そのあと、お客さんが自分の会に来てくれる確率は1人か2人くらいです。集客の要件はチラシをまくことと、めちゃくちゃ受けるというこの2つと落語会が来やすい、この条件が揃った時だけお客さんが来る。そういうのを18年やって、今です。だから砂を集めるようなものをして、いずれ1000人の落語会を。ちっちゃい雰囲気の落語会で1000人をと思っています。師匠の福笑の落語会はそういう感じありますもんね。
--師匠の影響が大きいですね。
やっぱり僕が師匠からもらった快感をお客さんに与えたいっていうところが目標なんでしょうね。で、そのためにはなんか落語会作りみたいなのがいるんかなと思ってやってるのかな。だからプロデュース業が多いのかもしれません。
--落語会のプロデュースで手を取られてたいへんじゃないですか?
それは好きやから。趣味やからね。落語って面白いねって思わす企画。楽しいじゃないですか?
--師匠からもらった快感というのは、大学時代に最初に師匠を見た時ですか?
こんなにおもろいのんがあるのんかと。テレビとか、今まで味わってない落語っていうか、ライブの楽しさちゃいますかね。
--ネームバリューもあるし、東西で会を続けるということもすごいことです。
結局、また見たい。それなんですよ。「うちの師匠からもうたものをお客さんに伝えたい」がゴールなんでしょうね、落語家としての。命題というか、僕の中でやりたいことはずっと変わらなくて。
--一生のものですか?
そうそう、それが終わりのない旅というかね。それをお客さんに限りなく近い状況で、与えられる工夫をしている。そういうのはプロデュース業にもつながるし、ちっちゃい雰囲気で1000人というのはわかりやすい感じなんかなと思ったりします。
--このコンクールのメンバーについてはどうですか?
こういうコンクールとかはスター候補生が集まるんですよ、わりとね。僕だけ自営業者の成功した人。みんながフランチャイズ思考で店舗拡大してるのに、自分が店長の店で、でかなってるだけなんですよ。僕はお客さんとか世間から見たらスター候補生かのように見えるねんけど、ただの自営業者が混じってるんですよ(笑) 首尾一貫して自営業。だから、ものすごい1人で頑張る。事業拡大してる個人事業主と、スター候補生です。
--決勝に向けてはいかがですか?
ほかのメンバーは僕が一番先輩だから、僕の手の内を知ってるけど、僕は後輩の手の内を知らない。そこは不安要素ですよね。でも、決勝がどうなるかわかりません。勝つ気で行くけど、負けることもおもしろいんじゃないかと思ってるんですよ(笑) それも乙だって思ってるし。実力やったら一番上やと僕は思ってるんですけど、コンクールはそんなもんじゃないと(笑)。だからコンクールは難しい!
--運もありますよね?
運だけじゃない。勝負というものはわからないもんなんですよ。運もあるんですけど、突然、前日死ぬとかもあるでしょ? 何が起きるかわからないですよね? それが勝負。剣道10段と剣道初段なんやけど、向こうがピストル持っとって、剣道10段が撃たれて負ける時だってあるわけですよね?
--同じ戦い方じゃなかったということ?
勝負の世界の厳しさというのがコンクールにはあるんやと思います。だから、おもしろいんですよ。今の方が「負けたら恰好悪い」がなくて、負けてもかまへんから挑むことに意義がある。
--挑むことにですか?
手塚治虫が「俺は選ばれる側や」と言うて、審査員引き受けへんかったと。東京の三遊亭円丈師匠が「ザブトンカップ」っていうコンクールを主催して、自分も出場して負けたんですけど(笑)、なんかその意識ですかね。それも一興やと。そのおもしろさですね。
取材・文:日高美恵
(2016年6月16日更新)
▼6月21日(火) 18:30
天満天神繁昌亭
[出演]
笑福亭たま
林家笑丸
桂雀五郎
桂ちょうば
桂雀太
桂三四郎
笑福亭喬介
露の眞
桂三語
桂あおば
※未就学児童は入場不可。
[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874
※前売券完売
<第一夜>
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<第二夜>
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<第三夜>
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<第四夜>
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