ホーム > インタビュー&レポート > 「今しか書けないし、今ここにいるからこそ書ける歌」 衝動や感動をその手に取り戻せ らしさと挑戦を共存させたヒグチアイという人生の美しき過程 『未成線上』インタビュー&動画コメント
アルバム曲=自分ですから
――ヒグチアイのキャリアを語る上ではやはり、『悪魔の子』('22)以前/以後で間違いなく人生が変わったと思いますけど、今では自分にとってどういう存在の曲だと思います?
「何か...よく働いてくれてる息子(笑)」
――アハハ!(笑) 確かにそうかも。
「この子が他の兄弟姉妹を支える働き頭になってくれた感じですよね。もう24時間365日、いろんなところに顔を出してくれる。ちょっと昔なら、曲を出したらそこからどんどん影響力が落ちていくものだったけど、今はアニメとかTikTokとか、いろいろと使われて聴く人が増えていくから、それは希望でもあるなと思う。ただ、(『悪魔の子』の反響に関しては)正直、私には見合ってないというか...ずっとやってきたことの延長にそういう曲がある人は分かりやすくていいんですけど、私はああいう壮大な曲より、もっとミニマムなことを書いてきたから、私の中ではつながっていても、他の人からすると違う場所に見える。歌詞の内容より曲の印象で聴かれるんだなとは思いましたね」
――'21年にレーベルを移籍以降、そういうタイアップ曲の話がコンスタントに舞い込んでくるようになって、最新作『未成線上』では全11曲中6曲収録と過去最多で。アルバムの骨格がある程度出来上がっている状態からの制作は、今までとはまたちょっと違いますね。
「全然違いました。一曲一曲が強いというか、すでに世に出た曲なので、それをアルバムにする意味は考えました」
――だからこそ、結果的にタイアップ曲以外のアルバム曲に、よりヒグチアイの意地とか"らしさ"が出た気が。
「アルバム曲=自分ですから。過去にライブを見てくれた人だったり、ずっとアルバムを聴いてくれている人に、タイアップ曲で間口が広がっただけで、ヒグチアイは変わってないところを見せたいなって。あと、今回は"ちょっと先に進んだヒグチアイ"みたいな曲でそろえたかったのもあります。挑戦として入れてみました」
自分が歌う必要がないぐらい、いい曲を書きたい
――より今の自分、もしくはこの先の自分に近い曲。その核となる一曲、Xで"久しぶりに歌いながら泣いちゃいそうになる曲できたわ"とポストしていたのは、『大航海』(M-1)ですよね?
「そうなんです。今回は半分以上がもう世に出た曲=過去じゃないですか。そういう過去にすがったアルバムを出すのは、自分にこの先がないような、諦めみたいな感じがして。そのときにできたのが『大航海』で、この曲が書けて、ようやくアルバムを出すことに納得できたというか」
――過去のヒグチアイなら、こういう大事な曲は遅めのテンポで届けたと思うので、この疾走感は意外でした。
「何でだろう? さっき話した『悪魔の子』に対して自分のキャパが合わないことについて、ずっと考えていて。それでも曲が自分の元に返ってきてくれたと思ったのが、やっぱりライブだったんです。だからライブで聴いてもらえる、恩返しみたいな曲ができたらいいなと思ったのもありますね。ライブ感が出たアップテンポな曲にしたかった」
――ライブに関しては常日頃、バンドセットは楽しくて弾き語りは苦しい、みたいなことを言ってましたけど(笑)、そういう場が自分により力をくれるようになった。
「『悪魔の子』を聴きたい人がライブに来てくれて、"その人をファンにしなきゃいけない!"と気負って、どんどんライブが嫌になって...。でも結局、ライブに来てくれる人=自分にとってド真ん中の人だから、そういう人に聴かせることが大事で、全てで、絶対だと分かってきた。なので、今はライブを好きになれている気がします」
――『悪魔の子』は今や途方もない再生回数に達しているものの、じゃあ1億回再生されたからライブに1億人が来るのかと言ったら話は別で。だからこそ、聴いてくれること自体うれしいけど、さらにライブにまで足を運んでくれるのは、一つの信頼関係でもありますね。
「やっぱりそれが自分にとって一番大切でいいんじゃないかというところに落ち着いてからは、地に足が着いた活動ができるようになったと思いますね」
――3rdアルバム『一声讃歌』('19)で出し切って、身を削り続けるソングライティングでは長く歌っていけないと気付き...作家的な動きも含めた今のスタンスに変わったのは、そういう音楽家としての生存本能もあるでしょうし。
「あとは、TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』への歌詞提供とかもやってみて、自分が歌えば伝わる曲じゃなくて、誰かが歌っても伝わる曲というのは考えるようになりましたね」
――そういう意味では、自分より子どものことを大事に思うようになったのかな?
