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「『KICKS』は自分の裸というより内臓」
怒濤のリリースツアーアコースティック編と対バンツアーを振り返り
東名阪バンドツアー開幕を前に全てを語るここだけの緊急対談!
NakamuraEmi×カワムラヒロシインタビュー

 シンガーソングライターNakamuraEmiの最新アルバム『KICKS』を引っ提げた、『NakamuraEmi KICKS Release Tour 2024』は、アコースティック編の24公演を終え、残すは10月11日(金)大阪・味園 ユニバース、12日(土)愛知・ボトムライン、27日(日)東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)のバンド編3公演を残すのみ。その合間には『NakamuraEmi「対バンツアー2024 背負い投げ」』として、竹原ピストル、Furui Riho、C&Kとの東名阪ガチンコ対バンも行うなど、『KICKS』同様変化と挑戦を恐れぬファイティングスタイルでこの夏を駆け抜けたNakamuraEmi。前回のインタビューではそんな重要作の制作過程をディープに語ってくれた彼女だが、今回はギタリスト/プロデューサーであり共同制作者のカワムラヒロシを迎えたスペシャル対談が実現。転機の『KICKS』を形成するうえで欠かせない視座を持ち、まだ何者でもなかったNakamuraEmiと長年二人三脚でここまで歩んできた彼は、いったい何を考え、何を壊して、何を生み出したのか? 彼女のたっての希望で実現した、NakamuraEmi×カワムラヒロシインタビュー。怒濤のリリースツアーアコースティック編と対バンツアーを振り返り、バンドツアー開幕を前に覚悟を決めた言葉の数々を、しかと目に焼き付けてライブハウスへと足を運んでほしい。きっとそこには、ちょっぴりたくましくなったNakamuraEmiがあなたを待っているから――。



お客さんに"どうですか?"と提案するんじゃなくて巻き込むために


――最新アルバム『KICKS』のサウンドが大躍進した要となったカワムラさん側からの視点でも話を聞きたいなということで、前回に続いての『KICKS』おかわりインタビューが実現しました(笑)。せっかくなので、すでに終了したリリースツアーのアコースティック編や東名阪対バンツアーを振り返って、10月11日(金)大阪・味園 ユニバースから始まる『KICKS』の東名阪バンドツアーにつなげようと。



NakamuraEmi「こんなに全国を回るアコースティックツアーは久しぶりだったんですけど、やっぱり40歳を超えてのタイム感や移動手段とか...これから長く音楽を続けていくためにも、体力作りや体のメンテナンスをこまめにしないといけないなと、めちゃくちゃ勉強になった3カ月間でしたね。ツアーの合間に他のライブにも結構出たおかげで飽きることもなく、ちょこちょこ刺激がありつつ回れたのはすごく良かったなって」

カワムラヒロシ「印象的だったのは、お客さんのだいたい3分の1が初めてNakamuraEmiのライブに来た人で。そんなことは今までになかったから、それがまずうれしかったし、ツアーの途中からライブのスタイルも変化させていって、当日の予想される雰囲気からスタンディングにした方が良さそうな会場はそうしたし、ホール的な使い方をした方がいいところでは椅子を並べてみたり...改めて、"ライブ会場ってこういう使い方もできるのか"と気付いて。そこからライブも全然変わったよね」

NakamuraEmi「前回のツアーはコロナ禍でお客さんもまだ声を出せなかったけど、今回は盛り上がる曲が増えたから、"じゃあ最初の4曲は立ってもらおう"とか、今までやってこなかったことにも挑戦して。お客さんが喜んで歌ってくれる姿に、もっともっとやれることがあるんだなと、ライブの可能性を感じさせてもらったツアーでした」

――本数も多くて思い付いたことを翌日には試せたり、トライアンドエラーはしやすいですよね。アコースティックツアーを通して、お互いの変化を感じたところはありました?



