ホーム > インタビュー&レポート > HOLIDAY! RECORDS10周年記念連載 「そっちはどうだい、うまくやってるかい」第5回 ピュアに発信を続けたからこそある10年― 関西の音楽シーン三賢人が語る 「HOLIDAY! RECORDSのここがすごい!」
それぞれの出会いと、裾野を広げてきた10年の活動
まず3人が話したのはそれぞれが「いつHOLIDAY! RECORDSという存在を認識したのか?」ということであった。
キョードー大阪・神戸直人さん
神戸:今年10周年だから、スタートしてまもなくだったころにライブハウスで初めて挨拶しました。入社してから3年ぐらいは特に若手バンドのライブをよく観に行っていたんですが、その会場には大体、出店やお客さんとして秀章さんがいました。僕も若手アーティストを掘っていましたが、話をするうちに「それよりさらに深く掘っている人がいる」と思って。なのでHOLIDAY! RECORDSから良いバンドなどの情報を吸い上げて、ライブを観に行ったりしていました。
ナカムラ:私は2017、18年に会った気がします。当時私は大学生で、音楽好きの友達から、DENIMSやプププランド、愛はズボーンなどを教えてもらったりして。その流れで、それらのバンドがよく出演していたLive House Pangeaに行くことが多かったです。植野さんはそこで出店していて。当時はお金がなかったから、安いCDをよくHOLIDAY! RECORDSで買っていました。後に『桃源郷倶楽部』というイベントをやることになり、ZINEを作ろうとなった時、motion recordsの浦野光広さんとの対談をお願いしたこともありました。
FLAKE RECORDS・DAWAさん
DAWA:僕とか五味(岳久)とかのインタビューも載っている奴だっけ?
ナカムラ:それは『桃源郷倶楽部』のZINEとは違っていて。大学でフリーペーパーを作るみたいな授業があり、そこでDAWAさん、あと奈良のTHROAT RECORDSの店主でありLOSTAGEの五味さん、FM802のDJである土井コマキさんとかにインタビューしたZINEも作っていて。ただその時も植野さんにいろいろと話を聞きました。
DAWA:僕が最初に会ったのはあまり覚えてないけどなんかのイベントだと思う。でも当時から深水(totos)とUSTREAMで配信をやっていたのは知っていたし、And Summer Club、Wallflowerとかうちで扱っているのとかぶっている作品も売っていて、そのバンドを検索したら名前が勝手に出てくるので「あ、この人か」とは思いました。
南堀江にて店舗を構え、今もなお多くのミュージックラバー、ミュージシャンから絶大な支持を受け続けているレコード / CDショップFLAKE RECORDS。そして関西圏のイベントの企画・運営になくてはならない存在であるキョードー大阪とGREENS。そんな関西の音楽シーンで活動する3人から見て、HOLIDAY! RECORDSが音楽シーンに与えた影響は何かを伺った。
GREENS・ナカムラカホさん
ナカムラ:私が2017年に知った時はインディーズバンドは、ほとんどサブスクリプションに音源を出していなかったんです。だから気になった作品を買う時はHOLIDAY! RECORDSでCDを買うしかなくって。あと植野さんは趣味も近い感じだったので、出店している時にオススメとか聞いたらいろいろと教えてくれて、新しいバンドとの出会いが広がりました。
DAWA:あとライブ会場だけでなくHMVとHOLIDAY! RECORDSが手を組んで、一部店舗(※1)で未流通の商品を売っていたのは「裾野を広げているな」と感じました。僕はそういうことができない人間で。手が回らないというか、そのコーナーを任せられるような人に出会っていないので、そういう案件があっても断っています。
神戸:広がりという点では、普段プロダクションとかレーベルとかやりとりが多いんですが、5、6年ぐらい前から紹介してもらったアーティストが「もともとこのバンドを知ったのはHOLIDAY! RECORDSで......」と言われることも何度かあって。
DAWA:たしかに影響力という点では偉大だと思う。まあSNSがなかったらうちもHOLIDAY! RECORDSも潰れていたな。
一同:ははは(笑)。