「そうかもしれない(笑)。例えばカラオケに行ったとき、別に歌手でも何でもない友達が歌ってもいいなと思う曲が=いい曲だと思う。自分が歌う必要がないぐらい、いい曲を書きたいとずっと思ってますね。私の手を離れて独り立ちしてるのが大事なんだって、歌詞を提供したときに思ったんですよね」
もっと先に行かなきゃいけないし
もっと遠くのものを見なきゃいけないし、それを探さなきゃいけない
――アルバムの幕を開けるフレーズであり『大航海』の冒頭、"このままでいいのかい/人生は一度きり"という問いかけは、今の自分に向けたものでもありますよね。
「そうですね。でも、昔なら"このままじゃダメだな"という始まりだったかもしれない。私自身、どんなときもだいたいそう思っているので(笑)。今だからこそ、こういう歌詞になったのかも。自分の中だけで完結させないという」
――"今じゃ否定もなけりゃ期待もない"という中堅あるある(笑)。インディーズの頃、あんなにいろんなことをいろんな人に言われたのに、もう何も言われない。
「そうそう! おせっかいな人もいっぱいいたし、それに腹を立てて"曲にしてやる!"みたいに思ってたけど(笑)、あれって実は青春を作ってくれてたんだなって。誰かに言われたことに反抗していればよかった時期だったなと」
――それが感情という音楽のガソリンになっちゃう。
「そうなんですよ。今はなかなか怒られもしないから曲にもしなくなるし、(代わりの燃料を)自分で探さなきゃいけない。キツいです(笑)。時に自分を自分で否定しなきゃいけないので」
――それこそ衝動や感動については『大航海』でも触れてますけど、こんな熱い気持ちにまたなれるだろうかと。
「だから『大航海』を書いたとき、"これが最後かもしれない"と思ったし、一度手を放れた衝動や感動を引き戻すのは簡単じゃないことは、もう分かっているので」
――いや~めちゃくちゃタフでエモいじゃないですか。自分で自分をたき付ける曲。
「本当にカラカラの雑巾を絞って、何とか出た一滴で曲を書いてる感じですけどね(笑)。身の回りの感動にはもうほとんど手を出しちゃってるので、もっと先に行かなきゃいけないし、もっと遠くのものを見なきゃいけないし、それを探さなきゃいけない。でも、あんまり時間がなかったり、新しいものに触れなくても生きていけちゃうし」
――そんな中で、ちゃんと自分の心が動く曲が書けたのはよかったですね。かつて『備忘録』('16)を5年後10年後に聴いたらどう思うのかという話をしたように、『大航海』を数年後に聴いたとき、描いた未来に自分がいるのか。
「そういう人生であってほしいし、その決意表明みたいな曲ではありますよね。頑張ってくれよ自分って思う(笑)」
今まで通り男女の括りで歌を書こうとしていたら
こうはならなかった気がします
――『祈り』(M-2)は最初からタイアップのために書いた曲ですか?