NakamuraEmi「まずカワムラさんの攻めの姿勢が今までで一番強いかなと感じました。今回はMPCや同期も含めて、一本のライブの中でお客さんに"どうですか?"と提案するんじゃなくて巻き込むために、いろんなアイデアを出し続けてくれたし、もはやただのアコースティックライブとは違う、"2人でバンド"というスタンスでしたね」

カワムラヒロシ「これまでは逆にギター一本でやることにこだわってたから」

――ツアーが2形態あるから、むしろバンド編とのメリハリや差別化のためにもその方がいいというのはありますもんね。それにはアルバム自体の構造や関わり方への変化もあると思うんですけど、NakamuraEmiはソロアーティストであってユニットじゃない。でも、プロデューサー/ギタリストという一歩引いた立場から共同制作者になったことで、ライブにおいてどこまで前に出るのかという線引きも、深層心理では変化があるのかなと。

カワムラヒロシ「確かにそれはあるかも。言ったら、俺は裏方じゃないですか。とは言え、前に出た方がいい瞬間がライブにはあったりする。今回みたいに曲作りにまで関わると、"今、前に行っていいのかな?"と何となく遠慮していたのが、"ここは行った方がいいな"と素直に思えてやりやすくなったのはあるんですよね。もちろん俯瞰でEmiちゃんをどう輝かせるのかは考えてるけど、曲への愛着がこれまでと違うからそうなったのかもしれないですね」


あの日がなかったら、このツアーのこの振り幅は作れなかった


――2人編成のアコースティックライブを見て思ったんですが、『Don't』('18)や『雨のように泣いてやれ』('19)のようにギターがおいしい曲のメインリフを弾かず、何でMPCや同期で鳴らすのか。ギタリストにも関わらず、その辺はどういう観点で振り分けてるのかなと思って。

カワムラヒロシ「アハハ!(笑) それこそ前だったら絶対にギターで弾いてたけど、あの曲たちは今はライブの前半にやることが多いし、だとするとビートを感じながらその上で歌を聴きたいなと思って。もちろんギター一本の良さもそれが好きな人もいるけど、やっぱりどうしたってやれることに限りがあるんですよ。その枠を一回取り払って...あとはまぁギターはめちゃくちゃいいテイクのデータもあるし(笑)」

――なるほど、そういうことね!(笑)

カワムラヒロシ「要はライブでそのギターを同期で流すことができる。それに加えてMPCはその場で手で叩くから、歌に沿ってリズムをいい感じにためたり走ったり、CDでは絶対にできないことができる。同期だけでやると生なのは歌だけになるから、MPCと組み合わせた方がお客さんもいつもと違った感じで聴けるのかなと」

――ギタリストとしての欲求よりも、ライブの価値に向かってるというか...さっき"2人でバンド"という話も出ましたけど、MPCも同期も駆使するから単純にイメージするアコースティックライブではもはやなくて。そのうえ、『KICKS』で音のグレードが上がっちゃったもんだから、ふいに昔の音源を聴いたら"もっとビートが欲しいな"とちょっと物足りなくなるぐらい(笑)。

カワムラヒロシ「そうそう!(笑) そうなんですよね」

――音源の変化がライブの変化にもなって、カワムラさんの変化がNakamuraEmiの変化にもなって連動してる。ライブの出音がいいのはやはりPAの力ですかね?

カワムラヒロシ「会場によってのチューニングも大事だし、そう言ってもらえるのはやっぱりPAのケニーが...」

NakamuraEmi「リハーサルから全ての音のバランスを細かく決めてくれたから」

――MPCや同期ありきの今回の編成が取って付けた感じにならないのは、その辺の総合力もあるんでしょうね。これはこれで、"だったらバンドで見たいわ"とは思わせない音圧と音質がある。

カワムラヒロシ「ケニーが喜ぶね。バンドはまた別の表現になるし、2人での表現は今はこれみたいな感じで」



NakamuraEmi「リズムが効いたビートがあるからこそ、ギターと歌のみでやる『白昼夢』(M-5)とかも生きるし、今回のアコースティックツアーには、普段はヒップホップのライブを見に行ってるようなお客さんが各地にちょこちょこいてくれて。そういう人たちが入ってきてくれたのは、本当に『KICKS』のおかげだなと感じてます」

カワムラヒロシ「それで言うと、ヒップホップのいわゆる1MC+1DJ的な見え方になる局面が今回のアコースティックツアーの中でもあったらいいなと思って。MPCとかを使うとステージ上でもそういう配置に見えるし」