HOLIDAY! RECORDSは今や、音楽ファンのみならず音楽業界にも影響を与えている。それはmotion records・浦野光広さんとの対談の中で「CDレーベルとか流通からくるインフォメーションの文章に『某ディストロ』という言葉が、ある時期から急に増え始めた」と語られたことからもそれはわかる。今や単なるCDショップとしてだけでなく、今後音楽シーンで活躍しそうな若手インディーズバンドたちを知れるメディアとしても、HOLIDAY! RECORDSは存在するのだ。
打算なく、観たいを形にしていくピュアなイベント
今や音楽好きのみならず、業界内にも影響のあるHOLIDAY! RECORDS。今回はCDショップとしてだけでなく、開催するイベントに関してもお話を聞いた。
ナカムラ:例えばスタートしたころの『COME TOGETHER』って500円とかでやっていたと思うんです。ライブハウスと一緒にやり、お客さんへの負担を安く抑えることで人を集めて、それが『COME TOGETHER MARATHON』みたいに大型のサーキットイベントまで広がっていくのは素晴らしいなと思います。
神戸:あとHOLIDAY! RECORDSはバンドとのつながりがすごいですよね。ネットで紹介して売るだけじゃなくて、ちゃんと現場にもいる。だからコミュニケーションが各アーティストと取れている。そういうこともあり「植野さんのやるイベントだから」と出演するアーティストも多い気がします。だから出演者にファミリー感みたいな、しっかりした色がでている。僕も『YOUNG POP CLUB』というイベントをやっていますが、あのような感じは出せないですね。
ナカムラ:ただ私もイベントの作り手ですが、HOLIDAY! RECORDSのイベントはピュアだなと感じていて。イベントって、商業的なものばかりになっても面白くない。戦略とかなく、純粋に推したいという理由でイベントが存在して、続いているっていうのはすごく良いことだなと思います。
DAWA:確かに、しがらみはあんまないよな。推したいバンドをという点だと『TONE FLAKES』ともまったく違っていて。僕の場合は基本「受け」で。大阪につてのいない東京のバンドの大阪でのライブの相談されたり、または海外のバンドを日本に呼びたいというのが前提にあって、自分のレーベルのバンドとかに出てもらったりしてイベントを開催している。
心斎橋のLive House Pangeaの店長・吉條壽記さんとの対談で植野さんはイベントをやる理由に関して「このバンドとこのバンドが一緒にやっているのを見たい」と語っていた。打算的ではなく「自分の良い」をリスナーに向けて発信していく。その純粋な精神を持って10年活動を続けたからこそ、今年ライブハウスを飛び越えて、キャパ1000名のイベントホールである味園ユニバースで『HOLIDAY! vol.6』を開催できたのではないかと感じる。
(植野さんは)HOLIDAY! RECORDSをずっと続けてほしい
最後にHOLIDAY! RECORDSに期待していることを3人に語ってもらった。
DAWA:同業者としては正直、大変そうだなと思う。2019年ごろまでなら未流通の音源とか何百枚とか売れていたはずなのに、今はサブスクの影響でデモ音源をCDで作る若手バンドも減っているし、聴き手も買わない。だからといってイベントにシフトして利益を出している風にも見えない。実際、僕もHOLIDAY! RECORDSにレーベルの商品を下ろしているので、どれくらい売れたとかはすべて把握しています。それがわかるゆえ、今は踏ん張りどころなのかなと思う。
ただ本当にずっと存在してほしい。正直、作品を宣伝する媒体はいっぱいあった方がいい。例えばHOLIDAY! RECORDSで売っているCDをうちも便乗して売るとか。それにその売り上げって、そもそもの買う客層が違うので取り合いにもならないと思う。僕らの業界は、途中で消えていく人が多すぎる。とりあえず何か面白いことしてくれればそれだけでいいなと思う。
ナカムラ:私も一緒で、ずっと続けてほしいですよね。販売もそうですけど、イベントもやり続けてほしい。実際にこの10年で「ホリデーっぽい」という言葉が生まれたし、シーンとして広がっている。イベントも大阪だけじゃなくて、名古屋とか東京とかでもやっているし、全国にこのHOLIDAY!のシーンを根付かせてほしい。