「私がサッカーにハマって日本代表戦とかを見に行ったとき、"ハッシュタグをつけてスタジアムで流したい曲をつぶやこう"みたいな企画があったんですけど、私の曲は絶対に選ばれないだろうなと思ったんですよ(笑)。そこで流れるような、応援する曲が作れたらと1番を書いてみて...。見るだけで高ぶったり、頑張ろうと思える。ただ応援してるだけなのに、自分にもいい影響がある。今までに書いたことがないような、自分がどう思うかは関係なく人を応援する曲を作りたくなったんですよね」
――サウンド的には元々好きだと言っていたプリミティブなテイストも感じます。ちょっとゴスペルっぽさもあり。
「スタジアムでみんなが一緒に歌うと感動するので、そういう自分のやりたいこととか憧れも盛り込んでますね」
――『自販機の恋』(M-3)はラブソング3部作として先行配信された一曲で、人気BL作品の実写化映画『その恋、自販機で買えますか?』の主題歌です。今回の取材に向けて、ここ数年のヒグチアイの記事を全て読んでから今日を迎えたんですけど、この曲について話していたインタビューが、どこより最高の笑顔でしたよ(笑)。
「いやもう、今はBLについて話すのが一番楽しいですから!(笑) BLのコラムもやり始めたんですけど、ちょっと文体が違いますからね。あまりにもテンションが高くて(笑)」
――ちなみに、僕の人生観を変えたドラマが『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』('20)なんですけど。
「いや、めっちゃいいですよね。BLの大名作」
――本当にピュアというか、あれを見たとき、果たしてここまで愛してくれる人に人生で出会えるだろうかと思って。だったら、それが異性だろうが同性だろうが、そういう人と一緒にいるのが幸せなんじゃないかと思わされた。やっぱり愛の深さが大事なのかなという。
「BLを読んでいても、自分の好きな人が自分を好きになってくれるって奇跡だなと改めて思うんです。尊いですよね。ピュアなものって一生懸命じゃないですか。それぞれのちょっとずつの勇気が重なって、連絡先を聞いたり、それこそ気持ちを伝えたりして。"私、そんな勇気を持ってたかな?"みたいな...そういうちょっとした勇気をくれる映画なんですよね。この曲を書いている時間は、本当に幸せでしたね」
――もうね、最初の"僕は君がいい"の6文字が、めっちゃいい。ここに全部入ってるわ。
「アハハハハ!(笑) うれしい~!」
――あと、映画を見た後の余韻を明るくしたいという意図から、こういう曲調になったとも。
「映画が男の人同士の話であるのはもちろんですけど、女の私が歌ってるのに男の人だけが(気持ちが)分かる曲だと、ちょっと矛盾する気がしちゃって。2人が男の人と女の人だとしても分かるもの、女の人が歌ってるからこそ聴けるものにしたいのはありましたね」
――TikTokでダンスとかも生まれて派生していきそうな、間口の広い曲ですよね。
「そういうこともこの曲ならできるかもと思って、サビの頭は拍と同時に言葉が始まったり、切り抜きやすさを考えて作ったのを覚えています。この曲はライブで歌っても楽しいし、聴いてくれる人も楽しそうだから、こういう曲を書いてもいいんだなと思って。でも、今まで通り男女の括りで歌を書こうとしていたら、こうはならなかった気がします。もっと私、ひねくれちゃってるから(笑)」
どれだけポップにしてもただポップには聴こえない
――続く『わがまま』(M-4)『最後にひとつ』(M-5)『このホシよ』(M-6)辺りのアルバム曲は、ヒグチアイのらしさと挑戦を感じたゾーンで。まず『わがまま』も曲調としてはアッパーなポップソングで、しかも今までのらしさは常にダークだったのが、明るい曲調でもちゃんとそれを出せるという。
「うれしいです。それがやりたかったし、できるようになったから、こうやってポップな曲を書くようになったのかもしれないですね。今までは曲調で持っていったところもあったけど、自分のヤバさとか気持ち悪さをちゃんと歌詞に出せるようになってきたからこそ(笑)、どれだけポップにしてもただポップには聴こえないのがいいなと思って」
――めちゃくちゃややこしいもんね、この歌詞の人(笑)。特にらしいなと思ったのは、"隙を見せてバカなフリで/君が振り向くとしたら/好きになったのは/わたしなのにちょっと/嫌いになるかもしれないな"のラインとか、"わたしがわたしのまま愛される/自信が少しでもあったなら/わがままなんて言わせないで/このまま全部愛せよ!と言うよ"とかは、むちゃくちゃヒグチアイだなと。
「ね! めっちゃうれしい。そこなんですよね。すげぇめんどくさい女じゃないですか(笑)。一見、分かりづらいんですけど、"よくよく見たらややこしい人間なんです"というのが、この曲には結構入っている。それがいいんです」
――『最後にひとつ』にしたって、こういうカントリーっぽい感じでくるとは思わなかった。歌詞を見ながら曲を再生して、"え、この内容でこんなファニーな曲調なの?"みたいな。