――確かに、アコースティックギターを持って横並びに座って、みたいになるといかにもシンガーソングライターのライブになりますけど、MPCとかラップトップを使うと絵面的にもヒップホップ感が出ますね。

カワムラヒロシ「そういう見え方で音の感じ方もやっぱり変わってくるだろうし」

NakamuraEmi「この編成になれたのは、それこそ『梅田の夜』(M-2)(='23年8月19日、大阪・梅田 Shangri-La『COCALERO PRESENTS shake』)のおかげなんですけど、あのライブからカワムラさんがMPCを引っ張り出してきて...あの日がなかったら、このツアーのこの振り幅は作れなかったです」

――そう考えると、曲単体のみならずアルバム全体の方向性にも関わる日だったと。

NakamuraEmi「そうです、本当に運命の日だった!」


Emiちゃんをアレンジでビビらせたかった


――前回のインタビューでは、"NakamuraEmiの音楽におけるカワムラさんのカラーは確固たるものがあるからこそ、カワムラさんと一緒にやる限りは良くも悪くもその芸風になりかねない。でも、『KICKS』ではむしろ、カワムラさんが切り開いてくれた新たな扉が、サウンド面で大きくNakamuraEmiを前進させた。しかもこれって一朝一夕に身につくものではないし、モノマネに聴こえたらダサくなる。そのクオリティを引き上げる作業は、相当大変だったんじゃないのかなと"という話をしましたけど、カワムラさんの気持ちは実際どうだったのかなと思って。

カワムラヒロシ「正直、作ってる最中は取りつかれててよく覚えてないんですよ(笑)。振り返ると、一本一本のライブを一緒に回ってるから、それこそ『梅田の夜』で経験した周りのアーティストのビート感を思い出しながら曲ごとに作っていったんですけど、意識したのは"攻め感"を出したいということで」

――ただね、『KICKS』を作るためには、本職のギターとは違うスキルと知識が必要なわけじゃないですか。MPCが叩けないなら得意なプレイヤーを呼んでもいいし、ジャンルやイメージを変えたいなら違うアレンジャーに頼むのもいい。でも、チームを刷新してもカワムラさんだけは続投するということは、その座組でも成果を出せますと証明しなきゃいけない。そういう意識はあったのか、それともこっちのそんな心配をよそにただただ夢中だったのか(笑)。

NakamuraEmi「でも、まさにそんな話はあったよね。カワムラさんがプロデューサーとしていて、アレンジャーはいろんな人とやるのはどうですかって。もちろんそれも一つのアイデアなんだけど、何だかピンとこなくて。実現したらそれはそれで素晴らしいものになるだろうけど」

――"今話題の誰々が参加!"みたいに売り文句にもなりますからね。

NakamuraEmi「だけど、コロナ禍も経て、お互いにライブの内容だったり、その集客だったり、いろんなことを乗り越えてきたから、全部を含めてもう一回ちゃんと試したかったし、何だか悔しかったし、ここでまたギャフンと言わせられるような(笑)、デビュー盤を超えられるような、みんなが納得できる音を作りたかった。言葉にはしてないけどうちらの中ではそういう気持ちがメラメラとあって。だからこそ、自分たちでとにかく切り開いていこうと、このアルバムまで突き進んできた。この3年間はバンドメンバーを固定せず、いろんな人の音を知ったのはカワムラさんの中に栄養分としてすごく入っていて。しかもめちゃくちゃ勉強熱心なんで、エンジニアさんとかにどんどん質問を重ねていった結果、カワムラさんが高校生からずっと音楽を重ねてきた集大成が、"ちょっとまねしてみました"じゃないあの音になったのかなって、私は勝手に思ってます」

カワムラヒロシ「ずっと一緒にライブをやってきたから、Emiちゃんの歌をこんな感じで鳴らしたいというイメージはハッキリとあって。今まではバンドメンバーが弾いた方が絶対にいいと思ってお願いしてたけど、『KICKS』の曲は頭の中で音が鳴ってる人が弾いた方がイメージに近くなると思って。そのために環境も整えて、それこそ高校時代にバンドで使ってたベースとかピアノも自分で弾いたり。あと、それぞれ素晴らしい個性を持ったミュージシャンに対して、俺の頭の中で鳴ってる音をそのまま弾いてくださいとは言いにくい。頼むならその人を生かした音楽を作りたいから、伊澤一葉(東京事変/the HIATUS/他)さんが生で弾いた方がいい場合はそうしたし」

