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HOLIDAY! RECORDS10周年記念連載
「そっちはどうだい、うまくやってるかい」第2回
「なぜイベントをするのか?」HOLIDAY! RECORDSと
Pangea・吉條壽記が語る『come together』と面白いイベントのあり方

今年で10周年を迎え、11月2日(土)には味園ユニバースで10周年を記念するイベント『HOLIDAY! vol.6』を開催するHOLIDAY! RECORDS。11月までの約半年間にわたり、HOLIDAY! RECORDSが歩んできた10年間の足跡をインタビュー / 対談などで紐解く連載企画。その第2回は HOLIDAY! RECORDS・植野秀章さんと心斎橋のLive House Pangeaの店長・吉條壽記さんとの対談をお送りする。植野さんと吉條さんは長らく共催イベント『come together』を行ってきた旧知の仲である。また植野さんは周年イベント、吉條さんは毎年夏にクリエイティブセンター大阪で行われる『新世界フェス』と互いにイベントを企画する立場でもある。そこで今回は私たちが『come together』を行う理由と、面白いイベントのあり方について話をしていただいた。

私たちが『come together』をやり始めた理由


――まず植野さんに伺いたいのですが、なぜ吉條さんと対談したかったのでしょうか?

植野秀章(以下、植野)「この連載をスタートした理由の1つとして、今回の10周年イベント『HOLIDAY! vol.6』は、お客さんにHOLIDAY! RECORDSの10年を知った上でイベントに来てほしいと考えていて。それでこの10年の間に僕と深く関わっている人と対談をしたいと思い、吉條さんにお願いをしました」

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HOLIDAY! RECORDS・植野秀章

――HOLIDAY! RECORDSとLive House Pangea(以下、Pangea)は『come together』という共催イベントを2017年からやっていますからね。

吉條壽記(以下、吉條)「7年間一緒にイベントをやっているのか」

植野「めちゃくちゃ、長いですね(笑)」

――最初に「イベントをやりたい」と言ったのはどちらからでしょうか?

吉條「僕からですね。気になっているバンドを集めてイベントをやりたい。加えて、チケット代を安くしてお客さんが来やすい状況を作りたいと考えて、植野君に相談したんです。彼は"バンドを見る視点が僕とは違う"と感じていて。僕の場合、ライブを見て良いバンドだと思うことが多い。しかし植野君やCD・レコード屋の人は曲を聴いて良いバンドだと思う傾向がある。そこは自分に足りない部分だし、それを補ってくれる人とやった方が面白いと考えた」

――「チケット代を安くする」と言われましたが、イベントがスタートした当時の価格が500円は安すぎますよね。ライブハウス側としても、全く利益は出ないのかなと思います。

吉條「そうですね。ただチケット代が安ければ、他のイベントとは違う特別感みたいなものが演出できると思う。安くする以外で特別感が出るのであればそれでもいいのですが、その時の『come together』のコンセプトはチケット代を安くして、お客さんにさまざまなバンドを見てもらうこと。だからライブハウスが赤字かどうかはあまり気にしていない。それ以外でハコに返ってくるものが、大きいと当時は感じていました」

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Live House Pangea店長・吉條壽記

――開催してみて、見返りなどはありましたか?

吉條「もちろん。このイベントが夏に開催されている『COME TOGETHER MARATHON』にもつながっているし、出演してくれたバンドがPangeaのカラーの一つにもなっている」

――植野さんはどうですか?

植野「シンプルにPangeaでイベントをやるだけでも大変意味のあること。そもそも僕が行っていたライブハウスは前回のインタビューでも語りましたが、 地下一階や NOON + CAFE だったのでPangea は接点のないハコでした。そのライブハウスで『come together』を現在まで定期的に開催できている。さらに集客もそれなりにある状況が作れているのはHOLIDAY! RECORDSにとっては大きいです」



コロナ禍でも分断を避けるためには続けることが必要だった


――個人的に『come together』がただの共催イベントではなく、より親密なものとなった原因の1つはコロナ禍だと思っていて。例えばPangeaへのドネーションを目的としたコンピレーションCDRである『come together』をHOLIDAY! RECORDSがリリースしたのは、その象徴なのかなと感じています。

植野「コロナ禍の時も『come together』をやろうとしたのですが、緊急事態宣言があったり、そもそも出演をキャンセルするバンドも数多くいて中止になった回があったんです。ただこのまま中止は嫌だし、何かで補いたいなという気持ちがあり、あのCDRをリリースしました」

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吉條「その話を聞いて、うれしかったですが申し訳ないなとも感じていました。しかし僕も逆の立場なら同じようなことをするとは思います」

――ただコロナ禍になってからも『come together』をやり続けていました。一旦やめようみたいな話とかはしなかったんですか?

吉條「ライブハウスからしたら制限は大きいが、"どうやってイベントをやろうか"しか考えていなかった。状況は特殊でしたが基本的には普段と変わらなかったです。あの時に動けば負担は大きいというのはライブハウスも、バンドもそうだったし、動けなくなった人たちもいた。しかし少しずつでも日常へ近づけようと努力した人々のおかげで、今へとつながっている。『MINAMI WHEEL』も『見放題』も制限しながらもやり続けていたし、それがなければ今以上にコロナ前とコロナ後の世代とで分断されていたと思う」

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――確かに今まであったバンド同士の横のつながりがコロナ禍となり、いっきになくなりましたからね。だから『come together』でもライブ配信だけでなく、40名限定で観客を入れたりして、バンド同士が分断される状況を避けようと努力されていたんですね。以前インタビューした際に、『COME TOGETHER MARATHON』も分断がきっかけだったと話されていましたね。

吉條「そうです。2020年から出てきたバンドが先輩たちと出会う機会がなかったので、植野君と相談して2021年にイベントをスタートしました」

植野「吉條さんの中で、断絶しかけていると思ったきっかけとかあったんですか?

