ホーム > インタビュー&レポート > HOLIDAY! RECORDS10周年記念連載 「そっちはどうだい、うまくやってるかい」第4回 HOLIDAY! RECORDSとナードマグネット それぞれから見た私たちの10年
ナードマグネットとHOLIDAY! RECORDSの出会い
――須田さんは植野さんがまだバンドマンだったころに出会われたそうですね。その時のことって具体的に覚えていますか?
須田亮太(以下、須田):2012年ごろかな。共通の知り合いから「会わせたい人がいる。バンドマンをやっていて、心斎橋のバーで働いているKING君って人なんだけど」と言われて。「心斎橋のバーのKING」と聞いたときに、僕の頭の中では『池袋ウエストゲートパーク』の窪塚洋介しか浮かんでこなくて、さすがにビビりました(笑)。「会うのが怖いな」と思いつつバーに行ったら、今より地味な感じの秀章さんが「あの〜、hide-a-kingです」って出てきて。それが初めてですね。
――ちなみにHOLIDAY! RECORDSを始める時は、植野さんから報告を受けたりされましたか?
須田:リアルタイムで話を聞きました。知り合ってしばらくして、秀章さんのバンドが休止して。その後、ソロで弾き語りをやっていた時に、僕らと対バンをしていたんです。その時に「ディストロを始めようと思う」という話を聞いて。ちょうど『この恋は呪い』(2013年)というミニアルバムをリリースしたタイミングだったので、「始めたら、ぜひ置かせてほしい」と言ったことを覚えています。
植野秀章(以下、植野):共通の知り合いから「絶対好きになるバンドがいるよ」と言われて、須田くんと出会ったのが最初ですが、ナードマグネットを意識したタイミングは別で。ある時、ライブハウスでThe Minx and Misanthropeのオカジ(vo&g)さんと出会って。「仲良いバンドの人とコンピレーションアルバムを作ったんで、聴いてください」と言われて、CDをもらったんです。
須田:あ、アルテマか。懐かしい...。
植野:そう『ALTEMA2013』(2013年) (※1)。それでCDを聴いていて、引っかかったのが「プロムクイーン」だった。「これは明らかにWheatus(※2)をやっている。この曲むちゃくちゃいい」と刺さったことを覚えています。
ナードマグネット「プロムクイーン」
須田:出会った当初は秀章さん、ナードマグネットに対して半信半疑で、あんまりハマっていなかった。でも「プロムクイーン」はちゃんと褒められました。
植野:徐々に好きになったという感じでした。あともう一個、刺さったタイミングがあって。扇町para-diceでライブを観た時にThe Undertones(※3)の「Teenage Kicks」のカバーをやっていたんです。自分の好きな曲だったこともあり、このバンドは信用できると思いました。そこでもまた心の扉が開いたんですよね。
ナードがいなければ今のHOLIDAY! RECORDSは存在しない
――出会いからかなりの年月を経ていますが、その間お互いをどのように見ていたのかという話も聞きたくて。須田さんから見て、この10年でHOLIDAY! RECORDSが変わったところとかありますか?
須田:もともと秀章さんがいたシーンはパンク、メロコアだったこともあり、スタートした当初はそっち系の音源が中心だったと思います。でも、ある時から日本語の疾走感のあるギターロックを軸にしつつ、インディーポップや、シティーポップ的な要素のあるバンドも扱い始めて、幅がどんどん広がっていった。僕的にはハンブレッダーズと加速するラブズを取り上げたあたりから、HOLIDAY! RECORDSは変わってきたと思います。
植野:そうだと思う。ハンブレッダーズと加速するラブズが好きになったから、その後に自分の中でもSUNNY CAR WASHやtetoとかも扱おうと思いました。でも、それらのバンドを知るきっかけを作ってくれたのはナードマグネットだった。対バンにハンブレやラブズを呼んでいて、それが印象的だった。DENIMSとかプププランドとかTHE BOSSS とかもHOLIDAY! RECORDSを始めた時は扱おうとは思っていなかったけど、ナードとの出会いがあったからこそ、そのようなインディーズバンドもポジティブに目に入ってくるようになった。
須田:だからハンブレッダーズのファンには声を大にして言いたい。ナードマグネットが舗装した道を彼らは歩いて行ったんですと。
――はははは(笑)。植野さんはナードマグネットの活動を10年以上見ていて、変化したと思われる部分とかありますか?