――プレッシャーからくる悲壮感みたいなものは、思ったよりなかったんですね。

カワムラヒロシ「どっちかと言うと、Emiちゃんがここまで信頼してくれてるのに、"俺がやらなきゃダメでしょ!" みたいな...だからもう取りつかれてたんです、音の世界に(笑)。ビートの作り方とか、やり方が分からないことがたくさんあって、悩む暇があったらとにかく調べて、実践して...みたいなことを影でこっそりやりまくってました。Emiちゃんをアレンジでビビらせたかったから。それを考えてたらプレッシャーを感じる暇がなかったんですよね」


自分の欲とか立場みたいな細かいことは置いといて
やらなきゃカッコ悪いよなと思った


――カワムラさんのその一心不乱さに、Emiさんもやるしかないと思わされたでしょうね。

NakamuraEmi「そもそもアレンジャーを変える前に、まだやってない可能性が一つあって。自分で曲を作ってきたからこそ、そこを人に預けることがなかった。でも今回は、どこまで一人でやれるかみたいなシンガーソングライターの呪縛をほどいて、歌詞の元ネタまで見せることができた。それにはコロナ禍が大きくて、とにかく2人で反省会の嵐だったし、こんなことまで話したくないというところまで全部話してきたから(笑)。そこでお互いの考えを共有し続けたので曲作りも預けることができたし、歌詞も一緒に...ずっと"ここだけは...!"と守ってきた扉を開けられたのも、とことん話し合ってきたからで」

カワムラヒロシ「普通はやっぱり一線があって、シンガーソングライターなら日頃思ったことを書きためてるノートとかそういうものが、みんなあるじゃないですか。それを俺に見せるんですよ。それって裸を俺に見せるようなことだから。そんなことをされたら裏切れないし、さっき話した自分の欲とか立場みたいな細かいことは置いといて、やらなきゃカッコ悪いよなと思ったのはすごくありました」

――アコースティックツアーを通して表現することで、改めて『KICKS』の存在感を感じたんじゃないですか?

NakamuraEmi「いろんな人と曲を作ったこと、ライブではまず2人編成でいろんなことを試したこと、間に対バンツアーを入れて自分たちに刺激を注入すること...今年は『KICKS』のおかげで今までやってこなかったことをいっぱいやらせてもらってるんで、とんでもなく濃い一年だなと思って」

――ちなみにアコースティックツアーの各地で印象的だったとか、思い入れのある箇所はあります?



NakamuraEmi「初めて行った島根とか秋田は想像以上に盛り上がって、お客さんも楽しそうにしてくれて。初めての会場に行くこと自体がめちゃくちゃ久しぶりだったんですけど、そういう場所でも自分たちの音楽をこんなに大事にしてくれる人たちがいるんだと思って...。"そこまで全国を細かく回る意味あるの?"と言う人もいるけど、あなたの街のそばに行くことで"ここまで来てくれてありがとう"、"Emiちゃんをいろんな人に紹介できてうれしい"という言葉をたくさんいただけたことはすごく大きかった。あと、京都には7月の七夕ライブで支えてくれたバンドメンバーがチケットを買って見に来てくれた上に、演奏までしてくれたことが私のハイライトでした」

カワムラヒロシ「俺は熊本で、お客さんも最初からノリノリだったんですけど、エアコンの風がEmiちゃんの方に結構当たってて、2曲目でどんどん声が出なくなっちゃったんですよ。俺も"多分これは声が出なくなるな..."って何となく分かって、しかもその日は後々シークレットゲストでMASSAN×BASHIRYも出る日だったから、これはもう一回楽屋に引っ込んで喉をケアするしかないと。Emiちゃんがいったんはけるときに"カワムラさんよろしく!"みたいなアイコンタクトをくれたから、俺はもう必死にトークでつなげたんですよ! ただ、Emiちゃん的には"いやいや、そこはギター弾けよ!"みたいな感じだったらしいんですけど(笑)。そのときに俺は"NakamuraEmiとやるときはギターにこだわってないんだな..."と改めて認識したという。あれは焦ったね」