「確かに歌詞だけ見るとバラードでもいけそう。『祈り』ができた後にやったツアーで、バンドのみんなで音を出すのが本当に楽しかったから、そういう曲をもっと書きたいなと思ったんです。他の人の曲を聴いていても、ちょっとテンポがあるけど寂しい、みたいな方がバラードよりグッときたりもしたので」
――この曲の、"なんでもないなにものでもないわたしを受け入れてくれたのは/その瞳で録画し続けてくれたのはあなた"という2行は、とても素晴らしいなと思いました。
「"一生許さない"みたいな曲を書いていた昔は(笑)、本当にそう思ってたんだけど、今はもう恨む気持ちも記憶と共になくなっちゃって...そこに残ったのが、当時の何者でもない自分を好きでいてくれたことへの感謝で」
――まさかその境地にまで到達するとは...。だって、"過去にあった嫌なこととかを煮詰めて、その汚れた宝石みたいな感情を燃やして曲を作ってるんで"と言ってた人がですよ?(笑)
「アハハ!(笑) それが大人になるということなのか。そこからあまりに遠いところにたどり着いてしまった」
――とは言え、"どうかおしあわせに"の1行にピリッと怖さも感じつつ。以前はね、こういうキラーフレーズを聴くたびにドロドロのホラーだと思ってたけど(笑)、今は同じ情念を歌ってもサスペンスのような戦慄がある気がして、そこにもそのソングライターとしてのスキルアップを感じました。『このホシよ』はピアノの弾き語りですが、"このホシよ滅んで"の1行で一気にファンタジーになる場面転換もお見事だなと。
「歌詞に関しては、自分の目線として必要なものはもちろんあるんだけど、ここはそうじゃない方が分かりやすいだろう、伝わるだろうというバランスは、昔より取れるようになったと思いますね」
コロナ禍が落ち着いてライブで声出しできるようになったからこそ
この曲が完成した
――今回の一連のタイアップ曲の中で個人的に好きだったのは『恋の色』(M-7)で、開始10秒足らずでいい曲だと分からせるすごみがあって。この曲は1年ぐらい前に初恋をテーマに書いていたものをリライトしたそうで。
「このドラマ=『初恋、ざらり』のエンディングテーマということになったとき、頭にどうしてもサビを入れたかったんですよ。でも、そうなると次のサビまで1分で収めなきゃいけない。そのバランスが難しくて、だからこそ削ったところもあったし、そういうタイアップだからこその構成になってるんですけど」
――THE CHARM PARKによる切なさ×ストリングスのアレンジも最高で、抑え目のボーカルでしっかり世界観を作って...主演の2人=小野花梨さん&風間俊介さんが演技がうまいから、相乗効果でより真に迫る曲になりましたね。
「いいところで曲を差し込んでくださっていたので、それもとってもうれしかったですね」
――続く『誰でもない街』(M-8)『この退屈な日々を』(M-9)は、映画『女子大小路の名探偵』の挿入歌と主題歌で、2曲のカラーが全然違って。『誰でもない街』はEGO-WRAPPIN'的な昭和歌謡の雰囲気が新鮮でした。
「まさに作るときはEGO-WRAPPIN'を聴いていました(笑)」
――『この退屈な日々を』は、タイアップ曲の中では一番ヒグチアイ自身に近いかなと。
「分かります。これが一番私らしいというか、フラットな自分がラブソングを書くとしたら、こうなるかなという」
――この曲の最後の4行、"退屈な日々を/笑えない日々を/永遠の/永遠の愛と呼ぼう"は、近年のヒグチアイが自ら雑誌『うふふ』の編集長となりインタビューして、別にミュージシャンのような日常じゃなくても、普通の営みを送る人たちの人生は面白いと気付いた視野が、ポップスに落とし込まれていますね。
「そう言われたかった。自分で自分のことを普通だと思うからこそ、"自分の恋とか人生はドラマにならないだろうな"、みたいな人にこそスポットライトを当てたいし、それをずっと書き続けたいですね」
――そして、『mmm(ハミング)』(M-10)はコロナ禍に生まれた曲で、前作『最悪最愛』('22)リリース時のYouTube Liveでは、"時代性が分かるような曲を入れたくなかったため収録は見送った"と言っていました。逆に言うと、なぜ今回は収録されたのでしょう?
「やっぱりこの曲はすごくいいなと思ったし、コロナ禍が落ち着いてライブで声出しできるようになったからこそ、この曲が完成した感じがして。時間は経ったけど、あのタイミングで入れなくてよかったなと思ったし、今回はむしろ入れたいと思える時代になったと思いますね」
――リズム隊が躍動していくさまもエモーショナルで、最後には"ラララ"と歌える感動がやはりあります。昔はアルバム全曲が重かったですけど(笑)、今作ではポップソングが多い中、『mmm』が心地良い重さを担っています。
「もちろん全曲に大事なことは入っているんだけど、今作の中で一番、今まで作ってきた自分らしい曲というか、これからもこういう曲をアルバムに1曲は入れたいなと思いますね」
――ラストの『いってらっしゃい』(M-11)は2度目の『進撃の巨人』とのタイアップ曲ですけど、『悪魔の子』に引けを取らない曲になって。これは難しい挑戦だったでしょうね。
「本当に! 『悪魔の子』より何倍も大変でした。何にも書けなくて全然進まなかったんで」
――それをどうやって乗り越えたんですか?