吉條「バンドから相談を受けたりした。当時はツーマンライブすらやることが困難で、対バンをやってもバンド同士の広がりがなく終わってしまう。それってライブハウスの役割を果たしてないと感じていて。だから僕らがやっている『新世界フェス』も当初はジャンルや世代で混ぜることは必要ないと思っていましたが、コロナ禍以降はさまざまな価値観を混ぜたほうが面白いと考えて、今はやっています」



「何を言われても平気な状況を作る」イベントにおけるストーリーと根拠の重要性


――お二人はイベントをやる立場でもあります。吉條さんは『新世界フェス』、植野さんは周年イベントなどを手がけていますが、イベントを作る上で何か考えていたりしていますか?

植野「僕の場合は、このバンドとこのバンドが一緒にやっているのを見たい、というところから始まることが多いです。昨年の周年イベント『HOLIDAY! Vol.5』だと、EasycomeとLaura day romanceの共演を久しぶりに見たいと思いやりました。また名古屋のブラジルコーヒーでやった『DINOSAURS!』というイベントはSEVENTEEN AGAiNと年齢バンドの共演を見たい、と思ったことがきっかけだったりします。僕的にはイベントの出演者選びってDJみたいな感じ。このバンドの次はこのバンドをかけようみたいな感覚かもしれないですね」

――それは音楽的に近い要素のあるバンドを組み合わせる感じですか?

植野「音楽性の近さは関係ない。どちらかと言うと、文脈でしょうか。例えばEasycomeとLaura day romanceだと昔は対バンもしていましたが、最近はなかったので今また交わってほしいという思いからですね。あと伏線回収になるようなこともやっていて。今回の『COME TOGETHER MARATHON2024』ではPangeaのトリ前を水平線、トリをAIRCRAFTに飾ってもらいました。それは普段からPangeaを盛り上げてくれている2バンドだし、双方ともにつながりもある。加えて『COME TOGETHER MARATHON』の初年度、AIRCRAFTはPangeaのトップバッターをやってもらった。それから3年が経って、トリを任されるまでのバンドになったという意味合いも込めて、タイムテーブルを考えました」

――植野さんの発言って"ストーリー"という言葉で置き換えられるのかなと思います。

植野「ストーリーという点では僕よりも吉條さんの方が重要にしていると思う。

吉條「自分の中で筋道が立つかどうかみたいなことは意識している。これはライブハウスでもそうで、僕は別にPangeaがどのようなハコだと思われてもいいと考えている。結局、外の人が見るハコのイメージって自分の好きなバンドが出ているかどうかなので。例えばギターウルフが出てたら、ファンの人は『Pangeaはギターウルフが出るハコだ』となる。そこを『こういう風に見てほしい』と強制することはできない。それよりも自分の中でやる理由を考えて、何を言われても平気な状況を作る方が居心地のいい場所ができると思う。それをやりたくてライブハウスをやっています」

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植野「僕もさまざまなバンドを取り扱っていますが、バンドごとに自分の中で取り扱う理由がある。その点では吉條さんの話にも通じる部分はあります。コンピレーションCDRの『come together』も、イベントができなかったという理由があるからリリースしたし」

吉條「だからお客さんの話を聴いて『あ、Pangeaをそう見ているのか』と思うこともある」

植野「それって、お客さんから『このバンドがPangeaに出演しているのは意外ですね』と言われるけど、自分の中では理由があるから逆に意外と思うってことですよね」

吉條「そうそう。ただ、その理由って目に見えて分かりやすいものでもないとは思う。作っている側には出演者やタイムテーブルにそれぞれ理由はあるが、おそらくお客さんには伝わらないし、それを明言しようとは思わない。ただその主催者側のストーリーはイベント自体から自然と滲み出てくると感じるし、それが面白いイベントにつながるとも思う。それを分かった人だけが『吉條さん、今回あのバンドをトリにしたのって、こういう理由からですよね』と思ってくれたら、それでいい」

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――最後にお互いのイベントをどう見ているのかを伺いたいのですが、植野さんは吉條さんがやっているイベントをどう見ていますか?

植野「やはり僕と比べると吉條さんのイベントは器のデカさを感じます。それに最初の話に戻りますが、魅力的なライブをするバンドが多く出ているなという印象ですね」

――吉條さんはどうですか?

吉條「純度が高いイベントだと思います。一緒にやっている『come together』と比べたら当たり前ですが、植野君のこだわりが出ている。今後はイベントだけでなく、さらにいろいろやっている姿を見てみたい。例えば本格的にレーベルを運営してみたり。そうしたらレコード屋としてのスタンスも変わるかもしれない」

取材・文/マーガレットヤスイ
撮影/こんちゃん




(2024年7月20日更新)


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Live

『HOLIDAY! vol.6』

『HOLIDAY! vol.6』
▼11月2日(土) 16:00
味園 ユニバース
一般 全自由-4500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割 全自由-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]TENDOUJI/ナードマグネット/Sundae May Club/サニーデイ・サービス/浪漫革命/Khaki
※6歳以上有料、5歳以下入場不可。
※学割チケットをご購入の方は、入場時に学生証の提示必須/忘れた場合差額を支払って入場可。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400

8月18日(日)23:59まで2次先行(プリセール)受付中!
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