――しかも、あんたトークよりギターの方がうまいやろと(笑)。何で難しい方をやるのと。

NakamuraEmi「"オシャレなやつお願いします!"と言ってステージを出て行ったのに、"いや~九州ではサーフィンに行ったんですけど..."とか謎の小話をし出して(笑)。エアコンの風をガンって吸い込んだ瞬間が自分でも分かったんで、裏でオリーブオイルを喉に入れたら治るかもと思っていたら、会場が料理も出せるカフェだったんですごくおいしいオリーブオイルをいただいて...それから5分ぐらいして戻ったら」

カワムラヒロシ「"ありがとうございました~!"って(笑)」

NakamuraEmi「最終的に結構MCで盛り上げてくれて、お客さんもめっちゃ喜んでくれたんで良かったです(笑)」


やられた状態でもステージに出る、それでもやり切る


――そんなアコースティックツアーを経て、対バンツアーは初日の東京公演から憧れのラスボス=竹原ピストルが出てくるという。ようやく覚悟が決まっての対バンだったと思いますけど、このツアーの課題として、後から出てくるホストのNakamuraEmiが自分のライブの前に感動して泣いちゃうという(笑)。

NakamuraEmi「本当にそうでしたね(笑)。泣かないと決めていたけど、"この曲を聴くと絶対にダメなんだよな"という曲をほとんどやってくれたんで...。私が竹原さんへの思い入れがあるのを知ってくれてるからこそ、掛けてくれる一つ一つの言葉を選んでここに持ってきてくれたのが分かって...でも、その全てが自分のライブに注入されました。そうやって、前にすごい人が出た後に自分が歌わなきゃいけない対バンが怖かったのでずっと避けてきたけど、今は自分を成長させるべき時期だと覚悟が決まったので。やられた状態でもステージに出る、それでもやり切ることに挑戦できた3日間だったと思います」

カワムラヒロシ「ピストルさんもFurui RihoちゃんもC&Kさんも全然タイプが違うじゃないですか。フェスで一緒になって一方的に見るだけじゃなくて、やっぱり同じ空気を吸って一緒にライブをやらないと分からないことがある。言ったら対バンツアーは、Emiちゃんがコンフォートゾーンを抜け出すために企画したんで。『KICKS』がそういうアルバムだったからこそ対バンツアーを間に挟んだけど、めちゃくちゃ消費カロリーが高かったね」

NakamuraEmi「アコースティックツアーからそのままバンドツアーをやってたらと思うと...ちょっとゾッとしますね。すごい人たちから背負い投げされたことで、自分たちにはもっとやるべきことがあると知ったから」

カワムラヒロシ「対バンツアーを経て、頭の中のライブのアレンジが全然変わりましたもん」

NakamuraEmi「年齢を重ねていくと、どんどん新しいアーティストが出てくる中でフェスに出演する難しさを感じるからこそ、すごい人たちを見るだけじゃなくて、一緒にステージに立つ。表現を続けていくことにおいて、ぶっ飛ばされる、負ける機会を作っていくことはめちゃくちゃ大事だなと思いました」

カワムラヒロシ「めちゃ悔しいしね、実際」

NakamuraEmi「自分のことだけを見に来てくれたお客さんに囲まれた20カ所を終えた後だったから、なおさら」

――本当にやって良かったですね。今後は対バンツアーを20本ぐらいやってから東名阪バンドワンマンとかもアリですよね。めきめき成長しそう。



NakamuraEmi「負け続けたけど、これは続けていきたいと思いました。それも何もかも、本当に『梅田の夜』がデカかったんですよ。"KZ & SPI-K from 梅田サイファー, RowHoo, チプルソ"という全く会ったことがないアーティストたちと、普段からヒップホップを聴いているお客さんたちがいるところに、シーンってなることを覚悟で飛び込んだからこそ、ジャンル関係なく真剣に聴いてくれて、『スケボーマン』('16)で揺れながらグサッと刺さってくれてるあの感じ、イベントが終わった後にアーティストのみんなからもらった言葉とか、一つ一つのことを鮮明に覚えていて...。知らない人たちと関わるのは大事だなと思ったし、演歌とか歌謡曲で育った私だけど、ヒップホップのシーンで戦ってる皆さんに挑戦してみたいと思えたので」