「何のために書くのか...とにかく作品に寄り添ったものを書くと決めてからは、覚悟が決まって。物語の最後に感じるものはみんなそれぞれだと思うんですよ。いろんな意見がある中で、作品が描いていることを忠実に伝えるのが大事なんじゃないかと思って。そこに完全に寄り添えた曲になったのはよかったなと思います」
まだまだ人生は続いていくし
これからも暮らしていかなきゃいけない、歌を作らなきゃいけない
――これら11曲をまとめたアルバムのタイトル『未成線上』は、未完成の路線や、最終駅の先に延伸したものの、結局、使われなかった線路の上という意味だと。
「『悪魔の子』のおかげで、自分が目標にしてきた"とにかく一曲でも売れる"という夢が一つ叶った。かと言って、"じゃあ、ここで私の人生は終わりにします!"とはなれない。まだまだ人生は続いていくし、これからも暮らしていかなきゃいけない、歌を作らなきゃいけない。ここからの人生=線路を自分で作っていかなきゃいけない」
――しかも、誰かがすでに敷いてくれていたレールではなく、自分だけの道を。
「そこなんですよね。自分で作る線路でどこに向かうのか」
――『未成線上』はアーティストとしてのいい"過程"になったんじゃないですか?
「今しか書けないし、今ここにいるからこそ書ける歌になりました」
――それはそうと、タイトルがいつも漢字4文字なのは何かこだわりが?
「最初のアルバムを4文字にして、途中で"もう変えてもいいんじゃない?"といろんな人から言われる中、"いや、これでいきたいんです"と私が強く言ってきたからこうなったんですけど、早々にやめておけばよかったです。とにかく案を出しまくったので、もうアイデアがないです(笑)」
――ツアーに関しては、何でいつも楽しいバンドセットを先にやって、後から修行の弾き語りをやるんですか? 先に弾き語りをやってバンドで締めくくった方が気持ちが楽な気も。
「ホントですよね。でも、最近は弾き語りも楽しいんです。この何年かで歌をめちゃくちゃ研究して、どういう歌い方をすればいいのかが分かってきたので。年齢で体が変化するとまた変わっちゃうとは思うんですけど、弾き語りならではの面白さを見つけられたので、それも見てほしいですね」
――最後に何年かに一度、聞いている2つの質問を。まずはヒグチアイが思う音楽のいいところとは?
「私が本当にやりたいことは、自分を理解することなんです。だけどそれじゃお金にならない。でも、自分が持っている才能の中にはピアノがあった。それに音楽が足されて、シンガーソングライターという仕事になっている気がするんです。だから音楽のいいところは、自分の思いを乗せてお金になることです(笑)」
――アハハ!(笑) インディーズ時代に同じことを聞いたときは、"分かんない"とだけ即答。メジャーデビュー時は、"どこで聴いてもいつでも同じような気持ちになれるのがいい"と。今はこの答えなので、やっぱり音楽が職業になったんでしょうね。もう一つ、ヒグチアイは今後どうなっていきたいですか?