植野:難しいな......。ナードマグネットって「変わっているようで、変わっていない」し、「変わっていないようで、変わっている」バンドだと思っていて。音楽性も昔よりポップパンクのテイストが強い気がするし、『この恋は呪い』のころと比べたらまったく違う。歌詞の雰囲気やテーマ選びも変わっていると感じる。でも自分たちのやっている音楽をパワーポップだと言い続けているし、その軸は絶対的にブレていない。多分「これはあり」「これはなし」というチョイスが絶妙だし、引いたラインは守っているからだと思っていて。
――実際、須田さんの中でラインってありますか?
須田:たぶんあるんでしょうね。10年って人を変えるには十分な期間ですし、考え方も変わります。歌うテーマとかは今のモードに合わないと思えばどんどん変えますし。「いとしのエレノア」とかは歌詞を変えて、再度リリースしましたからね。
いとしのエレノア (10 years later)
須田:ただパワーポップという軸は守りたいなというのがあります。パワーポップって70年代くらいから続くジャンルで、その解釈って人それぞれだと思います。例えばパンク寄りなものがあったり、少しエモ寄りなものがあったり。そういうのをすべてありの上で楽曲を作りたい。
ただナードマグネットはそんなに器用なバンドでもないので、少しずつできることを増やしているという感じです。変わり続けているバンドも好きですけど、逆に老舗のラーメン屋のような味を守り続けているようなバンドもかっこいいなと思う。僕らはどちらかというと後者寄りなのかなとは感じます。とかいいながら、僕は先日高校生ラップ選手権の決勝にも出たラッパーの知葉瑠のアルバムに客演で参加しましたが(笑)。
植野:ナードマグネットでラッパーを迎え入れて、楽曲をリリースするのはあり?
須田:ありですね。実は昔からやりたくて。ただ、一度実験しようと思っていた矢先にメンバーが脱退して。急遽立て直さないといけなくなり、一旦すべて白紙になりました。
「一つのシーンを作った」HOLIDAY! RECORDSの功績と苦悩
――お互いがバンドシーンにどういう影響を与えたのかという話も聞きたくて。須田さんはHOLIDAY! RECORDSが与えた影響について、どう見ていますか?
須田:インディーズシーンみたいなものを一つ作ったと思います。ライブハウスに根差したシーンというか。小規模なところからイベントを行い、節目に大きなサーキットをやったりとか、地道な活動を行ってきた。だからこそリスナーからも信頼されているし、バンドからも「あそこで取り扱ってほしい」と思われるようになったと感じます。本当にこの10年で大阪のインディーズシーンの顔みたいな存在になった。
――植野さんはシーンを作ろうと考えたりしていましたか?
植野:「HOLIDAY! 系」みたいなことも言われたこともあるけど、どうかな......。でも、あったかもしれないです。僕はAIR JAM世代(※4)というのもあり、シーンみたいな言葉にすごい憧れはあった。ただ「俺たちは違うぜ」と意図的にやった感じではなく、自然とそうなっていったと思います。
――個人的にはHOLIDAY! RECORDSが取り上げるバンド群を指す言葉がなかったと思うのです。
植野:確かに。シャムキャッツとかが言われていた「東京インディ」以降のあの時期、それまでとは何かしら雰囲気が違うバンドが出てきた。それがハンブレッダーズ、ナードマグネット、SUNNY CAR WASH、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、TENDOUJI、などHOLIDAY! RECORDSが扱ったバンドを指しているなら、「HOLIDAY!系」と名前がつけやすかったのかもしれないですね。
須田:ただ逆に目立ってきたからこその誤解もあって。「HOLIDAY! RECORDSに取り上げてもらえた、やったー!」というバンドのツイートとか見たことがありますし、その逆に取り上げてもらえずに悪口を言っているのも見たこともあります。若いバンドマンからしたら「この人は権威だ!」と思われている節もあると感じていて。
――植野さん自体、自分の存在がここまで大きくなると思っていましたか?