――そのオファーを受けた時点で『KICKS』は始まってたんでしょうね。

NakamuraEmi「東海地区はカワムラさんが育ったのもあって昔から通ってた場所だけど、大阪はもっともっと通って信頼関係を深めたいと思っていたからこそ、ヒップホップの現場に呼んでもらえたのはチャンスだったし、これを機にどんどん突っ込んでいかなきゃと思って(笑)。あの日はKZくんがブッキングしてくれたんですけど、自分の言葉を持っていると信頼してあそこに入れてくれたんで、本当に感謝ですね」

――対バンツアー愛知公演のC&Kのライブを見たときも、ノリも方向性も違うし、めちゃめちゃ盛り上がったこの後にNakamuraEmiはどうすればいいんだと思ったけど(笑)、ちゃんと自分の歌を歌えば伝わるんだなと思って。やっぱり本気かどうかが大事だなって。

NakamuraEmi「前の方にいた私たちのお客さんも最初は、"C&Kってどんな感じなんだろう?"という顔をしながら見てたんです。でも、その人たちのことをC&Kも絶対に分かってて、ちょっとずつちょっとずつ距離を縮めて、最後にワーっと盛り上がったのは=C&Kが勝った瞬間で。自分たちもいつも、"このお客さんを最後には持っていけるのか?"と考えながらライブをしてるからこそ、レオタード姿のC&Kの背中を見て超カッコいいなと思いました(笑)」

――40を過ぎたおっさんのレオタード姿を見て(笑)。マジだからやっぱり人の心が動くと。

NakamuraEmi「本気ってそういうことですよね」

――こういう話を聞いてると、バンドツアーは絶対に良くなるなと思っちゃいますね。

NakamuraEmi「今はやるしかないモードだし、バンドメンバーには憧れの先輩ミュージシャンもいるから、それこそどれだけこの人たちを本気にさせられるのかが肝だなと。デビューしてからいっぱいアルバムを出させてもらったけど、『KICKS』は自分の裸というより内臓を見せた気がする。アコースティックツアーと対バンツアーでもらった栄養を全部バンドツアーに出して、みんなの内臓に入っていけるようなライブができるように頑張ります」

カワムラヒロシ「気合いが入りますね。3公演とも内容の違うライブをやろうとしているし、今回は懸ける思いも俺らの中で全然違うから、それを楽しみにライブに来てほしいなという感じですね」

――大阪、名古屋はリクエストライブ、ファイナルの東京はお祭りなので何かしらの誰かしらにも期待しつつ(笑)。ツアーが終わった後にドッと疲れるでしょうけど、次の創作意欲に大いにつながりそうですね。

カワムラヒロシ「なりそう感がすごいです」

NakamuraEmi「今すでにめちゃくちゃしてます、うん」

Text by 奥"ボウイ"昌史




ライター奥"ボウイ"昌史さんからのオススメ!

「つい最近、"4年ぶりのインタビューですよ"と話したのに、今回は3カ月ぶりって極端過ぎでしょ(笑)。普通は一作品につき一回しかインタビューはしないもんですが、NakamuraEmiの"カワムラさんとも話してほしい!"という熱意が実現させた、ここだけの『KICKS』おかわりインタビュー。シンガーソングライターって基本的には声、歌詞、メロディの3つが肝ですけど、今のNakamuraEmiを語るうえではサウンドの要素がすごく大きい。だからこそ、カワムラさんの動きが大事になってくる。ギタリスト/プロデューサーであり共同制作者という立場からの発言はとっても興味深いと同時に、どのアーティストのそれよりも近くて温かいカワムラさんの目線に、"やっぱりこの2人でNakamuraEmiなんだな"と思わされました。前回のインタビューでは結構意地悪な質問というかちょっとチクッとする、要は言いにくいことを言ったんです。取材が始まって2問目に話すような内容じゃないのに、流れですぐその話になって(笑)。何ならその場の空気によっては言わないでおこうと思っていたことだった。でも、『KICKS』に関しては、これを言えるかどうかだなとも内心思っていたんです。今回はカワムラさんとその答え合わせができて、そしてそれは予想した答えとは違ったけど、いまだに音楽少年のように無邪気に話す彼の姿に、妙に納得したのでした。『KICKS』にまつわる2本のインタビューを読めば、もっとNakamuraEmiのことが分かるし、これから始まるバンドツアーで2人に会いたくなるはずです。僕はもうそうなってます(笑)。ぜひ会場でお会いしましょう」

(2024年10月 7日更新)


Check

Release

最高傑作を自負する約2年10か月ぶり
メジャー7thアルバム!