神戸:僕はHOLIDAY! RECORDSの魅力はライブハウスで会えるし、話せるところだと思っていて。アーティストだけでなく、お客さんともコミュニケーションをとっていると思うんです。そういう意味ではHOLIDAY! RECORDSが店舗を持てば、より密にお客さんと話すことが可能だし、ライブハウスとより連携すればさらに活動が広がると思う。
DAWA:それ前から植野には言っていって。移動型店舗と違った展開ができるし、イベントとかもできるし、やりがいもあるとも思っていて。それに今、インバウンドがすごい。海外の人たちってSNSとかの影響を受けないし、日本の若手インディーバンドとかを海外の旅行者に広げるみたいな活動をやったらすごく可能性があると思う。
実際、自分も海外のお客さんに「今日、何か良いライブはないのか」と聞かれたりもする。ただ海外はべニューごとにパンクが強いとか色があり、日本は日によって違うので質問されても「わからない」と言っちゃう。そういう各ライブハウスで今日何をやっているのかを把握して、海外の人をアテンドするサイト兼店舗をやったら面白いと思う。僕は手一杯でできへんけど(笑)。
今回の3人の座談会を聞きながら、いや今回の連載企画を通して、改めてHOLIDAY! RECORDSはどの分野からも愛されている存在だと深く感じた。それは対談者から出た言葉は、愛にあふれた言葉たちであったからだ。なぜここまで愛されるのか。この連載外ではあるが、東京で開催された『HOLIDAY!5.5』の開催直前インタビューで、ハシリコミーズ・松本アタルが「ピュアに良いバンド・音楽を発信しているし、紹介している」と語っていた。たぶんこれがその答えだと感じる。誰よりも音楽を探し、自分の良いと思う音楽をひたむきに発信し続けてきた。それを続けたがゆえの、今であるのだ。
そしてこの10年間の集大成的なイベントこそ11月2日(土)に開催される『HOLIDAY! vol.6』である。出演者にはTENDOUJI、ナードマグネット、浪漫革命、Khaki、Sundae May ClubとHOLIDAY! RECORDSの10年を彩ったバンドたちが総出演。さらに今回は現在のインディーシーンを語る上では外せないバンドである、サニーデイ・サービスも登場。ナードマグネット・須田亮太との対談の中で、その出演理由を聞かれた際に「若いバンドに僕たちがやっていることとサニーデイとはこんな風に地続きだという風に思ってほしかった」と語っていたことからも、今回のブッキングには並々ならぬ思いを感じる。
ぜひHOLIDAY! RECORDSのお祝いだけでなく、この10年間で作り上げた「HOLIDAY! RECORDS」という名前の音楽シーンを確認するという意味でも、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか?
(※1)HMVとのコラボ
当初はHMV record shop 新宿ALTAでスタート。連動企画としてバレーボウイズ、SUNNY CAR WASH、ベランダなどの7inchレコードをリリースしたこともあった。HMV&BOOKS HAKATAでもコーナー展開をしているとのこと。
取材・文/マーガレットヤスイ
撮影/こんちゃん
(2024年10月19日更新)
チケット発売中 Pコード:273-410
▼11月2日(土) 16:00
味園 ユニバース
一般 全自由-4500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割 全自由-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]サニーデイ・サービス/TENDOUJI/浪漫革命/ナードマグネット/Sundae May Club/Khaki
※6歳以上有料、5歳以下入場不可。
※学割チケットをご購入の方は、入場時に学生証の提示必須/忘れた場合差額を支払って入場可。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は10/19(土)朝10:00以降となります。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400