植野:思うわけないでしょ(笑)。特に後半の5年間は本当に戸惑った。HOLIDAY! RECORDSをやろうとした理由は、自分のやっていたバンドが当時のCDセレクトショップであまり扱われなかったから「そういう人たちと関係なしにやろう」という反骨精神から始まったんです。でも立場が逆転すると酷く傷つくし、なんか変な気分ですね。一時期は音楽の良し悪しを判断している人だと思われていたこともあった気がしていて。だから「断られたバンド=良くないバンド」と思われるのが怖かった。
須田:僕もバンドマンなので、CDを置いてもらえず悔しい気持ちは分かります。でもセレクトショップってそういうもんですからね。一個人の主観でしかない。逆にセレクトとうたいながら、何でも受け入れるショップのほうが信頼できない。ここに置いてもらえないなら他の居場所を探すべきだと思います。
若いバンドマンからの「ナードを聴いていた」という言葉に救われている
――植野さんはナードマグネットって、インディーズシーンにおいて、どのような存在だと思いますか。
植野:(夜と)SAMPOの吉野君も言っていましたが、社会人バンドの草分けだと思います。仕事をしながらでも、ちゃんとした音楽活動ができるというのを世間に伝えたのは間違いない。会社勤めしながらRUSH BALLに出ているとか、昔だと考えられない。
須田:大っぴらに「仕事をやりながら」と言っていたのは、僕らが最初なのかもしれない。でも言わないだけで、仕事しながらやっていた人たちもいたとは思います。バイトしているか就職しているかの違いだけですし、音楽で食べていける人は本当にごくわずかだと感じる。
植野:でも「仕事しながら」と明言するのは、バンドマンとして肩身が狭かったんじゃない?
須田:2010年代の前半はそうだったかも。そういう意味では、ナードは異色だったかもしれない。でもその感じも、変わってきてはいるとは思います。ただ、できることなら僕は働きたくないですけどね(笑)。
植野:あと「いい音楽をするバンド」だと、みんなが認めている存在だと思います。ライブハウスで後輩のバンドとかと話していても、ナードはいいバンドっていうのが前提という印象で。
――実際ナードに憧れているバンドも多いと思うんですよ。有名なとこだとSubway Daydreamとか。
須田:彼らには救われています。あとフジロックに行った時にROOKIE A GO-GOに出ていたQoodowのメンバーから「高校の時、ナードマグネットを聴いていたんです」と言ってもらえてうれしかったです。最近また出会う若いバンドマンからも同じことを言ってくれることがちらほらあって。その言葉を聞くたびに、僕がやってきたことは間違ってはいなかったと感じます。
僕らはもともとパワーポップというニッチなジャンルを、日本語でもう少し分かりやすくしてやるというコンセプトではあった。だからどこかのシーンに属せることもなかったし、こんなにも好きなことだけやっているスタンスのバンドも他にはいなかった。それが好意的に見られたのかなと思います。例え、今やっていることがナードマグネットとはスタンスが違っていても、そこに至るまでの養分の一つに僕たちがなれていたらうれしいです。
ナードと出会って、第二の青春を体験している
――須田さん、関西のバンドマンから見てHOLIDAY! RECORDSってどのような存在だと思いますか。
須田:多少、頼りない面もあってか、バンドマンからいじられていたりもする。だけどみんな秀章さんのことは好きだし、慕われていると思う。本当に愛されている存在であると感じます。
――では、須田さんからHOLIDAY! RECORDSってどう見えています?