Album
『KICKS』
発売中 3500円
日本コロムビア
COCP-42258

<収録曲>
01. 火をつけろ
02. 梅田の夜
03. 祭(feat. Mummy-D)
04. 晴るく
05. 白昼夢
06. 雪模様(feat. さらさ & 伊澤一葉)
07. 一目惚れ
08. Hello Hello(feat. XinU)
  –NakamuraEmi & MASSAN×BASHIRY
09. 究極の休日
10. 一円なり

 
LP
『KICKS』
発売中 6600円
日本コロムビア
COJA-9509-10

<SIDE A収録曲>
01. 火をつけろ
02. 梅田の夜
03. 祭(feat. Mummy-D)

<SIDE B収録曲>
04. 晴るく
05. 白昼夢
06. 雪模様(feat. さらさ & 伊澤一葉)

<SIDE C収録曲>
07. 一目惚れ
08. Hello Hello(feat. XinU)
  –NakamuraEmi & MASSAN×BASHIRY

<SIDE D収録曲>
09. 究極の休日
10. 一円なり

Profile

ナカムラエミ…’82年生まれ、神奈川県厚木市出身。さまざまな職種を経験する中で、いろいろなジャンルの音楽に出会い、歌とフロウの間を行き来する独特なスタイルを確立。小柄な体からは想像できないほどパワフルに吐き出されるリリックとメロディは心の奥底に突き刺さる。’16年にアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』でメジャーデビュー。収録曲『YAMABIKO』が全国のCSやFM/AMラジオ52局でパワープレイを獲得。その後も、『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』(’17)、『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』(’18)、『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』(’19)、『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』(’20)、『Momi』(’21)とコンスタントにアルバムをリリース。’22年3月には集英社HAPPY PLUSイメージソング『一目惚れ』、9月には自身初コラボとなる藤原さくらとのマッシュアップソング『The Moon × 星なんて言わず』を配信。’23年7月には『究極の休日』、11月には『白昼夢』、’24年3月には『晴るく』を配信&8cmシングルでリリース。5月29日には7thアルバム『KICKS』をリリース。現在は約2年6カ月ぶりとなる全27公演の全国ツアー『NakamuraEmi「KICKS Release Tour 2024」』を開催中。

NakamuraEmi オフィシャルサイト
https://www.office-augusta.com/nakamuraemi/

 
カワムラヒロシ…’79年生まれ、岐阜県出身。地元にて学習塾、予備校講師をしながら音楽活動を開始。地元のライブハウスでジャズギタリスト小沼ようすけの演奏に衝撃を受け弟子入りを志願。同氏のアルバム『Beautiful day』(’07)の全国47都道府県ソロギターツアーに同行、ステージでの師弟セッションで多くを学び、’08年に上京。以降はファンク、ロック、ジャズ、R&B、ヒップホップ等から影響を受けたジャンルレスなプレイスタイルで、ギタリストとして多くのライブサポートやレコーディングに参加。シンガーソングライターのNakamuraEmiをはじめ、さまざまなアーティストのサウンドプロデュースも手掛ける。趣味はサーフィンとスノーボード。

カワムラヒロシ オフィシャルサイト
https://hiroshik.jimdofree.com/

Live

アコースティック&対バンツアーを経て
いよいよ東名阪バンドワンマンへ!

 
『NakamuraEmi KICKS Release Tour 2024
 Acoustic ver.』

【北海道公演】
▼6月8日(土)cube garden
▼6月9日(日)函館ARARA
【神奈川公演】
Thank you, Sold Out!!
▼6月12日(水)THUMBS UP
【埼玉公演】
▼6月13日(木)越谷EASYGOINGS
【静岡公演】
▼6月15日(土)Live House 浜松 窓枠
【兵庫公演】
▼6月16日(日)神戸VARIT.
【熊本公演】
Thank you, Sold Out!!
▼6月22日(土)ぺいあのPLUS'
【鹿児島公演】
▼6月23日(日)鹿児島SRホール
【香川公演】
▼6月29日(土)TOONICE
【高知公演】
▼6月30日(日)高知X-pt.