「昔は、"続けることを続けられるようになりたい"とよく言っていた気がしますけど、今はインプットとアウトプットのバランスを取りながら音楽を続けたいんです。いろんなことに興味を持てるのも音楽の良さで、人とつながれるのが音楽の大切さだったんですけど、今はどうしても音楽だけが先を行ってるので、もうちょっと私自身が走らなきゃいけない。今後は樋口愛がヒグチアイのために動くことが必要なのかなと思ってますね」
――7年前は同じ質問に、"歌がうまくなることを諦めない、曲がいっぱい書けるようになりたい、1億3千万人の人に好きになってもらいたい、頑張ることを頑張り続けたい"etc...あとは、"風呂トイレ別の家に住みたい"とも(笑)。
「住んでる住んでる!(笑) 大丈夫。でも、次はエレベーターがある家に住みたい(笑)」
――アハハ!(笑) 今後も一歩ずつ、ですね。
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2024年2月 2日更新)
Album
『未成線上』
【初回限定盤Blu-ray付】
発売中 6600円
ポニーキャニオン
PCCA-06267
【通常盤】
発売中 3300円
ポニーキャニオン
PCCA-06268
<収録曲>
01. 大航海
02. 祈り
03. 自販機の恋
04. わがまま
05. 最後にひとつ
06. このホシよ
07. 恋の色
08. 誰でもない街
09. この退屈な日々を
10. mmm
11. いってらっしゃい
<初回限定盤のみ収録>
12. 悪魔の子
- From THE FIRST TAKE
13. 悲しい歌がある理由
- From THE FIRST TAKE
<Blu-ray収録内容>
『HIGUCHIAI band one-man live
2022 [最悪最愛]』
2022.3.11 EX THEATER ROPPONGI
やめるなら今/ハッピーバースデー/火々/距離/悪い女/ほしのなまえ/悪魔の子/まっさらな大地/劇場
『ヒグチアイ 独演会 [誕生]』
2022.12.24 品川 Club eX
わたくしごと/ネオンライトに呼ばれて/備忘録/小さな夢/悲しい歌がある理由/しみ
『HIGUCHIAI band one-man live
2023 [産声]』
2023.6.11 渋谷区文化総合センター大和田
さくらホール
縁/ランチタイムラバー/最初のグー/猛暑です -e.p ver-/悪魔の子/黒い影/まっさらな大地/mmm/祈り
Music Video
縁/悪魔の子/劇場/いってらっしゃい/悪魔の子-THE FIRST TAKE/悲しい歌がある理由-THE FIRST TAKE
ヒグチアイ…平成元年生まれ、シンガーソングライター。生まれは香川県、育ちは長野県、大学進学のために上京し、現在は東京都在住。2歳の頃からクラシックピアノを習い、その後もバイオリン、合唱、声楽、ドラム、ギターなどを経験、さまざまな音楽に触れる。18歳で鍵盤弾き語りをメインに活動を開始。’16年、アルバム『百六十度』でメジャーデビュー。『FUJI ROCK FESTIVAL』『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』など大型フェスへの出演も果たす。’22年、TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part2のエンディングテーマ『悪魔の子』を書き下ろし話題に。’24年1月24日には、最新作となる5thアルバム『未成線上』をリリースした。近年は作家活動も行い、香取慎吾、のん、青山吉能といったアーティストへの楽曲提供、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の主題歌を含む多くの作詞を樋口愛名義で手掛けている。
ヒグチアイ オフィシャルサイト
https://www.higuchiai.com/
『HIGUCHIAI band one-man live
2024 [未成線上]』
チケット発売中
※販売期間中はインターネット販売のみ。
▼2月4日(日)17:30
なんばHatch
全席指定5500円
サウンドクリエーター■06(6357)4400
(https://www.sound-c.co.jp)
※再入場不可/撮影・危険・迷惑行為禁止。客席を含む会場の映像・写真が公開されることがあります。各公演、地方自治体/会場ごとの感染拡大防止ガイドラインに従い開催させていただきます。状況により、開場/開演時間が変更になる場合がございます。あらかじめご了承の上ご購入をお願いいたします。その他、ご注意事項はチケット購入時にご確認ください。
『坂口有望Presents 「Live-Rally」』
チケット発売中
※販売期間中はインターネット販売のみ。チケットの発券は2/21(水)10:00以降となります。
▼3月6日(水)19:00
心斎橋JANUS
全自由4500円
[共演]坂口有望
サウンドクリエーター■06(6357)4400
(https://www.sound-c.co.jp)
※未就学児童は入場不可。
「約4年ぶりの取材となったヒグチアイは、この間に売れていました(笑)。けど、最近はTikTokやアニメの主題歌でバズっても、その曲だけがいいとすぐに失速する。そのチャンスを本当にものにできるかは、ライブ、ソングライティング、個性…今まで積み重ねてきたことがそこで問われる。ドラマを見ていてヒグチアイの歌声が流れてきても驚かなくなったのは、まさにそういうことだなと。久々に彼女と話して、ビシビシ飛び交う言葉のラリーから感じる芯は、変わってなかったな。でも、ポーカーフェイスだったのが、ちょっと表情豊かになったかも。個人的には、ヒグチアイが長く歌い続けることに縛られないことを祈ります。それは結果だと思うから。ヘンにうまく生きていかなくたって、彼女はすでにスペシャルだということは『未成線上』で証明されています。それがライブではどう表現されるのか。バンドも弾き語りも楽しみなツアーで会いましょう!」