須田:最近イベントのブッキングが変わってきていると思っていて。少し前までは毎回一緒のメンツだなと思っていましたが、今はこれまでの歴史を網羅しつつ、僕らよりもさらに先輩クラスのアーティストを呼んだりしている。例えば『COME TOGETHER MARATHON 2024』ならばおとぎ話をトリにしたり、今回の『HOLIDAY! vol.6』ではサニーデイ・サービスを呼んだり。
それこそHOLIDAY! RECORDSが取り扱うバンドって、売れるために試行錯誤するよりも、純粋に音楽が大好きみたいなアーティストが集まっていると思っていて。そういう若いバンドマンからの信頼を集める先輩バンドがブッキングできるのは10年積み重ねた結果だし、大きくなってきた存在感を正しく使えているのかなと思います。
植野:確かに。今回サニーデイ・サービスを呼んだのは若いバンドに僕たちがやっていることとサニーデイとはこんな風に地続きだという風に思ってほしかったから。それに10周年だから、頑張って呼びました。
――ブッキングといえば、今回ナードマグネットも『HOLIDAY! vol.6』に出演されます。植野さんが単独でやっているイベントに出演するのは初めてのことですよね。
植野:シンプルに10年を振り返った時に、呼ぶべきバンドは誰かと考えたらナードマグネットがまず思い浮かんだんですよ。それに今回の6組を決めていく段階でも、お客さんから「やっぱナードは出ますか?」みたいな空気感はありました。
――10年を振り返った時に一番最初に思い浮かんだナードマグネットって、植野さんの中でどういう存在ですか。
植野:同期であり、ファンですね。純粋にファンになれるバンドって、意外にいない。それに10年かけて、ナードマグネットがステップアップしていくところが見られたこともうれしくって。扇町para-diceというキャパ50人のライブハウスで見て、10年かけて大阪野外音楽堂で多くのお客さんの前でやるようなバンドに成長した姿を見られたのは本当に良かった。普段、ライブを見て泣くことって基本的にあんまないんですけど、『ULTRA SOULMATE 2019』の時はクソ泣きましたよ。
そういうワクワクするような経験はバンドしていた時、一回終わりました。だけどナードに出会って、その感じをまた味わうことができた。そういう意味では第二の青春を体験させてもらったという気持ちはありますね。
須田:それこそ初の全国流通のアルバム『CRAZY, STUPID, LOVE』(2016)を出した時に30歳になって。それから8年くらいは20代みたいな動き方をしていた。ナードマグネットって変なバンドだと思いますよ。ただ今はまた違うフェーズに差し掛かっているなと自分は思うんですけどね。
植野:ナードマグネットが20代みたいな動き方をしているのと同じ時期にHOLIDAY! RECORDSも始まった。あれから10年経って、これからどうするっていうのは多分お互いあるのかなというの思います。
10年間の青春の日々を経て、今まさに次のフェーズに差しかかろうとしているナードマグネットとHOLIDAY! RECORDS。その今のモードを確認するという意味でも、『HOLIDAY! vol.6』にぜひ足を運んでみてはいかがだろうか?
(※1) ALTEMA2013
The Minx and Misanthropeが2013年に結成10周年を記念してリリースした2枚組のコンピレーション・アルバム。ナードマグネットの他、Age Factory、The denkibranなども参加している。
(※2) Wheatus
ニューヨークはロング・アイランド出身の男性4人組バンド。ナードマグネットの「プロムクイーン」は同バンドの「Teenage Dirtbag」が元ネタだとされている。
(※3) The Undertones
アイルランドのパワーポップ・バンド。彼らの代表曲である「Teenage Kicks」はナードマグネットの他、Green Day、Franz Ferdinand、Buzzcocksら多くのバンドがカバーしている。
(※4) AIR JAMとシーン
AIR JAMはHi-STANDARDを中心に、パンクロックをはじめとするストリートミュージックスケートボード、BMXなどストリートカルチャーを融合したイベント。1997年に第1回がお台場レインボーステージで開催され、シーンの急成長に合わせてその規模も拡大。2000年8月には千葉マリンスタジアム(現・ZOZOマリンスタジアム)にて同フェスが開催。また同時期にアルバム『MAKING THE ROAD』(1999年)が、国内外トータルでミリオンセールスを記録。当時のシーンがいかにすごかったのかを物語っている。
(2024年9月27日更新)
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▼11月2日(土) 16:00
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一般 全自由-4500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
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[出演]サニーデイ・サービス/TENDOUJI/浪漫革命/ナードマグネット/Sundae May Club/Khaki
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