【長野公演】
▼7月15日(月・祝)INA GRAMHOUSE
【岡山公演】
▼7月20日(土)CRAZYMAMA 2nd Room
【島根公演】
▼7月21日(日)松江canova
【岐阜公演】
Thank you, Sold Out!!
▼7月27日(土)yanagase ants
【京都公演】
▼7月28日(日)磔磔

 【栃木公演】
▼8月1日(木)HEAVEN'S ROCK
Utsunomiya VJ-2
【秋田公演】
▼8月3日(土)Club SWINDLE
【岩手公演】
▼8月4日(日)the five morioka
【宮城公演】
▼8月6日(火)・7日(水)誰も知らない劇場
【新潟公演】
▼8月17日(土)Gioia Mia
【石川公演】
▼8月18日(日)金沢AZ
【広島公演】
▼8月24日(土)Reed
【福岡公演】
▼8月25日(日)DRUM Be-1



『NakamuraEmi
「対バンツアー2024 背負い投げ」』

【東京公演】
▼8月31日(土)渋谷CLUB QUATTRO
[共演]竹原ピストル
【大阪公演】
▼9月7日(土)梅田クラブクアトロ
[共演]Furui Riho
【愛知公演】
▼9月8日(日)名古屋クラブクアトロ
[共演]C&K



『NakamuraEmi KICKS Release Tour 2024
 Band ver.』

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中
※販売期間中は、インターネットのみで販売。
▼10月11日(金)19:00
味園 ユニバース
全自由6000円
GREENS■06(6882)1224
(https://www.greens-corp.co.jp/)
※小学生以上は有料。未就学児のご入場は、同行の保護者の方の範囲内で、周りのお客様のご迷惑にならないようご覧ください。

チケット情報はこちら


【愛知公演】
チケット発売中
※チケットは、インターネットでのみ販売。
▼10月12日(土)18:00
ボトムライン
全自由6000円
ジェイルハウス■052(936)6041
※小学生以上有料。未就学児のご入場は、同行の保護者の方の範囲内で、周りのお客様のご迷惑にならないようご覧ください。会場によっては立見になる可能性がございます。

チケット情報はこちら


【東京公演】
チケット発売中
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。発券は10/20(日)10:00以降となります。
▼10月27日(日)17:00
Zepp Shinjuku(TOKYO)
全自由6000円
ソーゴー東京■03(3405)9999
※未就学児童は入場可。小学生以上はチケット必要。

チケット情報はこちら


Column1

「音楽を20年続けてきて、
 今が一番歌うことが楽しい」
Mummy-D、さらさ、伊澤一葉、
MASSAN×BASHIRY、XinUらが
集った、NakamuraEmiという
人生の交差点『KICKS』
インタビュー('24)

Column2

「本当にいろんな人の顔が浮かぶ
 ベストだなってすごく感じた」
強くなくても、答えがなくても、
人生は続くし、音楽になる
NakamuraEmiの忘れられない
4年間と今を詰め込んだ
『NIPPONNO ONNAWO UTAU
BEST2』インタビュー('20)

Column3

「自分の人生がそのまんま
 音楽になったみたいな感覚」
女の年齢、女の涙、女の友情、
女の覚悟…NakamuraEmiの足跡
を刻んだ『NIPPONNO ONNAWO
UTAU Vol.6』インタビュー('19)

Column4

「相手に合わせず、環境に合わせず
 誰かに合わせたNakamuraEmi
 じゃダメなんだって」
女性にしか、大人にしか
NakamuraEmiにしか書けない歌
『NIPPONNO ONNAWO UTAU
 Vol.5』インタビュー('18)

Column5

「また新しい自分の全てができた」
自分の人生を正解にするのは自分
感謝も使命も刻み付けた
まばゆき『NIPPONNO ONNAWO
UTAU Vol.4』を語る
NakamuraEmiインタビュー('17)